白鳥サノバビッチ

えすくん

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第3章 〝豪華客船〟天弓の翼

第022話 その名はリケイカイン

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「ぼく、リケイカイン」

 妖怪は股間の黒鳥をぶらつかせながら名乗った。

「そうなんすか。わしは神葉っす」
「瀬良寺サンだ。よろしくな」

 当たり前のように妖怪と自己紹介をする神葉と瀬良寺。

「おかしいぞ!!!!」
「何がっすか?」
「何もかもぞ! そもそも妖怪が人語を喋ることに驚かないのか!?」
「そう言えば……ヤバイっすね」

 瀬良寺も頷きながら、

「噂にも聞いたことがありません。確かに驚くべきことです。……しかし、どうでもいいでしょう」
「そうっすね」

 2人とも、すっかりリケイカインという存在に気を許してしまっている。
 和やかな雰囲気。

「もうよい!」

 痺れを切らしたマギ。
 白鳥をブルンブルンとしならせて今にも攻撃しようとした。
 しかし神葉がそれをぎゅっと握る。

「そんなことしてる場合じゃないっすよ」

 神葉が睨むのは沖弓。
 リケイカインの攻撃によりダメージを食らったとは言うものの、それは致命傷ではない。
 その証拠に沖弓は新たな雪玉の製造を開始している。

「えぇい! ならば瀬良寺、こやつを拷問せよ!」
「ダメだ」
「なにゆえに!?」
「リケイカインには戦略的価値がある。ついでに言うと、ちょっとかわいい」
「余には拷問したであろうが!?」
「マギにはかわいげがない」
「余は公爵ぞ!!!!」

 神葉も瀬良寺もやけにリケイカインに好意的だった。
 そのことにマギの心がざわめく。

 ――おそろしい。一体これは何事ぞ? 余の方がかわいいというのに。

「マギ好きぃ♡」

 唯一マギを肯定してくれるのはリケイカインだった。
 マギにはそれが疎ましい。

「よせ。余にはぶりっ子など効かないぞ」
「好きぃ♡」
「近寄るでない! ……そち、仲間になりたいのか? 絶対ダメぞ」
「どうして?」
「人間と妖怪が仲良くなれるわけがないであろう! もしどうしても仲間になりたいと申すなら……裏切れ。そう、妖怪を倒すのだ。そうすれば余と親しくする栄誉を与えてやろうぞ」
「うん♡」

 案外リケイカインはあっさりとマギの言うことをきいた。

「ふふん。あやつは空を飛べる。沖弓退治に徹底的に利用して、あとはポイしてくれるわ」

 マギの最低な策も知らずリケイカインは沖弓めがけて飛んだ。
 そして、すっぽりと、その体内に入り込んだ。

「……」
「……」
「……」

 それっきり音沙汰なし。

「しまった。裏切らせるより先に股間を元に戻せと命じておくべきであった!」

 後悔するマギだったが、もう遅い。
 片目の沖弓は着実に雪玉の製造を進めている。
 発射までは時間の問題。

「戦略的価値があると思っていたが……」
「なかったっすね」

 瀬良寺と神葉は落胆。
 今度の今度こそ希望がついえた。

「そちら、覚えておるか? 余がこの船に乗ろうとした時のことを」

 唐突にマギが尋ねた。

「無賃乗船しようとした時っすよね」
「失望したぞ、あの時は」

 冷めた様子で、神葉と瀬良寺が答えた。

「思い出してほしいのは、そこではないぞ。白鳥を掴んで余をハンマー投げの要領で吹っ飛ばせと提案したであろう?」
「……まさかマギ様……」
「今こそ、この思い付きを実行に移す時ぞ!」

 神葉が躊躇したのは、ほんの一瞬。
 ためらっている暇などなかったからだ。
 白鳥をがしっと握った。

「しかし仮にも公爵様ですよ!?」

 そう言いつつも瀬良寺の手は白鳥を握っていた。

「敵が空を飛ぶなら、こちらとて空を飛ぶまで。見ていろ、余が直々にやつの心臓を貫いてくれようぞ。……うわぁぁああぁぁぁ!!!!」

 建前は切羽詰まった事態であること。
 本音を言えば、この2人にはマギに対する敬意などほぼほぼないこと。
 その結果、重傷を負っているとは思えないほどの腕力をもって、マギを投げ飛ばした。
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