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第五章 しん愛編
153. 魔弾
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魔石がパリンと割れた。
あれ?
いま何が起こった?
魔法が発動しないんだけど……。
どういうこと?
こんなことは初めてだ。
なんかミスった?
いや、違う。
オレの魔法はちゃんと成功したはずだ。
不届き者どもを懲らしめるためにニブルヘイムを使った。
だが、どういうわけか発動しなかった。
オレがミスることはない。
ならばきっと、これはあれだ!
魔石が悪い!
ふははははっ。
そういうことか!
所詮、村人共からもらった魔石だ。
仕方ない。
ならば魔石を使わずに魔法をぶっ放そうではないか!
オレの氷魔法をとくとみよ!
「氷塊よ――」
空中に大量の氷塊を出現させる。
「――降り注げ」
ふははははははっ!
氷塊を雨のように降らせてやろうではないか!
数の暴力というのを見せてやろうぞ!
◇ ◇ ◇
マーリンはニブルヘイムを防いだ。
それは特筆すべきことだろう。
神級魔法を防いだのだから、マーリンは十分役割を果たしたと言っても良かった。
しかしマーリンには1つの誤算があった。
それはアークが後方にいることだ。
アークは一人でも戦況を変えることができ、彼の居場所は最も重要な情報の一つだった。
そのアークがまさか後方であるとは考えもしなかった。
そもそもアークが山を彷徨っているなど誰が想像できようか?
本陣に構えているアークがまさか偽物だったとは誰が想像できようか?
アークが気配を消す魔法を身にまとっていようとは誰が想像できようか?
この情報不足が仇となった。
後ろから降り注ぐ氷塊に、マーリンは一瞬だけ反応が遅れてしまった。
本来のマーリンなら氷塊を防ぐことなど容易い。
しかし、思いもよらぬ方向からの攻撃に対し、さすがのマーリンでも対処しきれなかった。
そして、それが致命的だった。
「ぐ……ッ」
氷塊が雨のように降り注ぐ、マーリンの意識を刈り取ったのだった。
◇ ◇ ◇
マーリンが意識を失う、ほんの直前。
アークがニブルヘイムを放った直後。
宮廷魔法師の乱魔を使った、その瞬間。
戦場では一瞬の空白が訪れていた。
テュールの騎兵隊が一瞬だけ動きを止めた。
それを見逃さず、アーク軍左翼が動いた。
「今だ……ッ!」
ラトゥの命令によって左翼がテュール騎兵隊に向かって一気に攻め込む。
さらに右翼から駆けつけた遊撃隊も投入する。
側面攻撃。
ランスロットが立てた策がここにきてようやく動き出した。
テュールの前進を止めるのは、まず不可能。
事実、アーク軍はあと少しで突破されるところであった。
だから、包囲網をしこうという魂胆だ。
素人でも考えつくような作戦だが、テュールの突破を食い止めながら側面攻撃を実現するのはどれほど困難なことか。
タイミングがミスれば、そのまま戦線を食い破られ、本陣まで一気に突破されてしまう。
この千載一遇の好機を見逃してはならない。
「いけぇぇぇぇぇ!」
怒号と悲鳴が飛び交う中、ラトゥは声がかれるほどに叫んだ。
徐々にテュール包囲網が出来上がろうとしていた。
◇ ◇ ◇
テュールには一つの誤算があった。
それはニブルヘイムの発動タイミングだ。
この混戦でアークがニブルヘイムを使う可能性は極めて低いと見立てていた。
味方を殺してしまう可能性があることはもちろん、テュールの共進が発動した状況では、テュールに魔法攻撃は効かない。
ニブルヘイムを使うメリットはあまりないどころか、デメリットが大きすぎる。
もしニブルヘイムを使われるとしたら、最初だろう予想していた。
だが、テュールには大きな誤算があった。
ニブルヘイムのメリットはないが、ニブルヘイムを使うことでのメリットは十分にあった。
アークがニブルヘイムを使ったことで、マーリンが乱魔を使用。
これによってテュールの共進が消えてしまうことになった。
それによって生じた一瞬の空白。
乱れが生まれる。
「……ッ」
理性を失いかけるテュール。
興奮と高揚が激情に移り変わる。
戦場で冷静さを保つのは、歴戦の勇士であるテュールでも難しいということだ。
それがあと少しで敵の戦列を崩せる状況だったら、なおさらだ。
テュールの魔法は共進が乱魔によって消される。
同時にテュールおよび彼の率いる騎兵隊は動きを止まてしまった。
この一瞬でテュールが失ったのは、理性だけでなく、戦列を切り崩す絶好の好機ということだ。
「ふぅ……」
しかし、彼は大きく生きを吐くことで、すぐに冷静さを取り戻した。
現状、テュールにもたらされた情報は驚くほど少ない。
砂煙が立ち込める中、視界は悪く、怒号が飛び交う戦場では耳も使い物にならない。
このままでは包囲される。
それなれば、さすがのテュールといえど勝ち目はない。
包囲されるが先か、突破するのが先か。
「あそこまでは届くな」
包囲されるよりも速く、敵陣を突破することができる。
テュールの直感が告げていた。
そもそも、この状態で撤退をするのは、無駄に被害を増やすだけの行為だ。
「アークの首まであと少しッ! 邪魔者を斬って斬って斬り伏せろぉぉぉ! 前進あるのみ……ッ!」
テュールは周囲を鼓舞し、突破を試みた。
側面攻撃で包囲される前に突破できる、とテュールはわずかな一瞬で判断した。
このときのテュールはまさかアークが後方にいるとは考えもしなかった。
まさかアークが一人で山の中をさまよい、偶然テュールたちの後方に姿を現した、などと想定するほうが無理である。
アークが後方にいるということは、つまり、挟撃されているということ。
テュールにとって致命的とも言える状況であった。
ただし、たとえテュールがその事実を知っていたとしても、彼にできることは突破しか残されていない。
「……ッ。何事だっ!?」
突如、テュールたちに向けて空から氷塊が降り注いだ。
「ぐはっ」
「あああああ!?」
「なにが起きてる!!」
騎兵隊の動きが悪くなる。
こうなってしまえばテュールの持つ共進も使えない。
「構えな……ッ! 突撃せよぉぉぉぉ!」
徐々に包囲網が敷かれている中、テュールはただ前だけを見て馬を走らせた。
邪魔するものは容赦なく斬り伏せていく。
あと少し……。
突破まであと少しところまで来た。
もはやテュールについてきている騎兵隊はほとんどいない。
それでもここを突破できれば、テュールたちに勝ち目がある。
だが――。
――どんっ。
地を這うような低い音が戦場に響き渡る。
「ぐ……っ。なんたる不覚……」
テュールは魔弾によって撃ち抜かれたのだった。
あれ?
いま何が起こった?
魔法が発動しないんだけど……。
どういうこと?
こんなことは初めてだ。
なんかミスった?
いや、違う。
オレの魔法はちゃんと成功したはずだ。
不届き者どもを懲らしめるためにニブルヘイムを使った。
だが、どういうわけか発動しなかった。
オレがミスることはない。
ならばきっと、これはあれだ!
魔石が悪い!
ふははははっ。
そういうことか!
所詮、村人共からもらった魔石だ。
仕方ない。
ならば魔石を使わずに魔法をぶっ放そうではないか!
オレの氷魔法をとくとみよ!
「氷塊よ――」
空中に大量の氷塊を出現させる。
「――降り注げ」
ふははははははっ!
氷塊を雨のように降らせてやろうではないか!
数の暴力というのを見せてやろうぞ!
◇ ◇ ◇
マーリンはニブルヘイムを防いだ。
それは特筆すべきことだろう。
神級魔法を防いだのだから、マーリンは十分役割を果たしたと言っても良かった。
しかしマーリンには1つの誤算があった。
それはアークが後方にいることだ。
アークは一人でも戦況を変えることができ、彼の居場所は最も重要な情報の一つだった。
そのアークがまさか後方であるとは考えもしなかった。
そもそもアークが山を彷徨っているなど誰が想像できようか?
本陣に構えているアークがまさか偽物だったとは誰が想像できようか?
アークが気配を消す魔法を身にまとっていようとは誰が想像できようか?
この情報不足が仇となった。
後ろから降り注ぐ氷塊に、マーリンは一瞬だけ反応が遅れてしまった。
本来のマーリンなら氷塊を防ぐことなど容易い。
しかし、思いもよらぬ方向からの攻撃に対し、さすがのマーリンでも対処しきれなかった。
そして、それが致命的だった。
「ぐ……ッ」
氷塊が雨のように降り注ぐ、マーリンの意識を刈り取ったのだった。
◇ ◇ ◇
マーリンが意識を失う、ほんの直前。
アークがニブルヘイムを放った直後。
宮廷魔法師の乱魔を使った、その瞬間。
戦場では一瞬の空白が訪れていた。
テュールの騎兵隊が一瞬だけ動きを止めた。
それを見逃さず、アーク軍左翼が動いた。
「今だ……ッ!」
ラトゥの命令によって左翼がテュール騎兵隊に向かって一気に攻め込む。
さらに右翼から駆けつけた遊撃隊も投入する。
側面攻撃。
ランスロットが立てた策がここにきてようやく動き出した。
テュールの前進を止めるのは、まず不可能。
事実、アーク軍はあと少しで突破されるところであった。
だから、包囲網をしこうという魂胆だ。
素人でも考えつくような作戦だが、テュールの突破を食い止めながら側面攻撃を実現するのはどれほど困難なことか。
タイミングがミスれば、そのまま戦線を食い破られ、本陣まで一気に突破されてしまう。
この千載一遇の好機を見逃してはならない。
「いけぇぇぇぇぇ!」
怒号と悲鳴が飛び交う中、ラトゥは声がかれるほどに叫んだ。
徐々にテュール包囲網が出来上がろうとしていた。
◇ ◇ ◇
テュールには一つの誤算があった。
それはニブルヘイムの発動タイミングだ。
この混戦でアークがニブルヘイムを使う可能性は極めて低いと見立てていた。
味方を殺してしまう可能性があることはもちろん、テュールの共進が発動した状況では、テュールに魔法攻撃は効かない。
ニブルヘイムを使うメリットはあまりないどころか、デメリットが大きすぎる。
もしニブルヘイムを使われるとしたら、最初だろう予想していた。
だが、テュールには大きな誤算があった。
ニブルヘイムのメリットはないが、ニブルヘイムを使うことでのメリットは十分にあった。
アークがニブルヘイムを使ったことで、マーリンが乱魔を使用。
これによってテュールの共進が消えてしまうことになった。
それによって生じた一瞬の空白。
乱れが生まれる。
「……ッ」
理性を失いかけるテュール。
興奮と高揚が激情に移り変わる。
戦場で冷静さを保つのは、歴戦の勇士であるテュールでも難しいということだ。
それがあと少しで敵の戦列を崩せる状況だったら、なおさらだ。
テュールの魔法は共進が乱魔によって消される。
同時にテュールおよび彼の率いる騎兵隊は動きを止まてしまった。
この一瞬でテュールが失ったのは、理性だけでなく、戦列を切り崩す絶好の好機ということだ。
「ふぅ……」
しかし、彼は大きく生きを吐くことで、すぐに冷静さを取り戻した。
現状、テュールにもたらされた情報は驚くほど少ない。
砂煙が立ち込める中、視界は悪く、怒号が飛び交う戦場では耳も使い物にならない。
このままでは包囲される。
それなれば、さすがのテュールといえど勝ち目はない。
包囲されるが先か、突破するのが先か。
「あそこまでは届くな」
包囲されるよりも速く、敵陣を突破することができる。
テュールの直感が告げていた。
そもそも、この状態で撤退をするのは、無駄に被害を増やすだけの行為だ。
「アークの首まであと少しッ! 邪魔者を斬って斬って斬り伏せろぉぉぉ! 前進あるのみ……ッ!」
テュールは周囲を鼓舞し、突破を試みた。
側面攻撃で包囲される前に突破できる、とテュールはわずかな一瞬で判断した。
このときのテュールはまさかアークが後方にいるとは考えもしなかった。
まさかアークが一人で山の中をさまよい、偶然テュールたちの後方に姿を現した、などと想定するほうが無理である。
アークが後方にいるということは、つまり、挟撃されているということ。
テュールにとって致命的とも言える状況であった。
ただし、たとえテュールがその事実を知っていたとしても、彼にできることは突破しか残されていない。
「……ッ。何事だっ!?」
突如、テュールたちに向けて空から氷塊が降り注いだ。
「ぐはっ」
「あああああ!?」
「なにが起きてる!!」
騎兵隊の動きが悪くなる。
こうなってしまえばテュールの持つ共進も使えない。
「構えな……ッ! 突撃せよぉぉぉぉ!」
徐々に包囲網が敷かれている中、テュールはただ前だけを見て馬を走らせた。
邪魔するものは容赦なく斬り伏せていく。
あと少し……。
突破まであと少しところまで来た。
もはやテュールについてきている騎兵隊はほとんどいない。
それでもここを突破できれば、テュールたちに勝ち目がある。
だが――。
――どんっ。
地を這うような低い音が戦場に響き渡る。
「ぐ……っ。なんたる不覚……」
テュールは魔弾によって撃ち抜かれたのだった。
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