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第1章 無謀だ!
アパタイト 早く僕に戻りたい
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1.ふざんけんな!
「無謀だ!バレたら一族郎党、お取り潰しじゃないか!」
ウェスリー子爵の長子カーティスは、ド田舎のウェスリー子爵領までやってきた、祖父と伯父に向かって叫んだ。
息子を庇うはずの両親は、寝耳に水で卒倒し、長椅子に横たわらされている。
「ウチの家系に、娘は前皇帝のアーデラと、孫は妾の子を含めて、ジェイ(侯爵の跡取り息子)の娘カメリアしかいないのは、お前も知っているだろう。儂とて、ほうぼうに養女をのアテを探したが、いま新皇帝の皇妃の座はあと2つ残っている。そのため高位貴族は1人ばかりか2人、3人と妙齢の娘を後宮入りさせている。下位貴族も皇妃の座は無理でも、娘あるいは孫娘が皇帝の寵愛を得れば、地位が上がる可能性大。野望に目を血走らせて、養女に出す余裕などないと、さっさと後宮に娘を入れた後だった。皇帝から、『ベルクバック侯爵家から娘はまだ出さないのか』と、皇帝即位後から毎日のように圧力をかけられてるし、これしか方法がなかったのだ。さすがに庶民を養女に迎えるわけにはいかなかったからな」
祖父は疲れ切った顔で、人払いした応接室で、同行してきたベルクバック侯爵家の執事が入れた紅茶を飲む。
いまウェスリー子爵家の応接室には、長椅子で気絶しているウェスリー子爵夫妻、伯父のジェイ・スタンリー伯爵、祖父のベルクバック侯爵、そしてもうすぐ14歳になるカーティス・ウェスリー子爵令息のみだ。口の固い祖父の執事を入れて、ここにいるのは6名のみ。
市井の美貌を持つ幼い子を引き取り、養女とする事例も少なくない。だが今回は悠長に淑女教育している暇はなかった。それはカーティスとて同じだったが、決定的なのは、今すぐ連れてきた庶民の娘では、字がほとんど読めないことだ。これは貴族令嬢として致命的すぎる。
「だけど今日、僕は貴族学園の入学許可を得たばかりなんですよ!しかも試験は首席合格、入学式で新入生代表で演説するのも決まっているのに!官僚になるのが僕の長年の夢で、その足がかりをようやく得たんだ。カメリアが後宮入りするまで2年間も、僕は時間を無駄にしなければならないと言うのですか!」
「……だいたい、当家の男子は体格がよい傾向がある。兄上も私も15歳ぐらいから、急に背が伸び始めましたよね」
ようやく気絶から回復したカーティスの父親が息子の援護射撃をする。ベルクバック侯爵家の男性は、平均より背が高い。顔立ちは平均より少し上な程度で、美貌際立つわけでもなく、明るめな茶色の髪が特徴の、どちらかと言えば地味よりな容姿だ。
カーティスの唯一の印象的な顔のパーツといえば、母親譲りのスミレ色の瞳ぐらいだろうか。
「前皇帝の側室だったアーデラも、背が高かったから違和感はないだろう。16歳ぐらいまでなら、なんとか女性で通る……はず」
ベルクバック侯爵は歯切れ悪く言った。骨格はまだ誤魔化せるとは思うが、一族の男性は子供の頃は平均的な身長だが、16歳前後からニョキニョキ伸びて180センチを軽く超える。アーデラ元側妃は173センチ。身長の高さにコンプレックスのあるアーデラ元側妃は、本当は175センチあったが、173センチだと頑なに主張している。
「無茶言わないでくださいよ。親戚に姫はいるのだし、その伝手も宛にならないなら、父上と仲の良いマイヤー伯爵のご息女を養女にできませんか。確かあちらは女系一族で、適正年齢の孫娘が5~6人いたはずです」
「儂が申し込んだときには、すでに他の貴族の養女になっておった。残り2人をいち早く、マイヤー伯爵の遠縁にあたるヒンメル侯爵家とレーゲン辺境伯家が養女にしたのだ。6人の孫娘のうち、1人はヴァイゼ皇太子殿下に代わってからすぐに後宮入りしていて、3人の妹たちも既に婚約者と結婚した既婚者だ。残り枠は2人しかいなかったのだ。そして儂は出遅れた。そもそもマイヤー伯爵と仲の良いの儂であって、伯爵の息子達と交流があったわけではないからな」
ベルクバック侯爵は、ため息をつく。もちろん、妻の実家や嫁の実家も含めた親戚に打診したが、いずれも既に結婚済みか他家の養女にされて後宮入りしていた。
「そもそも妙齢の貴族令嬢なんて、幼少時から婚約者がいるのが普通なのに、いきなり貴族は皇帝陛下に娘を差し出せと言うのが無謀なんだ!東の大陸に傾倒したのが前皇帝陛下であっても、新皇帝陛下まで慣習を世襲することはないのに!」
カーティスは怒りを露わにする。侯爵の孫とは言え、子爵家では牧歌的とは聞こえのいいド田舎で領地収入は見込めない。しかも子爵を継承できるかさえ危うい。伯父が侯爵を継いだら、息子を子爵にと命じられば、現ウェスリー子爵家の者は平民になるしかない。それを見越して、カーティスは官僚になって、少しでも稼ごうと思っていたのだ。
更に正直に言うと、カーティスは幼い頃から、お金を数えるのが大好きだった。銅貨、銀貨、金貨を積み重ねてチャリンと音を立てる至福。そしてそれを帳簿につける愉悦。そんな変わり者の秀才カーティスは13歳にして、ウェスリー子爵家の会計監査の手伝いをしていた。だが子爵家の帳簿付けるだけでは物足りない、ゆくゆくは国家税収を数える野望を抱いくようになる。学園入学も、試験を受けた段階で合格は確信していたし、あとは学園で首位の座を卒業まで譲らねば、皇宮官僚は確定だ。しかし、この長年の計画が狂うことなど、想定すらしていなかった。
「そもそも、身体検査でバレますよ。確か東の大陸では、貞操観念がかなり重んじられていて、専門の女医が処女か否かを調べるそうですよ」
カーティスは、暇つぶしがてらに読んだ書物の内容を語る。すると、ようやく立ち直った母親が再び長椅子の上で気絶した。
そりゃ、そうだ。西の大陸は貞操概念が緩く、婚約者と婚前に子を作るのも珍しいことではないからだ。
「アーデラのときは、後宮入りに際して身体検査などなかったが……そこまで配慮していなかったな。少し調べてみるか」
祖父ベルクバック侯爵も、やっとマトモな思考になってくれたらしい。
これで問題なく、カーティスは半年後には皇都の貴族学園へ予定通りリ入学出来るとホッとした。
2.シュトゥルムフート帝国の醜聞
4年前、前皇帝のエドヴァルドは大胆な後宮改革をした。
原因は、当時の第一皇妃との間に生まれ、皇太子になったシュタルクが皇帝の血を引かない不義の子だと医学的に証明されたからだ。
シュトゥルムフート帝国の医学は、世界一進んでいた。そして遺伝子検査によって親子関係が分かる方法も近年発見された。もっとも遺伝子検査は高額過ぎて、高位貴族あるいは富豪の商人ぐらいしか依頼することもないのだが。
第一皇妃イーリスとエドヴァルド皇帝は、政略結婚で結ばれた。イーリス第一皇妃は、ライバル国のフェルム国の王女であり、紛争の絶えない両国が和解するため、この結婚は成立した。
愛情というほど激しいものではなかったが、それなりに夫婦はうまくいっていたと思う。しかしイーリス第一皇妃は嫁いできてから、なかなか子供に恵まれなかった。そして結婚後8年目にして、ようやくイーリス第一皇妃は男児を産んだ。そのときには、皇帝は側妃との間に数名の子を儲けていた。4人まで皇妃が持てるシュトゥルムフート皇帝だが、イーリス皇妃が第一子を生むまで、イーリス皇妃の実家フェルム王国の非難を受けないよう、他の皇妃を迎えない配慮をエドヴァルド皇帝はしていたのだ。
イーリス第一皇妃の産んだシュタルクに関して、「本当に皇帝陛下の御子だろうか」という噂が絶えなかった。というのも、代々、皇帝一族は色の濃淡はあれ、金髪とアクアマリンの瞳を持つ子供が多かったからだ。現に新たな皇妃をはじめとする側妃の生んだ皇子皇女も、金髪とアクアマリンの瞳を持つ子供が圧倒的に多かった。
だが皇帝一族の子供が必ずしも金髪とアクアマリンを持っているわけではない。シュタルク皇太子は母親と同じ黒髪と、アクアマリンより濃い青の瞳をしていた。だが歳を重ねるごとに、前皇帝と容姿が似ていないことが際立つ。それでますます憶測が飛び交ったのだ。
「イーリス第一皇妃殿下は、不義の子を生んだのではなかろうか?」と。
これにはフェルム王国が激しく抗議した。シュタルク皇太子は、フェルム王国王族の血が色濃く出たからだと。しかし、思春期を過ぎてくると、フェルム王国特有の容姿さえ怪しくなってきた。シュトゥルムフート帝国寄りの容姿になってきたのだが、相変わらずエドヴァルド皇帝に似ていないのだ。
しかし優秀なシュタルク皇太子を、皇帝エドヴァルドは信頼していた。
そんなおり、親子鑑定が出来る技術が完成した。シュタルク皇太子は、周囲の疑念を自ら晴らすため、率先して親子鑑定を受けることを皇帝と第一皇妃に直訴した。
「そこまですることは無いでしょうに」
イーリス第一皇妃は気乗りせず、皇帝も「わざわざそんな面倒なことをしなくても、おえは私たちの息子だ」と言ったが、シュタルク皇太子の遺志は固かった。
そこで仕方なく親子鑑定をしてみたところ、シュタルク皇太子と皇帝との親子関係は限りなくゼロに近かった。皇帝は困惑し、次第にイーリス第一皇妃への怒りに変わった。
「母上、お覚悟したほうがよろしいかと。私は皇帝陛下の子供ではなく、近衛団長が本当の父親ですね?」
シュタルク皇太子は、優秀な皇子だった。だからこそ、いずれ自分が母国の頂点に立つことで、皇帝が皇族の血筋でない者になるのが許せなかった。たとえ自分や妻子、母親を犠牲にしても。いや、むしろ母のイーリス第一皇妃には憎しみさえ燻らせていた。それが確定した今、あからさまに母親を嫌悪した。
皇帝エドヴァルドは、直ちに近衛団長を拘束した。念には念を入れて親子鑑定してみたところ、シュタルク皇太子の言う通り、父親は近衛団長エアファーレン伯爵だった。
シュタルク皇太子は廃嫡、彼の息子も離宮で幽閉されることになったが、自らが皇族の血を穢したくないという崇高な精神に、皇帝エドヴァルドは彼ら父子を許し、1年後には領地のない伯爵位を与えて離宮暮らしをさせながらも、皇宮内の自由散策や重要機密に当たらないデスクワークを許した。シュタルク前皇太子は、皇族を偽る重荷が取れたと晴々していた。
イーリス第一皇妃も身分を剥奪され、故郷に戻された。シュタルク前皇太子の妻たちは、実家に戻されたが、罪は問われず、後にそれぞれ別の貴族と結婚した。
しかし元近衛団長エアファーレン伯爵に関しては重い刑罰が下された。エアファーレン伯爵家は取り潰しの上、伯爵と息子や男孫たち直系男子は処刑された。エアファーレン伯爵の妻と息子の嫁と娘や女孫は、平民に落とされた。ただ妻と嫁の実家が、残されたエアファーレン伯爵家の女性たちに手を差し伸べて、貴族には戻せないが、領民として食うに困らない生活を送らせている。
新皇太子には、自国のサンス公爵令嬢マグノリア第二皇妃の次男で、14歳のヴァイゼが立った。彼の容姿は、皇帝エドヴァルドによく似ていたが、更に磨きがかかった美丈夫だった。シュタルク元皇太子の二の舞とならぬよう、皇太子になる前にヴァイゼ皇子に親子鑑定が行われたが、疑いようがなく皇帝エドヴァルドの息子だった。
第二皇妃の長男ではなく次男が皇太子になったのは、長男のグランツは6歳の時に病死したからだった。新皇太子ヴァイゼには、姉と妹がいるが、姉は自国の公爵令息と結婚し、妹は属国イノレート王国王太子妃となっている。
ちなみに年の離れたヴァイゼ新皇太子と、シュタルク前皇太子は年が離れているが昔から仲が良く、今でも本物の兄弟、否、伯父と甥のような交流は続いている。
3.新皇帝ヴァイゼ
あの醜聞から3年後、ヴァイゼ新皇太子は父親の急死によって、皇太子に慣れる前に皇帝に即位した。目のまわりのような戴冠式、属国の国王もしくは国王名代の謁見、パレードなどで大忙し。
なかでも苦労したのが、前皇帝の妃達の今後のことだった。閣議によって、25歳以下でエドヴァルド前皇帝の手がついていない側妃は、新皇帝ヴァイゼの後宮に入ることになった。
ヴァイゼ新皇帝は、昔通りの自由な後宮に戻したいと言ったが、閣議で時期尚早と却下された。前皇帝の皇妃(定員4名だが、イーリス第一皇妃の身分剥奪によって現在3名)は、皇城内に居を構えているため、自分の子供達が皇子であれ皇女であれ、成人するまで手元で育てることが出来る。
しかし側妃の場合、皇女は手元に置けるが、皇子は5歳になると後宮から出され、郊外にある離宮で育てられることになる。彼らは未成年までは皇子として扱われるが、成人したらシュトゥルムフート帝国の掟通り、臣籍降下して家臣となり、爵位を賜ることになる。皇子だから公爵が妥当だが、公爵位を得られるのは皇妃の息子のみ。側妃の生んだ皇子は、母親の地位によって侯爵から男爵まで様々だが、皇妃の息子でない皇子は皆が1代貴族と定められていた。帝国は広いが、大勢の庶出の皇子にまでいちいち爵位と領地を与えていたら、キリが無くなるからだ。従って庶出の皇子の二世の子供たちは、他の貴族に婿入するなり、騎士や官僚になって、地位と名誉を築いていくより選択肢はなかった。
一連の即位式や後宮が整えられて、ヴァイゼ新皇帝は即位から1年後、ようやく一息つくことができた。
そこで引き続き皇宮軟禁中の元皇太子シュタルク・イノセント伯爵を呼び出し、ヴァイゼ新皇帝は皇帝付きの護衛2名以外は人払いして、バラ園のガゼボで茶会を開いた。
「私がね、自分が前皇帝陛下の子ではないと知ったときは15歳の時だったよ。偶然、母とエアファーレン近衛団長が戯れながら話しているのを、立ち聞きしてしまったのさ。それで、どうやって皇太子の座から降りようかと模索しているうちに、歳月がたってしまった。下手な手を打つと、フェルム王国と我が国との間に摩擦が起こる危険性があったからね。確実に皇太子を退位するチャンスを狙っていたんだ」
庭園で新皇帝ヴァイゼとアフタヌーンティーを水入らずしてしていたとき、前皇太子ことシュタルク・イノセント伯爵は険しい顔で言った。
「そんな若い頃から……兄上は苦労していたんですね」
ヴァイゼ新皇帝は同情する。清廉潔白を絵に描いたような兄だけに、真実を知り、皇族だと偽るのはさぞ辛かっただろうことが推測される。
「そんな顔しなくていい。今は息子と幸せに暮らしているのだから。エアファーレン伯爵の息子と孫には可哀想なことをしたと同情するが、伯爵はもっと苦しんで逝ってほしかったな。母も母国に返されたはいいが、我が国に貸しを作った罪で幽閉されているらしい。いい気味だ。いっそ国を乱した責任をとって、自害でもしてくれたら少しは見直してやるのに」
苦々しい顔で、シュタルク・イノセント伯爵は紅茶を飲む。心底から、母と実の父親を嫌悪しているのがよく分かる。
「兄上は、皇宮から出られないことに不自由はありませんか?」
ヴァイゼ新皇帝は、異母兄に尋ねる。「もう主従関係だから、兄と呼ぶのは止めてください」とシュタルク・イノセント伯爵は懇願するが、ヴァイゼ新皇帝が「兄は兄です」と言い張るため、シュタルク・イノセント伯爵は「2人きりのみだよ、兄弟に戻るのは」と条件付きで妥協した。
「別に住まいや仕事内容が変わっただけで、皇太子時代から皇宮の外へは祝典以外は出してもらえなかったから、昔も今も変わりないね。いまは、会計監査室で各領地の税収計算をしているけど、本当は学校で医学を学びたいんだ。そして将来的には庶民向けの診療所を開きたい。夢想家だと笑うかい?」
「まさか。ただ学校は皇宮外にあるためーー」
「うん、私は監視対象だからね。でもいつか、夢をかなえるために、独学で勉強はしているんだよ。皆には内緒にしててね」
「兄上なら、いずれ夢を叶えてしまいそうですね。それよりも、ご相談させていただいてもよろしいですか?」
「改まって、どうしたんだい?」
シュタルク・イノセント伯爵は、背筋を正す。
「私は、父の東の大陸流の後宮には反対です。高い塀の中で、これまでのように家族と会うことも禁じられた籠の鳥の妃たち。しかも伯爵以上の一族全てから、娘を差し出させるなんて、父上はショックでどうかしてしまったのかもしれません」
ヴァイゼ新皇帝は、乱暴にスコーンを割って、クロテッドクリームをたっぷり塗ると、大口を開けて頬張った。完全にマナー無視だが、シュタルク・イノセント伯爵は咎めたりしなかった。
「私は、むしろ前皇帝陛下のご慧眼に感心しているけどね」
「なぜ!」
リスのようにスコーンを口に頬張って喋ったものだから、ヴァイゼ新皇帝は噎せてしまう。シュタルク・イノセント伯爵は慌てて熱い紅茶に氷水を足したものをを勧めて、ようやくヴァイゼ新皇帝は落ち着いた。
「父上は女狂いになったと、世間ではもっぱらの評判ですよ」
ヴァイゼ新皇帝は、嫌悪感丸出しで非難する。
「……いま国は、私とヴァイゼ皇帝派で分かれている。私が前皇帝陛下の御子ではないことは確定しているのに、それを偽造だと騒ぐ貴族が今尚多い。だから前皇帝陛下は、側妃という形で、人質を高位貴族からとることにしたんのだ。状況が収まるまで、少なくとも四半世紀は、この状態を続けた方がいい。妃として後宮に閉じ込められた貴族令嬢には酷だと思うが、愚かな派閥を黙らせるにはいい方法だ。ただ……まさか陛下がこんな早く崩御なさるとは想定外だったが」
シュタルク・イノセント伯爵は、若干顔を赤らめて咳払いする。
ヴァイゼ新皇帝も、気まずげに目を逸らす。
前皇帝エドヴァルドの死因は、後宮で若い側妃と激しい夜を過ごしての腹上死、なんとも言い難い亡くなり方をしたのだ。表向きは心労からくる心臓発作ということにしているか、既に貴族社会では公然の秘密だ。相手の若い妃も可哀想に。
「……本当は、私も自害するなり処刑されるなりしたほうが良かったのだろうが」
「兄上!」
「大丈夫、生き恥をさらし続けることにも意味がある。くだらない自尊心で自らに手をかけて、国の火種になるつもりはない。前皇帝陛下は、反体制派貴族、正確には私の復権派を炙り出して制圧するためにも、私に辛くても生きてくれと諭された。もしも自死や処刑などしたら、それこそ反体制派の火に油を注ぐ行為で、クーデターなんて面倒なことをされて国を乱される方が面倒だと仰られたんだ。我が子でなかった私に、正直なところ失望の念は隠せなかったと吐露されても、エドヴァルド前皇帝陛下は私を信頼してくれた。家族より、国を優先する、本当にエドヴァルド前皇帝陛下は優れた為政者だった」
シュタルク・イノセント伯爵は、空を仰いで遠い目をした。エドヴァルド前皇帝は、たとえ血の繋がりはなくても、シュタルク前皇太子を息子として愛していた。そしてシュタルク・イノセント伯爵も、エドヴァルド前皇帝に絶対の忠誠心と尊敬を抱いていた。
「私が皇宮で軟禁されているのも、反体制派貴族が接触してくるのを待つため。つまりは疑似餌だよ。これまで愚かな反体制派貴族が何名、拷問の末に闇に葬られたことか」
確かに、シュタルク・イノセント伯爵の言う通り、このところ突然、当主が病死なり事故死なりして亡くなっての当主交代劇が、ここ数年で何件あっただろうか。まさか裏でそんなことになっていとは。
「反体制派貴族当主の跡取りが穏健派の場合、世襲はスムーズに行われる。だが息子も父親に傾倒している場合は、息子を廃嫡して親戚から皇帝派の者を当主に据える。即位したての陛下には、余計な情報だったかな?」
シュタルク・イノセント伯爵は、一癖ある笑みを浮かべている。
「そうだったのか」と、ヴァイゼ新皇帝は腑に落ちた。前皇太子の異母兄は、ここで大人しく軟禁されて腫れ物扱いされていたわけではなく、裏で反体制派粛清の指揮を取っていたのだ。
(これほど忠誠心な厚い兄上が、本物の父上の息子でなかったのは、父上もさぞ無念だったろうに。それでも反体制派粛清リーダーに指名されるほど、本来ならフェルム王国のスパイと疑われておかしくない出自にも関わらず、父上から絶大な信頼を寄せられていたに違いない。もしもイーリス元皇妃の不義の子ではなく、たとえば下級貴族の令息として生まれていたにしても、兄上はきっとのし上がり、父・皇帝の忠臣となっていただろう。陽の光の下を歩いていける出自なら、兄上はもっと自由で大きなものを掴めただろうに。地位はもちろん、信頼も、尊敬も、皆が羨む何もかもを手に入れて)
ヴァイゼ新皇帝は、改めてシュタルク・イノセント伯爵が皇妃の不義の子であることが惜しいと思った。
「ところで、後宮入りが義務付けられた伯爵家以上の高位貴族から、未だ側妃が出していない一族は3貴族だったな。だがウィロー辺境伯は年内にも辺境伯令嬢が後宮入り可能年齢になったらすぐ、リネン伯爵も親類の娘の淑女教育が終わり次第との返答が来ている。残りはベルクバック侯爵だな」
「ええ。ですが先頃、ベルクバック侯爵からの書簡で、次子ウェスリー子爵の妾の娘を後宮入りさせると返答がありました」
「ほう、あの一族に妾腹とはいえ妙齢の姫がいたのか」
シュタルク・イノセント伯爵は驚いた。そして
シュタルク・イノセント伯爵は、後宮リストと貴族譜を照らし合わせる。他家は正室の令嬢がいない場合、妾との間に出来た娘や親類の娘を正規の娘として登録し、既に後宮入りさせている。
ちなみに公爵家、侯爵家の出した令嬢が、血縁のある伯爵家だった場合。例えるならベルクバック侯爵家がよい例で、侯爵の孫娘であるウェスリー子爵令嬢を差し出したことで、一族として使命は果たしたとカウントされて、スタンリー伯爵家から新たにもう1名新たに出す必要はなくなる。確かに後宮とは皇帝の子を生ませる場所だが、現在は人質の意味の方が強いからだ。
「ベルクバック侯爵家が、令嬢を後宮入りさせるのに四苦八苦していたの仕方ないことでしょう。あそこは男系の血が濃く、これまで父上の側妃だったベルクバック侯爵令嬢は数代ぶりの娘だったらしいですから」
「ベルクバック侯爵の跡取りスタンリー伯爵の愛娘は、まだ11歳。しかし他家とて、自分の娘が成長する中継ぎとして、親類縁者の娘を後宮入りさせている。伯爵家ならともかく、侯爵家となると見逃せないものがあるな。ましてや妾腹とは言え、孫娘がいたとなると」
「ですがベルクバック侯爵家は、中立の立場を取っております。いま適齢期の貴族ゆかりの娘を探すのは困難ですし、妾腹の孫娘を後宮入りさせられなかった事情も察しなければ」
「他家は苦心して、忠誠を形にした。たとえベルクバック侯爵家が人畜無害としても、体面が悪い。スタンリー伯爵令嬢が成長して後宮入り出来るまで、事情はどうあれ、いち早く妾腹の孫娘を後宮に入れるべきだった。他家に不信感を抱かせて体裁が悪くなるのはベルクバック侯爵家なのは、百も承知だったはず」
まあ言ってるシュタルク・イノセント伯爵も「妾を囲っても男児しか生まれないのは、こういうとき哀れだな」と本音を吐いた。
……ともかく、ベルクバック侯爵家が妾腹の孫娘を後宮入りさせると言い出すまで、どんな娘でも良いから一族から令嬢を後宮入りさせよと、ヴァイゼ新皇帝の名前で書簡が何通も送られた。
(こういう書き方をすると、俺がよほどの女好きと誤解されそうだな。今のところ、皇妃の2人と、出自が明確な高位貴族の側妃としか同衾はしていないが」
女性同士の諍い、あるいは一族の代理戦争は見ていても楽しくない。隔離された女の園というのは、想像以上に醜いものだ。だからつい、皇妃2人のもとへ通ってしまう。この2人は皇太子時代からの妃で、いずれも1人ずつヴァイゼ新皇帝の子を産んでいた。属国からも妃が送られてきたが、彼女たち王女には手を出さず、贈り物三昧で放置。属国の王女をなまじ皇妃に取り立てて、その王女皇妃が息子を産んだ場合の、属国からの干渉を防ぐためだった。
そもそも後宮に、食指を伸ばすほどの妃もいない。皆、美しい者ばかりだが、ヴァイゼ新皇帝にはどれも着飾った孔雀のようにしか見えなかった。
(あんな金食い虫を大勢飼う意味が、本当にあるのか疑問だ)
これがヴァイゼ新皇帝の本音だった。
4.え?
ベルクバック侯爵は皇帝からの再三にわたる要請に屈したのか、妾腹の孫娘をベルクバック侯爵令嬢という名目で、来月にも後宮入りさせると返答した。
よくよく調べると、次男ウェスリー子爵の妾の娘らしい。バリバリ男系の家系だったベルクバック侯爵家だったが、息子二人はそれぞれ娘を1人ずつ得ていたようだ。ならば、どうしてこんなに後宮入りが難航したのか、皆が疑問に思った。
後宮は、伯爵令嬢(もしくは代理令嬢)は幾つか建てた館に振り分けられて生活している。ただ互いが敵であるため、隣同士にさせるわけにはいかず、ワンフロアを1人分の伯爵令嬢に開放していた。連れて来る召使いや侍女の数を考えれば、そのぐらい必要だろう。
辺境伯令嬢と侯爵令嬢と公爵令嬢には、身分よって規模の異なる独立した館が充てがわれた。
ヴァイゼ新皇帝即位後、長らくと言っても1年だが、空いていたベルクバック侯爵家の館に新たな側妃が入る。その後宮入りが決まった直後から、慌ただしく内装の改造や調度品が続々と運ばれてきた。もちろん後宮は男子禁制のため、工事するのも女性工事人、調度品を運ぶのも庭師も全て女性だった。
こうして夏の暑いさなか、ベルクバック侯爵令嬢、正確には正嫡の孫娘が後宮入り出来るまでの中継ぎ令嬢が、後宮へやってきた。
どんな令嬢なのか、後宮の者たちも興味津々。ヴァイゼ新皇帝も、兄のシュタルクを変装させて、秘密裏に抜け穴から後宮に侵入し、ベルクバック侯爵令嬢用の館の前で待機した。
後宮は広いため、後宮内専用の馬車に、後宮の入り口で馬車を乗り換える。馬車と馬も身分差によって豪奢さが増し、御者も護衛も全て女性だ。
その馬車から出てきた中継ぎ令嬢に、野次馬をはじめとする皆が呆気に取られた。
一言で言うと、美しい花園に悪趣味に着飾った豚が紛れ込んだかのようだった。ベルクバック侯爵が送り込んだ令嬢は、ドレスがはち切れんばかりに太り、まん丸の顔に塗りたくられた派手な化粧は滝のような汗で崩れている。
「……なんだか、ベルクバック侯爵が申し訳なく思えてきた」
女官に変装したシュタルク・イノセント伯爵は、口元を押さえながら言った。これほど醜悪な娘を出すしかなかったとは、義務で催促したとはいえ、さすがに罪悪感が増す。
「そうですか?毛色が変わって面白い娘ではないですか」
ヴァイゼ新皇帝は、好奇心も露わにベルクバック侯爵家が送り込んだ娘を見つめる。その顔には、これまで妃たちには見せたことのない柔らかな笑みが浮かんでいた。
「おまえ……醜女好きだったのか」
シュタルク・イノセント伯爵は、ショックを隠しきれないと言った様子だった。人の性癖は千差万別と言うが、ヴァイゼ新皇帝の美貌は帝国一と言っても過言ではないほど際立っている。その美の化身が、養豚場から逃げ出したかのようなベルクバック侯爵家の令嬢に、並々ならぬ興味を示すのは異常事態だった。
「皆に気づかれる前に、戻りましょうか」
ヴァイゼ新皇帝が言うと、シュタルク・イノセント伯爵は口調こそ礼儀正しいものの、異母弟の腕を強く掴んで隠し通路に戻った。そして隠し通路を通る道すがら、普段は異母弟の前では温厚で物わかりの良い兄の顔を崩さないシュタルク・イノセント伯爵も、よほどのショックから取り乱してしまったらしい。皇城へ戻る道すがら、ヴァイゼ新皇帝に「どれだけ趣味が悪いんだ!」と延々小言を垂れた。
5.うへぇ
「あー地獄だった」
後宮内のベルクバック侯爵令嬢用の館に入るなり、女装していたカーティス・ウェスリー子爵令息は、ふくよかに見えるよう頬を膨らませていた口の中の綿をハンカチに吐き出す。太った体に見せていたのは、ドレスの下に着込んだ肉襦袢。
この真夏に肉襦袢着て、首元まで隠れるドレス着てれば、汗だくになるのも当然だった。
「若様、直ちに湯浴みの準備をいたしますので、それまで奥の部屋でお休みください」
ウェスリー子爵邸で、主にカーティスの世話役担当だった侍女が言うなり、湯処へ走った。
別の侍女は、館2階の最奥にあるリビングへカーティスを案内する。女性しかいない中で、湯浴みや着替え以外にダラシのない格好をするのは貴族としてどうかとも思うが、全身から汗が噴き出していたので、早くドレスと肉襦袢を脱がないと熱中症で倒れそうだった。
侯爵令嬢に充てがわれる後宮の館は、かなり大きい。しかし同行したウェスリー子爵家の侍女と、ベルクバック侯爵家の侍女および両人含む雑用係は合計で12名。いずれもベルクバック侯爵が厳選した、口が固くて忠誠心の厚い侯爵家および子爵家に仕える敏腕女性達だ。
他の後宮入りした姫は、公爵令嬢や侯爵令嬢で50名程度、伯爵家は家の事情でバラツキがあるが、それでも30名は連れてきている。
ベルクバック侯爵家の付き添いが12名しか居ないのを、恐らく後宮の者たちは妃だけでなく使用人も嘲笑うだろうが、そもそも後宮の人間に好かれたいとも付き合いたいとも思わない。男とバレる危険性が上がるからだ。その最たるが、皇帝とのエンカウントだが。
カーティス・ウェスリー子爵令息は、子爵の妾腹の娘ということになっている。名はコーデリア・ブーケ。ベルクバック侯爵の養女として後宮入りしたので、一応侯爵令嬢となっているが、正嫡の血筋でないことで周囲は蔑むだろう。これまで妾腹の娘がいながら、ベルクバック侯爵が侯爵入りを渋っていたのは、コーデリア・ブーケが虚弱体質設定だったからだ。そのため母親も同行との許可を得ているが、もちろん本物の母ウェスリー子爵夫人ではなく、カーティスの乳母だった。
乳母の出自は貴族でなく狩人の嫁で、収入の安定しない夫の稼ぎを憂い、またカーティスが誕生する直前に男児を出産して乳の出も良かったから、カーティスの乳母に採用された。狩人の妻であり、自身も狩人の娘である乳母は、肝が据わっている上に、留守がちな父や夫が不在の際の防衛のため、家族全員が体を鍛え、武術にも長けていた。いまカーティスの乳兄弟は、ウェスリー子爵家の騎士見習いに励んでいる。
「お疲れ様でした。湯殿の準備が整うまで、どうぞ冷たいものでも飲んで、休憩してください」
母親役の乳母はドレスと肉襦袢を脱がせるのを手伝った。
バスローブに着替えて一息ついたカーティスに、顔見知りの侍女が氷の入ったジュースを運んでくる。カーティスは受け取るなり、一気にそれを飲み干した。
「あー、生き返る。風呂の温度は低めにしておいてくれ。それと肉襦袢、確かあと2着あったな。スペアを用意して、すぐに着られるように準備しておいてくれ。ドレスもだ」
「あの……今日はもう、肉襦袢は必要ないのでは?」
乳母はカーティスの命令に首をかしげる。
「ハンナ(乳母の名前)、おまえは人目を避けるようにして、皇帝が侍従と遠くから僕を見ていたことに気づかなかったかのか。やけに皇帝が熱心に見ていたから、今晩あたり突撃してくる可能性が捨てきれない。杞憂であるのを願うがな」
秀才のカーティスは、周囲の動向を探る癖が身についていて、視野が広い。気弱な醜女のフリをしてうつむき加減で歩き、気づかぬふりをしていたが、野次馬の背後の物陰に皇帝らしき男と、侍従もしくは身なりの良さから皇帝の忠臣貴族が居るのを見逃さなかった。カーティスは、醜女偽装が逆に目を引く羽目になったと、今更ながら後悔した。
「本日、後宮入りした若様のもとへ、まさか。侯爵閣下の話によると、皇帝陛下が後宮入りした高位貴族の側妃のもとへ挨拶に来るのは、1週間から長ければ1ヶ月ほど経ってからとお伺いしておりますが」
乳母はもちろん、お付の者たちも困惑する。一応、代理の女官長が挨拶に来るのは確定だが、それも後宮入りして疲れている当日ではなく、翌日以降となっているはず。
皇帝の方は、礼儀上、高位貴族の側妃に挨拶に伺うようだが、それも直系の公爵令嬢もしくは侯爵令嬢や辺境伯令嬢に限られ、養女や妾腹の名ばかりの令嬢には代理人を差し向ける程度という話だった。伯爵令嬢以下ともなると、皇帝は寄り付きもしないらしい。
どうやら皇帝は、責務重視の、愛に溺れるタイプではないらしい。
「既に第一皇妃殿下との間に、皇太子候補の皇子殿下を儲けられておりますし、側妃の方々にも第二皇子、第三皇子がいらっしゃるので、わざわざこちらへいらっしゃる必要があるでしょうか?」
侍女頭は怪訝な顔をする。ヴァイゼ皇帝は、血統正しい直系の公爵令嬢もしくは侯爵令嬢とのみ子を儲けている。18歳にして三男一女の父親でもあった。
4人まで持てる皇妃のうち、現在ヴァイゼ皇帝の正妃は、第一皇妃のザフィーア・ファオスト公爵令嬢、第二皇妃のフリーダ・エーラ侯爵令嬢が席を2つ埋めているが、残り2つも子をもうけた側妃2人が皇妃に昇格するというのが有力だ。
「警戒しておくに越したことはない。それにお祖父様は侯爵ながら、一番最後に一族の娘を後宮入りさせた失態もある。だが先方も、ベルクバック侯爵家が穏健中立派で、男系一族なのは周知してるはず。本命の妃はスタンリー伯爵家のカメリアだというのも知っているだろうから、目をつけられるはずがないと言いたいがな」
しかし皇帝の視線に気づいたカーティスは、頭の中で鳴っている警告音を無視できずにいた。
そしてカーティスの危惧は現実となる。先触れの遣いが、今夜の夕食を共にしたいと伝言を持ってきたのだ。
12人の付き添い達、特に料理人は皇帝に料理を振る舞うことなど全く想定していなかったので、パニックだ。
カーティスは「やっぱりか」と、観念する。肉襦袢を着て、悪趣味なドレスをその上から着用し、醜女仕様の厚化粧と髪色と同じカツラを被った。
(後宮のいいところは、先触れがあることだな。これが突然の訪問だったら、準備が間に合わない)
カーティスの変装は、どれだけ急いでも30分は確実にかかるからだ。
(しかし普通は、毒殺を懸念して皇城以外で食事を摂らないだろうに。わざわざ到着当日に来訪の上、夕食まで所望するとは随分と厚かましいじゃないか)
自国の皇帝ながら、カーティスは憤慨する。それを侍女頭と乳母が必死でなだめ、カーティスがようやくコーデリア・ブーケ・ベルクバック侯爵令嬢になりきったのは、皇帝到着10分前だった。
「無謀だ!バレたら一族郎党、お取り潰しじゃないか!」
ウェスリー子爵の長子カーティスは、ド田舎のウェスリー子爵領までやってきた、祖父と伯父に向かって叫んだ。
息子を庇うはずの両親は、寝耳に水で卒倒し、長椅子に横たわらされている。
「ウチの家系に、娘は前皇帝のアーデラと、孫は妾の子を含めて、ジェイ(侯爵の跡取り息子)の娘カメリアしかいないのは、お前も知っているだろう。儂とて、ほうぼうに養女をのアテを探したが、いま新皇帝の皇妃の座はあと2つ残っている。そのため高位貴族は1人ばかりか2人、3人と妙齢の娘を後宮入りさせている。下位貴族も皇妃の座は無理でも、娘あるいは孫娘が皇帝の寵愛を得れば、地位が上がる可能性大。野望に目を血走らせて、養女に出す余裕などないと、さっさと後宮に娘を入れた後だった。皇帝から、『ベルクバック侯爵家から娘はまだ出さないのか』と、皇帝即位後から毎日のように圧力をかけられてるし、これしか方法がなかったのだ。さすがに庶民を養女に迎えるわけにはいかなかったからな」
祖父は疲れ切った顔で、人払いした応接室で、同行してきたベルクバック侯爵家の執事が入れた紅茶を飲む。
いまウェスリー子爵家の応接室には、長椅子で気絶しているウェスリー子爵夫妻、伯父のジェイ・スタンリー伯爵、祖父のベルクバック侯爵、そしてもうすぐ14歳になるカーティス・ウェスリー子爵令息のみだ。口の固い祖父の執事を入れて、ここにいるのは6名のみ。
市井の美貌を持つ幼い子を引き取り、養女とする事例も少なくない。だが今回は悠長に淑女教育している暇はなかった。それはカーティスとて同じだったが、決定的なのは、今すぐ連れてきた庶民の娘では、字がほとんど読めないことだ。これは貴族令嬢として致命的すぎる。
「だけど今日、僕は貴族学園の入学許可を得たばかりなんですよ!しかも試験は首席合格、入学式で新入生代表で演説するのも決まっているのに!官僚になるのが僕の長年の夢で、その足がかりをようやく得たんだ。カメリアが後宮入りするまで2年間も、僕は時間を無駄にしなければならないと言うのですか!」
「……だいたい、当家の男子は体格がよい傾向がある。兄上も私も15歳ぐらいから、急に背が伸び始めましたよね」
ようやく気絶から回復したカーティスの父親が息子の援護射撃をする。ベルクバック侯爵家の男性は、平均より背が高い。顔立ちは平均より少し上な程度で、美貌際立つわけでもなく、明るめな茶色の髪が特徴の、どちらかと言えば地味よりな容姿だ。
カーティスの唯一の印象的な顔のパーツといえば、母親譲りのスミレ色の瞳ぐらいだろうか。
「前皇帝の側室だったアーデラも、背が高かったから違和感はないだろう。16歳ぐらいまでなら、なんとか女性で通る……はず」
ベルクバック侯爵は歯切れ悪く言った。骨格はまだ誤魔化せるとは思うが、一族の男性は子供の頃は平均的な身長だが、16歳前後からニョキニョキ伸びて180センチを軽く超える。アーデラ元側妃は173センチ。身長の高さにコンプレックスのあるアーデラ元側妃は、本当は175センチあったが、173センチだと頑なに主張している。
「無茶言わないでくださいよ。親戚に姫はいるのだし、その伝手も宛にならないなら、父上と仲の良いマイヤー伯爵のご息女を養女にできませんか。確かあちらは女系一族で、適正年齢の孫娘が5~6人いたはずです」
「儂が申し込んだときには、すでに他の貴族の養女になっておった。残り2人をいち早く、マイヤー伯爵の遠縁にあたるヒンメル侯爵家とレーゲン辺境伯家が養女にしたのだ。6人の孫娘のうち、1人はヴァイゼ皇太子殿下に代わってからすぐに後宮入りしていて、3人の妹たちも既に婚約者と結婚した既婚者だ。残り枠は2人しかいなかったのだ。そして儂は出遅れた。そもそもマイヤー伯爵と仲の良いの儂であって、伯爵の息子達と交流があったわけではないからな」
ベルクバック侯爵は、ため息をつく。もちろん、妻の実家や嫁の実家も含めた親戚に打診したが、いずれも既に結婚済みか他家の養女にされて後宮入りしていた。
「そもそも妙齢の貴族令嬢なんて、幼少時から婚約者がいるのが普通なのに、いきなり貴族は皇帝陛下に娘を差し出せと言うのが無謀なんだ!東の大陸に傾倒したのが前皇帝陛下であっても、新皇帝陛下まで慣習を世襲することはないのに!」
カーティスは怒りを露わにする。侯爵の孫とは言え、子爵家では牧歌的とは聞こえのいいド田舎で領地収入は見込めない。しかも子爵を継承できるかさえ危うい。伯父が侯爵を継いだら、息子を子爵にと命じられば、現ウェスリー子爵家の者は平民になるしかない。それを見越して、カーティスは官僚になって、少しでも稼ごうと思っていたのだ。
更に正直に言うと、カーティスは幼い頃から、お金を数えるのが大好きだった。銅貨、銀貨、金貨を積み重ねてチャリンと音を立てる至福。そしてそれを帳簿につける愉悦。そんな変わり者の秀才カーティスは13歳にして、ウェスリー子爵家の会計監査の手伝いをしていた。だが子爵家の帳簿付けるだけでは物足りない、ゆくゆくは国家税収を数える野望を抱いくようになる。学園入学も、試験を受けた段階で合格は確信していたし、あとは学園で首位の座を卒業まで譲らねば、皇宮官僚は確定だ。しかし、この長年の計画が狂うことなど、想定すらしていなかった。
「そもそも、身体検査でバレますよ。確か東の大陸では、貞操観念がかなり重んじられていて、専門の女医が処女か否かを調べるそうですよ」
カーティスは、暇つぶしがてらに読んだ書物の内容を語る。すると、ようやく立ち直った母親が再び長椅子の上で気絶した。
そりゃ、そうだ。西の大陸は貞操概念が緩く、婚約者と婚前に子を作るのも珍しいことではないからだ。
「アーデラのときは、後宮入りに際して身体検査などなかったが……そこまで配慮していなかったな。少し調べてみるか」
祖父ベルクバック侯爵も、やっとマトモな思考になってくれたらしい。
これで問題なく、カーティスは半年後には皇都の貴族学園へ予定通りリ入学出来るとホッとした。
2.シュトゥルムフート帝国の醜聞
4年前、前皇帝のエドヴァルドは大胆な後宮改革をした。
原因は、当時の第一皇妃との間に生まれ、皇太子になったシュタルクが皇帝の血を引かない不義の子だと医学的に証明されたからだ。
シュトゥルムフート帝国の医学は、世界一進んでいた。そして遺伝子検査によって親子関係が分かる方法も近年発見された。もっとも遺伝子検査は高額過ぎて、高位貴族あるいは富豪の商人ぐらいしか依頼することもないのだが。
第一皇妃イーリスとエドヴァルド皇帝は、政略結婚で結ばれた。イーリス第一皇妃は、ライバル国のフェルム国の王女であり、紛争の絶えない両国が和解するため、この結婚は成立した。
愛情というほど激しいものではなかったが、それなりに夫婦はうまくいっていたと思う。しかしイーリス第一皇妃は嫁いできてから、なかなか子供に恵まれなかった。そして結婚後8年目にして、ようやくイーリス第一皇妃は男児を産んだ。そのときには、皇帝は側妃との間に数名の子を儲けていた。4人まで皇妃が持てるシュトゥルムフート皇帝だが、イーリス皇妃が第一子を生むまで、イーリス皇妃の実家フェルム王国の非難を受けないよう、他の皇妃を迎えない配慮をエドヴァルド皇帝はしていたのだ。
イーリス第一皇妃の産んだシュタルクに関して、「本当に皇帝陛下の御子だろうか」という噂が絶えなかった。というのも、代々、皇帝一族は色の濃淡はあれ、金髪とアクアマリンの瞳を持つ子供が多かったからだ。現に新たな皇妃をはじめとする側妃の生んだ皇子皇女も、金髪とアクアマリンの瞳を持つ子供が圧倒的に多かった。
だが皇帝一族の子供が必ずしも金髪とアクアマリンを持っているわけではない。シュタルク皇太子は母親と同じ黒髪と、アクアマリンより濃い青の瞳をしていた。だが歳を重ねるごとに、前皇帝と容姿が似ていないことが際立つ。それでますます憶測が飛び交ったのだ。
「イーリス第一皇妃殿下は、不義の子を生んだのではなかろうか?」と。
これにはフェルム王国が激しく抗議した。シュタルク皇太子は、フェルム王国王族の血が色濃く出たからだと。しかし、思春期を過ぎてくると、フェルム王国特有の容姿さえ怪しくなってきた。シュトゥルムフート帝国寄りの容姿になってきたのだが、相変わらずエドヴァルド皇帝に似ていないのだ。
しかし優秀なシュタルク皇太子を、皇帝エドヴァルドは信頼していた。
そんなおり、親子鑑定が出来る技術が完成した。シュタルク皇太子は、周囲の疑念を自ら晴らすため、率先して親子鑑定を受けることを皇帝と第一皇妃に直訴した。
「そこまですることは無いでしょうに」
イーリス第一皇妃は気乗りせず、皇帝も「わざわざそんな面倒なことをしなくても、おえは私たちの息子だ」と言ったが、シュタルク皇太子の遺志は固かった。
そこで仕方なく親子鑑定をしてみたところ、シュタルク皇太子と皇帝との親子関係は限りなくゼロに近かった。皇帝は困惑し、次第にイーリス第一皇妃への怒りに変わった。
「母上、お覚悟したほうがよろしいかと。私は皇帝陛下の子供ではなく、近衛団長が本当の父親ですね?」
シュタルク皇太子は、優秀な皇子だった。だからこそ、いずれ自分が母国の頂点に立つことで、皇帝が皇族の血筋でない者になるのが許せなかった。たとえ自分や妻子、母親を犠牲にしても。いや、むしろ母のイーリス第一皇妃には憎しみさえ燻らせていた。それが確定した今、あからさまに母親を嫌悪した。
皇帝エドヴァルドは、直ちに近衛団長を拘束した。念には念を入れて親子鑑定してみたところ、シュタルク皇太子の言う通り、父親は近衛団長エアファーレン伯爵だった。
シュタルク皇太子は廃嫡、彼の息子も離宮で幽閉されることになったが、自らが皇族の血を穢したくないという崇高な精神に、皇帝エドヴァルドは彼ら父子を許し、1年後には領地のない伯爵位を与えて離宮暮らしをさせながらも、皇宮内の自由散策や重要機密に当たらないデスクワークを許した。シュタルク前皇太子は、皇族を偽る重荷が取れたと晴々していた。
イーリス第一皇妃も身分を剥奪され、故郷に戻された。シュタルク前皇太子の妻たちは、実家に戻されたが、罪は問われず、後にそれぞれ別の貴族と結婚した。
しかし元近衛団長エアファーレン伯爵に関しては重い刑罰が下された。エアファーレン伯爵家は取り潰しの上、伯爵と息子や男孫たち直系男子は処刑された。エアファーレン伯爵の妻と息子の嫁と娘や女孫は、平民に落とされた。ただ妻と嫁の実家が、残されたエアファーレン伯爵家の女性たちに手を差し伸べて、貴族には戻せないが、領民として食うに困らない生活を送らせている。
新皇太子には、自国のサンス公爵令嬢マグノリア第二皇妃の次男で、14歳のヴァイゼが立った。彼の容姿は、皇帝エドヴァルドによく似ていたが、更に磨きがかかった美丈夫だった。シュタルク元皇太子の二の舞とならぬよう、皇太子になる前にヴァイゼ皇子に親子鑑定が行われたが、疑いようがなく皇帝エドヴァルドの息子だった。
第二皇妃の長男ではなく次男が皇太子になったのは、長男のグランツは6歳の時に病死したからだった。新皇太子ヴァイゼには、姉と妹がいるが、姉は自国の公爵令息と結婚し、妹は属国イノレート王国王太子妃となっている。
ちなみに年の離れたヴァイゼ新皇太子と、シュタルク前皇太子は年が離れているが昔から仲が良く、今でも本物の兄弟、否、伯父と甥のような交流は続いている。
3.新皇帝ヴァイゼ
あの醜聞から3年後、ヴァイゼ新皇太子は父親の急死によって、皇太子に慣れる前に皇帝に即位した。目のまわりのような戴冠式、属国の国王もしくは国王名代の謁見、パレードなどで大忙し。
なかでも苦労したのが、前皇帝の妃達の今後のことだった。閣議によって、25歳以下でエドヴァルド前皇帝の手がついていない側妃は、新皇帝ヴァイゼの後宮に入ることになった。
ヴァイゼ新皇帝は、昔通りの自由な後宮に戻したいと言ったが、閣議で時期尚早と却下された。前皇帝の皇妃(定員4名だが、イーリス第一皇妃の身分剥奪によって現在3名)は、皇城内に居を構えているため、自分の子供達が皇子であれ皇女であれ、成人するまで手元で育てることが出来る。
しかし側妃の場合、皇女は手元に置けるが、皇子は5歳になると後宮から出され、郊外にある離宮で育てられることになる。彼らは未成年までは皇子として扱われるが、成人したらシュトゥルムフート帝国の掟通り、臣籍降下して家臣となり、爵位を賜ることになる。皇子だから公爵が妥当だが、公爵位を得られるのは皇妃の息子のみ。側妃の生んだ皇子は、母親の地位によって侯爵から男爵まで様々だが、皇妃の息子でない皇子は皆が1代貴族と定められていた。帝国は広いが、大勢の庶出の皇子にまでいちいち爵位と領地を与えていたら、キリが無くなるからだ。従って庶出の皇子の二世の子供たちは、他の貴族に婿入するなり、騎士や官僚になって、地位と名誉を築いていくより選択肢はなかった。
一連の即位式や後宮が整えられて、ヴァイゼ新皇帝は即位から1年後、ようやく一息つくことができた。
そこで引き続き皇宮軟禁中の元皇太子シュタルク・イノセント伯爵を呼び出し、ヴァイゼ新皇帝は皇帝付きの護衛2名以外は人払いして、バラ園のガゼボで茶会を開いた。
「私がね、自分が前皇帝陛下の子ではないと知ったときは15歳の時だったよ。偶然、母とエアファーレン近衛団長が戯れながら話しているのを、立ち聞きしてしまったのさ。それで、どうやって皇太子の座から降りようかと模索しているうちに、歳月がたってしまった。下手な手を打つと、フェルム王国と我が国との間に摩擦が起こる危険性があったからね。確実に皇太子を退位するチャンスを狙っていたんだ」
庭園で新皇帝ヴァイゼとアフタヌーンティーを水入らずしてしていたとき、前皇太子ことシュタルク・イノセント伯爵は険しい顔で言った。
「そんな若い頃から……兄上は苦労していたんですね」
ヴァイゼ新皇帝は同情する。清廉潔白を絵に描いたような兄だけに、真実を知り、皇族だと偽るのはさぞ辛かっただろうことが推測される。
「そんな顔しなくていい。今は息子と幸せに暮らしているのだから。エアファーレン伯爵の息子と孫には可哀想なことをしたと同情するが、伯爵はもっと苦しんで逝ってほしかったな。母も母国に返されたはいいが、我が国に貸しを作った罪で幽閉されているらしい。いい気味だ。いっそ国を乱した責任をとって、自害でもしてくれたら少しは見直してやるのに」
苦々しい顔で、シュタルク・イノセント伯爵は紅茶を飲む。心底から、母と実の父親を嫌悪しているのがよく分かる。
「兄上は、皇宮から出られないことに不自由はありませんか?」
ヴァイゼ新皇帝は、異母兄に尋ねる。「もう主従関係だから、兄と呼ぶのは止めてください」とシュタルク・イノセント伯爵は懇願するが、ヴァイゼ新皇帝が「兄は兄です」と言い張るため、シュタルク・イノセント伯爵は「2人きりのみだよ、兄弟に戻るのは」と条件付きで妥協した。
「別に住まいや仕事内容が変わっただけで、皇太子時代から皇宮の外へは祝典以外は出してもらえなかったから、昔も今も変わりないね。いまは、会計監査室で各領地の税収計算をしているけど、本当は学校で医学を学びたいんだ。そして将来的には庶民向けの診療所を開きたい。夢想家だと笑うかい?」
「まさか。ただ学校は皇宮外にあるためーー」
「うん、私は監視対象だからね。でもいつか、夢をかなえるために、独学で勉強はしているんだよ。皆には内緒にしててね」
「兄上なら、いずれ夢を叶えてしまいそうですね。それよりも、ご相談させていただいてもよろしいですか?」
「改まって、どうしたんだい?」
シュタルク・イノセント伯爵は、背筋を正す。
「私は、父の東の大陸流の後宮には反対です。高い塀の中で、これまでのように家族と会うことも禁じられた籠の鳥の妃たち。しかも伯爵以上の一族全てから、娘を差し出させるなんて、父上はショックでどうかしてしまったのかもしれません」
ヴァイゼ新皇帝は、乱暴にスコーンを割って、クロテッドクリームをたっぷり塗ると、大口を開けて頬張った。完全にマナー無視だが、シュタルク・イノセント伯爵は咎めたりしなかった。
「私は、むしろ前皇帝陛下のご慧眼に感心しているけどね」
「なぜ!」
リスのようにスコーンを口に頬張って喋ったものだから、ヴァイゼ新皇帝は噎せてしまう。シュタルク・イノセント伯爵は慌てて熱い紅茶に氷水を足したものをを勧めて、ようやくヴァイゼ新皇帝は落ち着いた。
「父上は女狂いになったと、世間ではもっぱらの評判ですよ」
ヴァイゼ新皇帝は、嫌悪感丸出しで非難する。
「……いま国は、私とヴァイゼ皇帝派で分かれている。私が前皇帝陛下の御子ではないことは確定しているのに、それを偽造だと騒ぐ貴族が今尚多い。だから前皇帝陛下は、側妃という形で、人質を高位貴族からとることにしたんのだ。状況が収まるまで、少なくとも四半世紀は、この状態を続けた方がいい。妃として後宮に閉じ込められた貴族令嬢には酷だと思うが、愚かな派閥を黙らせるにはいい方法だ。ただ……まさか陛下がこんな早く崩御なさるとは想定外だったが」
シュタルク・イノセント伯爵は、若干顔を赤らめて咳払いする。
ヴァイゼ新皇帝も、気まずげに目を逸らす。
前皇帝エドヴァルドの死因は、後宮で若い側妃と激しい夜を過ごしての腹上死、なんとも言い難い亡くなり方をしたのだ。表向きは心労からくる心臓発作ということにしているか、既に貴族社会では公然の秘密だ。相手の若い妃も可哀想に。
「……本当は、私も自害するなり処刑されるなりしたほうが良かったのだろうが」
「兄上!」
「大丈夫、生き恥をさらし続けることにも意味がある。くだらない自尊心で自らに手をかけて、国の火種になるつもりはない。前皇帝陛下は、反体制派貴族、正確には私の復権派を炙り出して制圧するためにも、私に辛くても生きてくれと諭された。もしも自死や処刑などしたら、それこそ反体制派の火に油を注ぐ行為で、クーデターなんて面倒なことをされて国を乱される方が面倒だと仰られたんだ。我が子でなかった私に、正直なところ失望の念は隠せなかったと吐露されても、エドヴァルド前皇帝陛下は私を信頼してくれた。家族より、国を優先する、本当にエドヴァルド前皇帝陛下は優れた為政者だった」
シュタルク・イノセント伯爵は、空を仰いで遠い目をした。エドヴァルド前皇帝は、たとえ血の繋がりはなくても、シュタルク前皇太子を息子として愛していた。そしてシュタルク・イノセント伯爵も、エドヴァルド前皇帝に絶対の忠誠心と尊敬を抱いていた。
「私が皇宮で軟禁されているのも、反体制派貴族が接触してくるのを待つため。つまりは疑似餌だよ。これまで愚かな反体制派貴族が何名、拷問の末に闇に葬られたことか」
確かに、シュタルク・イノセント伯爵の言う通り、このところ突然、当主が病死なり事故死なりして亡くなっての当主交代劇が、ここ数年で何件あっただろうか。まさか裏でそんなことになっていとは。
「反体制派貴族当主の跡取りが穏健派の場合、世襲はスムーズに行われる。だが息子も父親に傾倒している場合は、息子を廃嫡して親戚から皇帝派の者を当主に据える。即位したての陛下には、余計な情報だったかな?」
シュタルク・イノセント伯爵は、一癖ある笑みを浮かべている。
「そうだったのか」と、ヴァイゼ新皇帝は腑に落ちた。前皇太子の異母兄は、ここで大人しく軟禁されて腫れ物扱いされていたわけではなく、裏で反体制派粛清の指揮を取っていたのだ。
(これほど忠誠心な厚い兄上が、本物の父上の息子でなかったのは、父上もさぞ無念だったろうに。それでも反体制派粛清リーダーに指名されるほど、本来ならフェルム王国のスパイと疑われておかしくない出自にも関わらず、父上から絶大な信頼を寄せられていたに違いない。もしもイーリス元皇妃の不義の子ではなく、たとえば下級貴族の令息として生まれていたにしても、兄上はきっとのし上がり、父・皇帝の忠臣となっていただろう。陽の光の下を歩いていける出自なら、兄上はもっと自由で大きなものを掴めただろうに。地位はもちろん、信頼も、尊敬も、皆が羨む何もかもを手に入れて)
ヴァイゼ新皇帝は、改めてシュタルク・イノセント伯爵が皇妃の不義の子であることが惜しいと思った。
「ところで、後宮入りが義務付けられた伯爵家以上の高位貴族から、未だ側妃が出していない一族は3貴族だったな。だがウィロー辺境伯は年内にも辺境伯令嬢が後宮入り可能年齢になったらすぐ、リネン伯爵も親類の娘の淑女教育が終わり次第との返答が来ている。残りはベルクバック侯爵だな」
「ええ。ですが先頃、ベルクバック侯爵からの書簡で、次子ウェスリー子爵の妾の娘を後宮入りさせると返答がありました」
「ほう、あの一族に妾腹とはいえ妙齢の姫がいたのか」
シュタルク・イノセント伯爵は驚いた。そして
シュタルク・イノセント伯爵は、後宮リストと貴族譜を照らし合わせる。他家は正室の令嬢がいない場合、妾との間に出来た娘や親類の娘を正規の娘として登録し、既に後宮入りさせている。
ちなみに公爵家、侯爵家の出した令嬢が、血縁のある伯爵家だった場合。例えるならベルクバック侯爵家がよい例で、侯爵の孫娘であるウェスリー子爵令嬢を差し出したことで、一族として使命は果たしたとカウントされて、スタンリー伯爵家から新たにもう1名新たに出す必要はなくなる。確かに後宮とは皇帝の子を生ませる場所だが、現在は人質の意味の方が強いからだ。
「ベルクバック侯爵家が、令嬢を後宮入りさせるのに四苦八苦していたの仕方ないことでしょう。あそこは男系の血が濃く、これまで父上の側妃だったベルクバック侯爵令嬢は数代ぶりの娘だったらしいですから」
「ベルクバック侯爵の跡取りスタンリー伯爵の愛娘は、まだ11歳。しかし他家とて、自分の娘が成長する中継ぎとして、親類縁者の娘を後宮入りさせている。伯爵家ならともかく、侯爵家となると見逃せないものがあるな。ましてや妾腹とは言え、孫娘がいたとなると」
「ですがベルクバック侯爵家は、中立の立場を取っております。いま適齢期の貴族ゆかりの娘を探すのは困難ですし、妾腹の孫娘を後宮入りさせられなかった事情も察しなければ」
「他家は苦心して、忠誠を形にした。たとえベルクバック侯爵家が人畜無害としても、体面が悪い。スタンリー伯爵令嬢が成長して後宮入り出来るまで、事情はどうあれ、いち早く妾腹の孫娘を後宮に入れるべきだった。他家に不信感を抱かせて体裁が悪くなるのはベルクバック侯爵家なのは、百も承知だったはず」
まあ言ってるシュタルク・イノセント伯爵も「妾を囲っても男児しか生まれないのは、こういうとき哀れだな」と本音を吐いた。
……ともかく、ベルクバック侯爵家が妾腹の孫娘を後宮入りさせると言い出すまで、どんな娘でも良いから一族から令嬢を後宮入りさせよと、ヴァイゼ新皇帝の名前で書簡が何通も送られた。
(こういう書き方をすると、俺がよほどの女好きと誤解されそうだな。今のところ、皇妃の2人と、出自が明確な高位貴族の側妃としか同衾はしていないが」
女性同士の諍い、あるいは一族の代理戦争は見ていても楽しくない。隔離された女の園というのは、想像以上に醜いものだ。だからつい、皇妃2人のもとへ通ってしまう。この2人は皇太子時代からの妃で、いずれも1人ずつヴァイゼ新皇帝の子を産んでいた。属国からも妃が送られてきたが、彼女たち王女には手を出さず、贈り物三昧で放置。属国の王女をなまじ皇妃に取り立てて、その王女皇妃が息子を産んだ場合の、属国からの干渉を防ぐためだった。
そもそも後宮に、食指を伸ばすほどの妃もいない。皆、美しい者ばかりだが、ヴァイゼ新皇帝にはどれも着飾った孔雀のようにしか見えなかった。
(あんな金食い虫を大勢飼う意味が、本当にあるのか疑問だ)
これがヴァイゼ新皇帝の本音だった。
4.え?
ベルクバック侯爵は皇帝からの再三にわたる要請に屈したのか、妾腹の孫娘をベルクバック侯爵令嬢という名目で、来月にも後宮入りさせると返答した。
よくよく調べると、次男ウェスリー子爵の妾の娘らしい。バリバリ男系の家系だったベルクバック侯爵家だったが、息子二人はそれぞれ娘を1人ずつ得ていたようだ。ならば、どうしてこんなに後宮入りが難航したのか、皆が疑問に思った。
後宮は、伯爵令嬢(もしくは代理令嬢)は幾つか建てた館に振り分けられて生活している。ただ互いが敵であるため、隣同士にさせるわけにはいかず、ワンフロアを1人分の伯爵令嬢に開放していた。連れて来る召使いや侍女の数を考えれば、そのぐらい必要だろう。
辺境伯令嬢と侯爵令嬢と公爵令嬢には、身分よって規模の異なる独立した館が充てがわれた。
ヴァイゼ新皇帝即位後、長らくと言っても1年だが、空いていたベルクバック侯爵家の館に新たな側妃が入る。その後宮入りが決まった直後から、慌ただしく内装の改造や調度品が続々と運ばれてきた。もちろん後宮は男子禁制のため、工事するのも女性工事人、調度品を運ぶのも庭師も全て女性だった。
こうして夏の暑いさなか、ベルクバック侯爵令嬢、正確には正嫡の孫娘が後宮入り出来るまでの中継ぎ令嬢が、後宮へやってきた。
どんな令嬢なのか、後宮の者たちも興味津々。ヴァイゼ新皇帝も、兄のシュタルクを変装させて、秘密裏に抜け穴から後宮に侵入し、ベルクバック侯爵令嬢用の館の前で待機した。
後宮は広いため、後宮内専用の馬車に、後宮の入り口で馬車を乗り換える。馬車と馬も身分差によって豪奢さが増し、御者も護衛も全て女性だ。
その馬車から出てきた中継ぎ令嬢に、野次馬をはじめとする皆が呆気に取られた。
一言で言うと、美しい花園に悪趣味に着飾った豚が紛れ込んだかのようだった。ベルクバック侯爵が送り込んだ令嬢は、ドレスがはち切れんばかりに太り、まん丸の顔に塗りたくられた派手な化粧は滝のような汗で崩れている。
「……なんだか、ベルクバック侯爵が申し訳なく思えてきた」
女官に変装したシュタルク・イノセント伯爵は、口元を押さえながら言った。これほど醜悪な娘を出すしかなかったとは、義務で催促したとはいえ、さすがに罪悪感が増す。
「そうですか?毛色が変わって面白い娘ではないですか」
ヴァイゼ新皇帝は、好奇心も露わにベルクバック侯爵家が送り込んだ娘を見つめる。その顔には、これまで妃たちには見せたことのない柔らかな笑みが浮かんでいた。
「おまえ……醜女好きだったのか」
シュタルク・イノセント伯爵は、ショックを隠しきれないと言った様子だった。人の性癖は千差万別と言うが、ヴァイゼ新皇帝の美貌は帝国一と言っても過言ではないほど際立っている。その美の化身が、養豚場から逃げ出したかのようなベルクバック侯爵家の令嬢に、並々ならぬ興味を示すのは異常事態だった。
「皆に気づかれる前に、戻りましょうか」
ヴァイゼ新皇帝が言うと、シュタルク・イノセント伯爵は口調こそ礼儀正しいものの、異母弟の腕を強く掴んで隠し通路に戻った。そして隠し通路を通る道すがら、普段は異母弟の前では温厚で物わかりの良い兄の顔を崩さないシュタルク・イノセント伯爵も、よほどのショックから取り乱してしまったらしい。皇城へ戻る道すがら、ヴァイゼ新皇帝に「どれだけ趣味が悪いんだ!」と延々小言を垂れた。
5.うへぇ
「あー地獄だった」
後宮内のベルクバック侯爵令嬢用の館に入るなり、女装していたカーティス・ウェスリー子爵令息は、ふくよかに見えるよう頬を膨らませていた口の中の綿をハンカチに吐き出す。太った体に見せていたのは、ドレスの下に着込んだ肉襦袢。
この真夏に肉襦袢着て、首元まで隠れるドレス着てれば、汗だくになるのも当然だった。
「若様、直ちに湯浴みの準備をいたしますので、それまで奥の部屋でお休みください」
ウェスリー子爵邸で、主にカーティスの世話役担当だった侍女が言うなり、湯処へ走った。
別の侍女は、館2階の最奥にあるリビングへカーティスを案内する。女性しかいない中で、湯浴みや着替え以外にダラシのない格好をするのは貴族としてどうかとも思うが、全身から汗が噴き出していたので、早くドレスと肉襦袢を脱がないと熱中症で倒れそうだった。
侯爵令嬢に充てがわれる後宮の館は、かなり大きい。しかし同行したウェスリー子爵家の侍女と、ベルクバック侯爵家の侍女および両人含む雑用係は合計で12名。いずれもベルクバック侯爵が厳選した、口が固くて忠誠心の厚い侯爵家および子爵家に仕える敏腕女性達だ。
他の後宮入りした姫は、公爵令嬢や侯爵令嬢で50名程度、伯爵家は家の事情でバラツキがあるが、それでも30名は連れてきている。
ベルクバック侯爵家の付き添いが12名しか居ないのを、恐らく後宮の者たちは妃だけでなく使用人も嘲笑うだろうが、そもそも後宮の人間に好かれたいとも付き合いたいとも思わない。男とバレる危険性が上がるからだ。その最たるが、皇帝とのエンカウントだが。
カーティス・ウェスリー子爵令息は、子爵の妾腹の娘ということになっている。名はコーデリア・ブーケ。ベルクバック侯爵の養女として後宮入りしたので、一応侯爵令嬢となっているが、正嫡の血筋でないことで周囲は蔑むだろう。これまで妾腹の娘がいながら、ベルクバック侯爵が侯爵入りを渋っていたのは、コーデリア・ブーケが虚弱体質設定だったからだ。そのため母親も同行との許可を得ているが、もちろん本物の母ウェスリー子爵夫人ではなく、カーティスの乳母だった。
乳母の出自は貴族でなく狩人の嫁で、収入の安定しない夫の稼ぎを憂い、またカーティスが誕生する直前に男児を出産して乳の出も良かったから、カーティスの乳母に採用された。狩人の妻であり、自身も狩人の娘である乳母は、肝が据わっている上に、留守がちな父や夫が不在の際の防衛のため、家族全員が体を鍛え、武術にも長けていた。いまカーティスの乳兄弟は、ウェスリー子爵家の騎士見習いに励んでいる。
「お疲れ様でした。湯殿の準備が整うまで、どうぞ冷たいものでも飲んで、休憩してください」
母親役の乳母はドレスと肉襦袢を脱がせるのを手伝った。
バスローブに着替えて一息ついたカーティスに、顔見知りの侍女が氷の入ったジュースを運んでくる。カーティスは受け取るなり、一気にそれを飲み干した。
「あー、生き返る。風呂の温度は低めにしておいてくれ。それと肉襦袢、確かあと2着あったな。スペアを用意して、すぐに着られるように準備しておいてくれ。ドレスもだ」
「あの……今日はもう、肉襦袢は必要ないのでは?」
乳母はカーティスの命令に首をかしげる。
「ハンナ(乳母の名前)、おまえは人目を避けるようにして、皇帝が侍従と遠くから僕を見ていたことに気づかなかったかのか。やけに皇帝が熱心に見ていたから、今晩あたり突撃してくる可能性が捨てきれない。杞憂であるのを願うがな」
秀才のカーティスは、周囲の動向を探る癖が身についていて、視野が広い。気弱な醜女のフリをしてうつむき加減で歩き、気づかぬふりをしていたが、野次馬の背後の物陰に皇帝らしき男と、侍従もしくは身なりの良さから皇帝の忠臣貴族が居るのを見逃さなかった。カーティスは、醜女偽装が逆に目を引く羽目になったと、今更ながら後悔した。
「本日、後宮入りした若様のもとへ、まさか。侯爵閣下の話によると、皇帝陛下が後宮入りした高位貴族の側妃のもとへ挨拶に来るのは、1週間から長ければ1ヶ月ほど経ってからとお伺いしておりますが」
乳母はもちろん、お付の者たちも困惑する。一応、代理の女官長が挨拶に来るのは確定だが、それも後宮入りして疲れている当日ではなく、翌日以降となっているはず。
皇帝の方は、礼儀上、高位貴族の側妃に挨拶に伺うようだが、それも直系の公爵令嬢もしくは侯爵令嬢や辺境伯令嬢に限られ、養女や妾腹の名ばかりの令嬢には代理人を差し向ける程度という話だった。伯爵令嬢以下ともなると、皇帝は寄り付きもしないらしい。
どうやら皇帝は、責務重視の、愛に溺れるタイプではないらしい。
「既に第一皇妃殿下との間に、皇太子候補の皇子殿下を儲けられておりますし、側妃の方々にも第二皇子、第三皇子がいらっしゃるので、わざわざこちらへいらっしゃる必要があるでしょうか?」
侍女頭は怪訝な顔をする。ヴァイゼ皇帝は、血統正しい直系の公爵令嬢もしくは侯爵令嬢とのみ子を儲けている。18歳にして三男一女の父親でもあった。
4人まで持てる皇妃のうち、現在ヴァイゼ皇帝の正妃は、第一皇妃のザフィーア・ファオスト公爵令嬢、第二皇妃のフリーダ・エーラ侯爵令嬢が席を2つ埋めているが、残り2つも子をもうけた側妃2人が皇妃に昇格するというのが有力だ。
「警戒しておくに越したことはない。それにお祖父様は侯爵ながら、一番最後に一族の娘を後宮入りさせた失態もある。だが先方も、ベルクバック侯爵家が穏健中立派で、男系一族なのは周知してるはず。本命の妃はスタンリー伯爵家のカメリアだというのも知っているだろうから、目をつけられるはずがないと言いたいがな」
しかし皇帝の視線に気づいたカーティスは、頭の中で鳴っている警告音を無視できずにいた。
そしてカーティスの危惧は現実となる。先触れの遣いが、今夜の夕食を共にしたいと伝言を持ってきたのだ。
12人の付き添い達、特に料理人は皇帝に料理を振る舞うことなど全く想定していなかったので、パニックだ。
カーティスは「やっぱりか」と、観念する。肉襦袢を着て、悪趣味なドレスをその上から着用し、醜女仕様の厚化粧と髪色と同じカツラを被った。
(後宮のいいところは、先触れがあることだな。これが突然の訪問だったら、準備が間に合わない)
カーティスの変装は、どれだけ急いでも30分は確実にかかるからだ。
(しかし普通は、毒殺を懸念して皇城以外で食事を摂らないだろうに。わざわざ到着当日に来訪の上、夕食まで所望するとは随分と厚かましいじゃないか)
自国の皇帝ながら、カーティスは憤慨する。それを侍女頭と乳母が必死でなだめ、カーティスがようやくコーデリア・ブーケ・ベルクバック侯爵令嬢になりきったのは、皇帝到着10分前だった。
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