ゆえに赤く染まった星にひとりとなって

久末 一純

文字の大きさ
2 / 45

邂逅、そして会敵の朝✗2

しおりを挟む
 どうやら今日もまた、昨日と変わらぬ一日がやって来たようだ。
 そのことを頭のなかで認識しながら確認し、そして最後に感謝をひとつ。
 本日も、、どうもありがとうございます。
 うん、これでよしっ、と。
 今朝のノルマはこれにて終了。
 いつの頃からかは覚えていない。
 それがいつの間にかこうして毎朝、自分が生きている感謝を胸の裡で言葉にすることが俺の日課になっていた。
 しかしそれも、最近はややマンネリ気味だ。
 日課と言うよりは、惰性に近くなってしまっている。
 こうしてこみ上げてくる欠伸を噛み殺しながら、感謝の念を捧げているのがいい証拠だ。
 だがそれでも、辞めることだけは出来ない。
 それだけは、自分自身が許さない。
 その理由は自分でもよく分からないが、どうせ大した理由じゃあるまい。
 まあ、あれだ。
 ここまで筋トレを続けたのだから、今更辞めたら無駄になるとか。
 これだけポイントを貯めたのだから、今ではもう捨てられないとか。
 どうせそんな、つまらない類のものだろう。
 そんなことより、最優先で考えなければならないことが俺にはある。
 我が愛しの妹である斗雅とがに、果たしてどうやって謝罪と弁解をするのか、それが問題だ。
 さっきから漏れ聞こえてくるニュースの内容などまったく問題にならない。
 これは俺にとっての最重要かつ、今現在における最大の懸案事項だ。
 まずは状況を整理しよう。
 一見どんなに複雑に絡み合った事柄も、ひとつずつ順序立てて紐解いていけばいつの間にか片付いているのものだ。
 ではまず状況その一。
 俺は定刻に目覚めることが出来ず寝坊した。
 うむ、これはどう言い繕っても好意的な解釈が出来ない。
 よって、悪いのは全て俺となる。
 これはもう、必然だ。
 最早理由からして帰結は決まっているような気がする。
 そこに思いを馳せるだけで、猛烈な悪寒と寒気を感じるほどに。
 だが、俺はこんなところでは挫けない。
 諦めたらそこで試合終了だと、何処かの誰かも言っていたしな。
 しかしこの言葉を聞くたびに、諦めてしまえばそこで試合終了に出来るのになあと思ってしまう。
 これは我が愛しの妹にも言えない、俺の胸のなかにだけしまっておくべき秘密だ。
 そうは言っても、別に墓まで持っていくほどのものでもないのだが。
 まあそんな無駄思考は屑籠にダンクして、いま考えるべき状況その二。
 時間を守るという人間として最低限の行儀作法もなっていない俺こと愚兄。
 それに対して、我が愛しの妹は大層お冠のご様子である。
 ああ、これは当然ながら全ての責任は俺にある。
 なので、俺が全ての責を受けるべきとなる。
 こんなことは、当然だ。
 今度こそ死ぬかもしれんな、これは。
 だが今際の際に見るものが我が愛しの妹の笑顔なら、いっそそれこそが本望だ。
 おそらく、いや確実に、我が愛しの妹斗雅は笑顔で俺を殺せるだろうから。
 と、そこまで思考が至ったときが、我が愛しの妹の待つ居間へと続く扉に手をかけたときだった。
 そこで俺は思い直し、違う扉に向けて歩みを進める。
 念のため、準備と心構えだけはしておこう。
 それに折角さっき感謝したばかりなのだ。
 我が愛しの妹の怒りを鎮めるための、詫びと言い訳。
 その言葉を思いつく、悪あがきの時間稼ぎの間くらいは生きていたい。
 いまはまだ死にたくないから、なんていう消極的な理由からじゃない。
 俺はただ、まだ生きていたいんだ。
 人間が生きる理由に、それ以上の御託は必要あるまい。
 そのための案も言葉も何も浮かばないまま、俺は開けてもなかに誰もいない扉へと手をかけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...