ゆえに赤く染まった星にひとりとなって

久末 一純

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邂逅、そして会敵の朝✗14

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「では、続いて触診に移ろう。、みんなに置いていかれてしまうからな」
 もう一度九十度ターンし再びアーサと向き直ったそのときには、先程までと同様きりっとした表情を取り戻している。
「えー! それは困るよキルッチ。早く、早く!」
 ああ、駄目だよアーサ。そんなことを言ってしまっては。
 いくらこの私でも、限度と限界というものがあるんだよ。
「わかったわかった。だからそんなに、頼むから」
「誘惑? 誘惑って? あたしなんにもしてないよ?」
 アーサはごく自然な仕草で顎に指を当て、先の質問したときと同じように首を傾ける。
 これはひとに物を尋ねるときのアーサの癖だ。
 本来ならばあざとさが鼻につき興醒めもいいところだが、純真で初心うぶなアーサがやってみせると話がまったく変わってくる。
 その破壊力たるや如何ほどか!
 まさにバンカーバスターの如く、私の心を貫いて爆砕する。
 そんなアーサ自身はというと、さっきからじゃれつく猫のようにぴょんぴょん飛び跳ねながら答えを催促している。
 その可愛すぎて愛らしすぎる様子と相まって、私の我慢の堰がいまにも決壊しそうだ。
 ここは落ち着け、何としても落ち着くんだ私。
 私がこれまで培ってきた鋼の理性は、こんなものではないはずだろう。
 まずはとりあえず、素数を数えながらハンニャシンキョウを唱えるんだ。
 だけど、ところでハンニャシンキョウって一体なんなんだろう?
「ねーねーキルッチー、誘惑ってどゆことー?」
「あ、ああ済まない。あれはただ機知に富んだ表現をしてみたかっただけだよ。見事に伝わることがなくて。つまるところは、私を焦らせないでくれということだけだよ」
 私は何食わぬ顔で、自分の欲求の発露を誤魔化して訂正する。
「なーんだ、そういうことだったんだ。それならもっと分かりやすく言ってよね。あたし、そんなまわりくどい言い方されてもよく解んないだからさ」
 ひとの言葉の裏を読めない察しのわる、おほん。
 ひとを疑うことを知らない無垢なアーサで本当によかった。
 出来ることならずっとそのままでいておくれ、アーサ。
「あっ、言っておくけど、これってあたしの頭が悪いって訳じゃないからね」
 言われなくても、解っているとも。
 悪いのは、全て私だということくらい。
「ああ、勿論。そんな勘違いをする訳がないだろう? アーサは賢くて純粋ないい子だ。それくらい、私にだって解っているよ」
「いや、えっと、その、何ていうか。なんかそんなふうに言われると、照れるっていうか、・・・・・・・・・恥ずかしい」
 アーサは人差し指の先端をくっつけたり離したりしながら、もじもじと太ももをこすりつけ体をくねらせながら顔を逸らす。
 その逸らした顔は、林檎のように真っ赤に染まっていた。
 もう駄目だ、
 この未成熟な青い果実に
 普段活発で元気の塊のような女の子が見せる、まさに処女おとめのように未通女いおぼこい恥じらい。
 その様子は、私の誇る鋼の理性に容易くヒビを入れてくれた。
 いかん、堪えろ。どんなことをしても我慢するんだ、私。
 食べちゃ駄目だ食べちゃ駄目だ食べちゃ駄目だ食べちゃ駄目だ食べちゃ駄目だ食べちゃ駄目だ食べちゃ駄目だ。
 ・・・・・・・・・ふぅ。
 なんとか、落ち着いたか。
 厳しい戦いだった。
 だがどうにか、自分の衝動に打ち勝つことが出来た。
 真の敵は己自身とは、
 私はこのとき思った。
 後世まで残る格言とは、切羽詰まった状況に対する実体験から生まれたんだろうなと。
 そう、朧気ながらも確信を以て納得していた。
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