53 / 102
第三章
53 積極的な王子様
しおりを挟む
(この聖女の顔くらい美人だと、微笑み掛けるだけで誰かが好きになってくれちゃうのか……)
ベルトランに優しくたしなめられたヒナリは、視線を落としつつ思い巡らせた。
今自分が入っている聖女の顔が、恐ろしいほどに整っているのは確かだとは思うものの、この顔を持った上で自覚なく振る舞ってしまっては誤解を生む可能性がある――。言われて初めて、美貌を持ちながら、他者にどう思われるか意識せずに振る舞うなどという、その危うさに気付かされる。
(美人は美人なりに苦労があるってことかな)
それに気付けば、目の前に座る見目麗しい賢者たちもまた、そういった憂き目に遭ったことがあるのかも知れないことに思い至る。
(きっとみんなも、知らないうちに女性たちを惚れさせてしまって苦労したんだろうな。経験者の言うことは、ありがたく聞いておこう)
ヒナリは下ろしていた手を再び頬に押し当てると、賢者の視線が向けられていることも忘れて、目付きを鋭くしたり唇を引き締めたりして厳しい表情を作る練習を繰り返したのだった。
◇◇◆◇◇
ラムラー国の王子との騒動があった、次の日。
使節団はしばらくこの国に滞在するとはいえ神殿は日常に戻り、ヒナリは聖騎士団長のヘルッタを伴って図書館に来ていた。
賢者たちはそれぞれ邸宅内ですることがあるという。
司書官長ワトユス・ムニアクルルが、ソファーに腰掛けたヒナリに駆け寄ってくる。
「聖女ヒナリ様。お探しの本は存在しないようです。お役に立てず申し訳ございません」
と言って深く頭を下げる。
ヒナリは若い司書官長に、『国を出て帰還できなかった探検家に関する何かしらの記録が存在しないか』を尋ねていたのだった。
「わかりました。探してくださりありがとうございます」
「いえ! またいつでもお呼び立てください! それでは失礼致します!」
ワトユスは溌剌と挨拶すると、一目散に去っていき、あっという間に本棚と本棚との間に姿を消した。
(ないものは仕方ないか。この国で生まれ育った人なんだから、旅に出る前の記録ならあるかもって期待しちゃったけど)
そこはかとなく、探検家という人たちの存在が抹消されたかのような、不穏な感覚を覚える。
(まさか女神様はそこまで徹底してるのかな。してそうな気がする)
これ以上探検家に興味を持ち続けるのは罰当たりな気がしたので、ヒナリは未開の地について考えるのをやめた。
頭を切り替えて、手元に持ってきた他国の――たったふたつの小国について書かれた書物を読み始める。
ラムラー国は、魔鉱石の代わりに【魔鉱液】というものが魔鉱泉から産出するらしい。黒く粘性のある液体と書かれている。
(魔鉱液って石油みたい)
用途はそのまま燃やしたり、固めて金属にしたり魔力石塊にしたりと、魔鉱石と同じ性質で、固形であるか液体であるかの違いしかないらしい。
(やっぱり石油じゃないかも)
前世の石油は燃やしはするものの、固めて利用するというのは聞いたことがなかった。
ページをめくっていくと、ラムラー国の風景の挿し絵が現れた。
(わ、素敵)
美しいオアシスの畔に、青々と繁ったヤシの木らしき樹木。低い建物が立ち並ぶ向こうには、広大な砂丘が広がっている。
(『行ってみたい』なんて言ったら、あの王子様が喜びそうだな……。こういうことを思わないようにしておこう)
と心の中で独り言をこぼした瞬間。
「おや、聖女ヒナリ様。我が国に興味をお持ちいただけているのですね」
ソファーの傍に立つヘルッタの気配が険しくなる。
ヒナリが顔を上げると、ラムラー国第一王子・カースィム・ラムラーが立っていた。昨日ヒナリが求婚を断った際に壇下から王子に呼び掛けていた従者も付き従っている。
御礼の儀のときとは違う装束をまとった王子は、より肌の露出が増えていて、特に逞しい胸元があらわになっていた。つい見てしまったそこからヒナリは慌てて目を逸らした。
すぐに視線を戻して、軽く会釈してみせる。
「ごきげんよう、カースィム殿下」
「ごきげん麗しゅう、聖女ヒナリ様。ご挨拶が遅れたことをお詫び致します」
「いえ、お気になさらず」
昨日賢者たちに言い聞かされた『簡単に笑顔を見せるな』という主旨の注意事項を思い出せば、どういう表情をしたら良いかが分からずヒナリはすぐに顔を逸らしてしまった。
「聖女ヒナリ様。こちらに座らせていただいてもよろしいでしょうか」
うつむくヒナリの視界に手が差し出される。ソファーのひとり分を空けた隣に座りたいらしい。
(国賓なんだから、あんまり邪険にしちゃいけないよね)
そう思い付いたヒナリは顔を上げると、結局王子に向かって微笑んでしまったのだった。
「ええ、どうぞ」
ヒナリが許可するやいなや、王子が颯爽とした身のこなしでソファーに腰を下ろす。その瞬間、エキゾチックな香りがふわりと漂ってきた。
(色気がすごすぎるよ~)
咄嗟に本で口元を覆う。しかし、抵抗虚しく甘い香りは容赦なくヒナリの鼻腔をくすぐるのだった。
四人の賢者が、図書館の二階からヒナリと王子を見下ろしていた。
カースィム王子が神殿を訪れたとの報告が入り、目的を察して様子を見に来たら案の定、といったところである。
ダリオが手すりに肘を置いて頬杖を突き、ヒナリの一挙手一投足を堂々と眺める。
「ヒナリって意外と気が多い? 昨日注意したのにまた笑顔を見せちゃってる」
「いや、心優しいヒナリのことだ。国賓だから冷遇できないと判断したのだろう」
アルトゥールが落ち着いた口調で断言する。しかしその表情には、やきもきとした気持ちがありありと表れていた。
世界最強の騎士らしくない面持ちを見て、ベルトランが苦笑する。
「アルトゥール、そういう顔やめなよ。ヒナリを信じていないの?」
「もちろん信じている。信じてはいる、が……。つい、美しいヒナリとあの見目麗しい王子がお似合いだと思ってしまうのだ」
「聞き捨てなりませんね。ヒナリは誰にも渡しませんよ」
クレイグが不快感をあらわにアルトゥールを睨み付ける。
「それはもちろんだ。ヒナリは決して誰にも渡しはしない」
アルトゥールの眼差しに熱情が戻ってくる。
その凛々しい顔付きを見て、ベルトランが顔を綻ばせた。
「そうそう、その意気だよ。もし彼がヒナリを強引に連れ去ろうものなら君が真っ先に出ていってくれないと。ヒナリを奪い返すためにね」
「それは腕が鳴るな。ラムラー国独自の剣技には興味があったのだ」
アルトゥールは意気込んだ表情に変わると、拳を手のひらで覆い、指を鳴らしたのだった。
賓客を差し置いて読書を再開してよいものか、はたまたいつまでもじっと見つめてくる王子と会話を始めた方がいいのか――判断が付かなかったヒナリは、結局本を閉じて王子に話し掛けてしまった。
「殿下はこちらに御本を読みにいらっしゃったのですよね?」
「ええ、まあ」
曖昧な返事と共にヒナリから視線を外し、ぐるりと辺りを見回す。
王子は二階の方を目だけで見上げて口元を微笑ませると、すぐにまたヒナリを見つめ始めた。
「確かに神殿の蔵書には大いに興味がありますが。正直に申しますと、どうしても、帰国する前に、もう一度貴女にお会いしたかったのです」
「随分正直でいらっしゃいますのね」
「はい。貴女には、真っ向勝負を挑ませていただこうと思いまして」
(勝負? 何の?)
まさか喧嘩でもする気なのかなとヒナリが身構えようとした矢先、銀色の双眸がヒナリを捉えた。光を透かした雲のような虹彩の輝きに、簡単に目を奪われてしまう。
「聖女ヒナリ様。昨日の私の求婚について、ご再考願えませんか」
「それについては既に答えした通りです」
「つれないお方だ」
王子がふたりの間に手を置いて顔を近付けてくる。距離を詰められれば甘い香りがますます強くなる。
「私ごときでは、麗しき賢者様がたには敵いませんか」
「え? 賢者、ですか?」
なぜ急に賢者の話を出すのかとヒナリが目をまばたかせていると、顔を綻ばせた王子がゆっくりと離れていった。
厚い胸板に手を当てて、溜め息をつく。
「あと数日で貴女様のおられるこの国から発たねばならぬと思うと、胸が張り裂けそうなのです。今まで生きてきて、数多のご令嬢の心を奪えど奪われた経験はなく……」
(急にモテ自慢? でも実際すごくモテるんだろうなあ)
「……このような気持ちを抱くのは生まれて初めてです。この世のものとは思えぬ麗しさの貴女様が私に微笑み掛けてくれた瞬間の、あの胸の高鳴りは一生忘れられません。誰かを想うとはこんなにも苦しいものなのですね。これが恋に落ちるということなのでしょうか」
眉根を寄せた切なげな面持ちに変われば、細められた瞳の輝きが強調される。
その虹彩の美しさと、色気を具現化したかのような香りに冷静さが奪われていく。
ヒナリがうまいあしらい方を思い付けずにいると、王子がさらに畳み掛けてきた。
「歴代の聖女様は代々賢者様がたとしか婚姻を結んだことがないと、昨夜の歓迎会で伺いました。聖女様という存在は、慣習にならって賢者様がたとご結婚されるのでしょうか? 国のために身を尽くした聖女様には、自由が与えられて然るべきと存じますが。貴女様はいかがお考えですか?」
その言葉にヒナリははっとすると、居住まいを正した。表情を引き締めて王子を見据える。
「歴代の聖女様がたは、慣習に則って結ばれた訳ではありません」
過去の聖女の記録はざっとしか読んではいないが、どの聖女も賢者たちに深い愛情を抱いていた。
「共に手を取り合い世界を救うために力を尽くしたからこそ、互いに惹かれ合ったのだと思います」
目映い眼差しに怯まぬよう、膝に置いた手に力を込める。
「私は若輩者ですから完全浄化のあとの人生を思い巡らす余裕はございませんが、昨日も申し上げました通り、少なくともこの国を離れるつもりは……」
「ああ、貴女はそのような美しさと凛々しさで、ますます私を魅了するのですね……!」
(してない! してないよ! 早く諦めて~!)
ベルトランに優しくたしなめられたヒナリは、視線を落としつつ思い巡らせた。
今自分が入っている聖女の顔が、恐ろしいほどに整っているのは確かだとは思うものの、この顔を持った上で自覚なく振る舞ってしまっては誤解を生む可能性がある――。言われて初めて、美貌を持ちながら、他者にどう思われるか意識せずに振る舞うなどという、その危うさに気付かされる。
(美人は美人なりに苦労があるってことかな)
それに気付けば、目の前に座る見目麗しい賢者たちもまた、そういった憂き目に遭ったことがあるのかも知れないことに思い至る。
(きっとみんなも、知らないうちに女性たちを惚れさせてしまって苦労したんだろうな。経験者の言うことは、ありがたく聞いておこう)
ヒナリは下ろしていた手を再び頬に押し当てると、賢者の視線が向けられていることも忘れて、目付きを鋭くしたり唇を引き締めたりして厳しい表情を作る練習を繰り返したのだった。
◇◇◆◇◇
ラムラー国の王子との騒動があった、次の日。
使節団はしばらくこの国に滞在するとはいえ神殿は日常に戻り、ヒナリは聖騎士団長のヘルッタを伴って図書館に来ていた。
賢者たちはそれぞれ邸宅内ですることがあるという。
司書官長ワトユス・ムニアクルルが、ソファーに腰掛けたヒナリに駆け寄ってくる。
「聖女ヒナリ様。お探しの本は存在しないようです。お役に立てず申し訳ございません」
と言って深く頭を下げる。
ヒナリは若い司書官長に、『国を出て帰還できなかった探検家に関する何かしらの記録が存在しないか』を尋ねていたのだった。
「わかりました。探してくださりありがとうございます」
「いえ! またいつでもお呼び立てください! それでは失礼致します!」
ワトユスは溌剌と挨拶すると、一目散に去っていき、あっという間に本棚と本棚との間に姿を消した。
(ないものは仕方ないか。この国で生まれ育った人なんだから、旅に出る前の記録ならあるかもって期待しちゃったけど)
そこはかとなく、探検家という人たちの存在が抹消されたかのような、不穏な感覚を覚える。
(まさか女神様はそこまで徹底してるのかな。してそうな気がする)
これ以上探検家に興味を持ち続けるのは罰当たりな気がしたので、ヒナリは未開の地について考えるのをやめた。
頭を切り替えて、手元に持ってきた他国の――たったふたつの小国について書かれた書物を読み始める。
ラムラー国は、魔鉱石の代わりに【魔鉱液】というものが魔鉱泉から産出するらしい。黒く粘性のある液体と書かれている。
(魔鉱液って石油みたい)
用途はそのまま燃やしたり、固めて金属にしたり魔力石塊にしたりと、魔鉱石と同じ性質で、固形であるか液体であるかの違いしかないらしい。
(やっぱり石油じゃないかも)
前世の石油は燃やしはするものの、固めて利用するというのは聞いたことがなかった。
ページをめくっていくと、ラムラー国の風景の挿し絵が現れた。
(わ、素敵)
美しいオアシスの畔に、青々と繁ったヤシの木らしき樹木。低い建物が立ち並ぶ向こうには、広大な砂丘が広がっている。
(『行ってみたい』なんて言ったら、あの王子様が喜びそうだな……。こういうことを思わないようにしておこう)
と心の中で独り言をこぼした瞬間。
「おや、聖女ヒナリ様。我が国に興味をお持ちいただけているのですね」
ソファーの傍に立つヘルッタの気配が険しくなる。
ヒナリが顔を上げると、ラムラー国第一王子・カースィム・ラムラーが立っていた。昨日ヒナリが求婚を断った際に壇下から王子に呼び掛けていた従者も付き従っている。
御礼の儀のときとは違う装束をまとった王子は、より肌の露出が増えていて、特に逞しい胸元があらわになっていた。つい見てしまったそこからヒナリは慌てて目を逸らした。
すぐに視線を戻して、軽く会釈してみせる。
「ごきげんよう、カースィム殿下」
「ごきげん麗しゅう、聖女ヒナリ様。ご挨拶が遅れたことをお詫び致します」
「いえ、お気になさらず」
昨日賢者たちに言い聞かされた『簡単に笑顔を見せるな』という主旨の注意事項を思い出せば、どういう表情をしたら良いかが分からずヒナリはすぐに顔を逸らしてしまった。
「聖女ヒナリ様。こちらに座らせていただいてもよろしいでしょうか」
うつむくヒナリの視界に手が差し出される。ソファーのひとり分を空けた隣に座りたいらしい。
(国賓なんだから、あんまり邪険にしちゃいけないよね)
そう思い付いたヒナリは顔を上げると、結局王子に向かって微笑んでしまったのだった。
「ええ、どうぞ」
ヒナリが許可するやいなや、王子が颯爽とした身のこなしでソファーに腰を下ろす。その瞬間、エキゾチックな香りがふわりと漂ってきた。
(色気がすごすぎるよ~)
咄嗟に本で口元を覆う。しかし、抵抗虚しく甘い香りは容赦なくヒナリの鼻腔をくすぐるのだった。
四人の賢者が、図書館の二階からヒナリと王子を見下ろしていた。
カースィム王子が神殿を訪れたとの報告が入り、目的を察して様子を見に来たら案の定、といったところである。
ダリオが手すりに肘を置いて頬杖を突き、ヒナリの一挙手一投足を堂々と眺める。
「ヒナリって意外と気が多い? 昨日注意したのにまた笑顔を見せちゃってる」
「いや、心優しいヒナリのことだ。国賓だから冷遇できないと判断したのだろう」
アルトゥールが落ち着いた口調で断言する。しかしその表情には、やきもきとした気持ちがありありと表れていた。
世界最強の騎士らしくない面持ちを見て、ベルトランが苦笑する。
「アルトゥール、そういう顔やめなよ。ヒナリを信じていないの?」
「もちろん信じている。信じてはいる、が……。つい、美しいヒナリとあの見目麗しい王子がお似合いだと思ってしまうのだ」
「聞き捨てなりませんね。ヒナリは誰にも渡しませんよ」
クレイグが不快感をあらわにアルトゥールを睨み付ける。
「それはもちろんだ。ヒナリは決して誰にも渡しはしない」
アルトゥールの眼差しに熱情が戻ってくる。
その凛々しい顔付きを見て、ベルトランが顔を綻ばせた。
「そうそう、その意気だよ。もし彼がヒナリを強引に連れ去ろうものなら君が真っ先に出ていってくれないと。ヒナリを奪い返すためにね」
「それは腕が鳴るな。ラムラー国独自の剣技には興味があったのだ」
アルトゥールは意気込んだ表情に変わると、拳を手のひらで覆い、指を鳴らしたのだった。
賓客を差し置いて読書を再開してよいものか、はたまたいつまでもじっと見つめてくる王子と会話を始めた方がいいのか――判断が付かなかったヒナリは、結局本を閉じて王子に話し掛けてしまった。
「殿下はこちらに御本を読みにいらっしゃったのですよね?」
「ええ、まあ」
曖昧な返事と共にヒナリから視線を外し、ぐるりと辺りを見回す。
王子は二階の方を目だけで見上げて口元を微笑ませると、すぐにまたヒナリを見つめ始めた。
「確かに神殿の蔵書には大いに興味がありますが。正直に申しますと、どうしても、帰国する前に、もう一度貴女にお会いしたかったのです」
「随分正直でいらっしゃいますのね」
「はい。貴女には、真っ向勝負を挑ませていただこうと思いまして」
(勝負? 何の?)
まさか喧嘩でもする気なのかなとヒナリが身構えようとした矢先、銀色の双眸がヒナリを捉えた。光を透かした雲のような虹彩の輝きに、簡単に目を奪われてしまう。
「聖女ヒナリ様。昨日の私の求婚について、ご再考願えませんか」
「それについては既に答えした通りです」
「つれないお方だ」
王子がふたりの間に手を置いて顔を近付けてくる。距離を詰められれば甘い香りがますます強くなる。
「私ごときでは、麗しき賢者様がたには敵いませんか」
「え? 賢者、ですか?」
なぜ急に賢者の話を出すのかとヒナリが目をまばたかせていると、顔を綻ばせた王子がゆっくりと離れていった。
厚い胸板に手を当てて、溜め息をつく。
「あと数日で貴女様のおられるこの国から発たねばならぬと思うと、胸が張り裂けそうなのです。今まで生きてきて、数多のご令嬢の心を奪えど奪われた経験はなく……」
(急にモテ自慢? でも実際すごくモテるんだろうなあ)
「……このような気持ちを抱くのは生まれて初めてです。この世のものとは思えぬ麗しさの貴女様が私に微笑み掛けてくれた瞬間の、あの胸の高鳴りは一生忘れられません。誰かを想うとはこんなにも苦しいものなのですね。これが恋に落ちるということなのでしょうか」
眉根を寄せた切なげな面持ちに変われば、細められた瞳の輝きが強調される。
その虹彩の美しさと、色気を具現化したかのような香りに冷静さが奪われていく。
ヒナリがうまいあしらい方を思い付けずにいると、王子がさらに畳み掛けてきた。
「歴代の聖女様は代々賢者様がたとしか婚姻を結んだことがないと、昨夜の歓迎会で伺いました。聖女様という存在は、慣習にならって賢者様がたとご結婚されるのでしょうか? 国のために身を尽くした聖女様には、自由が与えられて然るべきと存じますが。貴女様はいかがお考えですか?」
その言葉にヒナリははっとすると、居住まいを正した。表情を引き締めて王子を見据える。
「歴代の聖女様がたは、慣習に則って結ばれた訳ではありません」
過去の聖女の記録はざっとしか読んではいないが、どの聖女も賢者たちに深い愛情を抱いていた。
「共に手を取り合い世界を救うために力を尽くしたからこそ、互いに惹かれ合ったのだと思います」
目映い眼差しに怯まぬよう、膝に置いた手に力を込める。
「私は若輩者ですから完全浄化のあとの人生を思い巡らす余裕はございませんが、昨日も申し上げました通り、少なくともこの国を離れるつもりは……」
「ああ、貴女はそのような美しさと凛々しさで、ますます私を魅了するのですね……!」
(してない! してないよ! 早く諦めて~!)
7
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる