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第一章 枝垂れ桜の庭で
白昼夢
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(あれ、変な夢だな)
私はいつのまにか私じゃなかった。夢の中で、私は自由に動くことが出来ずに、ただ同じ年頃の私に良く似た女の子の視点で勝手に夢が進んでゆくのだ。
田舎で中学の先輩と畦道を歩いてる。私は顔を赤らめてる。胸の高鳴りに、私は彼が好きなんだと感じる。先輩は地元の高校に進学したみたいで、彼は私に同じ高校においでと言う。
「わたし、中学出たら京都で芸妓になりたいんよ」
自分の口からするりと出てきた言葉に驚く。彼は驚きながらも、微笑んだ。
「そしたらお前が祇園で1番の芸妓になったら、見に行ったるわ。お互い頑張ろうな」
断片的に夢は続いた。
好いた男より自分の夢選んで京都に出てきた私。誰に強制されたわけでもなく自分で望んで。
どんなに想いを寄せても、置屋には自由などなく、好いた男に連絡がとれるわけでもない。何年かたって友人から伝え聞いたのは、高校を出た彼は東京に進学したこと。
でも約束はまだ覚えている。
私たちは手を繋いだことすらなかった。触れたら最後もう離れられないと知っていたからかもしれない。彼も私も故郷で終わりたくなかった。きっとそこは似ていた。
届かぬ想いは私を美しく舞わせ、いつだって彼に舞っていた。祇園で1番の芸妓が何を指すのが分からないけれど、売れて人気のある芸妓になるしかない。大店の旦那を持つのを私は厭わなかった。そんなことで彼への想いが穢れるとは思わなかった。
しかし私が芸妓になっての初舞台に彼は現れなかった。公演期間中、ずっとソワソワしていたのに。もしかしたら楽屋へ会いにくるかもしれない。待ち伏せしてくれてるかもしれないと、儚い望みをずっと抱いていたのに。
会いにこないのは、まだ1番ではないからか。涙をしても仕方がなかった。他の誰かに抱かれながら彼のことだけ考えていた。他の男に抱かれることは、彼のいう1番になるには必要なことだった。
彼は若い時の約束など忘れてしまったのだろうか。それでも、私には約束が未だに人生の全てだった。芸妓になるとゆう夢を叶えたあと、ずっと彼が迎えにくるのを待っていた。もし会いに来てくれたら全てを投げ出す覚悟があった。
既に年は30を超えた。祇園になんて来ずに、同じ高校へ行き平凡に彼と付き合えばよかったという後悔が私を蝕んでいく。もし付き合っていたら高校時代の恋なんてすぐ終わったいたかもしれない。
貧しくてもいい。結婚して慎ましく暮らす。子供を産むなら、彼の子供がいい。二人で一所懸命働いて、子供を育てる。一緒に年老いてゆきたい。
妄想だけが私を蝕んでゆく。
なんて大それた夢を見てしまったのだろう。私の心は少女のままなのに、今や私は芸妓の勝つ春だ。夢を叶えるために世話になった好意や応援に雁字搦めにされて、売れっ子の仮面を脱ぐこともままならない。
忙しく仕事に明け暮れて、私は35を超えたのに彼はまだ会いにこない。友人伝いに彼の行方を探し、結婚して子供もいることを突き止めた。
なんで?なんで?なんで?
殺したいと思った。彼の子を。孕んだ幸運な女を。そして呪った。これから1人朽ちてゆくだけの自分の人生を呪った。
しかし、そんな時、気まぐれにも彼はついに私に会いにきたのだ。
おかしいでしょう。もう彼に嫁げる希望が無いのに。なんて人を馬鹿にしているのだろう、今更私のためにお座敷を開くなんて。
京都のお茶屋でお座敷を開けるようになるために、彼は随分頑張ったと上機嫌でいう。今や品川にマンションを買い、結婚もして、会社経営をしている。だからやっと私に会いにこれたという。
「去年2人目が生まれてね、男の子の兄弟だから家がホント毎日戦争なんだよ」
見事な標準語をしゃべり、郷土の訛りは影も形も無かった。屈託なく笑う顔は何も変わらないのに、それ以外は私も彼も全て違っていた。
なんて憎たらしい男なのだろう。私は彼の成功を彩るだけの最後の花なのだ。
無傷では返すまいと思った。彼に私を抱かせる。そんなのとても簡単だった。そして私は彼の子供が欲しかった。お百度参りもする、なんでも捧げよう。私の身体や魂など朽ちはててもいい、彼の妻を呪い殺すし、私は彼の子を孕む。
私は神を呪い、自分を呪い、彼を愛して泣き叫んでいた。
私はいつのまにか私じゃなかった。夢の中で、私は自由に動くことが出来ずに、ただ同じ年頃の私に良く似た女の子の視点で勝手に夢が進んでゆくのだ。
田舎で中学の先輩と畦道を歩いてる。私は顔を赤らめてる。胸の高鳴りに、私は彼が好きなんだと感じる。先輩は地元の高校に進学したみたいで、彼は私に同じ高校においでと言う。
「わたし、中学出たら京都で芸妓になりたいんよ」
自分の口からするりと出てきた言葉に驚く。彼は驚きながらも、微笑んだ。
「そしたらお前が祇園で1番の芸妓になったら、見に行ったるわ。お互い頑張ろうな」
断片的に夢は続いた。
好いた男より自分の夢選んで京都に出てきた私。誰に強制されたわけでもなく自分で望んで。
どんなに想いを寄せても、置屋には自由などなく、好いた男に連絡がとれるわけでもない。何年かたって友人から伝え聞いたのは、高校を出た彼は東京に進学したこと。
でも約束はまだ覚えている。
私たちは手を繋いだことすらなかった。触れたら最後もう離れられないと知っていたからかもしれない。彼も私も故郷で終わりたくなかった。きっとそこは似ていた。
届かぬ想いは私を美しく舞わせ、いつだって彼に舞っていた。祇園で1番の芸妓が何を指すのが分からないけれど、売れて人気のある芸妓になるしかない。大店の旦那を持つのを私は厭わなかった。そんなことで彼への想いが穢れるとは思わなかった。
しかし私が芸妓になっての初舞台に彼は現れなかった。公演期間中、ずっとソワソワしていたのに。もしかしたら楽屋へ会いにくるかもしれない。待ち伏せしてくれてるかもしれないと、儚い望みをずっと抱いていたのに。
会いにこないのは、まだ1番ではないからか。涙をしても仕方がなかった。他の誰かに抱かれながら彼のことだけ考えていた。他の男に抱かれることは、彼のいう1番になるには必要なことだった。
彼は若い時の約束など忘れてしまったのだろうか。それでも、私には約束が未だに人生の全てだった。芸妓になるとゆう夢を叶えたあと、ずっと彼が迎えにくるのを待っていた。もし会いに来てくれたら全てを投げ出す覚悟があった。
既に年は30を超えた。祇園になんて来ずに、同じ高校へ行き平凡に彼と付き合えばよかったという後悔が私を蝕んでいく。もし付き合っていたら高校時代の恋なんてすぐ終わったいたかもしれない。
貧しくてもいい。結婚して慎ましく暮らす。子供を産むなら、彼の子供がいい。二人で一所懸命働いて、子供を育てる。一緒に年老いてゆきたい。
妄想だけが私を蝕んでゆく。
なんて大それた夢を見てしまったのだろう。私の心は少女のままなのに、今や私は芸妓の勝つ春だ。夢を叶えるために世話になった好意や応援に雁字搦めにされて、売れっ子の仮面を脱ぐこともままならない。
忙しく仕事に明け暮れて、私は35を超えたのに彼はまだ会いにこない。友人伝いに彼の行方を探し、結婚して子供もいることを突き止めた。
なんで?なんで?なんで?
殺したいと思った。彼の子を。孕んだ幸運な女を。そして呪った。これから1人朽ちてゆくだけの自分の人生を呪った。
しかし、そんな時、気まぐれにも彼はついに私に会いにきたのだ。
おかしいでしょう。もう彼に嫁げる希望が無いのに。なんて人を馬鹿にしているのだろう、今更私のためにお座敷を開くなんて。
京都のお茶屋でお座敷を開けるようになるために、彼は随分頑張ったと上機嫌でいう。今や品川にマンションを買い、結婚もして、会社経営をしている。だからやっと私に会いにこれたという。
「去年2人目が生まれてね、男の子の兄弟だから家がホント毎日戦争なんだよ」
見事な標準語をしゃべり、郷土の訛りは影も形も無かった。屈託なく笑う顔は何も変わらないのに、それ以外は私も彼も全て違っていた。
なんて憎たらしい男なのだろう。私は彼の成功を彩るだけの最後の花なのだ。
無傷では返すまいと思った。彼に私を抱かせる。そんなのとても簡単だった。そして私は彼の子供が欲しかった。お百度参りもする、なんでも捧げよう。私の身体や魂など朽ちはててもいい、彼の妻を呪い殺すし、私は彼の子を孕む。
私は神を呪い、自分を呪い、彼を愛して泣き叫んでいた。
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