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第一章
7 大切な名前(☆)
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「ごめん、乱暴にして。痛かった?」
「いえ、違う、んです、すみません……」
賢者ベルトランに優しく頭を撫でられても、ヒナリは涙を止めることができなかった。
「この体がまだ私のものとは思えないのに、声も全然私じゃないのに、体が言うことを聞かなくなって、また別の体に移されてしまうみたいに感じて……」
今まさにおこなわれている行為に全くそぐわない、子供のように泣きじゃくる。
「……怖い……!」
止まらない涙を何度も拭う。必死にそうしているうちに、汗で額に張り付いていた髪が熱い手のひらに掻き上げられて、額にそっとキスされた。
ゆっくりと体を起こした賢者ベルトランが、ヒナリの頬に手を添えて親指で涙を払う。
「ヒナリ」
「……」
「返事して、ヒナリ」
「……はい」
「ごめんね。君の心がまだ現状を受け入れられていないのに、世界のためだなんてかこつけて、強引に君を暴いてしまって」
ベルトランは、泣きやまないヒナリの顔を見下ろしながら、聖女という存在に思いを馳せた。
遠い別の世界で終わりを迎えた魂が、女神に導かれてこちらの世界にやってくるのだという。
(死んだ直後に突然『貴女は聖女になりました』なんて言われたら、誰だって困惑するよね)
生まれたときから賢者である自分たちとはまるで事情が違う。
『ごめんなさい』と言いつつ涙が止まらないヒナリを見つめて、ベルトランは心に誓った。
(僕が君を護るから。君の涙、僕が必ず晴らしてみせる)
黙り込んだ賢者ベルトランの反応に、ヒナリは不安を覚えずにはいられなかった。
(ベルトランさん、あきれちゃったかな。もうやめようって言われちゃうかな。聖女失格かな)
そう思えばますます涙が止まらない。
頬に添えられていた手が離れていく。それだけで、弱りきった心は簡単に傷付く。
怖々と涙の向こうを見上げると、賢者ベルトランは少し切なげな、それでいて安心させるような笑みを浮かべていた。
「ねえ、ヒナリ」
「……はい」
「君はヒナリ。そうだろう?」
「……! はい!」
「何度だって、君の名を呼んであげる」
唯一私が私であると確信できる、私の名前――。
「だからヒナリ、何も心配せず、ただ快楽に溺れてみせてごらん」
「はい。ありがとう、ございます、ベルトランさん」
ようやく微笑むことができた瞬間。
唇に指先を押し当てられた。
「ヒナリ。僕のことも呼び捨てにして?」
「はい。ベルトラン……」
「うん」
「ベル……」
「ん?」
「あ、えと、変でしたか……?」
前世で使っていた言語からするとやや名前が長い気がして、勝手に短縮してしまったのだった。
「……いや、そう呼ばれたのは初めてだな」
ベルトランの顔が、驚きから幸せそうな笑みに変わる。
「すいません、勝手な真似を」
「ううん。いいね、君だけに呼んでもらえる呼び名って。これからもそう呼んで欲しいな。僕らの秘密にしよう? 儀式のときだけの、特別な呼び名」
「はい。……ベル」
「うん、ヒナリ」
交わる動きが再開される。
「ベルっ……!」
「うん、ヒナリ。僕はここに居るよ。君の一番そばに」
ふたりの体が絡み合う水音が、次第に大きく激しくなっていく。
慈愛に解きほぐされた体には、受け止めきれないほどに注ぎ込まれる喜悦は劇薬でしかなかった。
「あっ、はあっ、はああっ、ベル、ベル、ベルううっ……!」
「ああヒナリ、もっと、もっと乱れてみせて……!」
一番深くを繰り返し暴かれて、体が欲しがる以上の快感を叩き込まれる。ヒナリはもはや狂い出す以外に何もできなくなった。
「あ、ダメ、ダメなのっ、私、体がっ、おかしくっ……――」
「ああヒナリっ……、僕と、一緒にっ……」
欲望のままにヒナリの体を貪り尽くそうとする、切羽詰まったベルトランの声にさえ高ぶらされる。
「ベル、ベルううっ、あ! あ! あ、……――ひああああ!」
最奥で高ぶりが強く脈動する感覚に全てを奪われる。
頭が真っ白になる中、ベルトランの芯が繰り返し胎内で脈打ち、吐き出される熱だけが確かに感じられたのだった。
ベルトランは肩で息をしながらヒナリの体から慎重に芯を抜き出すと、脱力感に任せて深く項垂れた。溜め息が鼓動に震える。
たった今味わった出来事に、呆然とせずにはいられなかった。
(僕がこんなにセックスに夢中になれるなんて、思いもしなかった)
性行為というものは、自分に対してなりふり構わず関係を迫ってくる女性たちの溜飲を下げさせる手段のひとつであり、それ以外の意味を見出だしたことはなかった。
だからどんなに聖女が美しかろうと、儀式自体は義務感で淡々とこなしていくことになるだろうと思っていたのに――。
力なく横たわるヒナリの、息を荒らげている様子をじっと見つめる。絶頂の余韻に時折立て膝を小さく跳ねさせて、その度に抑えた声を洩らしている。
呼吸する度に上下する大きな胸は桃色の先端が尖ったままで、その光景は射精直後であっても再び欲求を掻き立てられるのに充分扇情的だった。
許されるならまたすぐにでも襲い掛かり、夜通し貪り尽くしてしまいたい――。
(これじゃまるで、セックスを覚えたての若者じゃないか)
今後に思いを馳せればたちまち気が重くなる。
(僕以外の賢者がヒナリを抱く夜、僕は冷静でいられるのかな。まさか女性にこんなにも強い感情を抱くなんて思いもしなかった。この子と肌を合わせている最中の、全てを持って行かれる感覚は少し怖いな)
ヒナリが天蓋から視線を落とすと、ベルトランが深刻な顔をして押し黙っていた。
汗の粒に飾られたベルトランの眉根を寄せた表情が色っぽくて、つい見蕩れてしまう。
とはいえ意味深な顔付きが心配で、ヒナリは力の入らない腕を必死に動かすと、湿ったシーツの上でゆっくりと体を起こした。
「あの、何かまずかったですか?」
「いや……」
「したくもないことを、無理にしていただいてしまってごめんなさい」
途端にベルトランがはっとした表情に変わる。
「そんなわけないだろう!? 君との儀式は素晴らしかった、今までしてきたのは別の何かだったって、そう思ってしまうくらい本当に素晴らしかった……! 比べ物にならないよ」
汗で顔に張り付いた金髪を掻き上げて、うっとりと息を吐き出す。
不満を抱かせてしまったわけではないと分かり、ヒナリはほっと胸を撫で下ろした。
今までしてきたのとは別だと言うなら――。
「そしたら私だけでなくて、あなたも初めてってことになりますね、ベル」
「……! そっか、そうだね。君の言う通りだ」
エメラルドグリーンの瞳の輝きが増す。
「僕の初めてが君で、本当に良かった」
ヒナリが裸のままでいると、ベルトランが自身のシャツをシーツの上から拾い上げてヒナリの肩に掛けてくれた。
その大きさにときめき、袖をつかんで持ち上げた瞬間。
「あっ!」
ベルトランに中出しされたことを思い出した。咄嗟に腹を押さえる。
「避妊、してなかったですよね……?」
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