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第五章 しん愛編
158. 天才少女
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竜――それは魔物ではなく、気高く誇り高き種族である。
竜が人間と言葉を交わすことはめったになく、そもそも棲息圏が異なるため、両者の接触機会はほとんどない。
多くの人にとって竜は空想上の生物だ。
しかし、竜はたしかに存在し、時折人間と対立することがある。
その際、人間側には大きな被害が出るため、竜とは天災のようなものであった。
ちなみにアークの先祖は竜退治をしたことで伯爵に叙せられた。
当時、ニーズヘッグという毒蛇にも似た竜がこの地方で暴れまわっていた。
アークの先祖は魔法を使い、三日三晩の戦いの末、このニーズヘッグを討伐したのだ。
ノーヤダーマ家は代々この事実を喧伝してきた。
先代の頃には、英雄の見る陰もなくなってしまったノーヤダーマ家だが、かつてのノーヤダーマ家は本物の英雄であったのだ。
それがどうしてあそこまで落ちぶれてしまったのか……。
祖先が優秀だからといって、それが受け継がれるわけではないということだろう。
それが証明されたようだ。
と、それはさておき。
竜と人間との対立は、歴史上数えるほどしかない。
もちろん、小規模な争いはいくつかあった。
しかし、竜が本格的に人間の街を珍しい。
そもそも彼らに人間を襲うメリットがあまりないのだ。
生活圏が異なる種族であり、竜にとって人間の住まう土地はまったく魅力的ではないのだ。
さらに人間はそこまで美味しくないため、狩りの目的で人間を襲うこともほとんどない。
また人間側も竜の生息地に足を踏み入れることはない。
そもそも竜の生息地は空である。
今の人間の魔法技術では、卯やイカロスのような特殊な技能がない限り、空に行くことはできない。
つまり、例外がない限りは人間と竜が争うことはないのだ。
その例外がいま起きていた。
「――――」
空を覆い尽くすかのように現れた竜の群れ。
その先頭を飛ぶひときわ巨大な竜、ファバニール。
ノーヤダーマ城を落とさんと、竜が迫ってきていた。
ノーヤダーマ城が見えるところでファバニールは停止する。
「あの城、焼き払って頂戴」
新たな開戦の火蓋が切って落とされようとしていた。
ノーヤダーマ城から何キロも離れている地点。
そこでブリュンヒルデは竜の王であるファバニールに命じる。
「クォォォォォォォン――」
ファバニールは夜空に吠え、大きく息を吸い込む。
そして、直後。
「――――」
ファバニールの口から放たれた竜の息吹。
一瞬でノーヤダーマ城を火の海に変えてしまう、破壊的な一撃。
それがノーヤダーマに向かって放たれたのだった。
竜の息吹が夜を照らしながらノーヤダーマ城に向かっていく。
まともに喰らえば、ノーヤダーマ城などひとたまりもない。
そして、炎がノーヤダーマ城に到達しようとした、そのときだ――。
「――ニライカナイ」
ノーヤダーマ城を守るように、巨大な水の塊が出現。
その水の塊が竜の炎を飲み込んだのだ。
竜の息吹がノーヤダーマ城に届く前にかき消えたのだった。
◇ ◇ ◇
ルインは、いつ来るかわからない竜の王の襲撃に備えていた。
もしもその襲撃に対処が遅れたらどうなるか?
ノーヤダーマ城が焼け落ちる。
それだけは避けなければならない。
ルインは天才である。
アークのようなまがい物とは違い、彼女は”刻印”など使わずに魔法を無詠唱で発動できる。
さらに最上級魔法である”ニライカナイ”を扱える。
天才であるが、さすがに今回の要求は無茶ぶりであった。
だが、やらなければ城が燃えてしまう。
「うん……。やるしかないよね」
彼女はアーク軍と第一軍が戦っている間、ひたすらにニライカナイの術式を構築していた。
もともとニライカナイは旧時代の魔法術式であり、まずはそれを現代術式に書き換える必要があるものの、すでにルインはニライカナイの現代術式を完成させていた。
ニライカナイの術式を竜の王の息吹にも耐えられる設計にする必要がある。
参考にしたのは玉手箱だ。
玉手箱はニライカナイを増幅し、街に降らせるというもの。
増幅ができれば竜の王の息吹にも耐えられる。
だが、玉手箱の術式を完全には解読できていないため、足りない部分をシャーリック理論で補う必要が出てくる。
並行理論で無理矢理に増幅術式を補完するということだ。
しかし、理論が完成したものの、一から構築するのは時間的に不可能だった。
そこでルインが考えたのは、防衛魔法術式の改ざんだ。
ノーヤダーマ城に描かれた防衛魔法の術式にニライカナイの術式を加えていく。
そうして僅かな期間で防衛術式ニライカナイを完成させたのだった。
やはりルインは天才だった。
竜の王の息吹が迫りくる中――。
「――ニライカナイ」
防衛魔法を発動。
ルインの生成したニライカナイが増幅され、巨大な水の塊となり竜の息吹を包みこんだ。
こうしてルインはファバニールの奇襲をたった一人で止めたのだった。
これにより、せっかちなブリュンヒルデは遠くからの魔法攻撃より、近づいて城を破壊する方が良いと判断した。
アーク陣営にとって一番厄介だったのは、遠方から竜の息吹を放たれ続けること。
それを避けることができたのは、ルインの功績と言えるだろう。
尤も、近くに来るからといって竜が弱くなるわけではない。
竜の脅威は相変わらずあり続ける。
ファバニールを先頭に竜の軍勢がノーヤダーマ城に向かってくるのであった。
竜が人間と言葉を交わすことはめったになく、そもそも棲息圏が異なるため、両者の接触機会はほとんどない。
多くの人にとって竜は空想上の生物だ。
しかし、竜はたしかに存在し、時折人間と対立することがある。
その際、人間側には大きな被害が出るため、竜とは天災のようなものであった。
ちなみにアークの先祖は竜退治をしたことで伯爵に叙せられた。
当時、ニーズヘッグという毒蛇にも似た竜がこの地方で暴れまわっていた。
アークの先祖は魔法を使い、三日三晩の戦いの末、このニーズヘッグを討伐したのだ。
ノーヤダーマ家は代々この事実を喧伝してきた。
先代の頃には、英雄の見る陰もなくなってしまったノーヤダーマ家だが、かつてのノーヤダーマ家は本物の英雄であったのだ。
それがどうしてあそこまで落ちぶれてしまったのか……。
祖先が優秀だからといって、それが受け継がれるわけではないということだろう。
それが証明されたようだ。
と、それはさておき。
竜と人間との対立は、歴史上数えるほどしかない。
もちろん、小規模な争いはいくつかあった。
しかし、竜が本格的に人間の街を珍しい。
そもそも彼らに人間を襲うメリットがあまりないのだ。
生活圏が異なる種族であり、竜にとって人間の住まう土地はまったく魅力的ではないのだ。
さらに人間はそこまで美味しくないため、狩りの目的で人間を襲うこともほとんどない。
また人間側も竜の生息地に足を踏み入れることはない。
そもそも竜の生息地は空である。
今の人間の魔法技術では、卯やイカロスのような特殊な技能がない限り、空に行くことはできない。
つまり、例外がない限りは人間と竜が争うことはないのだ。
その例外がいま起きていた。
「――――」
空を覆い尽くすかのように現れた竜の群れ。
その先頭を飛ぶひときわ巨大な竜、ファバニール。
ノーヤダーマ城を落とさんと、竜が迫ってきていた。
ノーヤダーマ城が見えるところでファバニールは停止する。
「あの城、焼き払って頂戴」
新たな開戦の火蓋が切って落とされようとしていた。
ノーヤダーマ城から何キロも離れている地点。
そこでブリュンヒルデは竜の王であるファバニールに命じる。
「クォォォォォォォン――」
ファバニールは夜空に吠え、大きく息を吸い込む。
そして、直後。
「――――」
ファバニールの口から放たれた竜の息吹。
一瞬でノーヤダーマ城を火の海に変えてしまう、破壊的な一撃。
それがノーヤダーマに向かって放たれたのだった。
竜の息吹が夜を照らしながらノーヤダーマ城に向かっていく。
まともに喰らえば、ノーヤダーマ城などひとたまりもない。
そして、炎がノーヤダーマ城に到達しようとした、そのときだ――。
「――ニライカナイ」
ノーヤダーマ城を守るように、巨大な水の塊が出現。
その水の塊が竜の炎を飲み込んだのだ。
竜の息吹がノーヤダーマ城に届く前にかき消えたのだった。
◇ ◇ ◇
ルインは、いつ来るかわからない竜の王の襲撃に備えていた。
もしもその襲撃に対処が遅れたらどうなるか?
ノーヤダーマ城が焼け落ちる。
それだけは避けなければならない。
ルインは天才である。
アークのようなまがい物とは違い、彼女は”刻印”など使わずに魔法を無詠唱で発動できる。
さらに最上級魔法である”ニライカナイ”を扱える。
天才であるが、さすがに今回の要求は無茶ぶりであった。
だが、やらなければ城が燃えてしまう。
「うん……。やるしかないよね」
彼女はアーク軍と第一軍が戦っている間、ひたすらにニライカナイの術式を構築していた。
もともとニライカナイは旧時代の魔法術式であり、まずはそれを現代術式に書き換える必要があるものの、すでにルインはニライカナイの現代術式を完成させていた。
ニライカナイの術式を竜の王の息吹にも耐えられる設計にする必要がある。
参考にしたのは玉手箱だ。
玉手箱はニライカナイを増幅し、街に降らせるというもの。
増幅ができれば竜の王の息吹にも耐えられる。
だが、玉手箱の術式を完全には解読できていないため、足りない部分をシャーリック理論で補う必要が出てくる。
並行理論で無理矢理に増幅術式を補完するということだ。
しかし、理論が完成したものの、一から構築するのは時間的に不可能だった。
そこでルインが考えたのは、防衛魔法術式の改ざんだ。
ノーヤダーマ城に描かれた防衛魔法の術式にニライカナイの術式を加えていく。
そうして僅かな期間で防衛術式ニライカナイを完成させたのだった。
やはりルインは天才だった。
竜の王の息吹が迫りくる中――。
「――ニライカナイ」
防衛魔法を発動。
ルインの生成したニライカナイが増幅され、巨大な水の塊となり竜の息吹を包みこんだ。
こうしてルインはファバニールの奇襲をたった一人で止めたのだった。
これにより、せっかちなブリュンヒルデは遠くからの魔法攻撃より、近づいて城を破壊する方が良いと判断した。
アーク陣営にとって一番厄介だったのは、遠方から竜の息吹を放たれ続けること。
それを避けることができたのは、ルインの功績と言えるだろう。
尤も、近くに来るからといって竜が弱くなるわけではない。
竜の脅威は相変わらずあり続ける。
ファバニールを先頭に竜の軍勢がノーヤダーマ城に向かってくるのであった。
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