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第五章 しん愛編
159. 助けになりたい
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竜の襲撃によって城が大きく左右に揺さぶられ、マギサとアークは同時に態勢を崩す。
すぐさま状況を確認したアークが、
「王女殿下はここにいてくださいませ」
とマギサに言った。
「私に戦うなと、そう仰るのですか?」
「王女殿下に万一のことがあってはなりません」
「今さらでしょうに」
そう、今さらの話だ。
今まで何度もマギサは危険な目に遭ってきた。
そのたびに乗り越えてきた。
だから、今回待機を命じられたときは、頭に血が上ってしまった。
なぜ、一緒に戦うと言ってくれなかったのだろうか?
もしアークにそう言われれば、マギサは第一軍と戦う覚悟ができていた。
つまり、マギサはショックだったのだ。
アークの、ガルム領の危機に対し何も求められていないことにショックを受けていた。
もっと自分を頼ってほしかった。
そうすればマギサも応えたというのに……。
「私がここにいる価値はあるのでしょうか?
守られているだけの身に意味などありましょうか?」
「先ほど貴族の務めという話をしましたよね? それなら王族の務めはなんでしょう?
私はこう考えております。王族として或ること、つまりその存在自体に価値があると」
「何もやらずして堕落した王もいましょう」
マギサは父親のことを思い浮かべながら言う。
「では王女殿下は何ができます? あの竜を撃ち落とせると?」
「それは……ッ。できません」
「では、ここで待っていてください」
極論だ。
もはや暴論だ。
あの竜の王を撃ち落とすかどうか聞かれて、できると答えられる人物などいようか?
それこそ自信満々に答えられるのはアークぐらいである。
「それとも私に付いてきますか? 今からあの竜を討伐しにいくのですが。
ついて来たいと仰るなら私は止めません。ただ、殿下を守れる自信はありませんよ」
「……ッ。それは……」
「殿下。今は時間がありません。お話ならまたあとでいくらでも聞きましょう」
まるで聞き分けのない子に言うように、アークは言った。
それがマギサの癇に障った。
だが、マギサは何も言い返せない。
「それと、これはお守りです」
そう言ってアークが最高級の魔石をマギサに渡してきた。
お守り、と聞いてマギサは激昂しそうになった。
自分は赤子のように守られる存在ではない、と喉からでかかった言葉を飲み込む。
「では、私はこれで。空からこちらを見下ろす不遜な輩を討伐しに行ってきます」
アークはそう言って出ていった。
マギサはぎゅっと裾を掴んだ。
悔しかった。
それ以上に情けなかった。
ただ守られているだけでも本当に良いのか?
そもそも、第一王子・第二王女連合と言いながらも、マギサはほとんど何の役にも立っていなかった。
王女の側にアークがいる。
第一王子からみれば、マギサの価値はアークと親しいという一点に尽きた。
それ以上でもそれ以下でもない。
マギサは世界を少しでも良い方向に変えていきたいと願った。
そのためのノブリス・オブリージュであり、平等の精神だった。
だが、その考えが根本から揺らぎつつあった。
「私は何をすればいいのですか……」
誰に問うでもなく、彼女は呟く。
もちろん、答えは返ってこない。
ふと、マギサは渡された魔石をみる。
そして違和感を覚えた。
マギサの体には2つの核が入っており、常人よりも遥かに多くの魔力を扱える。
それこそマーリンに匹敵するほどだ。
そんなマギサにとって魔石はお守りにならない。
「この魔石に何か意味があるってことですか?」
わからない。
マギサはもう一つ違和感を覚えた。
アークの態度だ。
アークは一貫して、マギサを戦いに加わらせようとしなかった。
だが、その理由があまりに雑だった。
巨大な竜討伐についてこられるか? などと普段のアークなら言わないような発言だ。
そもそもマギサは何も持たぬ少女ではない。
バベルの塔で大きな力を手に入れた。
この非常事態にマギサを待機させるなんてこと、あのアークがするだろうか?
本当は……本当は、マギサについてきてほしかったじゃないか?
考えすぎなのかもしれない。
都合の良い妄想かもしれない。
願望が混じっていることは彼女も理解している。
それでも力になりたいと考えてしまう。
外から鼓膜を破るかのような音が断続的に鳴り響いている。
「……私がここにいる意味。
ノブリス・オブリージュなんて高尚なものじゃなくて構いません。
ただ、助けになりたい。アーク様の助けになりたい。それだけで良いではありませんか?
ね? そうでしょ? マギサ」
マギサは自分に向けてそう呟くのだった。
すぐさま状況を確認したアークが、
「王女殿下はここにいてくださいませ」
とマギサに言った。
「私に戦うなと、そう仰るのですか?」
「王女殿下に万一のことがあってはなりません」
「今さらでしょうに」
そう、今さらの話だ。
今まで何度もマギサは危険な目に遭ってきた。
そのたびに乗り越えてきた。
だから、今回待機を命じられたときは、頭に血が上ってしまった。
なぜ、一緒に戦うと言ってくれなかったのだろうか?
もしアークにそう言われれば、マギサは第一軍と戦う覚悟ができていた。
つまり、マギサはショックだったのだ。
アークの、ガルム領の危機に対し何も求められていないことにショックを受けていた。
もっと自分を頼ってほしかった。
そうすればマギサも応えたというのに……。
「私がここにいる価値はあるのでしょうか?
守られているだけの身に意味などありましょうか?」
「先ほど貴族の務めという話をしましたよね? それなら王族の務めはなんでしょう?
私はこう考えております。王族として或ること、つまりその存在自体に価値があると」
「何もやらずして堕落した王もいましょう」
マギサは父親のことを思い浮かべながら言う。
「では王女殿下は何ができます? あの竜を撃ち落とせると?」
「それは……ッ。できません」
「では、ここで待っていてください」
極論だ。
もはや暴論だ。
あの竜の王を撃ち落とすかどうか聞かれて、できると答えられる人物などいようか?
それこそ自信満々に答えられるのはアークぐらいである。
「それとも私に付いてきますか? 今からあの竜を討伐しにいくのですが。
ついて来たいと仰るなら私は止めません。ただ、殿下を守れる自信はありませんよ」
「……ッ。それは……」
「殿下。今は時間がありません。お話ならまたあとでいくらでも聞きましょう」
まるで聞き分けのない子に言うように、アークは言った。
それがマギサの癇に障った。
だが、マギサは何も言い返せない。
「それと、これはお守りです」
そう言ってアークが最高級の魔石をマギサに渡してきた。
お守り、と聞いてマギサは激昂しそうになった。
自分は赤子のように守られる存在ではない、と喉からでかかった言葉を飲み込む。
「では、私はこれで。空からこちらを見下ろす不遜な輩を討伐しに行ってきます」
アークはそう言って出ていった。
マギサはぎゅっと裾を掴んだ。
悔しかった。
それ以上に情けなかった。
ただ守られているだけでも本当に良いのか?
そもそも、第一王子・第二王女連合と言いながらも、マギサはほとんど何の役にも立っていなかった。
王女の側にアークがいる。
第一王子からみれば、マギサの価値はアークと親しいという一点に尽きた。
それ以上でもそれ以下でもない。
マギサは世界を少しでも良い方向に変えていきたいと願った。
そのためのノブリス・オブリージュであり、平等の精神だった。
だが、その考えが根本から揺らぎつつあった。
「私は何をすればいいのですか……」
誰に問うでもなく、彼女は呟く。
もちろん、答えは返ってこない。
ふと、マギサは渡された魔石をみる。
そして違和感を覚えた。
マギサの体には2つの核が入っており、常人よりも遥かに多くの魔力を扱える。
それこそマーリンに匹敵するほどだ。
そんなマギサにとって魔石はお守りにならない。
「この魔石に何か意味があるってことですか?」
わからない。
マギサはもう一つ違和感を覚えた。
アークの態度だ。
アークは一貫して、マギサを戦いに加わらせようとしなかった。
だが、その理由があまりに雑だった。
巨大な竜討伐についてこられるか? などと普段のアークなら言わないような発言だ。
そもそもマギサは何も持たぬ少女ではない。
バベルの塔で大きな力を手に入れた。
この非常事態にマギサを待機させるなんてこと、あのアークがするだろうか?
本当は……本当は、マギサについてきてほしかったじゃないか?
考えすぎなのかもしれない。
都合の良い妄想かもしれない。
願望が混じっていることは彼女も理解している。
それでも力になりたいと考えてしまう。
外から鼓膜を破るかのような音が断続的に鳴り響いている。
「……私がここにいる意味。
ノブリス・オブリージュなんて高尚なものじゃなくて構いません。
ただ、助けになりたい。アーク様の助けになりたい。それだけで良いではありませんか?
ね? そうでしょ? マギサ」
マギサは自分に向けてそう呟くのだった。
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