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第二章 悪夢だ!
アパタイト 早く僕に戻りたい
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1.悪夢の夕食
ヴァイゼ皇帝陛下は、定刻通りにやってきた。護衛は先ほど見かけた男性ではなく、5名の女性騎士を伴っている。後宮に男を入れない規則のためだろう。だとすると、先ほどの親しげな中年男性は何処から入ってきたのだろうかと、カーティスは疑問に思う。
しかし、目下の危機は食事だ。カーティスは醜女偽装のために、口に綿を詰めている。毒殺を疑われないために、率先して食事せねばならない。だが扇で顔を覆いながら食事するわけにもいかない。
カーティスことコーデリア・ブーケが考えた末に出した結論は、なるべく頬に空気を溜めておくことだった。
皇帝と儀礼的な挨拶を交わし、食堂へ案内する。食卓に並んでいるのは、ポトフとパンとポテトサラダのみ。アルコールは、氷入りのガラスの器に未開封の白と赤のワインを瓶ごと冷やしてある。
これは皇帝を迎えての夕食にしては質素すぎるどころか、貴族の通常の食卓と比べても貧相すぎる。皇帝の護衛女性騎士の顔が強張っているのがよく分かる。
「申し訳ございません。私は遠出すると車酔いが酷くて。遠出した当日は、本当は食事をするのも苦痛なのですが、母や侍女頭が少しでも食べるようにと、軽めの食事が恒例なのです。あの……あまりに失礼な料理なので、本日は別の方のもとへ参られた方がよろしいかと」
カーティスことコーデリア・ブーケは、扇で顔を覆いながら、ボソボソした口調で言い訳する。心の中では「さっさと立ち去れ、飯なら皇城で絢爛豪華なものが食えるだろう!」と罵っていた。
「いや、俺としても丁度いい。最近の脂ぎった食事や精の付く料理には、辟易としていたんだ」
ヴァイゼ皇帝は、遠慮なく上座に座る。
(まあ、分からなくもないか。皇太子になったのが4年前、それからいきなり皇帝に即位したのが1年前で、こなさねばならない仕事も山積みで胃も疲れていることだろう」
カーティスことコーデリア・ブーケは、皇帝の席の向かいに座るが、テーブルが長いので、ヴァイゼ皇帝と距離があるのは幸いだった。
まず護衛の一人が皇帝の皿から、カーティスも毒見がてら自らの皿から食事をする。それから問題なしの判断が下って、ヴァイゼ皇帝は質素な食事を始めた。
「見た目はお世辞にも貴族の食べるものとは思えないが、味はいいな。胃に優しく、良い香りもするが、特別なハーブでも使っているのか?」
ヴァイゼ皇帝は尋ねる。
「はい。当家はハーブの一大産地であるため、パンや料理にもハーブをよく使用しております」
カーティスは俯いて食べながら、ボソボソと説明した。マナー違反は承知の上だが、太った顔を食事中は偽装出来ないため、護衛女性騎士から白い目で見られているのも仕方がないこと。偽装がバレるより、ろくにマナーも身につけていない令嬢と嘲笑される方が都合がいい。皇帝と会うのも、これっきりで終わりたいものだ。
「ところで、コーデリア嬢の異母兄は貴族学園首席合格したそうだな。とても優秀な兄を持って、異腹とはいえコーデリア嬢も鼻高々だろう」
ヴァイゼ皇帝の言葉に、危うくカーティスはパンを喉に詰まらせそうになる。しかしワインで喉の詰まりを押し流した。
ちなみにこの国では、幼い頃から水で割ったワインを飲み、10歳を過ぎるとストレートのワインを飲む。カーティスをはじめ、ベルクバック侯爵一族はアルコールに強いため、実母や祖母のようにグラス一杯で酔いが回り、顔が真っ赤になることもない。
「……はい」
カーティスは、この場合の返答に困った。既に学園には急病のため休学届けを提出している。それに自分で自分を褒めるのは、こっ恥ずかしい。
「ところで、コーデリア嬢はどんな趣味があるのだ?」
ヴァイゼ皇帝は月並みな試問をしながら、ポトフのおかわりをしている。既に料理のほとんどは空だ。連れてきた料理人は急きょ、特製ハーブソーセージとポテトフライを作って出した。それらも女性騎士が皇帝の皿から毒見したが、ハーブを練り込んだソーセージに目を大きく見開いてつい二口目を食べようとしたが、皇帝に止められ、顔を赤くしながら背後に下がった。
それでも毒見役の護衛女性騎士は、ハーブソーセージの味を反芻しているのか、上の空だ。カーティスは「その気持ち、よく分かる」と思った。ウェスリー子爵家の特製ハーブソーセージは絶品と評判だったからだ。街でも様々な店が、独自の調合でハーブソーセージを作っており、それらの食べ歩きも楽しい。
(皇帝の手前、ワインにしたが、本当はソーセージにはビールが抜群なんだよな。もっとも病弱、馬車酔い設定の僕は、ここでは食えないけどさ。皇帝が皇城なり他の側妃のもとへ行ったら、真っ先にリクエストしよう)
カーティスは心のなかで呟いた。
デザートは果物とカスタードプリン。胃に優しいを強調したメニューだ。皇帝はデザートもペロリと平らげたが、カーティスは病弱設定のため、本当は腹5分目さえ満たされていなかったが、断腸の思いで食事を残した。それらは母親役の乳母が下げたが、きっと皇帝がこの館から去った後のために残していてくれてるはず。
しかし皇帝はリビングに移動して、帰る気配がない。皇帝は隣にカーティスことコーデリア・ブーケを隣に座らせ、密着した。
(近い、近い、近い!)
さり気なくカーティスは距離を取ろうとしたが、ヴァイゼ皇帝はカーティスに腕を回して離さない。皇帝はリビングの蔵書を興味深げに眺める。
「さすが首席兄の妹だけあるな。女性向けの小説が主だが、これほどの蔵書数とは」
ヴァイゼ皇帝は感心する。皇妃も側妃も、高価な調度品を品よく飾っているが、カーティスは「どうせ皇帝は来ないのだし」と、リビングは女性らしさを勉強するための小説が詰まった本棚が並んでいた。こんなことなら、つまらない調度品を様式美として飾っておくべきだったと後悔する。
ちなみにカーティスのプライベートエリアには、数え切れないほどの多種多様な分野の蔵書がある。子爵家から持ってきた分より、リスクを冒して身分を偽るのだからと、祖父から報酬として大量の本を買わせ、後宮に運び込んだのだ。それらの中には外国語の本も多くあるが、カーティスは数カ国語を話したり読んだり出来るので問題なし。カメリアが後宮入りするまでの2年間、独学で勉強して貴族学園をスキップし、帝国総合大学へ進む公算だった。
ヴァイゼ皇帝は、カーティスことコーデリア・ブーケの耳元に口を寄せる。
「君さ、本当は子爵家の首席君だろ」
ヴァイゼ皇帝の囁きに、カーティスは目を見開いて皇帝の顔をガン見する。完璧な黄金比の美形の皇帝の顔が目に映る。皇族に多く出る特徴のアクアマリンの瞳、眩いばかりの黄金の髪。冬の王のような怜悧な鋭さを持つ美しさ。
「……よく兄に似ていると、父には言われますわ。私自身は、兄上にお会いしたことありませんけど」
必死に平静を保ちながら、カーティスは弁明する。だが似ているというのも無理がありすぎる。カーティスは平均より上の、美形ではないがそこそこ整った顔立ちの少年。一方のコーデリア・ブーケは、下膨れの顔をした醜女だ。
すると突然、ヴァイゼ皇帝はコーデリアをお姫様抱っこして立ち上がる。
「今宵はここで過ごす。寝室は何処だ」
慌てふためいたのは、カーティスはもちろん、ベルクバック侯爵家の付添人たち、そして皇帝の護衛女性騎士5人だ。
しかし皇帝陛下のご命令とあれば、逆らうことは出来ない。
「……あの、無礼を承知で申し上げます。娘は体が弱くて―ー」
「丁重に扱うさ。それにハーブの産地の子爵領の者たちなら、薬草の調合ぐらい手慣れているだろう。それとも、私に逆らうつもりか?」
先程まで、容姿に似合わぬ気さくな態度から一変、ヴァイゼ皇帝は権力者の顔となる。
皇帝から直接叱責を受けて、乳母は顔を真っ青にしてその場に崩れ落ちる。
カーティスも正直、頭の中がパニックだったが、もはや正体が見破られてるなら仕方がないと、腹を括った。
「皇帝陛下を寝室へ先導して。私は大丈夫だから」
そう言いつつも、カーティスの顔色も悪い。しかし自分のためにリスクを冒してまで同行した者たちを傷つけるわけるにはいかない。
侍女頭が、顔面真っ白ながらも、気丈に2階の寝室へ案内した。
2.冗談はよせ!
寝室は、カーティスのプライベートエリアの2階左翼ではなく、2階右翼の皇帝接待用のエリアだった。形式的に作られたエリアだが、まさかここを使うことになろうとは。
皇帝はここで侍女頭たちや護衛女性騎士を下がらせる。皇帝を迎えるための豪奢な造りの寝室で、カーティスとヴァイゼ皇帝は2人きりとなった。近年導入された電気のおかげで、真昼のように明るい。もっとも電気は皇宮や高位貴族のみが使える高価なもの。皇都はガス灯が使われているが、ド田舎のウェスリー子爵領では、未だ明かりはランプかロウソクだ。
「さて、まずはその醜い化粧落としてきてもらおうか。カーティス・ウェスリー君?」
ヴァイゼ皇帝はベルベットのソファに座って足を組み、さも楽しげにカーティスに言った。
「ああ、もちろんそのドレスと太った体にしている仕掛けも外してくるように。一応、着替えはクローゼットに入ってるはずだろう」
悪趣味なドレスや下着の他にも、皇帝用の男物が確かにクローゼットに入っている。
カーティスは寝室の続き部屋に入り、クローゼットから男物の服や下着を出し、洗面所で顔を洗った。皇都では水道が使えるから便利なものだ。ウェスリー子爵領では、未だに井戸から水を汲んで水瓶に溜めているというのに。
化粧を落とし、カツラを取り、肉襦袢とドレスを脱いで着替える。皇帝の服は、14歳になったばかりのカーティスにはブカブカすぎた。あと3年もすれば、むしろトラウザーズはつんつるてんになるだろうが。
元の姿に戻って皇帝の御前に戻ると、ヴァイゼ皇帝は皇帝は感嘆の声を上げた。
「元はそんな細身だったのか。あの太った体は、どうやったのだ?」
ヴァイゼ皇帝は、興味津々に尋ねた。
「肉襦袢といって、綿を詰めた長めのシャツを着ていました。足はドレスで隠せますが、ズロースの下に沢山着込んでいました」
「それは暑かっただろうに。真冬ならともかく、いまの時期は夜でも暑い」
「ええ。何度、死ぬかと思いましたよ。それで、我が一族は、皇帝陛下を謀った罪でお取り潰しですか?」
カーティスは開き直って、遠慮なく尋ねる。「だから、こんな茶番はうまくいくわけないと言ったのに」と、心の中で悪態を付きながら。
「ベルクバック侯爵を追い詰めた罪は、こちらにある。穏健中立派のベルクバック侯爵一族を断罪したら、それこそ国は乱れることになるだろう。君の性別に関しては、俺と君の秘密だ。ここの使用人たちにも、口止めをしておくように。皇帝に逆らえば、一族郎党断罪に処すと脅しておけば、口をつぐむだろう」
「では、我が一族はお咎めなしと?」
カーティスは、死も覚悟してただけに、破格の温情に見る見る表情が和らいだ。しかし、カーティスの受難はこれからだということに、彼はまだ気づいていない。
「君が俺の言う通りにすれば、スタンリー伯爵令嬢が後宮入りするまで黙っててやる」
「何をすれば?」
カーティスが首をかしげる間もなく、ヴァイゼ皇帝は、カーティスを抱き上げる。肉襦袢の嘘偽りの太った体だっただけに、先程ここへ抱き上げて連れてきた際も、軽いカーティスの体に驚いていたが、こんな華奢な少年なら軽いのも当然だ。
「なに、側妃の務めをしてくれれば良いだけだ。俺は君を初めてみたときから、昔から興味のあった行為を試してみたくてね。まさに君は、俺の理想の具現化した顔と容姿たよ」
ヴァイゼ皇帝は、公的には『私』、プライベートでは『俺』と使い分けているらしい。まあ激昂したときから、その区別は気づいていたが、いまはそれどころではない。カーティスは、先ほどまでの暑さとは違う種類の汗をかいていた。
「あの……僕はそっちの趣味はないのですが」
カーティスは恐る恐る、ヴァイゼ皇帝の腕の中で言う。
「俺も一度試したいだけの興味本位だ。貴族社会で、同性愛が密かに流行っているのは、頭の良い君だって知ってるだろう?」
確かによく知っている。学園でも、高位貴族令息が迫ってくるのが珍しくないことも。だから皇都の学園で寮生活する際には、独自に開発した変態撃退スプレーを調合して、ポケットに常備して置くつもりだった。他にも、ド田舎にいながら情報を集め、高位貴族令息の弱みは幾つも握っている。しかし相手は皇帝、しかも男子禁制の後宮で男とバレたいま、カーティスや一族の命運を握っているのは、ヴァイゼ皇帝だ。
(こんな美形で、綺麗な妃がたくさんいて、子供だって4人もいるのに、なんで男に興味を持った!いや、百歩譲って男に興味を持っても、手近に身綺麗な若い貴族が沢山いるだろうに!)
カーティスは心のなかで叫ぶが、もはやどうにもならない。浴室に連れて行かれて、体を洗われた時は寒いぼが止まらなかったし、皇帝の綺麗でご立派な裸体には卒倒しかけた。
……こうしてヴァイゼ皇帝は、長年興味があった宿願を達成した。
3.最悪な朝
カーティスは、豪奢なベッドの上で目覚めた。まだカーテンの隙間から除く外は夜明け前だ。
カーティスは、ヴァイゼ皇帝に抱きしめられていた。いや、もう拘束されていたと言っていい。
(誰だ、同性の行為は女性と違う心地よさとほざいた奴は!何をされても『痛い』の一言しか尽きなかったし、今だって痛みで目が覚めちまった)
せめてカーティスは風呂に入りたかった。気持ちいいなど少しも思えず、気色悪いの一言に尽きた。だがこれも一族を救うためなら仕方ないことだった。皇帝を起こさないように彼の腕から脱出を試みたが、寝ぼけた皇帝はますます抱きしめる力を強くする。カーティスが必死にもがいても、ヴァイゼ皇帝の腕の檻から出られなかった。
抵抗しているのが虚しくなっカーティスは、二度寝を試みるも、あり得ない場所がズキズキ痛んで眠れない。
「あんな凶器を受け止める女性には、改めて尊敬しかないな。男に生まれて本当に良かった、と思いたいけど、いまこの状況じゃ性別以前に、もっと体格のいい筋肉ムキムキに鍛えておけば良かった」
カーティスは読書と勉強三昧だった過去を悔やんだ。そのうち、いつしか寝込んでしまったらしい。
カーティスが目覚めると、そこは後宮内のベルクバック侯爵令嬢館にある、皇帝陛下仕様の風呂だった。昨夜の汚れを洗い流してくれるのはいいが、そのうちヴァイゼ皇帝はムラムラしてきたのか、朝の一戦に持ち込まれた。
「痛え!」
カーティスが行為中に叫ぶと、事を終えた皇帝は首を傾げつつ、再度汚してしまった少年の体を洗う。
「おかしいな。マニュアル通り、苦痛のないやり方を実践したはずなのに」
「こんなことの指南本なんて、あるのかよ!書痴の僕だが、そんなもの見たことないぞ!」
昨夜の痛みが残る中で、再度挑まれて、あの部分は避けたんではないかと思うほど痛かった。
ヴァイゼ皇帝は、足がおぼつかないカーティスを抱き上げて、大きな浴槽へ共に入る。膝の上にカーティスを乗せて。
カーティスとしては、ヴァイゼ皇帝に触れられるのが怖かった。痛みを与えた相手が、いつまた発情するか分からなかったからだ。体の自由が効けば、一目散に浴場から逃げ出していただろう。
「初めての相手でも痛みをなくす方法って、初心者用の本は沢山出てるぞ。公の本屋では入手しづらいが。それに母たちの持っている同性愛小説も読み込んでいたし」
「そんなもの、陛下ともあろう方が読んではならないと、側近の方々に注意されませんでしたが?」
「いや、むしろ俺の側近は経験済みが多かった。もっとも攻める側が大半だったが、同性愛が癖になって妻と疎遠になっている者も多い。だから、そんなに良いのかと興味をもったのだが」
ヴァイゼ皇帝は、カーティスを後ろから抱きしめながら、頬にキスをする。
「当初は俺も、わざわざ男を抱く奴の気がしれないと嫌悪していたがな。だが、君を見た瞬間に一目惚れして、体が疼くのを留められなかった。実際、こういう関係になってみると、妃を抱くのが億劫になってきた」
「いや、早くノーマルに戻ってください。あんな汚いところに発情するって、異常だと思いません?」
「充分、綺麗に洗ったし。それに本当に欲しい相手との行為は、これほど素晴らしいとも思わなかった。名残惜しいが、そろそろ出るか。面倒な公務が待っているからな」
ヴァイゼ皇帝は名残惜しげに、カーティスを抱き上げて浴槽から出た。
「あの悪趣味な女装は、絶対に続けるんだぞ。なまじ素顔なんて見せたら、うるさい小バエが寄ってきそうだ」
ヴァイゼ皇帝は、後宮のベルクバック侯爵令嬢館を出る前に、口うるさくカーティスに様々な事を注意した。特に、病弱の肩書で後宮入りしたのだから、人目につかないよう館に籠もってろと言うことだった。どうやら皇帝は、普段は淡泊だが、執着した相手には独占欲が強いようだ。
いまも皇帝命令で、カーティスは肉襦袢と悪趣味なドレスを着て、ケバい化粧を塗りたくっている。玄関の外まで出る必要はないと言われたのは有り難いが、別れ際の濃厚なキスは、吐きそうになるためやめて欲しかった。そもそも濃い口紅が移ってるし!
ヴァイゼ皇帝が、手の甲で自らの唇についた口紅を拭う姿は、カーティス以外のその場に居た者、皇帝の護衛女性騎士や侍女頭をはじめるとすふ館の使用人たちは、その艶めかしい仕草にハートがズキュンとされていた。カーティスは、皇帝が去ったら、顔を、特に唇をゴシゴシ洗ってウガイして、改めて醜女メイクしてもらおうと頭の中で考えている。
「女装は続けますよ。バレたら一族の危機ですから。それでは、お気をつけて」
カーティスは散々貪られた末に体はガタガタながらも気力で立ちながら、後ろ髪引かれつつ去っていくヴァイゼ皇帝を見送る。腹の底で「二度と来るな、この変態が!」と叫びながら。
4.女は怖い
カーティスの願い虚しく、ヴァイゼ皇帝は週に一度は後宮内のベルクバック侯爵令嬢館で夜を過ごした。本当は毎日でも来たいようだが、他の妃達の手前、週1で我慢してるそうだ。カーティスの本音としては、二度と来て欲しくなかったし、たとえ来るにしても、皇妃2人へは特別待遇が必要だし、後宮の側妃たちを巡れば、年1もしくは半年に一度でで充分だろと思ってる。
皇帝はカーティスのために怪しい指南書や同性愛小説を持ってきたが、読む気もしないほど気色悪さしかない。カーティスは目に触れるのもおぞましいと、物置に放り込むよう指示した。ところがそれらは物置に収納されるどころか、館の乳母や侍女頭をはじめとする女性使用人たちが競って、顔を赤らめながら夢中になって貪り読んでいる。
「若君も、そろそろ慣れてきましたか?」
侍女頭は気さくに尋ねる。そりゃ、皇帝が頻繁に訪れ、乱れた寝所を見れば、2人が何をしてるぐらい誰だって分かるだろう。
「慣れるわけないだろ。苦痛ばかりで、どこが快楽なのか、未だに理解できん。脳より先に体が覚えるとか言われているが、僕の場合は蕁麻疹拒絶反応の一歩手前だ」
これは建前でなく本心。カーティスは皇帝に抱かれることに全く慣れず、快楽を拾うどころか、拷問にかけられているとしか思えなかった。
ある日、ベルクバック侯爵令嬢館に手紙が届いた。後宮内て一番身分の高いバイエル公爵令嬢からの茶会の招待状だった。
バイエル公爵令嬢は、ヴァイゼ皇帝の従妹にあたる。だが一度も皇帝は従妹のもとを訪れたことはないらしい。
皇帝いわく、「昔から傲慢で我儘な身勝手令嬢で、顔も見たくないほど嫌いなんだ。おまえも、こんな招待は断っていいぞ。不愉快な思いをするだけだからな。顔や体を傷つけることだって、奴なら平気でするぞ」
ヴァイゼ皇帝が従妹と同衾しないのは、血が近すぎるせいもあるが、やはり従妹令嬢の性格の悪さが最大の原因らしい。当時、シュタルク・イノセント伯爵が皇太子だった頃は、妃にでもなりたかったのか媚を売っていたようだが、他の皇子たちのことは、たとえ別の皇妃腹の皇子であっても、鼻から馬鹿にしていた。過去を悔やんだところで始まらないが、少なくともヴァイゼ皇帝時代中は、バイエル公爵令嬢に皇妃の座が巡ってくることはないだろう。
皇帝には断れと言われたが、後宮のボスの誘いを無視するなんて出来るだろうか。確かに正嫡の侯爵令嬢だったらそれも可能だろうが、カーティスことコーデリア・ブーケは子爵の妾腹の娘ということになっているのだ。
それにカーティスは、ここまでヴァイゼ皇帝に嫌われるバイエル公爵令嬢に興味があった。皇帝に嫌われるための今後の参考に、ぜひ会ってみたい。
(だが、招待状に丸をつけてノコノコ出向いたら、陛下に後でどんなにいたぶられるか、想像するだけで恐ろしい。ここは丁重なお断りの手紙を出すか。性格が悪いなら、どうせ断っても迎えを寄越して来るだろう)
カーティスは、美しいバラの絵柄の便箋に、病弱を理由とした断りの手紙を書いた。文字は苦心しつつ女性らしく変えている。まあ、我儘令嬢にそんな気遣いせずとも、カーティスの本物の文字の癖など知る由もないだろうが、念の為。
カーティスの思惑通り、当日には後宮内専用の公爵家紋章入りの馬車が迎えに来た。
カーティスは侍女頭のみを同行させて、醜女ファッション全開で馬車に乗り込んだ。
「大丈夫でしょうかね。東の大陸の後宮では、身分低い妃が変死するのも日常茶飯事だそうですよ」
侍女頭は不安げだ。それにしても妙な知識を知っているものだ。まあ、リビングの恋愛小説の影響だろう。娯楽の少ない後宮で出来ることと言ったら、読書や刺繍など退屈なことしかない。妃たちは派閥を作って頻繁に茶会を開いているそうだが、カーティスは病弱を理由にどの派閥にも属していない。そもそもベルクバック侯爵家は、穏健中立派だ。
茶会は応接室で行われるようだ。まだまだ残暑厳しい中で、庭園で茶会など開かれたら熱中症で倒れる危険もあるから有り難い。
広い応接室に通されたカーティスことコーデリア・ブーケ侯爵令嬢は、扇越しに感嘆の声を上げる。顔は綿を詰めるのとは違う方法でまん丸にする技法を見つけたので、お茶会で飲食するのも問題はないが、なるべく話す時は扇で顔半分を隠すよう心がけている。
(公爵令嬢の趣味だろうか、悪趣味な調度品だな。そしてズラリと揃ったバイエル公爵令嬢の取り巻き側妃。こいつら、みんな全員、陛下に嫌われてるのだろう。でなければ、プライドの高いバイエル公爵令嬢が皇帝のお手つき妃を、取り巻きに加えるはずもない)
美しく着飾った即妃総勢10名が、ズラリと席に座ってる。彼女たちはドレスや派手な髪飾りに必ず赤を取り入れている。しかし数席空けた末席の3人の毛色の違う妃は、オドオドしながら小さくなっており、衣装やアクセサリーに赤を何もつけていない。
(ははん。生贄は僕だけでなく、弱小貴族出身の令嬢も取り入れての趣向か。これは気を引き締めた方が良さそうだな)
カーティスことコーデリア・ブーケは、気を引き締める。偶然というか、彼女の着ている悪趣味な茶会用ドレスは、黒地に赤いバラの絵柄の生地だった。こんな酷い絵柄の生地が作られているとは、この生地を取り扱っている職人や店は大丈夫かと、毎度のことながら、逆に心配になる。
カーティスの席は、体面上は祖父侯爵の養女のため侯爵令嬢で、本来は席次は上座に近いはず。だが案内された席は、末席の弱小貴族令嬢たちと並んだ場所だった。まあ、このぐらいの稚拙な意地悪は想定済みだが。
「ご機嫌よう、ベルクバック侯爵令嬢。欠席ということでしたけど、一昨日も陛下のお渡りがあったというので、さほど病気は重くないと判断して迎えを寄越しましたの。本当に、病気とは思えない体ですこと」
一番高い地位の者が座る席に居る側妃が、高笑いをする。あれが恐らく今回の主催者バイエル公爵令嬢だろう。皇族の血が濃いだけあって、見事な金髪とアクアマリンの瞳をした美女だ。年は皇帝と同世代だったはず。その割には……
(あの強調した胸、寄せてあげて詰め物した紛い物だな)
カーティスは一目で、よく出来た紛い物を見破った。観察眼は後宮入りしてからも健在、むしろ皇帝の寵愛を受ける身として、警戒は一段と高めている。
余談だが、現にこれまでも、館内まで荒らされたことはなかったが、庭園はゴミが投げ込まれたり、贈り物は虫や小動物の死骸、ネズミの詰め合わせなどだ。これらを集めさせられる高位貴族の使用人は哀れだとカーティスは思う。
それに死骸は廃棄に困るが、ネズミの詰め合わせは有り難かった。後宮は暇だ。書痴のカーティスは読書で時間を潰せるにしても、ここまですることがないと、医療系書物の実験をしたくなる。
皇帝は「何でも欲しい物は言え」というので、お言葉に甘えて実験道具一式と実験に使う薬草数種をおねだりした。下半身の1カ所を毎回酷使されているのだから、これぐらいの報酬は当然だ。
「暇つぶしとはいえ、物騒なものは作るなよ」
皇帝は、カーティスのプライベートエリアの一画、実験部屋を視察しながら忠告する。
「毒は作りませんよ。ただ綿がなくても顔が浮腫んで、尚且つ副作用のない薬の製法が異国の医学書に記載されておりまして。毎回、口に綿を詰め込むのは結構苦痛なんですよ。あと食事会などで不便ですから」
そのための、小さな檻に各一匹ずつ入れたネズミは格好の治験材料となった。カーティスには物足りないと思うほど、調薬は簡単で、治験も成功。その調薬を服用すると4時間程度は顔が浮腫んでふくよかになる。恐らくスパイが変装に使う薬なのだろう。
皇帝からは、「俺が来るときには使うなよ。それと無害と疑われても薬は薬、どんな副作用が後々出るか分からないから、乱用は避けるように」と釘を差された。言っていることは、もっともだ。
そしていま、カーティスは落ちにくい化粧品開発に夢中だ。まだ暑さ厳しい季節なので、肉襦袢を羽織ると、汗で化粧崩れを頻繁に治さねばならず面倒なのだ。
話を戻すと、シュトゥルムフート帝国の皇族女性は、スレンダーな者が多い。くびれた腰は美人の証しだが、胸が小さいのが悩みのタネだと、耳にしたことがある。バイエル公爵令嬢も、年齢の割に胸にコンプレックスを抱いているに違いない。
「そのような醜い姿で、どうやって陛下に取り入ったのかしら?ぜひお聞かせ願いたいわぁ」
別の取り巻き令嬢が、皮肉を込めてカーティスを口撃する。
カーティスの目の前に、紅茶と茶菓子が給仕される。毒入りではないが、ケーキは崩れて小虫を振りかけた嫌がらせ。さすがに東の大陸の後宮のような命を奪う真似までは出来ないようだ。
「陛下は、豊満な胸がお好きです。ですが私の場合、ふくよかなお腹のタプタプ感がいたくお気に召したようで。胸の柔らかさとは違う感触を堪能しておられましてよ?」
カーティスは平然と応える。
皮肉を言った取り巻き令嬢は悔しげな顔をしている。彼女も偽装胸の持ち主だ。バイエル公爵令嬢の取り巻きの試金石は、胸の大きさなのだろうか。確かに取り巻き令嬢の胸は、偽装胸もしくは小さな胸のままドレスを着ている者が多い。
「あらあら、私の家のお茶を飲まないなんて、無礼ですこと。家柄の違いを分かってなさるの?」
バイエル公爵令嬢は、テンプレ通りの悪役令嬢ぶりだ。
「そうですわね。少なくとも公爵家ともあろう方の館の料理人が不衛生なのは、見て取れますわ。こんなものを毎日毎食平気で口になさっておられて、エリザベート様は平気なのでしょうか。心配ですわ。それに盛り付けの酷いこと。皇帝陛下にお願いして、こちらの料理人を変えてもらえるよう進言して差し上げましょうか?」
カーティスことコーデリア・ブーケは、平然と口にする。
カーティスのふてぶてしさに、バイエル公爵令嬢はワナワナ震える。取り巻きも驚愕を隠せず、弱小貴族令嬢たちは瞳を輝かせてコーデリア・ブーケ侯爵令嬢を見上げた。
(本当に、脳みそお花畑の令嬢だな。不本意ながら皇帝の寵愛を受ける僕に、こんな稚拙な嫌がらせをして。僕の背後に立つ侍女頭がすり替わっているのにも気づかないなんて。あの頭の回転だけは称賛できる皇帝が、嫌いなバイエル公爵令嬢の失脚のチャンスを狙っていたことに、本当に気づいていなかったのだろうか?)
カーティスは、帝国の分厚い貴族譜を記憶している。バイエル公爵家には、正嫡の姫がもう1人いる。年齢は13歳になったばかり。後宮入りができる年ごろだ。恐らくこれまでバイエル公爵令嬢を野放しにしていたのは、妹姫の成長を待っていたのだろう。
おもむろに、カーティスの背後の代理侍女頭が、メイド服の下から出した笛を吹く。甲高い笛の音が止むと、皇帝直属の女性騎士団が茶会会場へ乱入した。
「直ちに、バイエル公爵令嬢を皇宮の塔へ連行するように。罪状は、ベルクバック侯爵令嬢への毒殺未遂だ」
カーティスの背後に立つ代理侍女頭は、後宮女性騎士団の団長。化粧でや髪形で変装しているが、よくよく見れば正体が分かるだろうに。いや、観察眼を鍛えたカーティスやヴァイゼ皇帝のような者でないと、普通の貴族令嬢には無理か。
(毒殺未遂って、単に飲み物とケーキに虫を散らしただけなのに)
毒が入っていないことは、いつの間にか暇つぶしに読んだ医学書のおかげで、カーティスは毒が入っているか否かを見破れる。もっとも既存の毒限定なので、新たに開発されたものだと分からない。それとアールグレイの香りで誤魔化しているが、かすかな薬品の香りから、睡眠薬と催淫剤が入っているのは確実だ。睡眠薬はともかく、催淫剤は男のいない後宮でどうするつもりだったのだろうか。まあ催淫剤なんて飲んで、女性に襲いかかってしまう方が、それこそカーティスや一族の破滅だ。
「他の令嬢はどうなさいますか?」
女性騎士が団長の指示を仰ぐ。
逃げただそうとする取り巻き令嬢は、唯一の入り口を女性騎士団に封じられているため、逃亡は不可能だった。
「とりあえず、個々の館に送って監禁しておくように。おって皇帝陛下から指示が下るだろう」
女性騎士団長が応えると、取り巻く令嬢とその付き添いの侍女頭は女性騎士に拘束されて、部屋から出された。
女性騎士団長はカーティスの背後から移動して、3人の怯えた弱小貴族令嬢達の前に膝を折って、目線を彼女たちより低くする。
「君たちは害意を加えられなかったかい?とりあえず後宮診療所へ連れて行こう。それから、ここに来てから何をされたか、どんなことを指示されたから、軽く事情聴取はさせてもらうけど、君たちに類が及ばないことは保証するから、安心して」
女性騎士団長が優しく言うと、1人の弱小貴族令嬢がワッと泣き出した。それに呼応するように、他の2人の令嬢も泣きじゃくる。女性騎士団長は仲間を呼んで、彼女たちを診療所へ連れて行くよう指示した。
「さて、ベルクバック侯爵令嬢様、館へ帰りましょうか。私が同行しますゆえ」
女性騎士団長は立ち上がり、カーティスをエスコートする。
(あー、この団長が後宮で大人気なのも納得。この容姿、厳しくも優しく配慮の行き届いた言動。男は皇帝か幼い皇子のみの閉鎖空間で、倒錯片思いが横行するわけだ)
カーティスは、背の高い女性騎士団長の人気の高さに納得する。いまはメイド服をきているが、急遽、後宮女性騎士団の制服から着替えたため、胸はペタンコのままだ。しかし男の性で、カーティスは見抜いてしまう。
(さらしで胸を潰しているのだろうけど、88のEカップ。これ、バイエル公爵令嬢が知ったら発狂するな。ていうか、顔は男性的で体は完璧な黄金比を持つ女性。皇帝陛下は、彼女に興味はないのだろうか?)
カーティスは、後宮の侯爵家が使える馬車に乗り込んで考える。嫉妬ではなく、この女性騎士団長に皇帝陛下が夢中になれば、自分は週一回の相手だけ快楽を貪る拷問から逃れられるのにと、思わずには居られなかった。
……幸い、弱小貴族令嬢に体の異変はなかった。しかしカーティスに給仕されたもののように薬品混入こそされていなかったが、羽虫の死骸入りの紅茶を飲まされ、同じく小虫入りケーキを強要されて食べたらしい。だがそれもお茶会のたびにされていたので、最初こそ吐き出した上に、バイエル公爵令嬢から「我が家を汚した愚か者」と、ドレス越しだがムチで打たれたとのこと。女性騎士団長が彼女たちの背中を許可を得て確かめると、治りかけているが、確かにムチで打たれた痕跡が残っていた。
ヴァイゼ皇帝は、バイエル公爵令嬢を罪状付きで実家に送り返し、新たに妹姫を後宮に入れるよう命令した。妹姫も姉には散々虐められてきたらしい。理由は髪が皇族の証ともいえる眩い金髪ではなく、母親似の金褐色だったから。同じ金色なら、色の濃淡ぐらいで責める姉というのもなんだかなぁと、カーティスは思う。
ともかく罪状付きで後宮追放されたバイエル公爵令嬢側妃は、領地に戻っても両親や兄弟から「恥さらし」「当家に泥を塗った」と罵られ、領地の外れにある離宮に軟禁されることとなった。評判は貴族社会で瞬く間に広まったので、よほどの好事家でもない限り、バイエル公爵令嬢元側妃が結婚するアテはないだろう。修道院送りも検討されたそうだが、皇帝の従妹でそれなりに美貌を持つ娘には政略の駒の利用手段があるかもしれないというバイエル公爵の思惑によって、離宮軟禁となったのが経緯だ。さすが皇帝の叔父だけある、損より得を取れの精神が怖い。
他の取り巻き令嬢は、取り調べの末に何もしていなかったことが判明した。そう、何もせずに笑っていただけだ。弱小貴族令嬢が虐められても庇うこともせす。それは後宮生き残りの処世術だとも言えるが、それなりの罰は他者への見せしめのためにも必要だ。後宮のど真ん中の広場で、皇帝自らが10人のバイエル公爵令嬢元側妃の取り巻きをドレス越しだが5回ずつ公開ムチ打ち刑に処した。
弱小貴族令嬢は失態を犯すたび、10回以上ムチで打たれていたのだから、これでも温情をかけたと言えるだろう。だが当分は、痛みで眠れぬ夜を過ごすに違いない。
公開処刑には後宮のほとんどの妃が集まったが、カーティスは見物に参加しなかった。
(ムチ打ちのが、週一の拷問より心身ともに楽だよなぁ)
そんな事を考えながら、図書室で勉学に励んでいた。後宮を辞したら、スキップで帝国総合大学に入学するために。しかし官僚になる夢は薄れている。皇宮は広いが、ヴァイゼ皇帝とエンカウントするリスクは御免こうむる。いまは実家の子爵家と、祖父のベルクバック侯爵領の会計監査に将来の目標の舵を取っている。
(あー、領地に戻りてぇ。帳簿つけて、硬貨の音を聞きたい)
カーティスは、記憶に残る硬貨のチャリンという音に、ホームシックを感じていた。
ヴァイゼ皇帝陛下は、定刻通りにやってきた。護衛は先ほど見かけた男性ではなく、5名の女性騎士を伴っている。後宮に男を入れない規則のためだろう。だとすると、先ほどの親しげな中年男性は何処から入ってきたのだろうかと、カーティスは疑問に思う。
しかし、目下の危機は食事だ。カーティスは醜女偽装のために、口に綿を詰めている。毒殺を疑われないために、率先して食事せねばならない。だが扇で顔を覆いながら食事するわけにもいかない。
カーティスことコーデリア・ブーケが考えた末に出した結論は、なるべく頬に空気を溜めておくことだった。
皇帝と儀礼的な挨拶を交わし、食堂へ案内する。食卓に並んでいるのは、ポトフとパンとポテトサラダのみ。アルコールは、氷入りのガラスの器に未開封の白と赤のワインを瓶ごと冷やしてある。
これは皇帝を迎えての夕食にしては質素すぎるどころか、貴族の通常の食卓と比べても貧相すぎる。皇帝の護衛女性騎士の顔が強張っているのがよく分かる。
「申し訳ございません。私は遠出すると車酔いが酷くて。遠出した当日は、本当は食事をするのも苦痛なのですが、母や侍女頭が少しでも食べるようにと、軽めの食事が恒例なのです。あの……あまりに失礼な料理なので、本日は別の方のもとへ参られた方がよろしいかと」
カーティスことコーデリア・ブーケは、扇で顔を覆いながら、ボソボソした口調で言い訳する。心の中では「さっさと立ち去れ、飯なら皇城で絢爛豪華なものが食えるだろう!」と罵っていた。
「いや、俺としても丁度いい。最近の脂ぎった食事や精の付く料理には、辟易としていたんだ」
ヴァイゼ皇帝は、遠慮なく上座に座る。
(まあ、分からなくもないか。皇太子になったのが4年前、それからいきなり皇帝に即位したのが1年前で、こなさねばならない仕事も山積みで胃も疲れていることだろう」
カーティスことコーデリア・ブーケは、皇帝の席の向かいに座るが、テーブルが長いので、ヴァイゼ皇帝と距離があるのは幸いだった。
まず護衛の一人が皇帝の皿から、カーティスも毒見がてら自らの皿から食事をする。それから問題なしの判断が下って、ヴァイゼ皇帝は質素な食事を始めた。
「見た目はお世辞にも貴族の食べるものとは思えないが、味はいいな。胃に優しく、良い香りもするが、特別なハーブでも使っているのか?」
ヴァイゼ皇帝は尋ねる。
「はい。当家はハーブの一大産地であるため、パンや料理にもハーブをよく使用しております」
カーティスは俯いて食べながら、ボソボソと説明した。マナー違反は承知の上だが、太った顔を食事中は偽装出来ないため、護衛女性騎士から白い目で見られているのも仕方がないこと。偽装がバレるより、ろくにマナーも身につけていない令嬢と嘲笑される方が都合がいい。皇帝と会うのも、これっきりで終わりたいものだ。
「ところで、コーデリア嬢の異母兄は貴族学園首席合格したそうだな。とても優秀な兄を持って、異腹とはいえコーデリア嬢も鼻高々だろう」
ヴァイゼ皇帝の言葉に、危うくカーティスはパンを喉に詰まらせそうになる。しかしワインで喉の詰まりを押し流した。
ちなみにこの国では、幼い頃から水で割ったワインを飲み、10歳を過ぎるとストレートのワインを飲む。カーティスをはじめ、ベルクバック侯爵一族はアルコールに強いため、実母や祖母のようにグラス一杯で酔いが回り、顔が真っ赤になることもない。
「……はい」
カーティスは、この場合の返答に困った。既に学園には急病のため休学届けを提出している。それに自分で自分を褒めるのは、こっ恥ずかしい。
「ところで、コーデリア嬢はどんな趣味があるのだ?」
ヴァイゼ皇帝は月並みな試問をしながら、ポトフのおかわりをしている。既に料理のほとんどは空だ。連れてきた料理人は急きょ、特製ハーブソーセージとポテトフライを作って出した。それらも女性騎士が皇帝の皿から毒見したが、ハーブを練り込んだソーセージに目を大きく見開いてつい二口目を食べようとしたが、皇帝に止められ、顔を赤くしながら背後に下がった。
それでも毒見役の護衛女性騎士は、ハーブソーセージの味を反芻しているのか、上の空だ。カーティスは「その気持ち、よく分かる」と思った。ウェスリー子爵家の特製ハーブソーセージは絶品と評判だったからだ。街でも様々な店が、独自の調合でハーブソーセージを作っており、それらの食べ歩きも楽しい。
(皇帝の手前、ワインにしたが、本当はソーセージにはビールが抜群なんだよな。もっとも病弱、馬車酔い設定の僕は、ここでは食えないけどさ。皇帝が皇城なり他の側妃のもとへ行ったら、真っ先にリクエストしよう)
カーティスは心のなかで呟いた。
デザートは果物とカスタードプリン。胃に優しいを強調したメニューだ。皇帝はデザートもペロリと平らげたが、カーティスは病弱設定のため、本当は腹5分目さえ満たされていなかったが、断腸の思いで食事を残した。それらは母親役の乳母が下げたが、きっと皇帝がこの館から去った後のために残していてくれてるはず。
しかし皇帝はリビングに移動して、帰る気配がない。皇帝は隣にカーティスことコーデリア・ブーケを隣に座らせ、密着した。
(近い、近い、近い!)
さり気なくカーティスは距離を取ろうとしたが、ヴァイゼ皇帝はカーティスに腕を回して離さない。皇帝はリビングの蔵書を興味深げに眺める。
「さすが首席兄の妹だけあるな。女性向けの小説が主だが、これほどの蔵書数とは」
ヴァイゼ皇帝は感心する。皇妃も側妃も、高価な調度品を品よく飾っているが、カーティスは「どうせ皇帝は来ないのだし」と、リビングは女性らしさを勉強するための小説が詰まった本棚が並んでいた。こんなことなら、つまらない調度品を様式美として飾っておくべきだったと後悔する。
ちなみにカーティスのプライベートエリアには、数え切れないほどの多種多様な分野の蔵書がある。子爵家から持ってきた分より、リスクを冒して身分を偽るのだからと、祖父から報酬として大量の本を買わせ、後宮に運び込んだのだ。それらの中には外国語の本も多くあるが、カーティスは数カ国語を話したり読んだり出来るので問題なし。カメリアが後宮入りするまでの2年間、独学で勉強して貴族学園をスキップし、帝国総合大学へ進む公算だった。
ヴァイゼ皇帝は、カーティスことコーデリア・ブーケの耳元に口を寄せる。
「君さ、本当は子爵家の首席君だろ」
ヴァイゼ皇帝の囁きに、カーティスは目を見開いて皇帝の顔をガン見する。完璧な黄金比の美形の皇帝の顔が目に映る。皇族に多く出る特徴のアクアマリンの瞳、眩いばかりの黄金の髪。冬の王のような怜悧な鋭さを持つ美しさ。
「……よく兄に似ていると、父には言われますわ。私自身は、兄上にお会いしたことありませんけど」
必死に平静を保ちながら、カーティスは弁明する。だが似ているというのも無理がありすぎる。カーティスは平均より上の、美形ではないがそこそこ整った顔立ちの少年。一方のコーデリア・ブーケは、下膨れの顔をした醜女だ。
すると突然、ヴァイゼ皇帝はコーデリアをお姫様抱っこして立ち上がる。
「今宵はここで過ごす。寝室は何処だ」
慌てふためいたのは、カーティスはもちろん、ベルクバック侯爵家の付添人たち、そして皇帝の護衛女性騎士5人だ。
しかし皇帝陛下のご命令とあれば、逆らうことは出来ない。
「……あの、無礼を承知で申し上げます。娘は体が弱くて―ー」
「丁重に扱うさ。それにハーブの産地の子爵領の者たちなら、薬草の調合ぐらい手慣れているだろう。それとも、私に逆らうつもりか?」
先程まで、容姿に似合わぬ気さくな態度から一変、ヴァイゼ皇帝は権力者の顔となる。
皇帝から直接叱責を受けて、乳母は顔を真っ青にしてその場に崩れ落ちる。
カーティスも正直、頭の中がパニックだったが、もはや正体が見破られてるなら仕方がないと、腹を括った。
「皇帝陛下を寝室へ先導して。私は大丈夫だから」
そう言いつつも、カーティスの顔色も悪い。しかし自分のためにリスクを冒してまで同行した者たちを傷つけるわけるにはいかない。
侍女頭が、顔面真っ白ながらも、気丈に2階の寝室へ案内した。
2.冗談はよせ!
寝室は、カーティスのプライベートエリアの2階左翼ではなく、2階右翼の皇帝接待用のエリアだった。形式的に作られたエリアだが、まさかここを使うことになろうとは。
皇帝はここで侍女頭たちや護衛女性騎士を下がらせる。皇帝を迎えるための豪奢な造りの寝室で、カーティスとヴァイゼ皇帝は2人きりとなった。近年導入された電気のおかげで、真昼のように明るい。もっとも電気は皇宮や高位貴族のみが使える高価なもの。皇都はガス灯が使われているが、ド田舎のウェスリー子爵領では、未だ明かりはランプかロウソクだ。
「さて、まずはその醜い化粧落としてきてもらおうか。カーティス・ウェスリー君?」
ヴァイゼ皇帝はベルベットのソファに座って足を組み、さも楽しげにカーティスに言った。
「ああ、もちろんそのドレスと太った体にしている仕掛けも外してくるように。一応、着替えはクローゼットに入ってるはずだろう」
悪趣味なドレスや下着の他にも、皇帝用の男物が確かにクローゼットに入っている。
カーティスは寝室の続き部屋に入り、クローゼットから男物の服や下着を出し、洗面所で顔を洗った。皇都では水道が使えるから便利なものだ。ウェスリー子爵領では、未だに井戸から水を汲んで水瓶に溜めているというのに。
化粧を落とし、カツラを取り、肉襦袢とドレスを脱いで着替える。皇帝の服は、14歳になったばかりのカーティスにはブカブカすぎた。あと3年もすれば、むしろトラウザーズはつんつるてんになるだろうが。
元の姿に戻って皇帝の御前に戻ると、ヴァイゼ皇帝は皇帝は感嘆の声を上げた。
「元はそんな細身だったのか。あの太った体は、どうやったのだ?」
ヴァイゼ皇帝は、興味津々に尋ねた。
「肉襦袢といって、綿を詰めた長めのシャツを着ていました。足はドレスで隠せますが、ズロースの下に沢山着込んでいました」
「それは暑かっただろうに。真冬ならともかく、いまの時期は夜でも暑い」
「ええ。何度、死ぬかと思いましたよ。それで、我が一族は、皇帝陛下を謀った罪でお取り潰しですか?」
カーティスは開き直って、遠慮なく尋ねる。「だから、こんな茶番はうまくいくわけないと言ったのに」と、心の中で悪態を付きながら。
「ベルクバック侯爵を追い詰めた罪は、こちらにある。穏健中立派のベルクバック侯爵一族を断罪したら、それこそ国は乱れることになるだろう。君の性別に関しては、俺と君の秘密だ。ここの使用人たちにも、口止めをしておくように。皇帝に逆らえば、一族郎党断罪に処すと脅しておけば、口をつぐむだろう」
「では、我が一族はお咎めなしと?」
カーティスは、死も覚悟してただけに、破格の温情に見る見る表情が和らいだ。しかし、カーティスの受難はこれからだということに、彼はまだ気づいていない。
「君が俺の言う通りにすれば、スタンリー伯爵令嬢が後宮入りするまで黙っててやる」
「何をすれば?」
カーティスが首をかしげる間もなく、ヴァイゼ皇帝は、カーティスを抱き上げる。肉襦袢の嘘偽りの太った体だっただけに、先程ここへ抱き上げて連れてきた際も、軽いカーティスの体に驚いていたが、こんな華奢な少年なら軽いのも当然だ。
「なに、側妃の務めをしてくれれば良いだけだ。俺は君を初めてみたときから、昔から興味のあった行為を試してみたくてね。まさに君は、俺の理想の具現化した顔と容姿たよ」
ヴァイゼ皇帝は、公的には『私』、プライベートでは『俺』と使い分けているらしい。まあ激昂したときから、その区別は気づいていたが、いまはそれどころではない。カーティスは、先ほどまでの暑さとは違う種類の汗をかいていた。
「あの……僕はそっちの趣味はないのですが」
カーティスは恐る恐る、ヴァイゼ皇帝の腕の中で言う。
「俺も一度試したいだけの興味本位だ。貴族社会で、同性愛が密かに流行っているのは、頭の良い君だって知ってるだろう?」
確かによく知っている。学園でも、高位貴族令息が迫ってくるのが珍しくないことも。だから皇都の学園で寮生活する際には、独自に開発した変態撃退スプレーを調合して、ポケットに常備して置くつもりだった。他にも、ド田舎にいながら情報を集め、高位貴族令息の弱みは幾つも握っている。しかし相手は皇帝、しかも男子禁制の後宮で男とバレたいま、カーティスや一族の命運を握っているのは、ヴァイゼ皇帝だ。
(こんな美形で、綺麗な妃がたくさんいて、子供だって4人もいるのに、なんで男に興味を持った!いや、百歩譲って男に興味を持っても、手近に身綺麗な若い貴族が沢山いるだろうに!)
カーティスは心のなかで叫ぶが、もはやどうにもならない。浴室に連れて行かれて、体を洗われた時は寒いぼが止まらなかったし、皇帝の綺麗でご立派な裸体には卒倒しかけた。
……こうしてヴァイゼ皇帝は、長年興味があった宿願を達成した。
3.最悪な朝
カーティスは、豪奢なベッドの上で目覚めた。まだカーテンの隙間から除く外は夜明け前だ。
カーティスは、ヴァイゼ皇帝に抱きしめられていた。いや、もう拘束されていたと言っていい。
(誰だ、同性の行為は女性と違う心地よさとほざいた奴は!何をされても『痛い』の一言しか尽きなかったし、今だって痛みで目が覚めちまった)
せめてカーティスは風呂に入りたかった。気持ちいいなど少しも思えず、気色悪いの一言に尽きた。だがこれも一族を救うためなら仕方ないことだった。皇帝を起こさないように彼の腕から脱出を試みたが、寝ぼけた皇帝はますます抱きしめる力を強くする。カーティスが必死にもがいても、ヴァイゼ皇帝の腕の檻から出られなかった。
抵抗しているのが虚しくなっカーティスは、二度寝を試みるも、あり得ない場所がズキズキ痛んで眠れない。
「あんな凶器を受け止める女性には、改めて尊敬しかないな。男に生まれて本当に良かった、と思いたいけど、いまこの状況じゃ性別以前に、もっと体格のいい筋肉ムキムキに鍛えておけば良かった」
カーティスは読書と勉強三昧だった過去を悔やんだ。そのうち、いつしか寝込んでしまったらしい。
カーティスが目覚めると、そこは後宮内のベルクバック侯爵令嬢館にある、皇帝陛下仕様の風呂だった。昨夜の汚れを洗い流してくれるのはいいが、そのうちヴァイゼ皇帝はムラムラしてきたのか、朝の一戦に持ち込まれた。
「痛え!」
カーティスが行為中に叫ぶと、事を終えた皇帝は首を傾げつつ、再度汚してしまった少年の体を洗う。
「おかしいな。マニュアル通り、苦痛のないやり方を実践したはずなのに」
「こんなことの指南本なんて、あるのかよ!書痴の僕だが、そんなもの見たことないぞ!」
昨夜の痛みが残る中で、再度挑まれて、あの部分は避けたんではないかと思うほど痛かった。
ヴァイゼ皇帝は、足がおぼつかないカーティスを抱き上げて、大きな浴槽へ共に入る。膝の上にカーティスを乗せて。
カーティスとしては、ヴァイゼ皇帝に触れられるのが怖かった。痛みを与えた相手が、いつまた発情するか分からなかったからだ。体の自由が効けば、一目散に浴場から逃げ出していただろう。
「初めての相手でも痛みをなくす方法って、初心者用の本は沢山出てるぞ。公の本屋では入手しづらいが。それに母たちの持っている同性愛小説も読み込んでいたし」
「そんなもの、陛下ともあろう方が読んではならないと、側近の方々に注意されませんでしたが?」
「いや、むしろ俺の側近は経験済みが多かった。もっとも攻める側が大半だったが、同性愛が癖になって妻と疎遠になっている者も多い。だから、そんなに良いのかと興味をもったのだが」
ヴァイゼ皇帝は、カーティスを後ろから抱きしめながら、頬にキスをする。
「当初は俺も、わざわざ男を抱く奴の気がしれないと嫌悪していたがな。だが、君を見た瞬間に一目惚れして、体が疼くのを留められなかった。実際、こういう関係になってみると、妃を抱くのが億劫になってきた」
「いや、早くノーマルに戻ってください。あんな汚いところに発情するって、異常だと思いません?」
「充分、綺麗に洗ったし。それに本当に欲しい相手との行為は、これほど素晴らしいとも思わなかった。名残惜しいが、そろそろ出るか。面倒な公務が待っているからな」
ヴァイゼ皇帝は名残惜しげに、カーティスを抱き上げて浴槽から出た。
「あの悪趣味な女装は、絶対に続けるんだぞ。なまじ素顔なんて見せたら、うるさい小バエが寄ってきそうだ」
ヴァイゼ皇帝は、後宮のベルクバック侯爵令嬢館を出る前に、口うるさくカーティスに様々な事を注意した。特に、病弱の肩書で後宮入りしたのだから、人目につかないよう館に籠もってろと言うことだった。どうやら皇帝は、普段は淡泊だが、執着した相手には独占欲が強いようだ。
いまも皇帝命令で、カーティスは肉襦袢と悪趣味なドレスを着て、ケバい化粧を塗りたくっている。玄関の外まで出る必要はないと言われたのは有り難いが、別れ際の濃厚なキスは、吐きそうになるためやめて欲しかった。そもそも濃い口紅が移ってるし!
ヴァイゼ皇帝が、手の甲で自らの唇についた口紅を拭う姿は、カーティス以外のその場に居た者、皇帝の護衛女性騎士や侍女頭をはじめるとすふ館の使用人たちは、その艶めかしい仕草にハートがズキュンとされていた。カーティスは、皇帝が去ったら、顔を、特に唇をゴシゴシ洗ってウガイして、改めて醜女メイクしてもらおうと頭の中で考えている。
「女装は続けますよ。バレたら一族の危機ですから。それでは、お気をつけて」
カーティスは散々貪られた末に体はガタガタながらも気力で立ちながら、後ろ髪引かれつつ去っていくヴァイゼ皇帝を見送る。腹の底で「二度と来るな、この変態が!」と叫びながら。
4.女は怖い
カーティスの願い虚しく、ヴァイゼ皇帝は週に一度は後宮内のベルクバック侯爵令嬢館で夜を過ごした。本当は毎日でも来たいようだが、他の妃達の手前、週1で我慢してるそうだ。カーティスの本音としては、二度と来て欲しくなかったし、たとえ来るにしても、皇妃2人へは特別待遇が必要だし、後宮の側妃たちを巡れば、年1もしくは半年に一度でで充分だろと思ってる。
皇帝はカーティスのために怪しい指南書や同性愛小説を持ってきたが、読む気もしないほど気色悪さしかない。カーティスは目に触れるのもおぞましいと、物置に放り込むよう指示した。ところがそれらは物置に収納されるどころか、館の乳母や侍女頭をはじめとする女性使用人たちが競って、顔を赤らめながら夢中になって貪り読んでいる。
「若君も、そろそろ慣れてきましたか?」
侍女頭は気さくに尋ねる。そりゃ、皇帝が頻繁に訪れ、乱れた寝所を見れば、2人が何をしてるぐらい誰だって分かるだろう。
「慣れるわけないだろ。苦痛ばかりで、どこが快楽なのか、未だに理解できん。脳より先に体が覚えるとか言われているが、僕の場合は蕁麻疹拒絶反応の一歩手前だ」
これは建前でなく本心。カーティスは皇帝に抱かれることに全く慣れず、快楽を拾うどころか、拷問にかけられているとしか思えなかった。
ある日、ベルクバック侯爵令嬢館に手紙が届いた。後宮内て一番身分の高いバイエル公爵令嬢からの茶会の招待状だった。
バイエル公爵令嬢は、ヴァイゼ皇帝の従妹にあたる。だが一度も皇帝は従妹のもとを訪れたことはないらしい。
皇帝いわく、「昔から傲慢で我儘な身勝手令嬢で、顔も見たくないほど嫌いなんだ。おまえも、こんな招待は断っていいぞ。不愉快な思いをするだけだからな。顔や体を傷つけることだって、奴なら平気でするぞ」
ヴァイゼ皇帝が従妹と同衾しないのは、血が近すぎるせいもあるが、やはり従妹令嬢の性格の悪さが最大の原因らしい。当時、シュタルク・イノセント伯爵が皇太子だった頃は、妃にでもなりたかったのか媚を売っていたようだが、他の皇子たちのことは、たとえ別の皇妃腹の皇子であっても、鼻から馬鹿にしていた。過去を悔やんだところで始まらないが、少なくともヴァイゼ皇帝時代中は、バイエル公爵令嬢に皇妃の座が巡ってくることはないだろう。
皇帝には断れと言われたが、後宮のボスの誘いを無視するなんて出来るだろうか。確かに正嫡の侯爵令嬢だったらそれも可能だろうが、カーティスことコーデリア・ブーケは子爵の妾腹の娘ということになっているのだ。
それにカーティスは、ここまでヴァイゼ皇帝に嫌われるバイエル公爵令嬢に興味があった。皇帝に嫌われるための今後の参考に、ぜひ会ってみたい。
(だが、招待状に丸をつけてノコノコ出向いたら、陛下に後でどんなにいたぶられるか、想像するだけで恐ろしい。ここは丁重なお断りの手紙を出すか。性格が悪いなら、どうせ断っても迎えを寄越して来るだろう)
カーティスは、美しいバラの絵柄の便箋に、病弱を理由とした断りの手紙を書いた。文字は苦心しつつ女性らしく変えている。まあ、我儘令嬢にそんな気遣いせずとも、カーティスの本物の文字の癖など知る由もないだろうが、念の為。
カーティスの思惑通り、当日には後宮内専用の公爵家紋章入りの馬車が迎えに来た。
カーティスは侍女頭のみを同行させて、醜女ファッション全開で馬車に乗り込んだ。
「大丈夫でしょうかね。東の大陸の後宮では、身分低い妃が変死するのも日常茶飯事だそうですよ」
侍女頭は不安げだ。それにしても妙な知識を知っているものだ。まあ、リビングの恋愛小説の影響だろう。娯楽の少ない後宮で出来ることと言ったら、読書や刺繍など退屈なことしかない。妃たちは派閥を作って頻繁に茶会を開いているそうだが、カーティスは病弱を理由にどの派閥にも属していない。そもそもベルクバック侯爵家は、穏健中立派だ。
茶会は応接室で行われるようだ。まだまだ残暑厳しい中で、庭園で茶会など開かれたら熱中症で倒れる危険もあるから有り難い。
広い応接室に通されたカーティスことコーデリア・ブーケ侯爵令嬢は、扇越しに感嘆の声を上げる。顔は綿を詰めるのとは違う方法でまん丸にする技法を見つけたので、お茶会で飲食するのも問題はないが、なるべく話す時は扇で顔半分を隠すよう心がけている。
(公爵令嬢の趣味だろうか、悪趣味な調度品だな。そしてズラリと揃ったバイエル公爵令嬢の取り巻き側妃。こいつら、みんな全員、陛下に嫌われてるのだろう。でなければ、プライドの高いバイエル公爵令嬢が皇帝のお手つき妃を、取り巻きに加えるはずもない)
美しく着飾った即妃総勢10名が、ズラリと席に座ってる。彼女たちはドレスや派手な髪飾りに必ず赤を取り入れている。しかし数席空けた末席の3人の毛色の違う妃は、オドオドしながら小さくなっており、衣装やアクセサリーに赤を何もつけていない。
(ははん。生贄は僕だけでなく、弱小貴族出身の令嬢も取り入れての趣向か。これは気を引き締めた方が良さそうだな)
カーティスことコーデリア・ブーケは、気を引き締める。偶然というか、彼女の着ている悪趣味な茶会用ドレスは、黒地に赤いバラの絵柄の生地だった。こんな酷い絵柄の生地が作られているとは、この生地を取り扱っている職人や店は大丈夫かと、毎度のことながら、逆に心配になる。
カーティスの席は、体面上は祖父侯爵の養女のため侯爵令嬢で、本来は席次は上座に近いはず。だが案内された席は、末席の弱小貴族令嬢たちと並んだ場所だった。まあ、このぐらいの稚拙な意地悪は想定済みだが。
「ご機嫌よう、ベルクバック侯爵令嬢。欠席ということでしたけど、一昨日も陛下のお渡りがあったというので、さほど病気は重くないと判断して迎えを寄越しましたの。本当に、病気とは思えない体ですこと」
一番高い地位の者が座る席に居る側妃が、高笑いをする。あれが恐らく今回の主催者バイエル公爵令嬢だろう。皇族の血が濃いだけあって、見事な金髪とアクアマリンの瞳をした美女だ。年は皇帝と同世代だったはず。その割には……
(あの強調した胸、寄せてあげて詰め物した紛い物だな)
カーティスは一目で、よく出来た紛い物を見破った。観察眼は後宮入りしてからも健在、むしろ皇帝の寵愛を受ける身として、警戒は一段と高めている。
余談だが、現にこれまでも、館内まで荒らされたことはなかったが、庭園はゴミが投げ込まれたり、贈り物は虫や小動物の死骸、ネズミの詰め合わせなどだ。これらを集めさせられる高位貴族の使用人は哀れだとカーティスは思う。
それに死骸は廃棄に困るが、ネズミの詰め合わせは有り難かった。後宮は暇だ。書痴のカーティスは読書で時間を潰せるにしても、ここまですることがないと、医療系書物の実験をしたくなる。
皇帝は「何でも欲しい物は言え」というので、お言葉に甘えて実験道具一式と実験に使う薬草数種をおねだりした。下半身の1カ所を毎回酷使されているのだから、これぐらいの報酬は当然だ。
「暇つぶしとはいえ、物騒なものは作るなよ」
皇帝は、カーティスのプライベートエリアの一画、実験部屋を視察しながら忠告する。
「毒は作りませんよ。ただ綿がなくても顔が浮腫んで、尚且つ副作用のない薬の製法が異国の医学書に記載されておりまして。毎回、口に綿を詰め込むのは結構苦痛なんですよ。あと食事会などで不便ですから」
そのための、小さな檻に各一匹ずつ入れたネズミは格好の治験材料となった。カーティスには物足りないと思うほど、調薬は簡単で、治験も成功。その調薬を服用すると4時間程度は顔が浮腫んでふくよかになる。恐らくスパイが変装に使う薬なのだろう。
皇帝からは、「俺が来るときには使うなよ。それと無害と疑われても薬は薬、どんな副作用が後々出るか分からないから、乱用は避けるように」と釘を差された。言っていることは、もっともだ。
そしていま、カーティスは落ちにくい化粧品開発に夢中だ。まだ暑さ厳しい季節なので、肉襦袢を羽織ると、汗で化粧崩れを頻繁に治さねばならず面倒なのだ。
話を戻すと、シュトゥルムフート帝国の皇族女性は、スレンダーな者が多い。くびれた腰は美人の証しだが、胸が小さいのが悩みのタネだと、耳にしたことがある。バイエル公爵令嬢も、年齢の割に胸にコンプレックスを抱いているに違いない。
「そのような醜い姿で、どうやって陛下に取り入ったのかしら?ぜひお聞かせ願いたいわぁ」
別の取り巻き令嬢が、皮肉を込めてカーティスを口撃する。
カーティスの目の前に、紅茶と茶菓子が給仕される。毒入りではないが、ケーキは崩れて小虫を振りかけた嫌がらせ。さすがに東の大陸の後宮のような命を奪う真似までは出来ないようだ。
「陛下は、豊満な胸がお好きです。ですが私の場合、ふくよかなお腹のタプタプ感がいたくお気に召したようで。胸の柔らかさとは違う感触を堪能しておられましてよ?」
カーティスは平然と応える。
皮肉を言った取り巻き令嬢は悔しげな顔をしている。彼女も偽装胸の持ち主だ。バイエル公爵令嬢の取り巻きの試金石は、胸の大きさなのだろうか。確かに取り巻き令嬢の胸は、偽装胸もしくは小さな胸のままドレスを着ている者が多い。
「あらあら、私の家のお茶を飲まないなんて、無礼ですこと。家柄の違いを分かってなさるの?」
バイエル公爵令嬢は、テンプレ通りの悪役令嬢ぶりだ。
「そうですわね。少なくとも公爵家ともあろう方の館の料理人が不衛生なのは、見て取れますわ。こんなものを毎日毎食平気で口になさっておられて、エリザベート様は平気なのでしょうか。心配ですわ。それに盛り付けの酷いこと。皇帝陛下にお願いして、こちらの料理人を変えてもらえるよう進言して差し上げましょうか?」
カーティスことコーデリア・ブーケは、平然と口にする。
カーティスのふてぶてしさに、バイエル公爵令嬢はワナワナ震える。取り巻きも驚愕を隠せず、弱小貴族令嬢たちは瞳を輝かせてコーデリア・ブーケ侯爵令嬢を見上げた。
(本当に、脳みそお花畑の令嬢だな。不本意ながら皇帝の寵愛を受ける僕に、こんな稚拙な嫌がらせをして。僕の背後に立つ侍女頭がすり替わっているのにも気づかないなんて。あの頭の回転だけは称賛できる皇帝が、嫌いなバイエル公爵令嬢の失脚のチャンスを狙っていたことに、本当に気づいていなかったのだろうか?)
カーティスは、帝国の分厚い貴族譜を記憶している。バイエル公爵家には、正嫡の姫がもう1人いる。年齢は13歳になったばかり。後宮入りができる年ごろだ。恐らくこれまでバイエル公爵令嬢を野放しにしていたのは、妹姫の成長を待っていたのだろう。
おもむろに、カーティスの背後の代理侍女頭が、メイド服の下から出した笛を吹く。甲高い笛の音が止むと、皇帝直属の女性騎士団が茶会会場へ乱入した。
「直ちに、バイエル公爵令嬢を皇宮の塔へ連行するように。罪状は、ベルクバック侯爵令嬢への毒殺未遂だ」
カーティスの背後に立つ代理侍女頭は、後宮女性騎士団の団長。化粧でや髪形で変装しているが、よくよく見れば正体が分かるだろうに。いや、観察眼を鍛えたカーティスやヴァイゼ皇帝のような者でないと、普通の貴族令嬢には無理か。
(毒殺未遂って、単に飲み物とケーキに虫を散らしただけなのに)
毒が入っていないことは、いつの間にか暇つぶしに読んだ医学書のおかげで、カーティスは毒が入っているか否かを見破れる。もっとも既存の毒限定なので、新たに開発されたものだと分からない。それとアールグレイの香りで誤魔化しているが、かすかな薬品の香りから、睡眠薬と催淫剤が入っているのは確実だ。睡眠薬はともかく、催淫剤は男のいない後宮でどうするつもりだったのだろうか。まあ催淫剤なんて飲んで、女性に襲いかかってしまう方が、それこそカーティスや一族の破滅だ。
「他の令嬢はどうなさいますか?」
女性騎士が団長の指示を仰ぐ。
逃げただそうとする取り巻き令嬢は、唯一の入り口を女性騎士団に封じられているため、逃亡は不可能だった。
「とりあえず、個々の館に送って監禁しておくように。おって皇帝陛下から指示が下るだろう」
女性騎士団長が応えると、取り巻く令嬢とその付き添いの侍女頭は女性騎士に拘束されて、部屋から出された。
女性騎士団長はカーティスの背後から移動して、3人の怯えた弱小貴族令嬢達の前に膝を折って、目線を彼女たちより低くする。
「君たちは害意を加えられなかったかい?とりあえず後宮診療所へ連れて行こう。それから、ここに来てから何をされたか、どんなことを指示されたから、軽く事情聴取はさせてもらうけど、君たちに類が及ばないことは保証するから、安心して」
女性騎士団長が優しく言うと、1人の弱小貴族令嬢がワッと泣き出した。それに呼応するように、他の2人の令嬢も泣きじゃくる。女性騎士団長は仲間を呼んで、彼女たちを診療所へ連れて行くよう指示した。
「さて、ベルクバック侯爵令嬢様、館へ帰りましょうか。私が同行しますゆえ」
女性騎士団長は立ち上がり、カーティスをエスコートする。
(あー、この団長が後宮で大人気なのも納得。この容姿、厳しくも優しく配慮の行き届いた言動。男は皇帝か幼い皇子のみの閉鎖空間で、倒錯片思いが横行するわけだ)
カーティスは、背の高い女性騎士団長の人気の高さに納得する。いまはメイド服をきているが、急遽、後宮女性騎士団の制服から着替えたため、胸はペタンコのままだ。しかし男の性で、カーティスは見抜いてしまう。
(さらしで胸を潰しているのだろうけど、88のEカップ。これ、バイエル公爵令嬢が知ったら発狂するな。ていうか、顔は男性的で体は完璧な黄金比を持つ女性。皇帝陛下は、彼女に興味はないのだろうか?)
カーティスは、後宮の侯爵家が使える馬車に乗り込んで考える。嫉妬ではなく、この女性騎士団長に皇帝陛下が夢中になれば、自分は週一回の相手だけ快楽を貪る拷問から逃れられるのにと、思わずには居られなかった。
……幸い、弱小貴族令嬢に体の異変はなかった。しかしカーティスに給仕されたもののように薬品混入こそされていなかったが、羽虫の死骸入りの紅茶を飲まされ、同じく小虫入りケーキを強要されて食べたらしい。だがそれもお茶会のたびにされていたので、最初こそ吐き出した上に、バイエル公爵令嬢から「我が家を汚した愚か者」と、ドレス越しだがムチで打たれたとのこと。女性騎士団長が彼女たちの背中を許可を得て確かめると、治りかけているが、確かにムチで打たれた痕跡が残っていた。
ヴァイゼ皇帝は、バイエル公爵令嬢を罪状付きで実家に送り返し、新たに妹姫を後宮に入れるよう命令した。妹姫も姉には散々虐められてきたらしい。理由は髪が皇族の証ともいえる眩い金髪ではなく、母親似の金褐色だったから。同じ金色なら、色の濃淡ぐらいで責める姉というのもなんだかなぁと、カーティスは思う。
ともかく罪状付きで後宮追放されたバイエル公爵令嬢側妃は、領地に戻っても両親や兄弟から「恥さらし」「当家に泥を塗った」と罵られ、領地の外れにある離宮に軟禁されることとなった。評判は貴族社会で瞬く間に広まったので、よほどの好事家でもない限り、バイエル公爵令嬢元側妃が結婚するアテはないだろう。修道院送りも検討されたそうだが、皇帝の従妹でそれなりに美貌を持つ娘には政略の駒の利用手段があるかもしれないというバイエル公爵の思惑によって、離宮軟禁となったのが経緯だ。さすが皇帝の叔父だけある、損より得を取れの精神が怖い。
他の取り巻き令嬢は、取り調べの末に何もしていなかったことが判明した。そう、何もせずに笑っていただけだ。弱小貴族令嬢が虐められても庇うこともせす。それは後宮生き残りの処世術だとも言えるが、それなりの罰は他者への見せしめのためにも必要だ。後宮のど真ん中の広場で、皇帝自らが10人のバイエル公爵令嬢元側妃の取り巻きをドレス越しだが5回ずつ公開ムチ打ち刑に処した。
弱小貴族令嬢は失態を犯すたび、10回以上ムチで打たれていたのだから、これでも温情をかけたと言えるだろう。だが当分は、痛みで眠れぬ夜を過ごすに違いない。
公開処刑には後宮のほとんどの妃が集まったが、カーティスは見物に参加しなかった。
(ムチ打ちのが、週一の拷問より心身ともに楽だよなぁ)
そんな事を考えながら、図書室で勉学に励んでいた。後宮を辞したら、スキップで帝国総合大学に入学するために。しかし官僚になる夢は薄れている。皇宮は広いが、ヴァイゼ皇帝とエンカウントするリスクは御免こうむる。いまは実家の子爵家と、祖父のベルクバック侯爵領の会計監査に将来の目標の舵を取っている。
(あー、領地に戻りてぇ。帳簿つけて、硬貨の音を聞きたい)
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