【完結】私は生きていてもいいのかしら? ~三姉妹の中で唯一クズだった私~【R18】

紺青

文字の大きさ
33 / 46
2 夫と再会した後の私のそれから

19 二度目の結婚式

しおりを挟む
 小さな教会で、やわらかい笑みを浮かべる神父を前にして愛を誓うクリストファーを横目で見る。クリストファーがこの村に来る時は、少しでも時間を短縮するため馬を自ら駆ってきたので、乗馬服だった。クリストファーが正装しているのを見るのは、前回の結婚式以来かもしれない。公爵家のあれこれを片付けてこの村にクリストファーが来てから3か月くらい経った。くたびれて暗い影のあった顔は、すっきりしていて、表情も柔らかい。再会したときのような暗さも重さもない。アイリーンと同様に簡素な白の衣装だが、精悍で凛としたクリストファーに白が映えている。

 「なんだ、私に見惚れているのか?」
 「うん」
 「やけに今日は素直だな。私のアイリーンも綺麗で可愛いよ。後で婚礼の衣装のまま抱くから」
 隙あらばクリストファーを見つめるアイリーンに気づいたクリストファーが小声で話しかけてくる。せっかく皆が用意してくれたから汚しちゃいけないと思うのに、婚礼の衣装を乱して抱き合う自分達を想像して、頬が赤らむ。クリストファーがぴしっと着ているシャツを乱している姿はとても色っぽいだろう。
 「ダメって言わないんだな。想像しちゃった? アイリーン、そんな可愛い顔をしてると、今すぐに食べたくなる」
 クリストファーを惚けたように見ていると、神父の咳払いが聞こえる。アイリーンの番になり、慌てて、誓いの言葉を述べる。アイリーンはクリストファーのものだった。これからは、クリストファーもアイリーンのものだ。もう誰かと彼を分かち合わなくてもいい。その事実が染みてきて、少し涙ぐむ。クリストファーがそっと、アイリーンの指先を握った。アイリーンがクリストファーを想う気持ちを素直に現せるのはクリストファーが眠っている時と体を繋げている時だけだった。これからはいつだって、堂々とその気持ちを告げていいのだ。

 アイリーンとクリストファーが誓いを終えて、皆の前に立つと、祝福の歌が響いた。参列している村人達が聖歌隊に所属している人もそうでない人も子どもも大人も皆、歌っている。アイリーンの瞳から涙が零れた。アイリーンとクリストファーは村人達の祝福の歌に包まれて新しい一歩を踏み出した。

◇◇

 簡素な式を上げた後、公爵家の別宅の庭でお披露目のパーティーが行われた。庭の片隅ではダンがいつものように設置されたコンロでせっせと野菜や肉や魚を焼いている。その様子に興味津々な子ども達が行列をなしている。別宅の使用人だけでは手が足りなかったので、村人達も協力してくれて、テーブルにはさまざまなお祝いの料理やお菓子が並んでいて、なかなか盛況だ。

 「ふふっ、本当にお祭りみたいね」
 「楽しそうだね、アイリーン」
 「うん、とっても」
 皆が良く見えるベンチでクリストファーと二人、寄り添って、食べたり飲んだりして楽しんでいる村人達を見守る。

 「未だに信じられないわ……」
 いつもはあまり表情を変えない村人達の楽しそうな様子を眺めて呟く。アイリーンの隔離されていたこの村はレッドフォード公爵家の暗部の人材を育て、仕事をしていない時に暮らしている村らしい。どうりで小さな村だけど、静かで淡々としていて統率がとれているわけだ。アイリーンやクリストファーが問題のある行動をしても、下世話な噂が流れる事もないし、対応が変わらないのはそのせいだったのだ。だから、死んだことになっているアイリーンとクリストファーの身の安全や、秘密は保持されるらしい。文句のつけようのない待遇に公爵家の力と財力に感謝した。アイリーンとクリストファーは、この村の教会や孤児院の運営や仕事を今は任されている。結局、アイリーンの生活は前とさほど変わらない。クリストファーが隣にいてくれること以外は。

 「アイリーン、結婚おめでとう」
 子どもの声がして、そちらを見るとにこにこと笑顔を浮かべたヨランダがいる。
 「ありがとう、ヨランダ」
 村の子ども達は祝福の歌を歌った後に教会から出て来たアイリーンとクリストファーに一番にお祝いの言葉を贈ってくれた。今、子ども達はダンの焼く肉や魚や、テーブルに並んだお祝い用の料理やお菓子に夢中になっている。孤児院の子ども達の中でアイリーンに一番懐いているヨランダはわざわざ、もう一度アイリーンにお祝いの言葉を言いにきてくれたのだろう。その気持ちがうれしくて、アイリーンは思わずヨランダを抱きしめた。
 「ふふ、アイリーン、今日も綺麗だね。お花みたいないい匂いもする!」
 アイリーンの腕の中でヨランダはくすぐったそうに身をよじった。
 「あのね、アイリーン、私決めたの」
 ヨランダの真剣な声の調子に、アイリーンはヨランダを解放して、その顔を見つめる。
 「なにを?」
 「私もアイリーンのおつきの人になる!」
 「え?」
 てっきり、アイリーンの花嫁姿に感化されて、将来お嫁さんになる!という言葉が続くと思ったアイリーンは驚いた。
 「アンやタニアみたいに、アイリーンを守る一翼になるんだー」
 まるで、お花屋さんになるんだーみたいな調子で将来の夢を語っているが、なにかがおかしい。十歳児が御付きの人とか一翼という言葉を知っているものだろうか? 確かに暗部の人達が暮らす村だけど、小さな子ども達にもそんな教育をしているんだろうか? 
 「成人するまでは暗部の教育はしない。将来色々な選択肢がとれるように身体的なものも含めて、かなり鍛えてはいるけど」
 困ったようにクリストファーを見ると、首を横に振って補足してくれる。
 「えーと……、ヨランダ。気持ちはうれしいわ。でも、御付きの人にならなくても、私とヨランダはずっと友達だし、今自分の将来を決めなくてもいいんだよ。世界は広いし、ヨランダは自由なんだよ。仕事だってたくさんある」
 「ねぇ、アイリーン、気づいてる? アイリーンの周りの人のこと」
 「周りの人……?」
 アイリーンの月並みな言葉にも、動じずヨランダはにこにこして続ける。
 「アイリーンが来てから、みんな変わったんだよ。アンさんは仕事はできるのにいつも退屈そうだった。でも、アイリーン付きになってから、生き生きして楽しそう。ダンさんは変わらないけど、タニアさんはいつも厳しくて話しかけづらい雰囲気がずいぶん和らいだ。それを見るダンさんもうれしそう。クリストファーだって、怖くてくたびれてたのに、なんか若返ってキラキラしてきたし」
 村人達は子ども達も含めて、以前はクリストファーをご当主様と呼んでいたが、この村に来てからクリストファーと呼ぶように通達している。
 「きっと、アイリーンといると世界が豊かに見えるんだよ。だから、私もアイリーンの傍にいさせてよ」
 それは、どんな祝福の言葉よりアイリーンに響いた。返事もできずに涙ぐむアイリーンと「約束だよ」と言って握手をするとヨランダは子ども達の方へ駆けていった。

 「私は、アイリーンが私自身に興味がないのを知っていたよ」
 「え?」
 「あの頃のアイリーンの目は、私を見ていなかったよね。他の私に群がってくる女達はなんらかを私に求めていた。それは、容姿だったり、権力だったり、お金だったり、様々だけどなんらかの欲を持って私を見ていた。でも、アイリーンは私になにも求めていなかったよね」
 「……うん。ごめんなさい。クリストファーはただ私を輝かせてくれる存在ってかんじだったの」
 「それでもよかったんだ。君の美しい外見や柔らかい雰囲気が好きだった。確かに内面は傲慢で高慢ちきだったのかもしれないけど。いつも君はご機嫌で楽しそうだった。ただ、隣でそれを見ているだけで満たされたんだ」
 「……あの頃のクリストファーって、公爵家のことと、勉強や鍛錬や自分を常に高みに押し上げることに努力を惜しまなくて、孤高で。一体、なにが楽しいのかしらって思っていたわ。なにを励みにして生きているんだろうって」
 「私の心の中には幼い頃からずっとアイリーンがいたよ。初めて見た日から。外側しか見ていなかったのかもしれない。それでも、君は私のよすがだったんだ。ずっと。本当は私がどこかで君を手放していれば、君はそのままで幸せになれたのかもしれない。でも、ずっと君だけは手放すことができなかったんだ」
 「仕方ないわよ、それだけ私が魅力的なんだから」
 「今は生意気で可愛げがなくて素直じゃなくて、意外と手先が不器用なところも好きだ」
 「それ、褒めてるの……?」
 「ははっ。褒めてる褒めてる。今のありのままのアイリーンを愛してるよ。今までも、これからもずっとアイリーンが好きだ。幼い日の自分は間違ってなかった。ヨランダの言う通りだ。私もアイリーンといるとこの世界もそんなに悪くないと思える」
 クリストファーの告白にアイリーンはたまらなくなって、抱き着く。クリストファーも強く抱きしめ返してくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの姿をもう追う事はありません

彩華(あやはな)
恋愛
幼馴染で二つ年上のカイルと婚約していたわたしは、彼のために頑張っていた。 王立学園に先に入ってカイルは最初は手紙をくれていたのに、次第に少なくなっていった。二年になってからはまったくこなくなる。でも、信じていた。だから、わたしはわたしなりに頑張っていた。  なのに、彼は恋人を作っていた。わたしは婚約を解消したがらない悪役令嬢?どう言うこと?  わたしはカイルの姿を見て追っていく。  ずっと、ずっと・・・。  でも、もういいのかもしれない。

もう我慢したくないので自由に生きます~一夫多妻の救済策~

岡暁舟
恋愛
第一王子ヘンデルの妻の一人である、かつての侯爵令嬢マリアは、自分がもはや好かれていないことを悟った。 「これからは自由に生きます」 そう言い張るマリアに対して、ヘンデルは、 「勝手にしろ」 と突き放した。

幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ

猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。 そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。 たった一つボタンを掛け違えてしまったために、 最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。 主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?

婚約破棄イベントが壊れた!

秋月一花
恋愛
 学園の卒業パーティー。たった一人で姿を現した私、カリスタ。会場内はざわつき、私へと一斉に視線が集まる。  ――卒業パーティーで、私は婚約破棄を宣言される。長かった。とっても長かった。ヒロイン、頑張って王子様と一緒に国を持ち上げてね!  ……って思ったら、これ私の知っている婚約破棄イベントじゃない! 「カリスタ、どうして先に行ってしまったんだい?」  おかしい、おかしい。絶対におかしい!  国外追放されて平民として生きるつもりだったのに! このままだと私が王妃になってしまう! どうしてそうなった、ヒロイン王太子狙いだったじゃん! 2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

五人姉妹の上から四番目でいつも空気だった私は少々出遅れていましたが……? ~ハッピーエンドへ走りたい~

四季
恋愛
五人姉妹の上から四番目でいつも空気だった私は少々出遅れていましたが……?

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

処理中です...