転生貧乏令嬢メイドは見なかった!

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<後編>

第40話 春を祝う3 婚約と賭け

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 部屋に戻り、唖然とする。
 陛下が花を贈ったとおっしゃられた。確かに花もあるけど、どちらかというと花が添え物だ。

「……お兄様、これはどうしたら」

「陛下からの贈り物、返せるわけないだろう」

 お兄様がキレている。

「な、なんで乗馬服!?」

 服っぽいなと思って箱を開けると、そこにはキラッキラの宝石が散りばめられた乗馬服が入っていた。乗馬服といっても、本当に馬に乗るためのものではなく、試合や狩猟祭のイベントで〝花〟になるためのものの方だ。ズボンのほうは細身の白いもので、それに合わせたブーツ、装飾品? っぽいものが山ほどだ。
 

「ファニー、アヴェルお兄様、それだけじゃないわ」

 ミリアが開けてくれたクローゼットに夜会に着ていけそうなドレス、お茶会へのドレスが。あの左端のやつ、今年の流行になるかもといわれているサイドが斜めになっているやつだ。
 わたしは崩れる。

「な、なんで!?」

「プレゼントはこれを身につけて来いってことだ。茶会も夜会も狩りもこれを着て参加しろってことだろう」

 陛下あああああああああああ、なんて仕打ちをーーーーーーー。

「それは置いておくとして」

 置いておける? と思ったが、お兄様の目はマジだ。

「さっき、私と離れている間に何があったのか、全て話しなさい」

 あ、はい。包み隠さず全部話した。お兄様が何かを考え込んだので、ミリアに手伝ってもらってメイドのリリアンに姿を戻した。
 これからのことを話そうとしているとノック音がした。トムお兄様が出てくださると、なんと第二王子たちがいらっしゃるとのことだ。前触れと言っても断れないやつだ。お兄様が頭を抱えている。
 急いでミリアを隣のわたしの部屋のベッドに寝かしつけ、お兄様の部屋へと戻る。
 ドアを開けると

「リリアン、大丈夫か?」

 入ってきたマテュー様に尋ねられ、首を傾げた。

「……はい」

 と言いつつ、何がだろう?と疑問しかない。

「クリスタラー令嬢は大丈夫ですか?」

 王子はお兄様に確かめながら、わたしにチラリと視線を向ける。

「今は眠っています。そうだな、リリアン?」

「はい、すぐに気がつかれて、またおやすみになりました」

「先ほどは御前でご挨拶もせず、申し訳ありませんでした。姪から聞きました。助けていただいたと。御礼申し上げます。……姪が倒れて慌ててしまい、……ご挨拶がまだでしたね、失礼いたしました。
 改めまして、アヴェル・フォン・クリスタラーでございます。お見知り置きを。アントーン第二王子殿下。ボウマー伯爵ご子息様、パストゥール伯爵ご子息様、ハイン伯爵ご子息様、リングマン伯爵ご子息様」

「お会いくださり感謝します。今までの手紙のように弾かれるのではと心配しておりました」

 王子の返しが怖い。

「どうぞ、お座りください。リリアン、お茶の用意を」

「はい」

 お茶セットのワゴンをソファーの近くにもっていく。中央の低めのテーブルにお菓子を置いた。
 皆様に紅茶を入れるとトムお兄様が運ぶのを手伝ってくれた。

「早速ですが本題に入らせていただきます。クリスタラー令嬢には決まった縁談があるのでしょうか?」

「王の御前で、さすがに嘘は申し上げません」

 縁談はないって王に言ったの聞いてたろ?と副音声が聞こえた気がした。

「私たち5人は揃いも揃って、クリスタラー家から交際を断られておりますが、その理由をお聞かせ願えますか?」

「姪の意思です。姪は体が弱く、外に出るのもままなりません。逆にお尋ねしたいですね。王都で名を馳せているご子息様方が、揃いも揃ってウチの姪をなにゆえ望まれるのか」

 緑の乙女は領地から離れられず、結婚したら相手方に婿に入ってもらうことになる。わたし的にはお兄様が当主のままでお兄様の子供にクリスタラー家を継いでもらうので全然いいんだけど、結局のところ……次の緑の乙女はわたしの子供にしか適用されないらしい。お兄様の子供でもいいじゃんって思うんだけど、そういうものではないとつい最近知った。
 嫡子のラモン様やテオドール様なんかお家を継がなくていいのかという疑問もあるし、他の方々だって爵位が下がる。そして、貧乏。いいところは一つもないのだ。だから16歳になるまで、興味本位の顔合わせみたいのはあったが、ガチのものはなかった。

 王子様は深く息をついた。

「クリスタラー男爵、まず、申し上げます。にわかには信じられないかもしれませんが、私たちはクリスタラー令嬢を傷つけるつもりは全くありません」

 お兄様は王子様をみつめた。

「特殊な性癖でもなければ、最初から傷つけるつもりはないでしょう。そんなつもりはなかったと傷つけた者はいうものです」

 お兄様も言うなぁ。トムお兄様を見上げれば、まあこれくらいのジャブはなんでもないと瞳が言っている。そういうものなのかもしれないが、居心地が悪い。

「一般的にいえば、あなた方5人はウチのファニーに交際を申し込んできた方々のようですが、今はなんですか、ライバル同士が仲良くするものなんですか?」

 王子様は紅茶を一口含んだ。

「……私は令嬢には何も知らせずに、ただ私たちが請い、それに応えていただきたかったのですが。直前になりまして他の4人からあなた方をこちらに引き込むべきだと言われましてね。手探り状態なので私も何がいいのかはわかりませんが、……あなたを巻き込もうと思います。ただ令嬢を巻き込むかは男爵、あなたにも一緒に考えて欲しいのです」

「巻き込む?」

「先に言っておきますが、私たちが令嬢を巻き込もうとしたわけではありません。私たちもある者から令嬢を対象にするよう言われているのです。その者たちから令嬢も何かしらの目をつけられていると考えられます」

 え?
 お兄様がわたしを見る。
 いや、わたしだって初耳だって。

 ってことは5人で賭けをしているのではなくて、誰かと5人が賭けをしているってこと? 伯爵家令息と王子様に賭けをもちかけられる人がいるの??

「話が長くなりそうですので、リリアンも座る許可を」

 王子様がおっしゃった。え?

「リリアンに席を外させず、聞かせたいことですか?」

 王子は不敵に笑った。

「後ほど、聞きたいことがあるので」

「……リリアン、座りなさい」

 王子に促されお兄様の許可が降りる。

「いえ、仕事中ですので」

「いや、ここに座りなさい」

 お兄様は自分の隣をさして、強い調子で言った。
 トムお兄様にも促されて、わたしはお兄様の隣に腰をおろす。
 皆様にすっごい見られている。さらに居心地が悪い。
 トムお兄様がわたしに紅茶を入れてくださる。断るのも無粋なので会釈で感謝を伝える。

「男爵は、王太子も落としたという男爵令嬢の噂を耳にしましたか?」

 お兄様は少し思い巡らすようにして言った。

「ああ、貴族の令息を落としまくっている男爵令嬢の噂を聞きましたが、王太子を落とした……あれは本当だったのですか?」

 王太子は王子のお兄さんのことだから、直接王子から聞くと事実という気がする。
 王子はため息をついてから話し始めた。
 わたしが巷で聞いた信じられないような夢物語は、本当にあったことらしい。
 そして男爵令嬢に愛を捧げるついでに、家宝も捧げたという。問題はその家宝を持ち出されると個人の困るレベルでなく、国を脅かすといっても過言でもない品々で、それを取り返さなくてはならないんだと王子様はおっしゃる。令嬢は変な魔術や薬を使ったのではと調べられたがそんな反応はなく、そして令嬢の周りにもそれらの家宝はみつからなかった。

 王子様はお兄さんの王太子が行方不明にした、精霊王の指輪。
 タデウス様はお兄さんが持ち出したあと行方がわからなくなった、先祖の手紙。
 ラモン様は弟さんが捧げてしまい、令嬢にはその場で見ただけだと言われた、古い教本。
 テオドール様は弟さんが持ち出し所在不明の、魔石。
 それぞれに取り戻さなくてはならないものがあり必死に探していたところ、件の男爵令嬢から賭けの勝者に欲しい物のありかを教えるというコンタクトがあった。

 その指示された賭けが、クリスタラー令嬢に交際を申し込み婚約までこぎつけることができるかというものだった。婚約できた者を勝者とし、その者の欲しい物のありかを教える、と。

 え?
 お兄様と顔を見合わせる。

「なぜ、ファニーが組み込まれるんです?」

「確かなことはわかりません。でも精霊王の指輪が手に渡っていると予想されることから、緑の乙女に目をつけているのではないかと私は考えています」

 目をつけられたって何? 緑の乙女っていったって、わたしは緑を持っていないし、なんの力も持っていないのに。
 お兄様が手を握ってくださる。怖かったが、大丈夫と頷く。
 視線を感じて顔をあげると皆様がわたしとお兄様の手を凝視していた。
 あ。もう子供じゃないのに、すがってしまったようなことが恥ずかしくなって、わたしは慌てて手を膝の上に戻す。

 賭けを持ちかけられているものの、その真意は計り知れないので、指示に従いながら相手の出方をみようと思っている。ちなみにファニーへの交際はガチになるはずだったので、令嬢に一切知らせずに婚約者を選んでもらうのでも、この話を知らせて一緒に演じてくれてもありがたいと思っている旨を話された。
 演じることを選ぶのであれば、この騒動の後に、今後の婚活に不利にならないよう誤解のないようにするし、なんなら婚活の相談にのると言われた。

「私たちが賭けにのるのらないに関わらず、何かしら令嬢は巻き込まれたことと思います。賭けにのっている私たちが言えることではないのですが。クリスタラー令嬢に伝えるかどうするかは、男爵の決断にお任せします」

 お兄様は目頭を押さえた。

「リリアン、同じ女性である君の意見を聞いてみたい。ファニーは知るべきだと思うか?」

 お兄様……。
 お兄様はわたしの意見を尊重しようとしてくださってるんだ。

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200131>乗馬服について説明を追加
ご指摘ありがとうございましたm(_ _)m

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