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第二章 貴船祭へ行こう
貴船祭に行こう①
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「塔子ちゃん、オークスやで!ホンマ三連単頼むわ!俺かて屋根があるとこ住みたいねん!」
無造作を狙っているような明るい色のチャラい頭を下げているのは鞍馬の大天狗紫苑である。
3年前に出会った時に、塔子は予知能力があると嘯いた事を後悔していた。烏滸に向かう途中、花見小路のWinsで偶然会ってしまったのである。紫苑とは初対面の印象こそ最悪だったものの、去年助けてもらった恩もある。無碍にも出来ずにいたら、そのままWins馬券売り場に連れ込まれた。
「そんなの分かんないですよ。夢見の能力の話とか今だから言いますけど全部嘘だし」
「夢見がなくても、塔子ちゃんて運いいし、ビギナーズラックがあるから、大丈夫。塔子ちゃんが選んだやつ買うし、適当にこの数字の中から3頭並べて!」
溺れる者は藁をも縋るとは、こうゆうことなのだろうか。
塔子はハズれれば、もうしつこくされる事もないだろうと思い、適当に3匹を1、2、3と指さす。
「じゃ、わたしバイトがあるんで」
立ち去ろうとする塔子に、紫苑が残念そうな声をあげる。
「レース一緒にみてゆかんの?」
「だから、今からバイトあるんで」
「バイトどこどこ?近く?何屋?」
「んー、まあ喫茶店」
適当に説明してサクサク逃げる。馬券を買わなければならない紫苑はそれ以上着いてこなかった。
(まあ、これが外れたらこれ以上何もないだろう)
そして何の音沙汰もなく、1週間たった。
(げ…)
花見小路のWins前には、また紫苑がいる。しかも明らかに塔子を待ったようで目をキラキラさせて寄ってきた。
「塔子ちゃん!ダービーやで、ホンマ三連単頼むわ」
「なんで懲りないんですか、デジャヴすぎますよ。先週外したでしょう?」
紫苑は私の言葉に不思議そうな顔をする。
「いや?きたで。5-12-13。1万しか賭けんかったせいで配当340万円やから、屋根あるとこにまだ住めてないけど、今週はちゃんとブッ込むし、な?な?な?」
人懐っこい笑顔で擦り寄ってくる紫苑をふりほどく。
「私今からバイトなんで」
「3頭選ぶだけでええから!指差して!」
塔子はバババッと適当に指差す。
「責任とりませんよ!」
「おおきに!神さま!仏さま!塔子さま!」
今日も塔子は茶屋烏滸の扉をあける。日曜日は15時から20時までの営業だ。高校がある日は、吹雪が先に行って店を開けるが、土日は塔子が大掛かりな掃除も兼ねて早めに行き吹雪は開店時間ギリギリにふらりと現れる。
中の掃除を終えて水を撒いているところに、再びの紫苑が通りがかる。
「塔子ちゃんのバイト先ってここなんや、もう開いてるん?」
「まあ、これから開けるとこですけど…」
吹雪はまだ来ていない。だが、紫苑を見たら嫌な顔するだろうなと思った。
「もう入れます?」
間が悪く、千弦も来店する。千弦だけ中に入れて、紫苑を入れないのは気まずいなと塔子は思い、しぶしぶ2人を店内へ案内する。
「いらっしゃいませ」
千弦と紫苑を案内すると、吹雪が階段の上から降りてきた。2階の窓からギリギリに出勤したのだろう。吹雪はいつもの笑顔で千弦に声をかけると、そのままの笑顔で紫苑にも「いらっしゃいませ」と言った。
紫苑から「まじかよ」という簡単と口笛があがる。
「千弦さん、今日は何にしましょうね」
オススメの新茶や本日の和菓子の説明を千弦に対して吹雪が始めたから、塔子の方は紫苑を接客することにした。
「紫苑さんは何にしますか?」
「ほんなら塔子ちゃんのオススメもらうわ!何でもええで。塔子ちゃんもなんでも好きなん飲んで。俺奢るし」
それを聞いた千弦さんも吹雪に声をかける。
「あ!吹雪さんも好きなの飲んでくださいね。私こうゆうお店慣れていないから気が利かなくて…」
(いやいや、店員に飲ませるタイプのお店じゃないから)
やんわり塔子は断ろうとするが、吹雪は「ほなコレ一緒に試してみる?」などと言っている。
(あ、なんだろう。この気持ち、すごくむかつく)
「遠慮せんと好きなの頼んでや。元はと言えば、先週塔子ちゃんが稼いでくれたもんやし!もうすぐレースやさかい、今週は一緒にみるけ?」
(あーあ、吹雪に聞こえてないわけないな、これ)
しかし同時に塔子は吹雪に気を使う自分が嫌になった。
なぜ悪い事をしたわけでもないのに、今夜の言い訳を考えなければならないのだろう。
(それに紫苑も普通にお客さんとして来てくれたわけだし…もう、いいよね!)
「うちのお店ではレース観戦はだめですよ。茶事を楽しんでってくださいね」
気を取り直して塔子は接客をする。吹雪と塔子の間に見えない壁があるような雰囲気ではあるが、つつがなく和やかに談笑の時が進む。途中、スマホでレース結果だけを確認した紫苑が「やっべ、マンション買えるわ」と呟いた。耳元で「お礼はまた今度するしな」と囁くと塔子にウィンクした。
その日の売り上げは開店以来の最高売り上げを記録した。来店者数2人にも関わらず、6万8千円である。辻喜さんの〝あさひ〟などを含む飲み比べも注文されたのだから仕方がないが、店を開店した当初に予想した経営方法とはかなり違う。
(いや、もっと気軽にお茶を楽しめてお悩みがある方の相談にも乗れるような…)
確かに塔子ですら今日は紫苑の「どこにマンション買うのが投機的にええのか」という悩みの相談にのったが、なんか違うと思った。
そして閉店後に凍りつくこの空気である。
「帰るぞ」
「ちょ、まだ締め作業…」
「知るか」
吹雪は塔子を抱き寄せると、自宅に跳んだ。
無造作を狙っているような明るい色のチャラい頭を下げているのは鞍馬の大天狗紫苑である。
3年前に出会った時に、塔子は予知能力があると嘯いた事を後悔していた。烏滸に向かう途中、花見小路のWinsで偶然会ってしまったのである。紫苑とは初対面の印象こそ最悪だったものの、去年助けてもらった恩もある。無碍にも出来ずにいたら、そのままWins馬券売り場に連れ込まれた。
「そんなの分かんないですよ。夢見の能力の話とか今だから言いますけど全部嘘だし」
「夢見がなくても、塔子ちゃんて運いいし、ビギナーズラックがあるから、大丈夫。塔子ちゃんが選んだやつ買うし、適当にこの数字の中から3頭並べて!」
溺れる者は藁をも縋るとは、こうゆうことなのだろうか。
塔子はハズれれば、もうしつこくされる事もないだろうと思い、適当に3匹を1、2、3と指さす。
「じゃ、わたしバイトがあるんで」
立ち去ろうとする塔子に、紫苑が残念そうな声をあげる。
「レース一緒にみてゆかんの?」
「だから、今からバイトあるんで」
「バイトどこどこ?近く?何屋?」
「んー、まあ喫茶店」
適当に説明してサクサク逃げる。馬券を買わなければならない紫苑はそれ以上着いてこなかった。
(まあ、これが外れたらこれ以上何もないだろう)
そして何の音沙汰もなく、1週間たった。
(げ…)
花見小路のWins前には、また紫苑がいる。しかも明らかに塔子を待ったようで目をキラキラさせて寄ってきた。
「塔子ちゃん!ダービーやで、ホンマ三連単頼むわ」
「なんで懲りないんですか、デジャヴすぎますよ。先週外したでしょう?」
紫苑は私の言葉に不思議そうな顔をする。
「いや?きたで。5-12-13。1万しか賭けんかったせいで配当340万円やから、屋根あるとこにまだ住めてないけど、今週はちゃんとブッ込むし、な?な?な?」
人懐っこい笑顔で擦り寄ってくる紫苑をふりほどく。
「私今からバイトなんで」
「3頭選ぶだけでええから!指差して!」
塔子はバババッと適当に指差す。
「責任とりませんよ!」
「おおきに!神さま!仏さま!塔子さま!」
今日も塔子は茶屋烏滸の扉をあける。日曜日は15時から20時までの営業だ。高校がある日は、吹雪が先に行って店を開けるが、土日は塔子が大掛かりな掃除も兼ねて早めに行き吹雪は開店時間ギリギリにふらりと現れる。
中の掃除を終えて水を撒いているところに、再びの紫苑が通りがかる。
「塔子ちゃんのバイト先ってここなんや、もう開いてるん?」
「まあ、これから開けるとこですけど…」
吹雪はまだ来ていない。だが、紫苑を見たら嫌な顔するだろうなと思った。
「もう入れます?」
間が悪く、千弦も来店する。千弦だけ中に入れて、紫苑を入れないのは気まずいなと塔子は思い、しぶしぶ2人を店内へ案内する。
「いらっしゃいませ」
千弦と紫苑を案内すると、吹雪が階段の上から降りてきた。2階の窓からギリギリに出勤したのだろう。吹雪はいつもの笑顔で千弦に声をかけると、そのままの笑顔で紫苑にも「いらっしゃいませ」と言った。
紫苑から「まじかよ」という簡単と口笛があがる。
「千弦さん、今日は何にしましょうね」
オススメの新茶や本日の和菓子の説明を千弦に対して吹雪が始めたから、塔子の方は紫苑を接客することにした。
「紫苑さんは何にしますか?」
「ほんなら塔子ちゃんのオススメもらうわ!何でもええで。塔子ちゃんもなんでも好きなん飲んで。俺奢るし」
それを聞いた千弦さんも吹雪に声をかける。
「あ!吹雪さんも好きなの飲んでくださいね。私こうゆうお店慣れていないから気が利かなくて…」
(いやいや、店員に飲ませるタイプのお店じゃないから)
やんわり塔子は断ろうとするが、吹雪は「ほなコレ一緒に試してみる?」などと言っている。
(あ、なんだろう。この気持ち、すごくむかつく)
「遠慮せんと好きなの頼んでや。元はと言えば、先週塔子ちゃんが稼いでくれたもんやし!もうすぐレースやさかい、今週は一緒にみるけ?」
(あーあ、吹雪に聞こえてないわけないな、これ)
しかし同時に塔子は吹雪に気を使う自分が嫌になった。
なぜ悪い事をしたわけでもないのに、今夜の言い訳を考えなければならないのだろう。
(それに紫苑も普通にお客さんとして来てくれたわけだし…もう、いいよね!)
「うちのお店ではレース観戦はだめですよ。茶事を楽しんでってくださいね」
気を取り直して塔子は接客をする。吹雪と塔子の間に見えない壁があるような雰囲気ではあるが、つつがなく和やかに談笑の時が進む。途中、スマホでレース結果だけを確認した紫苑が「やっべ、マンション買えるわ」と呟いた。耳元で「お礼はまた今度するしな」と囁くと塔子にウィンクした。
その日の売り上げは開店以来の最高売り上げを記録した。来店者数2人にも関わらず、6万8千円である。辻喜さんの〝あさひ〟などを含む飲み比べも注文されたのだから仕方がないが、店を開店した当初に予想した経営方法とはかなり違う。
(いや、もっと気軽にお茶を楽しめてお悩みがある方の相談にも乗れるような…)
確かに塔子ですら今日は紫苑の「どこにマンション買うのが投機的にええのか」という悩みの相談にのったが、なんか違うと思った。
そして閉店後に凍りつくこの空気である。
「帰るぞ」
「ちょ、まだ締め作業…」
「知るか」
吹雪は塔子を抱き寄せると、自宅に跳んだ。
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