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第7話 出発

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「早く来いって!!」
「お前…早すぎだろ…」
「こちとら伊達に毎朝走り込んでねえっての!!バテてる暇はねえよ!!」
時間は朝の9時。昨日の神王からの手紙を見た俺とキラは朝早くから準備を済ませ、パレド海港へと向かっていた

「というか…そもそも近くのバスか車で行けばいいのでは…」
「バカヤロウ!!そんなんじゃフィストスコーレじゃ生きて行けねえよ!!甘えたこと言ってんじゃねえ!!」
「昔の学校教師か貴様!!」
既にバテているキラを急かすように先に進んでいくと、目的のパレド海港が見えてきた

「よし…着いた!」
「やっとか…疲れた…」
青い海、海鮮系の飲み屋や魚屋が広がる中に海に浮かぶ多くの漁船。たまにここから他国行きの船が出たりもする
「で、その学校に行く船はどこにあるんだ?」
「確かノボリか何かが出てたような…もしかしてアレか?」
辺りを見渡すと豪華客船のような大きな白い船があり、その前に30半ばくらいの男が大きな旗を持って立っていた
「ノボリっていうより…」
「漁船に着いてる大漁旗みてぇだな」
「いやアレ大漁旗だよね。よく見たら魚の絵が透けて見えてるよ」
「細かいことは良いんだよ。さっさと行くぞ」
キラとともに大漁旗…もといノボリの側まで歩いて行き、ノボリを持つ男に声をかけた

「おっちゃん。これフィストスコーレ行きの船?」
「悪いな坊主…こう見えて俺はまだ31だ…せめてお兄さんと呼んでくれねえか…」
「俺ら10代からしたら30代はもうおっさんだぜ」
「現実ってあまりにも残酷だなぁ…俺涙出てきたよ…」
「やめろバカ…すみません連れが失礼な事を…これはフィストスコーレ行きの船ですか?」
「おうすまねぇ。ああこの船がフィストスコーレに行く船。エクスカリバー号だ」
大層な名前がつけられたこの船は本当に豪華客船のようで、普段は旅行などに使われるのを今回だけ神王の指示でフィストスコーレ勧誘入学者のお迎え用の船として使われてるようだ

「デケェなぁ…うちでもこんな大きい船はねぇぞ」
「本当…一生に1度乗れるかだな…」
「お前らその様子だと、神王様から手紙をもらって来た勧誘入学者だな」
おっちゃんが俺らに声をかける。どうやら他にも何人か俺らの前に来ているようだ
「悪い自己紹介がまだだったな。今回この勧誘入学者の管理を任されているリオ・アルマーナだ。普段はフィストスコーレで剣術科の担当教諭をしている」
「俺はアル・アリシア。プロレス専門で得意技はアルゼンチン・バックブリーカーだ」
「俺はキラ・アンダルシア。一応剣を扱うので、剣術科希望です」
「キラにアルか。お前ら面白いな!気に入った!」
どこでどう気にいられたのかは不明だが、一応第一印象は良かったみたいだ

「そうだ。一応封筒ごと持ってきたんだけど」
俺とキラはリオのおっちゃんに神王からの封筒を渡す
「おっじゃあ確認するぜ………よし手紙と勧誘書だな。2人とも大丈夫だ」
「手紙と一緒に入ってたのは勧誘書だったんだな」
「神王様が誘った人間の本人確認のために、俺たち教師陣の持つ解除魔法で反応するように神王様自ら封鎖魔法をかけたんだ」
「そういう仕掛けなのか」
こう見ると魔法とは便利だなと感じる

「ところでお前ら。入学おめでとうと言いたいところだが、気をつけろよ」
おっちゃんが船に向かう俺たちを引き止め警告する
「気をつける?」
「今回の勧誘入学者にはかつての大戦の英雄の子供や王族に仕えるアサシン部隊の奴だったりと経歴も強さもやべえ奴らが居る。それにこの船はお迎えの船でもあるが、実際はフィストスコーレに入学するにふさわしいかを決める試験の場ともなっている」
初耳である。手紙にはそんな内容書かれてもいなかったが、強いやつがわんさか居るのなら心が踊る
「学校に着くまでの約4日間。色々と慌ただしくなるかもな。まあお前らなら大丈夫か!」
おっちゃんが笑いながら俺たちを船の中へ送ったが、中ではもう4.50人ほどの人達が待機していた

「すげえ人数だな」
「試験って言ってたけど、これじゃあ試験というよりサバイバルだよ」
キラと辺りを見渡していると、フードを被った2人組が声をかけてきた
「ねぇねぇ。もしかして君たちも勧誘入学者?」
「そうだけど。てかここにいる時点でそうなんじゃねえかな」
「それもそっか。へへ」
どうやら女の子のようだ。明るく元気な声に赤髪のショートカットが炎を感じさせるほど綺麗な色をしている
「ごめんねいきなり。私ロス・ベルナ。銃術を専門にしてる。気軽にロスって呼んで。こっちは…ほら自己紹介」
もう1人のフードも女の子のようだ。ロスと比べると大人しい雰囲気を感じる
「あっあの…私…は…」
「ほら紹介の時くらいシャキッとする!」
「私は…クラリス・ワードック…クラリスって…呼ばれてます…専門は…魔法…です」
黒い髪にメガネ。どこかふわっとした女の子らしい声の子だ
「俺はアル・アリシア。プロレス専門だ」
「キラ・アンダルシア。剣術専門。よろしくね。しかしベルナ家とワードック家のご令嬢も居るとは」
「知ってるのか?」
「有名な王族だよ。よく街の号外でも名前を見かける」
「お前は号外まで読むのか。すげえな」
「今後の交流のために、色々な王族家系は知っておくべきだ」
「あはは。私達そんなに大層なもんじゃないけどね」
ロスが照れる後ろで顔を赤くしながらクラリスもコクコクと頷いている

そんな会話をしながら待っていると、1人の男とリオのおっちゃんが入ってきた
「よし。これで希望者全員揃ったな。船が出発する前に、各自にこのタッチスクリーンを渡しておく。端末の中には入学許可証と電話、メール機能や生徒手帳も入っているから友達作りや学校の資料としても役立ててくれ。基本的に船内での集合場所や我々教師の指示はこの端末のメール機能から送られるため、必ず目を通してくれ」
この船の中で何が起こるのか。今からワクワクしてきた

「絶対生き残ってみせるさ。何が来てもな」
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