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頑張れ厩戸係
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「これでいけるんじゃないか」
鏡の中にうつる厩戸係は皇帝の寝室にはおよそ相応しくない格好である。
後ろ姿も確認し、 堯舜は深呼吸をした。
白露が後宮入りらしきものをして、すでに20日が過ぎているというのに 堯舜はまだ2回目の対面すらしていない。
母とずいぶん楽しく過ごしていると聞いたゆえに、心配など何もないが、自分も何かしたいという気持ちが日に日に募っていた。それに白露の子供たちの笑顔がもう一度見たい。
そのために、厩戸の馬を子供たちに紹介するという理由をこじつけて約束を取り付けたのである。
おふれを出したが故に、翡翠のかんざしを持つ年頃の娘たちが宮に押しかけているとの話だが偽物ばかりである。小龍は毎日の襲来に辟易している様子だった。こんなことに人手を割いているなんて、母上の耳に入っていないことは幸いであった。
ちょうど 堯舜が顔の汚しが足りないかと肌に油を塗りつけている頃、小龍のもとに新たな候補者の来訪があった。
衛兵によると、その女は白馬にのり1人でやってきたという。厩戸に白馬は繋がれているか、皇帝陛下の名馬たちに全くひけをとらない。
「私が翡翠のかんざしを持つ女だ、通せ」
その女の凄みに衛兵たちは本来は海外の要人に謁見する紫微宮の謁見の間に女を通したという。
小龍は足早に謁見の間に向かう。
「ほう、皇帝自らのお出ましではないのか」
豪華な部屋に気圧されもせず、見劣りもしない女は
小龍に一瞥をくれた。視線ひとつで男性を射抜く矢のような美しさである。髪を纏めた翡翠のかんざしを引き抜くと、銀の長い髪は眩しく空を舞い、艶やかにひとまとまりの川の如く背中の見事な刺繍を覆う。
右に掲げられた翡翠のかんざしは紛れもない本物であった。
小龍は決められた質問をする。
「出身と名をいただけるか」
「なぜ貴様に我が名を名乗る必要が?弁えよ」
鈴のような軽やかな声は辛辣だ。
「この翡翠のかんざしに関しては皇帝陛下に一任されている。どうかお名前をいただきたい」
小龍は最大限の礼を尽くし、嘆願した。
「理由もわからず名乗る名はない」
とりつくしまもない。
小龍あきらめずに質問を続ける。
「これは皆に聞いているので、気を悪くせず答えてほしいのだが、これまでに新娘になったことはあるか」
我ながら愚問だとは小龍は思った。後宮入りを望むなら処女と嘘をつく可能性が高いからだ。
「ハ!なんだそれは。父に送られ3回は政略結婚に出されている。3回とも旅の途中で逃げ出してやった。向こうに到着していたら、新郎たちは血の海を見ただろう。今では役立たずの行き遅れと父にはあきれられている」
ずいぶんとイメージが違うが、話は整合性がとれる。皇帝陛下も瀕死で良く見た目を覚えていないのだから、彼女でないとは言えない。何より翡翠のかんざしが本物である。
「まずは客人として、貴殿を紫微宮にお迎えしよう。後ほど皇帝陛下の謁見があるだろう。お泊りいただく部屋に案内させる。充分に休まれよ」
銀髪の女はさも当たり前かのように表情ひとつかえず、再び髪を団子にしてかんざしを刺した。
「それより、馬の世話がしたい。随分と長旅無理をさせたからな。厩に案内せよ」
小龍は御意にと頭を下げると、衛兵をつけ女を案内させることにした。
鏡の中にうつる厩戸係は皇帝の寝室にはおよそ相応しくない格好である。
後ろ姿も確認し、 堯舜は深呼吸をした。
白露が後宮入りらしきものをして、すでに20日が過ぎているというのに 堯舜はまだ2回目の対面すらしていない。
母とずいぶん楽しく過ごしていると聞いたゆえに、心配など何もないが、自分も何かしたいという気持ちが日に日に募っていた。それに白露の子供たちの笑顔がもう一度見たい。
そのために、厩戸の馬を子供たちに紹介するという理由をこじつけて約束を取り付けたのである。
おふれを出したが故に、翡翠のかんざしを持つ年頃の娘たちが宮に押しかけているとの話だが偽物ばかりである。小龍は毎日の襲来に辟易している様子だった。こんなことに人手を割いているなんて、母上の耳に入っていないことは幸いであった。
ちょうど 堯舜が顔の汚しが足りないかと肌に油を塗りつけている頃、小龍のもとに新たな候補者の来訪があった。
衛兵によると、その女は白馬にのり1人でやってきたという。厩戸に白馬は繋がれているか、皇帝陛下の名馬たちに全くひけをとらない。
「私が翡翠のかんざしを持つ女だ、通せ」
その女の凄みに衛兵たちは本来は海外の要人に謁見する紫微宮の謁見の間に女を通したという。
小龍は足早に謁見の間に向かう。
「ほう、皇帝自らのお出ましではないのか」
豪華な部屋に気圧されもせず、見劣りもしない女は
小龍に一瞥をくれた。視線ひとつで男性を射抜く矢のような美しさである。髪を纏めた翡翠のかんざしを引き抜くと、銀の長い髪は眩しく空を舞い、艶やかにひとまとまりの川の如く背中の見事な刺繍を覆う。
右に掲げられた翡翠のかんざしは紛れもない本物であった。
小龍は決められた質問をする。
「出身と名をいただけるか」
「なぜ貴様に我が名を名乗る必要が?弁えよ」
鈴のような軽やかな声は辛辣だ。
「この翡翠のかんざしに関しては皇帝陛下に一任されている。どうかお名前をいただきたい」
小龍は最大限の礼を尽くし、嘆願した。
「理由もわからず名乗る名はない」
とりつくしまもない。
小龍あきらめずに質問を続ける。
「これは皆に聞いているので、気を悪くせず答えてほしいのだが、これまでに新娘になったことはあるか」
我ながら愚問だとは小龍は思った。後宮入りを望むなら処女と嘘をつく可能性が高いからだ。
「ハ!なんだそれは。父に送られ3回は政略結婚に出されている。3回とも旅の途中で逃げ出してやった。向こうに到着していたら、新郎たちは血の海を見ただろう。今では役立たずの行き遅れと父にはあきれられている」
ずいぶんとイメージが違うが、話は整合性がとれる。皇帝陛下も瀕死で良く見た目を覚えていないのだから、彼女でないとは言えない。何より翡翠のかんざしが本物である。
「まずは客人として、貴殿を紫微宮にお迎えしよう。後ほど皇帝陛下の謁見があるだろう。お泊りいただく部屋に案内させる。充分に休まれよ」
銀髪の女はさも当たり前かのように表情ひとつかえず、再び髪を団子にしてかんざしを刺した。
「それより、馬の世話がしたい。随分と長旅無理をさせたからな。厩に案内せよ」
小龍は御意にと頭を下げると、衛兵をつけ女を案内させることにした。
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