〜祇園あやかし花嫁語り〜

菰野るり

文字の大きさ
4 / 26
第一章 枝垂れ桜の庭で

白昼夢

しおりを挟む
(あれ、変な夢だな)

私はいつのまにか私じゃなかった。夢の中で、私は自由に動くことが出来ずに、ただ同じ年頃の私に良く似た女の子の視点で勝手に夢が進んでゆくのだ。

田舎で中学の先輩と畦道を歩いてる。私は顔を赤らめてる。胸の高鳴りに、私は彼が好きなんだと感じる。先輩は地元の高校に進学したみたいで、彼は私に同じ高校においでと言う。

「わたし、中学出たら京都で芸妓になりたいんよ」

自分の口からするりと出てきた言葉に驚く。彼は驚きながらも、微笑んだ。

「そしたらお前が祇園で1番の芸妓になったら、見に行ったるわ。お互い頑張ろうな」

断片的に夢は続いた。

好いた男より自分の夢選んで京都に出てきた私。誰に強制されたわけでもなく自分で望んで。

どんなに想いを寄せても、置屋には自由などなく、好いた男に連絡がとれるわけでもない。何年かたって友人から伝え聞いたのは、高校を出た彼は東京に進学したこと。

でも約束はまだ覚えている。

私たちは手を繋いだことすらなかった。触れたら最後もう離れられないと知っていたからかもしれない。彼も私も故郷で終わりたくなかった。きっとそこは似ていた。

届かぬ想いは私を美しく舞わせ、いつだって彼に舞っていた。祇園で1番の芸妓が何を指すのが分からないけれど、売れて人気のある芸妓になるしかない。大店の旦那を持つのを私は厭わなかった。そんなことで彼への想いが穢れるとは思わなかった。

しかし私が芸妓になっての初舞台に彼は現れなかった。公演期間中、ずっとソワソワしていたのに。もしかしたら楽屋へ会いにくるかもしれない。待ち伏せしてくれてるかもしれないと、儚い望みをずっと抱いていたのに。

会いにこないのは、まだ1番ではないからか。涙をしても仕方がなかった。他の誰かに抱かれながら彼のことだけ考えていた。他の男に抱かれることは、彼のいう1番になるには必要なことだった。

彼は若い時の約束など忘れてしまったのだろうか。それでも、私には約束が未だに人生の全てだった。芸妓になるとゆう夢を叶えたあと、ずっと彼が迎えにくるのを待っていた。もし会いに来てくれたら全てを投げ出す覚悟があった。

既に年は30を超えた。祇園になんて来ずに、同じ高校へ行き平凡に彼と付き合えばよかったという後悔が私を蝕んでいく。もし付き合っていたら高校時代の恋なんてすぐ終わったいたかもしれない。

貧しくてもいい。結婚して慎ましく暮らす。子供を産むなら、彼の子供がいい。二人で一所懸命働いて、子供を育てる。一緒に年老いてゆきたい。

妄想だけが私を蝕んでゆく。

なんて大それた夢を見てしまったのだろう。私の心は少女のままなのに、今や私は芸妓の勝つ春だ。夢を叶えるために世話になった好意や応援に雁字搦めにされて、売れっ子の仮面を脱ぐこともままならない。

忙しく仕事に明け暮れて、私は35を超えたのに彼はまだ会いにこない。友人伝いに彼の行方を探し、結婚して子供もいることを突き止めた。

なんで?なんで?なんで?

殺したいと思った。彼の子を。孕んだ幸運な女を。そして呪った。これから1人朽ちてゆくだけの自分の人生を呪った。


しかし、そんな時、気まぐれにも彼はついに私に会いにきたのだ。

おかしいでしょう。もう彼に嫁げる希望が無いのに。なんて人を馬鹿にしているのだろう、今更私のためにお座敷を開くなんて。

京都のお茶屋でお座敷を開けるようになるために、彼は随分頑張ったと上機嫌でいう。今や品川にマンションを買い、結婚もして、会社経営をしている。だからやっと私に会いにこれたという。

「去年2人目が生まれてね、男の子の兄弟だから家がホント毎日戦争なんだよ」

見事な標準語をしゃべり、郷土の訛りは影も形も無かった。屈託なく笑う顔は何も変わらないのに、それ以外は私も彼も全て違っていた。

なんて憎たらしい男なのだろう。私は彼の成功を彩るだけの最後の花なのだ。

無傷では返すまいと思った。彼に私を抱かせる。そんなのとても簡単だった。そして私は彼の子供が欲しかった。お百度参りもする、なんでも捧げよう。私の身体や魂など朽ちはててもいい、彼の妻を呪い殺すし、私は彼の子を孕む。

私は神を呪い、自分を呪い、彼を愛して泣き叫んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

処理中です...