5 / 5
第五章 青天の霹靂(蛇足)
アパタイト 早く僕に戻りたい
しおりを挟む
1.あれから3年
ヴァイゼ皇帝は、ランス・ハーミットの脅しに屈して、フェルム王国が勢力を失うキッカケとなったイーストファイム王国との開戦翌日から、公的の場でしかカーティスと会っていない。
仮に密会などしよものなば、ランスにそれこそ殺されかねないからだ。
だがカーティスが結婚した3年後の冬、ちょうど社交シーズンの終わりと新年祝賀の合間を縫って、お忍びでカーティスの領地であるグロリア伯爵領を訪れた。
カーティスも立派な青年となり、ベルクバック侯爵家の血統が色濃く出て身長は195センチまで伸びた。相変わらず細身だが、骨格も既に青年そのもの。妻のヴェリーナは、立ってる夫と話す時は顔を見あげすぎて、首が痛くなるほどだ。
皇帝がお忍びできたのかは、カーティス目的ではない。そもそも皇帝は男色から完全に卒業した。仮にまだカーティスに未練があったとしても、かつて最愛の愛人だった少年は、今ではこんな背が高くて骨ばった男となり、欲情する気も起こらない。
「異母弟のゲオルク、アイツ許さいない!」
グロリア伯爵領の応接室に通されるなり、皇帝は声を上げて泣き出した。その理由に、カーティスは心当たりがあり過ぎた。
皇帝の異母弟ゲオルク・フリル侯爵は、自ら羊牧場主となり、多数のボーダーコリーを愛する愛犬家としても有名だ。年齢はカーティスと同じ19歳。ゲオルクの母はウェスリー子爵の姉アーデラ先帝元側妃、つまりゲオルクはカーティスの父方の従弟だった。
成人して侯爵の爵位と領地を得たことで、皇子から臣下に下ったゲオルク元皇子は、今年の秋、ちょうど2年にカーティスの結婚披露舞踏会が皇宮で開かれたのと同じ日に、皇帝が求婚し続けたカメリア・ベルクバック侯爵令嬢と結婚した。
ちなみに側妃を母に持つ皇子は、本来なら一代限りの貴族と決まっている。だが今回は、ヴァイゼ皇帝反逆派の大規模粛清で土地が余っていたため、先帝の皇子たちは子々孫々、大抵は伯爵以下だが爵位を継げることになった。もちろんヴァイゼ皇帝の息子皇子全員も、永代貴族が確定している。ゲオルクの場合は、前ペルクバック侯爵の孫ということと、従兄のカーティスが帝国で事業に成功した資産家の次期侯爵とあって、先帝側妃の皇子の中で唯一、侯爵を賜った。
皇宮主催の舞踏会や晩餐会へ赴くのは、カメリアにとって憂鬱だった。しかし基礎化粧水をはじめとする三大帝国化粧品業界『ナチュラル・グロリア社』の副社長として、貴族夫人や令嬢に商品を売り込むため、主要な社交界へは大抵顔を出していた。カメリアを社交界嫌いにさせたのは、カーティスの結婚披露舞踏会で醜態を晒して以来、彼女に粘着質求婚を続けるヴァイゼ皇帝が元凶だった。
だが堅実に仕事を続けていれば、良いこともある。カーティスへの片思いを告げることのないまま不完全燃焼の失恋したカメリアの目の前に、好きだった人に面差しのよく似た青年が、舞踏会会場の隅でつまらなそうにしているのを見つけたのだ。
カメリアが勇気を出して話しかけると、何と叔母の息子、つまりカメリアの従兄ゲオルクだった。髪は金褐色で、瞳は王族特有のアクアマリン。顔立ちも皇族寄りだが、柔らかな雰囲気はカーティスによく似ており、ベルクバック侯爵家の血統が色濃く出た長身の青年だった。2人は瞬く間に親しくなった。
ゲオルクはボーダーコリーを愛し、良質な羊を育てる研究と世話を欠かさない。そしてカメリアは猫を数十頭飼う、無類の猫好き。
「度を越した犬好きと猫好き、そんなんで、ゲオルク様と結婚まで進むかねぇ?」
カーティスは、ヴェリーナに話す。カーティスとしては、年齢や明晰な頭脳を持つカメリアは、ランスの妻がお似合いなのではと思っていたのだ。
「たぶん、何らかの問題解決策で、ご夫婦になられるかと。ですがカメリア様が『ディア・ヴィーナス社』副社長を続けられるかは微妙ですね」
ヴェリーナは、カメリアがカーティスに片思いしつつ、ヴェリーナに敵対心を抱いていることを知っていた。『ディア・ヴィーナス社』の新規事業の相談で、よくカーティスのもとを訪ねていたカメリアは、露骨にヴェリーナを嫌っていたからだ。しかしゲオルクと親しくなってから、ヴェリーナに対する態度が軟化した。カーティスへの未練を断ち切るほど、ゲオルク元皇子と親しい事が察せられ、ヴェリーナは微笑ましく思った。
ゲオルクとカメリアの結婚障害となりえそうな、ゲオルクのボーダーコリー多頭飼いと、カメリアが可愛がる多くの愛猫との同居問題だったが、両者のリーダー格犬とボス猫を対面させても、取り立てて問題がないと分かった時点で、結婚話は一気に加速した。
そしてカメリアは、婚約を期にすべての愛猫を連れてゲオルク・フリル侯爵領に居を移した。実家に居るのを嫌悪したのは、未だゲオルクとの婚姻を認めず、猛アピールを続けるヴァイゼ皇帝が鬱陶しいからだった。
皇帝が結婚書諾書に渋々判を押したのは、カメリアが同業者として親しくしている、皇帝の弱みを握るランス・ハーミット伯爵の力を借りたからだった。お陰で結婚披露舞踏会を皇宮で行うことが出来、ついでに新商品披露を自らの花嫁メイクで参列客へ宣伝することが出来た上、ヴァイゼ皇帝の失恋の涙を見ることが出来て、一石三鳥のカメリアは大いに満足した。
『ディア・ヴィーナス社』の副社長は、カメリアが引き続き続けることになったが、ベルデバック侯爵領の工場管理は、専務でカメリアの次兄のフランツへ全面的に任せることになった。
フランツは継げる爵位がないため、ゆくゆくは『ディア・ヴィーナス社』の副社長が譲られる流れとなっている。これは縁故世襲だけが理由ではなく、次兄フランツも天才ではないが秀才型で、帳簿好きなカーティスの同志だったからだ。ベルクバック侯爵の血筋は、天才や秀才も多く出るらしい。
「もともとカメリアでは、皇妃は務まりませんよ。あの子はベルクバック侯爵一族で、アーデラ伯母上以来久しく誕生しなかった待望の娘だったので、一族中で甘やかしましたから。その結果、あの容姿も相まって、少々自己主張の激しい跳ねっ返りになってしまいました。とてもじゃないが、皇妃の公務など務まりませんし、束縛された生活に耐えられるはずもありません。現に、社交界デビュタントを終えてすぐ、『自分を副社長に採用して!』と言い出した時には驚きました。もともと『ディア・ヴィーナス社』の化粧品開発は社長の僕が、そして予算編成や現場管理は、計算の早いベルクバック侯爵の次男フランツ君を副社長に据えるつもりでしたからね」
「では、どうしてカメリアを副社長に方向転換させた。その御蔭で頻繁に社交界へ現れたから、俺は期待してしまったじゃないか。憎まれ口を叩きながらも、本当は俺に惚れているのだと」
ヴァイゼ皇帝は、鼻をすすりながら反論する。彼の背後には護衛騎士の他に、いつもの忠臣執事も控えていた。皆、困り顔だ。
「才能があったからですよ。粗削りながらも、『レット・シェーン・フルーメ社』とは違う化粧品一式を開発して、僕に売り込んできたのです。『ディア・ヴィーナス社』が基礎化粧水や洗顔石鹸、パックなどの素肌向け化粧品を特化させていたのを、若い令嬢向けのキラキラ光る素材入りや艷やかな発色の口紅、肌質が抜群に引き立つ化粧崩れしないファンデーションなどの試作品を売り込んできましたからね。お陰で『レット・シェーン・フルーメ社』とは路線の違うブランド化粧品が、爆発的人気を博してますよ。カメリアが指揮する開発部は、飽きが来ないうちに次々と新作が発表され、若い令嬢向けに作られたにも関わらず、中年から初老まで幅広い婦人方にも大人気ですからね。『レット・シェーン・フルーメ社』の商品開発をしている僕としては、大助かりですよ。カメリアは副社長職をいずれ、本来の副社長候補だった彼女の次兄に譲るつもりですが、商品開発はフリル侯爵領で引き続き行うとか」
「……フリル侯爵』
ヴァイゼ皇帝は、憎々しげに異母弟ゲオルクの爵位を呟いた。
(カメリアに恋した陛下だけど、仮に夫婦になったところで上手くいくわけなかったよなぁ。だって2人とも、性格が似すぎていたから。喧嘩を想像するだけでも恐ろしい)
カーティスは、腹の中で呟いた。その点、皇帝の異母弟にしてカーティスの従弟ゲオルクは、朴訥な田舎らしの青年で、懐が深い優しくノンビリした性格をしていたこともあり、苛烈なカメリアにはピッタリだった。
「どこかに夢中になれる女人がいればなぁ。皇妃も側妃も愛しくはあるが、政略の意味で結ばれた気持ちが強い。本物の、激しい恋に身を委ねて、今度こそ成就させたいものだ」
皇帝はソファの背もたれに寄りかかり、天上を仰ぐ。かつて寵愛した相手が目の前にいるが、ランスに釘を差されずとも、もうカーティスに対する熱情はない。2メートル近い身長と、2つの会社を切り盛りする次代スマラウト侯爵になったカーティスに昔の可憐な面影はなく、誰にでも柔和な顔をしなが、己に有利な状況に事を運ぶ手強い次期侯爵に育ちきった。
(ターゲットにされた相手の女性が哀れだから、もう恋はしないほうが平和だろうな)
カーティスは思わずにはいられない。皇帝との夜は、他の妃の接し方は知らないが、カーティスは寝不足になるほど激しくされたことしか知らない。
カーティスには拷問としか思えなかったため」
「既に御子はもう要らないと、仰っていたではありませんか。いまお傍にいらっしゃるお妃方を大切にしてください」
「おまえは、経緯はどうであれ、好きな相手と結ばれた。唯一無二の相手を大事に出来るのは、どれほど幸せか分かるまい」
皇帝は、天上を見上げたまま言う。皇帝、国の、いや今や、西大陸の頂点に立つお方。全てを持てる力がありながら、一番欲しいものは手に入らない孤独の人。
そのとき、扉を開けて4歳になったクラーラが飛び込んできた。
「パパ、私、犬が欲しい!マルクスのところでいっぱい子犬が生まれたの!」
マルクスというのは、自邸の料理長だ。その奥方はクラーラの乳母を務めており、乳姉妹のマチルダとは本当の姉妹のように仲がよい。
「マルクスの犬は、狩猟犬だろう。性質は温厚だが、クラーラには大きすぎる。可愛い小型犬がいいのでは?」
「嫌!私、あの真っ白な白い子犬がいいの!名前だって、ホワイトって決めたの!」
マルクスの飼っているポインターは、白地のブチ。犬種によって、成長過程で斑が現れることもある。ダルメシアンが良い例だ。
皇帝は、クラーラを凝視する。ヴァイゼ皇帝と同じく銀髪だが、髪質は違うらしく直毛な皇帝に対して、クラーラは巻き毛だ。瞳は父親譲りの菫色で、両親の良いところを更に研磨した可愛らしさだ。
「なあ、おまえのこの娘ーー」
「やらないよ!この子は将来、私と結婚するんだ!」
神出鬼没で現れたランスが、すぐさまクラーラを抱き上げるなり、皇帝を睨む。ヴァイゼ皇帝の顔が引っった。
「ねえランス、パパに犬を飼ってもいいと説得して」
クラーラは、人一倍自分に甘いランスの首に手を回して甘えた声でおねだりする。「ランス」と呼んでいるのは、将来を見越して呼び捨てにするよう躾けたからだ。ただしクラーラ以外の者、カーティスは別だが(相変わらずカーティスがランス様呼びなのが、むしろ腹ただしい)、クラーラの弟達が真似して呼び捨てにしたら、ランスのゲンコツが落ちる。
「カーティス、犬を飼ってやれ。それと、何でこんな汚物を邸にあげる。もてなしなんぞいらん、門前で追っ払え。いまコイツ、クラーラに目の色変えたぞ。変態に、私の宝物を晒すな」
ランスは尊大に言う。同じ帝国西部地域とはいえ、ハーミット伯爵領はグロリア伯爵領との間に幾つもの領地を挟んで離れている。
「ランス様、いま子供用化粧品の開発で忙しいと言ってませんでしたか?」
カーティスは尋ねる。これも化粧に興味を持ったクラーラのおねだりで、かわいいデザインの安全第一な化粧品セットを製作中なのだ。
「皇帝が皇都を抜け出して西に向かった情報が、シュタルク諜報長官から入ったから、慌てて駆けつけたんだ。あの長官には、貸しをたっぷり作ってやった代わりに、皇帝の動向を逐一報せるよう知らせてあるからな」
ランスは、今にもくびり殺してやろうかという顔で、ますます殺気をだだ漏れにして、皇帝を睨みつける。
(あー、面倒臭い。しかしシュタルク伯爵も、
ランス様に弱味を握られるとは難儀な)
カーティスは哀れむ。確かに皇帝まで養女趣味に走るのは、ましてやカーティスの子供たちにとって唯一の娘であるクラーラを、この皇帝の皇妃になんてさせたくない。
以前、ナユタ博士は、カーティスとヴェリーナは多産の兆候があると言ったが、いま夫婦は四男一女の親だ。末子のティオボルトは生まれたばかりで、この子だけ年子でないが、クラーラ、双子、ウルリックまでの4人は年子だった。
「ランス様、一度、クラーラが欲しがっている親犬を見てきてください。性質は大人しいものの、あくまでも猟犬。まだ4歳のクラーラが飼うには難アリと分かりますから。その犬の犬種はポインター、ウチの料理人はジビエのために、何頭かの猟犬を所持して、たまに狩りへ出かけるのです」
「ポインターか」
さすがにランスも難しい顔をする。しかしクラーラは、「ランスまで反対なの?」とすねると、すぐさま手のひらを返した。
「そのポインターの子犬は、春まで僕が調教して、クラーラに害が及ばないよう、徹底的に躾ける。春までじゃ足りないなら、1年かけてもいい。だから許可しろ、許可するよな?」
ランスは、カーティスに詰め寄る。
「……そういうことでしたら」
カーティスは渋々認めたが、問題はランスの滞在期間だ。
(4ヶ月から9か月も我が家に滞在するつもりなんだ。ランス様とて事業を幅広く広げて忙しいし、そもそも特産の金魚開発を中断してもいいかねぇ。まあ。ここでスネられると面倒だから、了承するしかないな。それより皇帝陛下はーー)
カーティスがヴァイゼ皇帝を見ると、彼はやばい顔をしている。閉じた禁断の扉が開きかかってるのだ。
(ウチの娘から遠ざかってもらうには、ランス様とよろしくやってくれのが一番安心なんだがな。どうもクラーラには大人の男を引きつける何かがあるらしい。結婚するなとは言わないから、もう少し年の近い子と夫婦になってほしいなぁ。まあ、師匠の弟からして、ランス様もそっちの趣味なんだろうけど。何とか状況が変わらないかなぁ)
カーティスは遠い目をした。
2、それから更に2年
(あ、デジャヴ)
カーティスは目の前で号泣する男を見ながら、そう思った。だが今回は皇帝でなく、目の前で泣いているのはランス・ハーミット伯爵だ。
(僕のクラーラが、よりによって甥に恋するとは!おのれアレクサンドロス・ジュニア、クラーラとキスするとは万死に値する。目が届かぬうちに始末してやろうか」
ランスが恨んでいるのは、ウォレス・プルネン伯爵子息。ランスの次兄で、外務副大臣を務めている敏腕家臣の嫡子だ。
「恋仲と言うのは大袈裟な。単に遊びの延長の好きで、予行練習の真似してみただけでは。なにそろクラーラはまだ6歳ですし、ウォレス卿のご子息とは、リングボーイとリングガールを務めるため、間近で新郎新婦を観察しているわけですから。大人の真似事をしたくなる年頃ですよ」
カーティスは、そう慰めながら(子供のお遊びか、初恋かまでは知らんけど)と、心の中で呟く。そもそもクラーラとアレクサンドロス・ウォレス伯爵子息のが、お似合いには違いない。
そう、結婚披露宴で夫婦の証となる結婚指輪を、新郎新婦の愛の誓いのあとからシルク製のクッションに置かれた指輪を入れた籠を、それぞれ持って登場する子供たちだ。新郎側にリングボーイ、新婦側にリングガールが指輪を運ぶ。
結婚するのは、これまでの功績を重ねた恩賞として、アンファング伯爵位を皇帝から授けられたノートル・ナユタ博士。これまで爵位も領地も必要ないと、好き勝手できる放浪の自由人を謳歌していた。しかしナユタ博士は、ゾフィーの両親クライノート伯爵を苦労して説得して婚約者まで漕ぎ着けたが、財産は有り余るのの、貴族を捨てた彼は天才であっても、貴族であることを捨てたため、今の、身分は平民と変わない。ゾフィーを平民に落したくはなかったため、叙爵の話がきたときには飛びついた。
弟ランスとの違いは、ランスはメロメロに誤魔化すのと違い、ナユタ博士は甘やかすだけではなかった。悪いことをしたなら諭して納得させ、当人の嫌がらない加減を見極めながら、淑女教育だけでなく、彼女が興味を持ったことを丁寧に教えた。ゾフィーは、服飾デザインに興味があるようだった。
こうした地道な努力により、ゾフィーは年の差がありながらもナユタ博士に尊敬では足りない愛情を抱くようになり、相思相愛になった2人は、来年結婚する。
そのリングボーイとして、ナユタ博士の次弟ウォレスの息子を抜擢し、寄り添うリングガールはベルデバック一族からクラーラが選ばれたのだ。
ナユタ博士は伯爵の身分なため、皇城で結婚披露舞踏会が皇帝主催で開かれることはない。これまでのナユタ博士の功績を考え、特例で侯爵や公爵の結婚と同等にしてもという声も家臣から上がったが、ナユタ博士が「堅苦しいの嫌だ」と、両家一族だけの挙式をナユタ博士所有のアンファング伯爵領の自邸で執り行うことになった。
そう、挙式。放浪の自由人だったナユタ博士は、各国にも旅している。そのうちの一つの国の地域で慣習となっている、結婚宣誓を両家の親の前で行う挙式というものを目の当たりにする機会を得た。たまたま新郎側のケガした親を助けた恩義から、挙式に招待されたのだ。街の中心に建てられたチャペルというもので、挙式は行う。チャペル参加者は両家一族のみだったが、チャペルから出ると友人知人や通りすがりも花を投げて祝福した。
「いずれ結婚することがあったら、ぜひこのような形で行いたい」と、ナユタ博士は憧れて、チャペルをアンファング伯爵領主都に建てたのだった。
挙式演習をするうちに、アレクサンドロス・ジュニアとクラーラは意気投合したのだ。年齢が一つ違いで、共に一族の血筋から秀才天才の血を引いているため、まだ7歳と6歳にも関わらず、哲学的な会話で盛り上がっているのだ。
その仲睦まじい様子に嫉妬したランスが割り込んだのだが、逆にクラーラから猛烈に、ランスの急所を突かれたのだ。
「ランスは優しいけど、それだけでしかないじゃない。生産性のない会話には、もう飽き飽きだわ。私を容姿だけの人形にするつもりみたいだけど、私にだって人格はあるわ。それにランスは年齢を感じさせないほど綺麗なままだけど、父様より年上じゃない。私、早々に未亡人にはにはなりたくないから結婚は無理。もっと年の近い人がいいわ。ランスも、もっと身の丈に相応しい年齢の女性と結婚するべきね」
「しかし、アレク兄上は――」
「ゾフィーは、博士が幼少期から教育を怠らず、躾ける時はしっかりしてだからこそ、師弟の関係を超えた愛が育まれたんじゃない。ともかく、私はランクと結婚するぐらいなら、父様の片腕となって、オールドミスを貫くつもり。だからランスらもう私に付きまとっとり贈り物を山に積むのはもう止めてね。迷惑だから」
そんな訳で、クラーラは決定的拒絶を示したのだ。
「うう、何とか良い方はないの?諦めるしかないわけ?諦めるしかないわけ?」
泣きながらランスは、カーティスのアドバイスを、切実に必要している。美形がグシャグシャの顔して迫ってくるのは、かなり怖い。
「女の子の気持ちは測ります。なにしろ、ウチは男系一族ですから。ただ、女の子は気まぐれですからねぇ」
本当に、女性のことはカーティスには分からない。大人しい女性も、ヴェリーナのように心を壊して暴走すると、理性など捨てて少年を襲う。美しく従順な顔をして、他人を貶めるのが巧みな後宮側妃もいた。
「ですがクラーラをひたすら甘やかしすぎたのは、悪手でしたね。親のひいき目ですが、あの子は普通より頭がいい。ランス様が望む妻の条件は何ですか?」
「……甘やかすだけでは、無理だったのか。甘やかせば、クラーラは私に依存して、私だけを頼りにしてくれると思っていたのに」
「師匠は、その辺りの線引きを明確にし、ゾフィーを甘やかしすぎず、成功は褒め称え、失敗は懇切丁寧に諭して納得させていました。ウチの一族の女性は、どうも自立旺盛な傾向があるようだ。アーデラ伯母上も、いまじゃウェスリー領で、あの年齢で医学学校に通学している。クラーラはまだ、やりたいことが明確ではありませんが、人に依存して生きるタイプではありませんよ」
帝国医師になるためには、国家資格が必要となる。しかし領土ごとに制度は違い、ある程度の治療や調合が出来れば、州内限定よ医師免除をらえる。ウェスリー子爵領やグロリアはこれに該当する州医師となった。ただし州内医師の資格は、帝国国家試験よりも厳しい座学、実技、薬の使用量を暗記したくてはならない。
「もう見込みなしってことか?」
ランスはこの世の終わりのような顔をしている。
「今後の対処次第といったところですかね。確率的に難しいでしょうけど」
最後通牒をカーティスが突きつけると、再びランスは号泣した。
3。電撃結婚のお相手
ナユタ博士ことハーミット伯爵とゾフィーの結婚式が、異国風で祝福されて終わった初夏、社交界シーズンにランスは妙齢の男爵令嬢と電撃婚約して世間を驚かせた。
婚約相手と知り合ったきっかけは、父親が金魚愛好家と同時に、繁殖事業を領土の主要産業としており、目ぼしい金魚を探しにランスが男爵領まで遠征したころで始まる。
男爵令嬢は社交界デビューした日に、内向的な彼女はイジメの洗礼を早速受けて、何年も社交界どころか邸からさえへ出ず、引きこもって泣いてばかりらしかった。ちなみに下位貴族は皇宮でデビューする資格はなく、大抵は近隣の高位貴族の舞踏会がビューの舞台となる。
そしてたまたま習慣となった、男爵邸庭園の、父自慢の売り物でない金魚をぼんやりと、男爵令嬢が眺めているとき、ランスと知り合った。
ランスは一目で息を呑み、その場で男爵令嬢に交際を申し入れた。男爵令嬢は家格違う美貌の金持ち伯爵に揶揄われてるのだと信じ込んで、控えめにお断りした。だがランスは必死で何度も何度、その令嬢に求婚。玉の輿だと喜ぶ両親から説得され、男爵令嬢は兄弟姉妹からも彼女は将来を心配されていたことあって、ランスと婚約することになった。
(憐憫が戯れか、ともかく私なんて、すぐ飽きられる)
男爵令嬢は諦めきっていた。だがランスは、彼女を徹底的に甘やかした。それは最初の結婚相手と定めたクラーラにしてやりたかったことを、そのまま男爵令嬢に行ったのだ。
次第に男爵令嬢の心もほぐれ、数年ぶりにランス・アンファング伯爵の婚約者とし社交界へ戻った。過去のトラウマからランスにしがみつき、ランスも片時だって離すまいと、男爵令嬢を守った。
それはベルクバック侯爵家主催の舞踏会だったが、ベルデバック一族の者、特にカーティスは呆気にとられた。
(そっち走っちゃたわけ?実害はないけど、複雑でしかないんだけど?)
カーティスは顔を引き攣らせつつ、ランスと婚約者に挨拶する。カーティスの表情に、男爵令嬢は不安げに俯いたが、ランスは彼女を抱きしめ、カーティスを睨みつける。
「私の婚約者は繊細なんだ。そんな不快そうな顔をしないでくれるか?」
「……ああ、ごめん。つい驚いちゃって。彼女、ウチの血を引いてるってことないよね?」
「当然だ。親友のおまえだからこそ、真っ先に紹介したのに。そんな顔をされるとは」
ランスは憤慨するが、目の奥はかすかに笑っていた。
ランスの婚約者のアルヴェラ・オータムホリー男爵令嬢は、瞳の色こそタンザナイトブルーで、カーティスのスミレの瞳より青みの濃い紫だが、髪色と言い、顔立ちといい。カーティスの双子の妹と言っても違和感がなかった。
「いや、ごめんよ。ランス様の想い人は、愛らしい人だね。とても他人とは思えないよ。ぜひ、うちの家族と仲良くしてもらいたい」
カーティスが誠実に、改めて挨拶すると、アルヴェラはゆっくり婚約者の胸から目を離して、カーティスを振り返った。だがそこに顔はない。上半身をゆっくり見上げて、驚く。
「すごい。まるで生き別れの双子のようたわ、私の顔と似ているなんて、グロリア伯爵には不快でしょうがないでしょうけど」
「そんなことないよ。これから仲良くして欲しい。ランス様の未来の奥方様なら、これから頻繁に交流することもあるでしょうから。先ずは妻を紹介しますが、こちらへ滞在するのでしょうから、子供たちもご紹介しますよ。6男1女で騒がしいでしょうけど」
「え?、ということは、お子様が7人も?」
アルヴェラ、淡白そうな自分と似た面影のあるら青年に絶句した。
(私、そんな子を生んで育てる自信はないわ。せいぜい2人がいいだところよ」
アルヴェラは、今から将来を心配した。実は彼女は既に、ランスの1人目の子を身ごもっている。まだ隠せる程度にしか成長してないが。
(少なくとも、お腹の子が男子でありますように)
アルヴェラは祈らずにいられなかった。
ヴァイゼ皇帝は、ランス・ハーミットの脅しに屈して、フェルム王国が勢力を失うキッカケとなったイーストファイム王国との開戦翌日から、公的の場でしかカーティスと会っていない。
仮に密会などしよものなば、ランスにそれこそ殺されかねないからだ。
だがカーティスが結婚した3年後の冬、ちょうど社交シーズンの終わりと新年祝賀の合間を縫って、お忍びでカーティスの領地であるグロリア伯爵領を訪れた。
カーティスも立派な青年となり、ベルクバック侯爵家の血統が色濃く出て身長は195センチまで伸びた。相変わらず細身だが、骨格も既に青年そのもの。妻のヴェリーナは、立ってる夫と話す時は顔を見あげすぎて、首が痛くなるほどだ。
皇帝がお忍びできたのかは、カーティス目的ではない。そもそも皇帝は男色から完全に卒業した。仮にまだカーティスに未練があったとしても、かつて最愛の愛人だった少年は、今ではこんな背が高くて骨ばった男となり、欲情する気も起こらない。
「異母弟のゲオルク、アイツ許さいない!」
グロリア伯爵領の応接室に通されるなり、皇帝は声を上げて泣き出した。その理由に、カーティスは心当たりがあり過ぎた。
皇帝の異母弟ゲオルク・フリル侯爵は、自ら羊牧場主となり、多数のボーダーコリーを愛する愛犬家としても有名だ。年齢はカーティスと同じ19歳。ゲオルクの母はウェスリー子爵の姉アーデラ先帝元側妃、つまりゲオルクはカーティスの父方の従弟だった。
成人して侯爵の爵位と領地を得たことで、皇子から臣下に下ったゲオルク元皇子は、今年の秋、ちょうど2年にカーティスの結婚披露舞踏会が皇宮で開かれたのと同じ日に、皇帝が求婚し続けたカメリア・ベルクバック侯爵令嬢と結婚した。
ちなみに側妃を母に持つ皇子は、本来なら一代限りの貴族と決まっている。だが今回は、ヴァイゼ皇帝反逆派の大規模粛清で土地が余っていたため、先帝の皇子たちは子々孫々、大抵は伯爵以下だが爵位を継げることになった。もちろんヴァイゼ皇帝の息子皇子全員も、永代貴族が確定している。ゲオルクの場合は、前ペルクバック侯爵の孫ということと、従兄のカーティスが帝国で事業に成功した資産家の次期侯爵とあって、先帝側妃の皇子の中で唯一、侯爵を賜った。
皇宮主催の舞踏会や晩餐会へ赴くのは、カメリアにとって憂鬱だった。しかし基礎化粧水をはじめとする三大帝国化粧品業界『ナチュラル・グロリア社』の副社長として、貴族夫人や令嬢に商品を売り込むため、主要な社交界へは大抵顔を出していた。カメリアを社交界嫌いにさせたのは、カーティスの結婚披露舞踏会で醜態を晒して以来、彼女に粘着質求婚を続けるヴァイゼ皇帝が元凶だった。
だが堅実に仕事を続けていれば、良いこともある。カーティスへの片思いを告げることのないまま不完全燃焼の失恋したカメリアの目の前に、好きだった人に面差しのよく似た青年が、舞踏会会場の隅でつまらなそうにしているのを見つけたのだ。
カメリアが勇気を出して話しかけると、何と叔母の息子、つまりカメリアの従兄ゲオルクだった。髪は金褐色で、瞳は王族特有のアクアマリン。顔立ちも皇族寄りだが、柔らかな雰囲気はカーティスによく似ており、ベルクバック侯爵家の血統が色濃く出た長身の青年だった。2人は瞬く間に親しくなった。
ゲオルクはボーダーコリーを愛し、良質な羊を育てる研究と世話を欠かさない。そしてカメリアは猫を数十頭飼う、無類の猫好き。
「度を越した犬好きと猫好き、そんなんで、ゲオルク様と結婚まで進むかねぇ?」
カーティスは、ヴェリーナに話す。カーティスとしては、年齢や明晰な頭脳を持つカメリアは、ランスの妻がお似合いなのではと思っていたのだ。
「たぶん、何らかの問題解決策で、ご夫婦になられるかと。ですがカメリア様が『ディア・ヴィーナス社』副社長を続けられるかは微妙ですね」
ヴェリーナは、カメリアがカーティスに片思いしつつ、ヴェリーナに敵対心を抱いていることを知っていた。『ディア・ヴィーナス社』の新規事業の相談で、よくカーティスのもとを訪ねていたカメリアは、露骨にヴェリーナを嫌っていたからだ。しかしゲオルクと親しくなってから、ヴェリーナに対する態度が軟化した。カーティスへの未練を断ち切るほど、ゲオルク元皇子と親しい事が察せられ、ヴェリーナは微笑ましく思った。
ゲオルクとカメリアの結婚障害となりえそうな、ゲオルクのボーダーコリー多頭飼いと、カメリアが可愛がる多くの愛猫との同居問題だったが、両者のリーダー格犬とボス猫を対面させても、取り立てて問題がないと分かった時点で、結婚話は一気に加速した。
そしてカメリアは、婚約を期にすべての愛猫を連れてゲオルク・フリル侯爵領に居を移した。実家に居るのを嫌悪したのは、未だゲオルクとの婚姻を認めず、猛アピールを続けるヴァイゼ皇帝が鬱陶しいからだった。
皇帝が結婚書諾書に渋々判を押したのは、カメリアが同業者として親しくしている、皇帝の弱みを握るランス・ハーミット伯爵の力を借りたからだった。お陰で結婚披露舞踏会を皇宮で行うことが出来、ついでに新商品披露を自らの花嫁メイクで参列客へ宣伝することが出来た上、ヴァイゼ皇帝の失恋の涙を見ることが出来て、一石三鳥のカメリアは大いに満足した。
『ディア・ヴィーナス社』の副社長は、カメリアが引き続き続けることになったが、ベルデバック侯爵領の工場管理は、専務でカメリアの次兄のフランツへ全面的に任せることになった。
フランツは継げる爵位がないため、ゆくゆくは『ディア・ヴィーナス社』の副社長が譲られる流れとなっている。これは縁故世襲だけが理由ではなく、次兄フランツも天才ではないが秀才型で、帳簿好きなカーティスの同志だったからだ。ベルクバック侯爵の血筋は、天才や秀才も多く出るらしい。
「もともとカメリアでは、皇妃は務まりませんよ。あの子はベルクバック侯爵一族で、アーデラ伯母上以来久しく誕生しなかった待望の娘だったので、一族中で甘やかしましたから。その結果、あの容姿も相まって、少々自己主張の激しい跳ねっ返りになってしまいました。とてもじゃないが、皇妃の公務など務まりませんし、束縛された生活に耐えられるはずもありません。現に、社交界デビュタントを終えてすぐ、『自分を副社長に採用して!』と言い出した時には驚きました。もともと『ディア・ヴィーナス社』の化粧品開発は社長の僕が、そして予算編成や現場管理は、計算の早いベルクバック侯爵の次男フランツ君を副社長に据えるつもりでしたからね」
「では、どうしてカメリアを副社長に方向転換させた。その御蔭で頻繁に社交界へ現れたから、俺は期待してしまったじゃないか。憎まれ口を叩きながらも、本当は俺に惚れているのだと」
ヴァイゼ皇帝は、鼻をすすりながら反論する。彼の背後には護衛騎士の他に、いつもの忠臣執事も控えていた。皆、困り顔だ。
「才能があったからですよ。粗削りながらも、『レット・シェーン・フルーメ社』とは違う化粧品一式を開発して、僕に売り込んできたのです。『ディア・ヴィーナス社』が基礎化粧水や洗顔石鹸、パックなどの素肌向け化粧品を特化させていたのを、若い令嬢向けのキラキラ光る素材入りや艷やかな発色の口紅、肌質が抜群に引き立つ化粧崩れしないファンデーションなどの試作品を売り込んできましたからね。お陰で『レット・シェーン・フルーメ社』とは路線の違うブランド化粧品が、爆発的人気を博してますよ。カメリアが指揮する開発部は、飽きが来ないうちに次々と新作が発表され、若い令嬢向けに作られたにも関わらず、中年から初老まで幅広い婦人方にも大人気ですからね。『レット・シェーン・フルーメ社』の商品開発をしている僕としては、大助かりですよ。カメリアは副社長職をいずれ、本来の副社長候補だった彼女の次兄に譲るつもりですが、商品開発はフリル侯爵領で引き続き行うとか」
「……フリル侯爵』
ヴァイゼ皇帝は、憎々しげに異母弟ゲオルクの爵位を呟いた。
(カメリアに恋した陛下だけど、仮に夫婦になったところで上手くいくわけなかったよなぁ。だって2人とも、性格が似すぎていたから。喧嘩を想像するだけでも恐ろしい)
カーティスは、腹の中で呟いた。その点、皇帝の異母弟にしてカーティスの従弟ゲオルクは、朴訥な田舎らしの青年で、懐が深い優しくノンビリした性格をしていたこともあり、苛烈なカメリアにはピッタリだった。
「どこかに夢中になれる女人がいればなぁ。皇妃も側妃も愛しくはあるが、政略の意味で結ばれた気持ちが強い。本物の、激しい恋に身を委ねて、今度こそ成就させたいものだ」
皇帝はソファの背もたれに寄りかかり、天上を仰ぐ。かつて寵愛した相手が目の前にいるが、ランスに釘を差されずとも、もうカーティスに対する熱情はない。2メートル近い身長と、2つの会社を切り盛りする次代スマラウト侯爵になったカーティスに昔の可憐な面影はなく、誰にでも柔和な顔をしなが、己に有利な状況に事を運ぶ手強い次期侯爵に育ちきった。
(ターゲットにされた相手の女性が哀れだから、もう恋はしないほうが平和だろうな)
カーティスは思わずにはいられない。皇帝との夜は、他の妃の接し方は知らないが、カーティスは寝不足になるほど激しくされたことしか知らない。
カーティスには拷問としか思えなかったため」
「既に御子はもう要らないと、仰っていたではありませんか。いまお傍にいらっしゃるお妃方を大切にしてください」
「おまえは、経緯はどうであれ、好きな相手と結ばれた。唯一無二の相手を大事に出来るのは、どれほど幸せか分かるまい」
皇帝は、天上を見上げたまま言う。皇帝、国の、いや今や、西大陸の頂点に立つお方。全てを持てる力がありながら、一番欲しいものは手に入らない孤独の人。
そのとき、扉を開けて4歳になったクラーラが飛び込んできた。
「パパ、私、犬が欲しい!マルクスのところでいっぱい子犬が生まれたの!」
マルクスというのは、自邸の料理長だ。その奥方はクラーラの乳母を務めており、乳姉妹のマチルダとは本当の姉妹のように仲がよい。
「マルクスの犬は、狩猟犬だろう。性質は温厚だが、クラーラには大きすぎる。可愛い小型犬がいいのでは?」
「嫌!私、あの真っ白な白い子犬がいいの!名前だって、ホワイトって決めたの!」
マルクスの飼っているポインターは、白地のブチ。犬種によって、成長過程で斑が現れることもある。ダルメシアンが良い例だ。
皇帝は、クラーラを凝視する。ヴァイゼ皇帝と同じく銀髪だが、髪質は違うらしく直毛な皇帝に対して、クラーラは巻き毛だ。瞳は父親譲りの菫色で、両親の良いところを更に研磨した可愛らしさだ。
「なあ、おまえのこの娘ーー」
「やらないよ!この子は将来、私と結婚するんだ!」
神出鬼没で現れたランスが、すぐさまクラーラを抱き上げるなり、皇帝を睨む。ヴァイゼ皇帝の顔が引っった。
「ねえランス、パパに犬を飼ってもいいと説得して」
クラーラは、人一倍自分に甘いランスの首に手を回して甘えた声でおねだりする。「ランス」と呼んでいるのは、将来を見越して呼び捨てにするよう躾けたからだ。ただしクラーラ以外の者、カーティスは別だが(相変わらずカーティスがランス様呼びなのが、むしろ腹ただしい)、クラーラの弟達が真似して呼び捨てにしたら、ランスのゲンコツが落ちる。
「カーティス、犬を飼ってやれ。それと、何でこんな汚物を邸にあげる。もてなしなんぞいらん、門前で追っ払え。いまコイツ、クラーラに目の色変えたぞ。変態に、私の宝物を晒すな」
ランスは尊大に言う。同じ帝国西部地域とはいえ、ハーミット伯爵領はグロリア伯爵領との間に幾つもの領地を挟んで離れている。
「ランス様、いま子供用化粧品の開発で忙しいと言ってませんでしたか?」
カーティスは尋ねる。これも化粧に興味を持ったクラーラのおねだりで、かわいいデザインの安全第一な化粧品セットを製作中なのだ。
「皇帝が皇都を抜け出して西に向かった情報が、シュタルク諜報長官から入ったから、慌てて駆けつけたんだ。あの長官には、貸しをたっぷり作ってやった代わりに、皇帝の動向を逐一報せるよう知らせてあるからな」
ランスは、今にもくびり殺してやろうかという顔で、ますます殺気をだだ漏れにして、皇帝を睨みつける。
(あー、面倒臭い。しかしシュタルク伯爵も、
ランス様に弱味を握られるとは難儀な)
カーティスは哀れむ。確かに皇帝まで養女趣味に走るのは、ましてやカーティスの子供たちにとって唯一の娘であるクラーラを、この皇帝の皇妃になんてさせたくない。
以前、ナユタ博士は、カーティスとヴェリーナは多産の兆候があると言ったが、いま夫婦は四男一女の親だ。末子のティオボルトは生まれたばかりで、この子だけ年子でないが、クラーラ、双子、ウルリックまでの4人は年子だった。
「ランス様、一度、クラーラが欲しがっている親犬を見てきてください。性質は大人しいものの、あくまでも猟犬。まだ4歳のクラーラが飼うには難アリと分かりますから。その犬の犬種はポインター、ウチの料理人はジビエのために、何頭かの猟犬を所持して、たまに狩りへ出かけるのです」
「ポインターか」
さすがにランスも難しい顔をする。しかしクラーラは、「ランスまで反対なの?」とすねると、すぐさま手のひらを返した。
「そのポインターの子犬は、春まで僕が調教して、クラーラに害が及ばないよう、徹底的に躾ける。春までじゃ足りないなら、1年かけてもいい。だから許可しろ、許可するよな?」
ランスは、カーティスに詰め寄る。
「……そういうことでしたら」
カーティスは渋々認めたが、問題はランスの滞在期間だ。
(4ヶ月から9か月も我が家に滞在するつもりなんだ。ランス様とて事業を幅広く広げて忙しいし、そもそも特産の金魚開発を中断してもいいかねぇ。まあ。ここでスネられると面倒だから、了承するしかないな。それより皇帝陛下はーー)
カーティスがヴァイゼ皇帝を見ると、彼はやばい顔をしている。閉じた禁断の扉が開きかかってるのだ。
(ウチの娘から遠ざかってもらうには、ランス様とよろしくやってくれのが一番安心なんだがな。どうもクラーラには大人の男を引きつける何かがあるらしい。結婚するなとは言わないから、もう少し年の近い子と夫婦になってほしいなぁ。まあ、師匠の弟からして、ランス様もそっちの趣味なんだろうけど。何とか状況が変わらないかなぁ)
カーティスは遠い目をした。
2、それから更に2年
(あ、デジャヴ)
カーティスは目の前で号泣する男を見ながら、そう思った。だが今回は皇帝でなく、目の前で泣いているのはランス・ハーミット伯爵だ。
(僕のクラーラが、よりによって甥に恋するとは!おのれアレクサンドロス・ジュニア、クラーラとキスするとは万死に値する。目が届かぬうちに始末してやろうか」
ランスが恨んでいるのは、ウォレス・プルネン伯爵子息。ランスの次兄で、外務副大臣を務めている敏腕家臣の嫡子だ。
「恋仲と言うのは大袈裟な。単に遊びの延長の好きで、予行練習の真似してみただけでは。なにそろクラーラはまだ6歳ですし、ウォレス卿のご子息とは、リングボーイとリングガールを務めるため、間近で新郎新婦を観察しているわけですから。大人の真似事をしたくなる年頃ですよ」
カーティスは、そう慰めながら(子供のお遊びか、初恋かまでは知らんけど)と、心の中で呟く。そもそもクラーラとアレクサンドロス・ウォレス伯爵子息のが、お似合いには違いない。
そう、結婚披露宴で夫婦の証となる結婚指輪を、新郎新婦の愛の誓いのあとからシルク製のクッションに置かれた指輪を入れた籠を、それぞれ持って登場する子供たちだ。新郎側にリングボーイ、新婦側にリングガールが指輪を運ぶ。
結婚するのは、これまでの功績を重ねた恩賞として、アンファング伯爵位を皇帝から授けられたノートル・ナユタ博士。これまで爵位も領地も必要ないと、好き勝手できる放浪の自由人を謳歌していた。しかしナユタ博士は、ゾフィーの両親クライノート伯爵を苦労して説得して婚約者まで漕ぎ着けたが、財産は有り余るのの、貴族を捨てた彼は天才であっても、貴族であることを捨てたため、今の、身分は平民と変わない。ゾフィーを平民に落したくはなかったため、叙爵の話がきたときには飛びついた。
弟ランスとの違いは、ランスはメロメロに誤魔化すのと違い、ナユタ博士は甘やかすだけではなかった。悪いことをしたなら諭して納得させ、当人の嫌がらない加減を見極めながら、淑女教育だけでなく、彼女が興味を持ったことを丁寧に教えた。ゾフィーは、服飾デザインに興味があるようだった。
こうした地道な努力により、ゾフィーは年の差がありながらもナユタ博士に尊敬では足りない愛情を抱くようになり、相思相愛になった2人は、来年結婚する。
そのリングボーイとして、ナユタ博士の次弟ウォレスの息子を抜擢し、寄り添うリングガールはベルデバック一族からクラーラが選ばれたのだ。
ナユタ博士は伯爵の身分なため、皇城で結婚披露舞踏会が皇帝主催で開かれることはない。これまでのナユタ博士の功績を考え、特例で侯爵や公爵の結婚と同等にしてもという声も家臣から上がったが、ナユタ博士が「堅苦しいの嫌だ」と、両家一族だけの挙式をナユタ博士所有のアンファング伯爵領の自邸で執り行うことになった。
そう、挙式。放浪の自由人だったナユタ博士は、各国にも旅している。そのうちの一つの国の地域で慣習となっている、結婚宣誓を両家の親の前で行う挙式というものを目の当たりにする機会を得た。たまたま新郎側のケガした親を助けた恩義から、挙式に招待されたのだ。街の中心に建てられたチャペルというもので、挙式は行う。チャペル参加者は両家一族のみだったが、チャペルから出ると友人知人や通りすがりも花を投げて祝福した。
「いずれ結婚することがあったら、ぜひこのような形で行いたい」と、ナユタ博士は憧れて、チャペルをアンファング伯爵領主都に建てたのだった。
挙式演習をするうちに、アレクサンドロス・ジュニアとクラーラは意気投合したのだ。年齢が一つ違いで、共に一族の血筋から秀才天才の血を引いているため、まだ7歳と6歳にも関わらず、哲学的な会話で盛り上がっているのだ。
その仲睦まじい様子に嫉妬したランスが割り込んだのだが、逆にクラーラから猛烈に、ランスの急所を突かれたのだ。
「ランスは優しいけど、それだけでしかないじゃない。生産性のない会話には、もう飽き飽きだわ。私を容姿だけの人形にするつもりみたいだけど、私にだって人格はあるわ。それにランスは年齢を感じさせないほど綺麗なままだけど、父様より年上じゃない。私、早々に未亡人にはにはなりたくないから結婚は無理。もっと年の近い人がいいわ。ランスも、もっと身の丈に相応しい年齢の女性と結婚するべきね」
「しかし、アレク兄上は――」
「ゾフィーは、博士が幼少期から教育を怠らず、躾ける時はしっかりしてだからこそ、師弟の関係を超えた愛が育まれたんじゃない。ともかく、私はランクと結婚するぐらいなら、父様の片腕となって、オールドミスを貫くつもり。だからランスらもう私に付きまとっとり贈り物を山に積むのはもう止めてね。迷惑だから」
そんな訳で、クラーラは決定的拒絶を示したのだ。
「うう、何とか良い方はないの?諦めるしかないわけ?諦めるしかないわけ?」
泣きながらランスは、カーティスのアドバイスを、切実に必要している。美形がグシャグシャの顔して迫ってくるのは、かなり怖い。
「女の子の気持ちは測ります。なにしろ、ウチは男系一族ですから。ただ、女の子は気まぐれですからねぇ」
本当に、女性のことはカーティスには分からない。大人しい女性も、ヴェリーナのように心を壊して暴走すると、理性など捨てて少年を襲う。美しく従順な顔をして、他人を貶めるのが巧みな後宮側妃もいた。
「ですがクラーラをひたすら甘やかしすぎたのは、悪手でしたね。親のひいき目ですが、あの子は普通より頭がいい。ランス様が望む妻の条件は何ですか?」
「……甘やかすだけでは、無理だったのか。甘やかせば、クラーラは私に依存して、私だけを頼りにしてくれると思っていたのに」
「師匠は、その辺りの線引きを明確にし、ゾフィーを甘やかしすぎず、成功は褒め称え、失敗は懇切丁寧に諭して納得させていました。ウチの一族の女性は、どうも自立旺盛な傾向があるようだ。アーデラ伯母上も、いまじゃウェスリー領で、あの年齢で医学学校に通学している。クラーラはまだ、やりたいことが明確ではありませんが、人に依存して生きるタイプではありませんよ」
帝国医師になるためには、国家資格が必要となる。しかし領土ごとに制度は違い、ある程度の治療や調合が出来れば、州内限定よ医師免除をらえる。ウェスリー子爵領やグロリアはこれに該当する州医師となった。ただし州内医師の資格は、帝国国家試験よりも厳しい座学、実技、薬の使用量を暗記したくてはならない。
「もう見込みなしってことか?」
ランスはこの世の終わりのような顔をしている。
「今後の対処次第といったところですかね。確率的に難しいでしょうけど」
最後通牒をカーティスが突きつけると、再びランスは号泣した。
3。電撃結婚のお相手
ナユタ博士ことハーミット伯爵とゾフィーの結婚式が、異国風で祝福されて終わった初夏、社交界シーズンにランスは妙齢の男爵令嬢と電撃婚約して世間を驚かせた。
婚約相手と知り合ったきっかけは、父親が金魚愛好家と同時に、繁殖事業を領土の主要産業としており、目ぼしい金魚を探しにランスが男爵領まで遠征したころで始まる。
男爵令嬢は社交界デビューした日に、内向的な彼女はイジメの洗礼を早速受けて、何年も社交界どころか邸からさえへ出ず、引きこもって泣いてばかりらしかった。ちなみに下位貴族は皇宮でデビューする資格はなく、大抵は近隣の高位貴族の舞踏会がビューの舞台となる。
そしてたまたま習慣となった、男爵邸庭園の、父自慢の売り物でない金魚をぼんやりと、男爵令嬢が眺めているとき、ランスと知り合った。
ランスは一目で息を呑み、その場で男爵令嬢に交際を申し入れた。男爵令嬢は家格違う美貌の金持ち伯爵に揶揄われてるのだと信じ込んで、控えめにお断りした。だがランスは必死で何度も何度、その令嬢に求婚。玉の輿だと喜ぶ両親から説得され、男爵令嬢は兄弟姉妹からも彼女は将来を心配されていたことあって、ランスと婚約することになった。
(憐憫が戯れか、ともかく私なんて、すぐ飽きられる)
男爵令嬢は諦めきっていた。だがランスは、彼女を徹底的に甘やかした。それは最初の結婚相手と定めたクラーラにしてやりたかったことを、そのまま男爵令嬢に行ったのだ。
次第に男爵令嬢の心もほぐれ、数年ぶりにランス・アンファング伯爵の婚約者とし社交界へ戻った。過去のトラウマからランスにしがみつき、ランスも片時だって離すまいと、男爵令嬢を守った。
それはベルクバック侯爵家主催の舞踏会だったが、ベルデバック一族の者、特にカーティスは呆気にとられた。
(そっち走っちゃたわけ?実害はないけど、複雑でしかないんだけど?)
カーティスは顔を引き攣らせつつ、ランスと婚約者に挨拶する。カーティスの表情に、男爵令嬢は不安げに俯いたが、ランスは彼女を抱きしめ、カーティスを睨みつける。
「私の婚約者は繊細なんだ。そんな不快そうな顔をしないでくれるか?」
「……ああ、ごめん。つい驚いちゃって。彼女、ウチの血を引いてるってことないよね?」
「当然だ。親友のおまえだからこそ、真っ先に紹介したのに。そんな顔をされるとは」
ランスは憤慨するが、目の奥はかすかに笑っていた。
ランスの婚約者のアルヴェラ・オータムホリー男爵令嬢は、瞳の色こそタンザナイトブルーで、カーティスのスミレの瞳より青みの濃い紫だが、髪色と言い、顔立ちといい。カーティスの双子の妹と言っても違和感がなかった。
「いや、ごめんよ。ランス様の想い人は、愛らしい人だね。とても他人とは思えないよ。ぜひ、うちの家族と仲良くしてもらいたい」
カーティスが誠実に、改めて挨拶すると、アルヴェラはゆっくり婚約者の胸から目を離して、カーティスを振り返った。だがそこに顔はない。上半身をゆっくり見上げて、驚く。
「すごい。まるで生き別れの双子のようたわ、私の顔と似ているなんて、グロリア伯爵には不快でしょうがないでしょうけど」
「そんなことないよ。これから仲良くして欲しい。ランス様の未来の奥方様なら、これから頻繁に交流することもあるでしょうから。先ずは妻を紹介しますが、こちらへ滞在するのでしょうから、子供たちもご紹介しますよ。6男1女で騒がしいでしょうけど」
「え?、ということは、お子様が7人も?」
アルヴェラ、淡白そうな自分と似た面影のあるら青年に絶句した。
(私、そんな子を生んで育てる自信はないわ。せいぜい2人がいいだところよ」
アルヴェラは、今から将来を心配した。実は彼女は既に、ランスの1人目の子を身ごもっている。まだ隠せる程度にしか成長してないが。
(少なくとも、お腹の子が男子でありますように)
アルヴェラは祈らずにいられなかった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる