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やりなおし

1. 霧がかった森の中で

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 自殺後、気がつくとヨウタは死んだときのパジャマ姿で森の中にいた。訳が分からず周りを見たが誰もいなかった。
 森はすごく静かで、鳥の鳴き声や木が折れる音など何も聞こえなかった。ただただ苔むし、うっすら霧がかった森のなかでヨウタはポツンと状況が呑み込めないまま佇んでいた。

 状況が呑み込めないまましばらく経った後、自分が自殺を決行したことを思い出し、切った首元を恐る恐る確かめてみたが、切った後や痛みはなく、切る前のいつも通りの首がそこにはあったことが分かっただけであった。あれだけ、血が噴き出し、痛みを伴った首がなぜ元通りになったのか彼にはよくわからなかったが、彼はとりあえず森を歩いてみることにした。

 30分ばかり歩いたところで約20m先のコケの岩が動いたような気がした。その動いたと思われる岩をボーっと見たが岩に動きはなかった。気のせいかと思い再び歩き始めた瞬間、やはり岩が動き、赤い目のようなものがちらりと見えた。

 あれは猿か? いや、猿にはしては体がでかすぎるし、それに赤い目の猿なんて? そう思っていると、岩がのっそりと動き出し方向転換してこちらを向いた。その瞬間にやはり岩ほどにでかく苔むした体毛を持つ猿であることが分かった。猿がこちらを向く前に体を屈め見られないようにしたが、猿に見られたらしく猿はこちらを向いて徐々に走り出してきた。

 やばい、このままだと襲われて殺される。そう思い逃げようとしたが、見慣れない場所での見慣れない恐怖に圧倒され上手く体を動かせずにただこっちに向かってくる猿を見ていることしかできなかった。
 猿は迷うことなく速度を上げてこちらに向かってくる。それに伴って、霧ではっきり見えなかった体がどんどんとはっきり見えてくるようになる。猿は怒り狂ったかのように必死にやってくる。もう逃げても絶対に間に合わない。
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