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第八話 やっぱ縦ロールでしょ④
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ルフォートは釈然としない様子だったが、大したことではないと判断したらしい。すぐさまキュロットの背後に回ると、その両肩にポンと手を置く。
「それではキュロット嬢、どのような髪型がご所望ですか?」
その問いかけには私が即座に応じた。
「縦ロールよ。お嬢様といったら金髪ドリル頭。これは時代を超えたド定番だから」
「シエザの要望通りにお願いいたしますわ。あの、ぶしつけなお願いで申し訳ありません、ルフォートさん。後で何らかの御礼の品はご用意しますので……」
恐縮している様子のキュロットに、ルフォートは爽やかな笑顔で応じる。
「クラスメイトなんだし、そんなに堅苦しく考えなくていいさ。それに、女性が綺麗になるのはオレの喜びでもあるから。それじゃあ、カットしていくか」
ルフォートはそう言うと、カットのイメージを膨らませるためか、静かに瞼を閉じる。
(え? 今から始めるつもり? というか、道具は?)
眉をひそめてルフォートの様子を窺っていると、彼の全身が淡く輝き出した。その口からは、歌うように滑らかな言葉が紡がれていく。
「風の精霊よ。我が呼びかけに応じ、その力を示せ……」
教室の窓はほとんど閉められているというのに、空気の流動がはっきりと感じられた。
次いでキュロットの長い金髪が、風に弄ばれるようにふわりと舞い上がる。
(あぁ、そうか! ルフォートって風魔法の使い手だし、魔法を使ってカットしてくのか!)
どうやら私の予想は的を射ていたらしい。風の刃が走っているのか、まるで金色の綿毛が舞うように、キュロットの髪が見る間にカットされていく。
「魔法って便利ね。こんな使い方もできるんだ」
私が感嘆の声を漏らすと、すぐさま横合いから訂正が入った。
「ルフォートだからできる芸当だよ。風魔法をここまで繊細に扱える人間はそうそういないから」
ふと横を見やれば、ブラドがすぐ隣にやってきていた。
どうやらルフォートの神業に興味を引かれたらしく、いつの間にかキュロットの席を取り囲むように人だかりができている。
ルフォートはまんざらでもない様子で、ふふんと鼻を鳴らしながら言った。
「まっ、オレにかかれば楽勝かな。でもまあ、縦ロールに合うようにカットはできても、この場でカールさせるのはさすがに無理だから、寝る前にラグカールでも試すといい」
「ラグカールって、古布に髪を巻きつける方法よね? そのまま寝たら朝には自然とカールができてるってやつでしょ? それだとお披露目が明日になっちゃうじゃない」
「そんなこと言われてもなあ……」
ルフォートは困惑の顔を浮かべた。彼の魔法をもってしても、髪のカールまで自在にできるわけではないらしい。
まあ確かに、『王立学園の聖女』は中世ヨーロッパを舞台にした乙女ゲームだ。科学の代替物として魔法は使えても、ドライヤーやコテがあるわけではない。日本の美容室のように、数時間でちゃちゃっとセットが完了するわけでもないだろう。
(うーん。せめて自在に熱を発するものがあれば、髪を整えるくらいできそうなもんだけど)
そこまで考えた私は、天啓にも似た閃きを覚え、隣りにいるブラドを勢いよく見やった。
気弱なブラドは「ひっ」と声を上げて身をすくめる。
「それではキュロット嬢、どのような髪型がご所望ですか?」
その問いかけには私が即座に応じた。
「縦ロールよ。お嬢様といったら金髪ドリル頭。これは時代を超えたド定番だから」
「シエザの要望通りにお願いいたしますわ。あの、ぶしつけなお願いで申し訳ありません、ルフォートさん。後で何らかの御礼の品はご用意しますので……」
恐縮している様子のキュロットに、ルフォートは爽やかな笑顔で応じる。
「クラスメイトなんだし、そんなに堅苦しく考えなくていいさ。それに、女性が綺麗になるのはオレの喜びでもあるから。それじゃあ、カットしていくか」
ルフォートはそう言うと、カットのイメージを膨らませるためか、静かに瞼を閉じる。
(え? 今から始めるつもり? というか、道具は?)
眉をひそめてルフォートの様子を窺っていると、彼の全身が淡く輝き出した。その口からは、歌うように滑らかな言葉が紡がれていく。
「風の精霊よ。我が呼びかけに応じ、その力を示せ……」
教室の窓はほとんど閉められているというのに、空気の流動がはっきりと感じられた。
次いでキュロットの長い金髪が、風に弄ばれるようにふわりと舞い上がる。
(あぁ、そうか! ルフォートって風魔法の使い手だし、魔法を使ってカットしてくのか!)
どうやら私の予想は的を射ていたらしい。風の刃が走っているのか、まるで金色の綿毛が舞うように、キュロットの髪が見る間にカットされていく。
「魔法って便利ね。こんな使い方もできるんだ」
私が感嘆の声を漏らすと、すぐさま横合いから訂正が入った。
「ルフォートだからできる芸当だよ。風魔法をここまで繊細に扱える人間はそうそういないから」
ふと横を見やれば、ブラドがすぐ隣にやってきていた。
どうやらルフォートの神業に興味を引かれたらしく、いつの間にかキュロットの席を取り囲むように人だかりができている。
ルフォートはまんざらでもない様子で、ふふんと鼻を鳴らしながら言った。
「まっ、オレにかかれば楽勝かな。でもまあ、縦ロールに合うようにカットはできても、この場でカールさせるのはさすがに無理だから、寝る前にラグカールでも試すといい」
「ラグカールって、古布に髪を巻きつける方法よね? そのまま寝たら朝には自然とカールができてるってやつでしょ? それだとお披露目が明日になっちゃうじゃない」
「そんなこと言われてもなあ……」
ルフォートは困惑の顔を浮かべた。彼の魔法をもってしても、髪のカールまで自在にできるわけではないらしい。
まあ確かに、『王立学園の聖女』は中世ヨーロッパを舞台にした乙女ゲームだ。科学の代替物として魔法は使えても、ドライヤーやコテがあるわけではない。日本の美容室のように、数時間でちゃちゃっとセットが完了するわけでもないだろう。
(うーん。せめて自在に熱を発するものがあれば、髪を整えるくらいできそうなもんだけど)
そこまで考えた私は、天啓にも似た閃きを覚え、隣りにいるブラドを勢いよく見やった。
気弱なブラドは「ひっ」と声を上げて身をすくめる。
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