ヒロインが訳ありヒロインになってしまったので全力で助けます!

東雲 タケル

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第7話:放課後の教室1

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放課後の教室。
衣装づくりを始めて、もう二週間が過ぎていた。
雛森と作業するのにも慣れてきて、今ではお互い空気のような感覚で、縫製を進められるようになった。
ゴールデンウィーク中は、布の裁断と縫製を家で進める約束をしていた。
机の上には、それぞれが仕上げた表地と裏地のドレスが並んでいる。

「縫い目もきれいだし、完璧だね」
「休み中に頑張ってよかったよ」

連休中は、ずっとドレスと向き合っていた。
ゆっくりできなかったから、正直休んだ感じがしない。
でもこの出来栄えを見れば、それも悪くないと思った。

「続き、始めようよ」
気のせいか、雛森の声が少し高く聞こえた。
表情は真顔のままだけど、言葉には仕上がりへの満足感がにじんでいた。
そういえば、同じクラスになって一度も彼女の笑顔を見たことがない。
多分、人と壁を作ってるんだろう。
笑顔=隙を見せること、のような感覚なのかもしれない。

今日の作業は、表地と裏地の合体だ。
俺がまち針で仮止めして、雛森が手縫いで仕上げていく。
同時作業もできなくはないが、ズレが怖いので交代で進めることにしている。
二十分ほど経ったころ、雛森が手を止めて、ふとこちらを見た。

「ねぇ……手伝ってくれるのはありがたいけど」
「無理しなくていいんだよ。中間テストも近いしさ」

何かと思えば、そんなことだったのか。
てっきり、「完成しそうだからもう用済み」なんて言われるのかと一瞬身構えてしまった。

「ああ、大丈夫だよ。普段から勉強はやってるし」
「あとは、課題解説の依頼が殺到しないことを祈ってるけど……」
「瀬川君って、意外と頭いいんだね」
素直に褒められたと受け取っておこう。
「変な質問していい?」
「なんで、そこまで成績上位を目指そうとするの?」
「……ああ、俺、奨学金生なんだよね」
「へー、すごー」
「でもさ。そんなに成績いいなら、もっと上の学校目指さなかったの?」
「えっと……いろいろと事情があって」
一瞬、答えるのに迷った。
入試に落ちたことを後悔しているのではなく、嘘みたいな理由で落ちたからだ。
「まぁ、話してもいいか」
「道端で倒れてる人がいてさ。応急処置してたら、試験に間に合わなかった」
「志望校は時間厳守だったから、10分遅れた時点でアウト」
「人助けしてた、って事情を説明したけど、信じてもらえなかった」
「なにそれ、そんな嘘みたいな理由で遅刻する人初めて聞いた……」
「だよな。不思議とこういうこと多いんだよね」
今後、人生の節目、節目で人助けする機会がないように祈っておこう。
「今もこうして、私のことを手伝っていると」
「でも、いいと思う」
そういうと雛森が席を立った。
「ということで、お願いします」
そこは、今日の作業で一番難しいところだ……
「さらっと言えば、難しいところ押し付けれると思ったろ」
「バレたか…」

俺が作業を引き継ぐ。
ふと、高校の話題が出たついでに、気になっていたことを聞いてみた。
「雛森はなんでこの学校にしたんだ?演劇の強豪校もあったろ?」
「行きたかったんだけど、両親に反対されたの。進学校じゃないって」
「教育熱心……ってやつか?」
うちの親は放任主義というか、俺に興味ないんじゃないかってぐらい
口出ししなかったから、そういう管理型の家庭にはあまり実感が湧かない。
「表面上はね。でも本当は、私のことなんて考えてないよ」
「ただ、自分たちの敷いたレールから外れてほしくないだけ」
「レール?」
「うちは、家族経営の会社なの。両親が社長で」
「へー、なんて会社?」
「大日本製薬」
「大日本製薬!?」
大企業の名前が出てきて思わず声が出た。
医療業界では知らない人のほうが少ない、日本を代表する巨大企業だ。
「うちのじいちゃんの薬も、そこのだったな……すげぇな、雛森の両親」
「それは、あの人たちが“経営者”としてすごいってだけ」
「“親”としては、最低だよ」
静かな語調に、どこか張り詰めたものが混じっていた。
「やりたくもない習い事や塾に行かされて、何もかも従わされた」
「でも、小五のときに……本当にやりたいことを見つけたの」
「演劇、か」
「うん。だけど中学でも反対されて、無視して部活に入った」
「高校も、演劇の強い学校に行きたかったのに、また止められた」
「私を、ただの“成果を出す道具”としてしか見てない」
「まぁ結局、あの人たちが指定した高校には受からず、この学校に来たんだけど……」
声には出ていないが、静かな怒りがあった。
「私もあの人たちの敷いたレールに乗らなきゃいけないのかな」
その言葉の奥に、“ほんとうは違う道を選びたい”という願いが、確かに見えた気がした。
「レールの上だろうが、雛森が本当にやりたいことなら……俺は応援するよ」

そう言いながら針を進めると、雛森が俺の手元をじっと見つめた。
「……君は、私のこと否定しないんだね」
「ん? なんか言った?」
「……ううん、なんでもない」
「頑張って」
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