求愛も勧誘も勘弁してくれ!僕は父さんの身代わりじゃない!

酒原美波

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第4章  制裁

求婚も勧誘お断り!僕は父さんの身代わりじゃない!

1.恋の花咲く?
 ①
 ⋯⋯一目会ったその瞬間、恋に堕ちることもある。恋はするものではなく、堕ちるものだというのは本当らしい。

 リヴァ将軍夫妻の双子であるサイプレス・リヴァとプリムローズ・リヴァは、『中洲』15番目の薬師の大塔世界の試験に合格し、ヒューバート共々、ミリアム・ユーカリの小塔所属となった。
 黒髪はヒューバートやブライト侯爵を彷彿とさせるが、ミリアム小塔の長は生まれも育ちも生粋の天上界人。瞳の色は夜明けのライトアメジストカラーで、外見はクール系美女。
 しかし研究熱心な無頓着が染み付いている、『中洲』の魔術師の典型とも言える人だった。せっかくの外見も、当人が気にしないため、ボサボサの髪をひとまとめにして、化粧っ気もないお洒落など少しも感じない。
 白衣は、小塔の召使いがしょっちゅう洗濯とアイロンをかけてパリッとしているが、多分白衣の下の私服はボロボロならマシだが、下手すると寝るときでさえその格好で、何日も着替えていないかもしれない。
 ミリアム小塔の長が、ヒューバート達の師匠に選ばれたのは、魔力量が多くて攻撃魔術にも長けているところだった。
 ただこの塔の専攻は、主に既存薬品の効能倍増と副作用の除去および緩和の改良に特化していた。

 ミリアム小塔の長に初めて挨拶したとき、ヒューバートは、心臓を撃ち抜かれるような衝撃を受けた。彼は直ぐに自覚した。これが本物の初恋なんだと。
 これまで初恋相手は、プリムローズかと信じ込んでいた。しかしミリアムとプリムローズとでは、感じ方がまるで違う。これまでプリムローズに抱いてきた想いは、兄妹愛の延長だと言うこと明確になった心地だった。
 ミリアム小塔の長を前にすると、多幸感と共に少年らしい妄想が無意識にストーリー展開していく。それはヒューバートにとっては初めての出来事であり、まだ心身ともにヒヨッコな自分も『男』だったのだと思い知らされた。

  ②
 さて、ヒューバート達が『中洲』15番目の薬師の大塔世界へ移住するほんの少し前、日の大塔世界からブライト侯爵一家が引っ越してきた。
 既に内定していたミリアム小塔の近くに居を構えたので、ヒューバートとしては数年ぶりに家族と暮らすことになる。
 サイプレス・リヴァとプリムローズ・リヴァは、今度はブライト侯爵邸に居候する身となった。

 ブライト侯爵夫妻は、久々に映像機越しではない三男坊との対面に感動して、ヒューバートを強く抱きしめて泣いた。
 次男ウィルザードと養子資格のバラクは、もうすぐ学齢に近づく年頃だったので、巣立ちの覚悟を固めつつもあった。しかし三男ヒューバートは、7歳になる前に別れることになったので、その懸念が再会の涙と化したのだろう。

 改めて、ブライト侯爵は、天使世界の最高神を含めた天使世界と、人間修行時代からの親友の天堂ことエルグランド・ソードブレイン侯爵への憤りを露わにした。
「あいつとは、もっと早く友人を清算するべきだった。アストリッドを押し付けられた哀れみから、つい仏心を出したのが間違いないだった」
 改めて、天堂(エルグランド・ソードブレイン侯爵)との関係を見直そうと、ブライト侯爵は決意した。これまで助けられたこと、迷惑をかけたことも、まだ親の庇護下にいるはずだった三男に苦労人生を味あわせた代償は大きい。
 そもそも天使の魂なんて面倒なものさえ無ければ、家族が離れ離れになることも無かったのだ。
 もっとも次男ウィルザードと、養子資格のバラクは、外見も異なり血の繋がりもないが、昔から双子のような関係で、共に信頼し合う相棒でもあった。
 だから昔から親に頼ることも少なく、「これは独立が早いかもしれないな」との予想通り、学園卒業後、2人は駆け出し冒険者として冒険者学園で知り合った仲間たちとパーティーを組んで、いまは冒険者稼業で様々な場所へ出向いている。たまに思い出したように何処かの世界から素っ気ない手紙が届くのみだ。

「これからは君たちを、僕らが保護する。リヴァ将軍ほど頼りにはならないかもしれないが、本物の親だと思って、何でも言ってくれ。批判でも悪口でも構わないよ」
 ブライト侯爵は、プリムローズ・リヴァとサイプレス・リヴァに言った。この2人がヒューバートを守ってくれたことに、改めて感謝だ。

 が、父親の側面としては、早々に難関に直面することになる。サイプレス・リヴァが、爆弾娘ヴィクトリア・アルムを見る目が、恋する少年そのものなのだと、いち早く気づいてしまったのだ。
(こういう場合、ヴィクトリア・アルムの年齢からして、『恋愛なんてまだ早い!』と怒鳴りつけるべきなんだろうけど、選りによって恩人の息子が、ウチの爆弾娘に恋するなんて。いやいや、外見だけに惑わされては駄目だ。娘の本性は、誕生時から変わってないんだから、早く目を覚ましてくれ!)
 ブライト侯爵は、娘が早々に恋愛結婚で巣立ってしまう空想に憤るのではなく、サイプレス・リヴァ程の少年なら、もっとマシな相手が居るはずだと心配したのだ。
 日の大塔世界へ移住してから数年、どれだけヴィクトリア・アルムの性格矯正と魔術コントロールを叩き込むのに苦労したことか。『中洲』トップエリートの日の大塔世界の賢者魔術師も協力してくれたが、それが申し訳なくなるほど、ヴィクトリア・アルムは規格外の手に余る娘で、周囲にどれだけ迷惑をかけて来たかしれない。
 今だから思うが、次男ウィルザードと養子資格のバラクを、早々に第6軍集団のリヴァ将軍に保護してもらって本当に助かったと思っている。それだけヴィクトリア・アルムの教育は、思い出すだけでも身震いするほど大変だったのだ。
 成長と共にヴィクトリア・アルムも多少の分別がつき、今は教育も若干マシにはなったが、それでも日の大塔世界の賢者たちから(日の大塔世界の在住資格魔術の条件は、賢者称号を得ること)、「薬師の大塔世界に迷惑がかかるから、日の大塔世界に息子さん達を呼んだほうが良くないか?我々も協力するから」と心配されたぐらいだ。

 ヴィクトリア・アルムは、映像機越しで対面するよりも、更に綺麗な美少女になっていた。一瞬でサイプレス・リヴァが恋に落ちるのも無理はない。
 だが離れている期間が長かったにも関わらず、ヴィクトリア・アルムの関心は、相変わらず父親と三男ヒューバートに向いていた。
「ヒューバート兄さん、会いたかった!」
 真っ先にヴィクトリア・アルムは、ヒューバートの胸に飛び込んだ。ピンク色のヒラヒラワンピースは、今日のために注文したのだろうが(軍事以外で不器用な実母が仕立てたとは到底思えない)、既に裾が所々破れかけているのは、既に何らかのいたずらをしていたと推測できる。
「ん?」
 ヒューバートは、久々に会ったヴィクトリア・アルムを抱き上げ、妹の顔を覗き込んでから、兄弟同然の親友のサイプレス・リヴァを凝視する。
「な、な、な、何だよ!早速、ブラコン発動で、僕の妹に近づくなとか言いたいのか!?」
 初恋を阻止されそうになって、サイプレス・リヴァは憤る。それも親友ヒューバートにだから、尚更だ。
「違う。サイプレス、君は第6軍集団にいずれは戻って、リヴァ将軍閣下の片腕になるつもりなんだよな?」
「もちろん。ウチの兄貴や姉貴どもは、殆どが『軍人なんて嫌だ』と第6軍集団世界から飛び出してしまったからな。いま軍部に残っているのは、108軍団の副団長をやってる兄貴だけただ。知ってるくせに、今更、なんでそんなこと聞くんだ?」
「いや……僕は鑑定魔法がさほど得意でないから確定ではないけど、近いうちに鑑定の大塔世界で見てもらった方がいい。どうやら僕の鑑定眼によると、ヴィクトリア・アルムは、君の宿命の結婚相手みたいなんだ。君が『中州』に留まるなら、宿命が発動しても普通に暮らせるから関係ないけど、第6軍集団世界にいずれ戻るなら、ヴィクトリア・アルムとどういう結婚形態を望むか、今から大雑把でも考えておいた方がいい。たぶん、ヴィクトリア・アルムは『中州』から出られないはず。そうだよね、父さん」
 ヒューバートは父親に尋ねる。
 ブライト侯爵こと仁志と、妻のクララは驚愕を顔に貼り付けている。いや、恐怖に近いかもしれない。
「まさか……何かの間違いではないのか!リヴァ将軍閣下のご子息のサイプレス殿が、ヴィクトリア・アルムの宿命相手だなんて、どれだけ土下座しても、リヴァ将軍閣下に申し訳が立たない!」
「仁志、慌てないで。鑑定の大塔の長に連絡して、2人を鑑定してもらいましょう。それでヒューバートの言うとおりなら、宿命を書き換える魔法薬を飲んで解除すれば解決ーー」
「ブライト侯爵夫妻!僕はもしもヴィクトリア・アルムと宿命で結ばれているなら、それを解消するつもりはない!むしろ大歓迎だ!ヒューバートとも、名実ともに兄弟になれるな、義理だけど」
 サイプレス・リヴァは顔を輝かせる。まさか初恋を自覚した瞬間に、宿命で結ばれているなんてロマンティックなことが起こるとは!
「サイプレス、ならいっそのこと第6軍集団入隊は諦めて、『中州』で軍人になったら?確か、『中州』にも各世界に自衛団はあったはずだし、本格的な軍人世界もいくつか存在したわよね。確か魔導師の大塔世界は、『中州』の自衛軍集団の面の他に、『中州』を飛び出して軍集団世界へ入隊したい『中州』の血の気の多い若者を養成する馬でもあったはず」
 プリムローズ・リヴァは、指摘する。他にも『中州』には、軍団こそ名乗っていないが、武闘派魔術師で構成された大塔世界があったのを記憶している。
「……それは、もっとヴィクトリア・アルムのことをよく知ってから考えた方が良くないかな?」
 ブライト侯爵は、腫れ物に触るような物言いをした。こんな爆弾娘を妻にだなんて、サイプレスが不憫すぎると素直に思ったからだ。
「サイプレス・リヴァ、あなたは私の大事なヒューバート兄さんを守ってくれたから、結婚してあげてもいい。でもそれは、私にあれこれ命じないことが条件よ。私に指示していいのは、父さんとヒューバート兄さんだけ。それ以下の雑魚の言葉を聞くつもりはない!」
 ヴィクトリア・アルムは、キッパリと言い切った。これはマズイ。
「ヴィクトリア、僕の大親友にそんな言い方をしたら、僕は妹は言え君を嫌いになっちゃうよ。サイプレスとプリムローズには、優しくしてあげてね」
 ヒューバートは本音としては、「優しくしてね」ではなく、「お手柔らかに」にと言いたいところを、寸前で言い方を変えた。
「仕方ないなぁ。ヒューバート兄さんの言うことなら、妥協してあげる」
 兄の肩に顔を寄りかからせて、ヴィクトリア・アルムは愛らしく笑う。が、その態度はある一人に対しての見せつけでもあった。

 プリムローズ・リヴァは、自ずと顔が強張る。マウントを取られているのを、一瞬見せたヴィクトリア・アルムの優越感ある悪意のこもった笑みで気づいたからだ。
「それよりも、『中州』へ来たばかりだら、体が光の毒に慣れないだろう。3人とも、光の毒に慣れるまでは大人しくしていなさい」
 ブライト侯爵は、3人の子供たちを気遣う。別名『中州酔』とも言われる、『中州』の大気に含まれたライトカオスの光は、慣れない者には強烈過ぎて、中には倒れてしまう者も珍しくなかった。
 それはヒューバート、サイプレス・リヴァ、プリムローズ・リヴァも覚悟してきたつもりだったが、不思議と具合が悪いという感覚はない。むしろ体が軽いぐらいだ。
「父さん、この3人なら大丈夫よ。『中州』に着いた瞬間に、私が『中州』に順応する身体にしてあげたから。ヒューバート兄さんに苦しんでほしくないし、そこの2人もヒューバート兄さんを助けてくれた恩があるから特別ね」
 相変わらず、規格外のヴィクトリア・アルムである。薬も魔法陣も使わずに、一瞬で部外者を『中州』に順応させていまうとは。
「だから予定通り、歓迎会パーティーをしましよ。既に料理人たちには指示してあるわ。明日以降は、騒々しくて落ち着いて歓迎会も、部屋のお片付けやら買い物も出来なくなるもの」
 ヴィクトリア・アルムの顔が愛らしい兄に甘える顔から、邪悪さが滲み出た笑みに変わる。
 その意味をヒューバートは察して、身震いした。厄介な奴らが追ってくる、そう妹は断じているのだ。
「大丈夫よ、ヒューバート兄さん。敵は私が葬ってあげるから」
 ヴィクトリア・アルムは、ヒューバートの頬にキスをする。
(ソードブレイン侯爵は『中州』の魔術師。それでも10年近く『中州』から離れていたから、体が順応を思い出すまで、暫くは動けないかも?問題は熾天使ミシェル・バームライト。ヴィクトリア・アルムと同じ能力があるなら、直ぐに順応してしまうのでは?)
 ヒューバートが考えていると、ヴィクトリア・アルムはコロコロと鈴の音が鳴るように笑う。
「アイツ、たぶん熾天使であることを過信しているでしょうね。確かに上級天使は順応が早いけど、それは天使世界から直接来た者で、それでも数日は光の毒に苦しむわ。あの不埒な妄想を繰り広げる穢らわしい熾天使は、第6軍集団世界で、ヒューバート兄さんに散々邪な罠を仕掛け、おぞましい計画を練っていた。そんな馬鹿は、せいぜい『中州』の洗礼に苦しむことね』
 ヴィクトリア・アルムの高笑いがこだました。

  ③
(変われば変わるものだなぁ)
 ほんの数年離れていた父親の変化に、ヒューバートは驚く。
 それは晩餐の席だった。ヒューバートとサイプレスとプリムローズを歓迎する晩餐会は、コース料理が出された。
 以前の父なら、軍集団で出席しなければならない晩餐会で、コース料理を苦虫を潰すように食べていたはず。大嫌いな料理は、クリスマスを連想させるもので、毎日毎食の料理は和定食か、ワンプレートのお子様味仕様の洋食だった。
 しかしいまは、かつては素っ気なかった家族用の食堂も、調度品や電灯、家具に至るまで派手さはないが洗練されている。きっと妻と娘だけの家族での食事で、徐々にトラウマは克服されたのだろう。
 ヒューバートとしては、食堂の隅に鎮座していた、畳敷きの上のちゃぶ台が消えているのが物悲しくもあったが。
 だが変わっていないところもあった。ブライト侯爵は、妻のクララと愛犬のエイジに挟まれて座っていた。
 さすがにリヴァ将軍邸では犬を椅子に座らせて食事させるわけにはいかなかったので、ヒューバートの足元で柴犬のツヨシとホワイトシェパードのエイジは、料理人が作った上等な餌を食べていた。
 簡単なドッグフードでなかったのは、ブライト侯爵が「誠に勝手なお願いですが」と、リヴァ将軍にエイジ専用のレシピ集を渡し、料理人が食事ごとに餌を作るよう指示したためだった。
 エイジは、久々にご主人様と一緒に食事できるのが嬉しくて、食べるのも疎かにブライト侯爵に甘えている。ブライト侯爵も、「無理なお願いしていて済まなかったね。お役目、ご苦労さま」と、自らのカトラリーでエイジに食事をさせていた。
「……おまえの親父さんの犬馬鹿ぶりは、父さんから聞いていたけど、あそこまでとは。隣の侯爵夫人も平然としているし、やっぱ大物だな」
 ヒューバートは、焼きたてパンを千切って、ヒラメのバターソース焼きのソースに付けながら言う。
「ツヨシは椅子に座らせないの?」
 プリムローズは尋ねる。柴犬のツヨシは、いつも通りヒューバートの足元で、上等な食器に美しく盛られた犬用の食事を食べていた。それはヒューバートの愛犬カイザーも同様だ。
「そういう躾はしてこなかったし。今さら椅子に座らせるのは、転倒が怖いよ。それよりカイザーに椅子は必要るプリムローズの愛猫プリンセスには見当たらないけど」
「カイザーを椅子に座らせたら、テーブルの上のみんなの料理を食べ尽くしてしまうから、やめておくよ」
 サイプレスの愛犬であるドーベルマンのカイザーは、やはり飼い主の足元でガツガツと、これまで味わっことのないご馳走を食べていた。カイザーはサイプレスが将来を見据えて軍用犬として躾けられた、優秀な犬だ。しかし唯一の難点は、美味しいものに目がないこと。ドッグフードには見向きもしないし、野菜料理にも興味はない。しかしご主人様のサイプレスや、その家族の食事の席で、隙あらば肉やパンやデザートを強奪して食べる悪癖があった。
 一番狙われていたのは意外にもリヴァ将軍で、食事中も仕事のことを考えていたりすると、その隙をついてカイザーが将軍のステーキを鵜呑みにして、好物を取られたリヴァ将軍の「うわあああっ!」という情けない声が食堂に響くのも、日常茶飯事だった。
 カイザーは以前、魚料理で骨を喉に詰まらせた経験から、どれほど美味しそうな匂いがしても、魚料理だけは手を付けなかった。
「私の猫は、部屋で自由に勝手気ままに過ごしているが好きだから。私が晩餐に出る前に、食事も持ってきてもらって、与えてきたし」
 プリムローズは、愛猫を部屋に残してきていた。3人の愛犬と愛猫も、『中洲』の毒の影響は受けていない。フェンリルにもなれるホワイトシェパードのエイジが、仲間である同行した犬や猫に、光の毒の中和魔法をかけていたので問題はなかった。
「そう言えば、ヴィクトリアは動物を飼わなかったの?」
 プリムローズが尋ねると、途端にブライト侯爵夫妻の顔が固まる。ヒューバートも、妹が動物を飼っている話は聞いたことがなかった。
「飼っているというか、呼べばくるけどーー」
「今は食事中だからやめなさい!頼むから、明日の昼に、人のいない平原で召喚してくれ!」
 ブライト侯爵が血相変えて頼み込むと、ヴィクトリア・アルムは「はい、父さん」と素直に返事した。父親に従順なのは救いだった。ヴィクトリア・アルムを誰も止めることが出来なければ、本当に地獄だったろう。
「召喚ってことは、野生動物ーーいや、幻獣?」
「ええ、ヒューバート兄さん。明日は空から、この世界を見学しましょ。お弁当を持って」
 無邪気にヴィクトリア・アルムは言うが、空から見学の言葉に、ヒューバートだけでなく、プリムローズやサイプレスも頭にハテナを浮かべる。
「それは楽しみだけど、いったい僕らは何に乗るんだい?ペガサス?」
「そんな軟な魔獣じゃないわよ。ヒューバート兄さんが不意打ち喰らっても対応できるよう、日の大塔世界で、暇つぶしがてら、ドラゴンの群れを掌握したの。大塔世界は違っても、呼べば直ぐ来るから安心してね」
 屈託ない笑顔でデザートの生クリームイチゴスポンジケーキを頬張りながら、ヴィクトリア・アルムは言った。
「ドラゴン……の群れ?」
 ヒューバートたちは耳を疑う。それに補足を加えたのが、頭を片手で押さえるブライト侯爵だった。
「『中洲』の幻獣というと、真っ先に幻獣の大塔世界を思い浮かべるだろうけどね。実際、僕が初めて『中洲』で所属したのは、幻獣の大塔世界だった。だがヴィクトリア・アルムが制圧したドラゴンは、日の大塔世界に生息するドラゴンだ。凶暴性、魔力量は幻獣の大塔世界のドラゴンとは段違いの災害クラスの魔獣だ。決して人に懐くことがなく、日の大塔世界でも、人がいない、彼方の海の火山列島に生息している。ヴィクトリア・アルムは、僕らが目を離した隙に、禁足地の火山列島に赴いて、ドラゴンを子分にしてしまったんだ。1頭だけではなく、その火山列島に生息している複数の群れのドラゴン全部を」
 しばし沈黙が流れる。聞こえてくるのは、ヴィクトリア・アルムがスイーツを食べている咀嚼音と、紅茶カップがソーサーにコツンと置かれる音のみ。
「……ちなみにそのドラゴンの総数は、何頭?」
 ヒューバートは顔を引きつらせながら尋ねる。
「千は超えるだろうな。だから召喚する際には、有事のとき以外は10頭までにしておきなさいと言い聞かせている」
「複数の群れのなかでも頂点に立つ、ブラックドラゴンのリーダーとその幹部クラスのドラゴンだから、いざ不意に変態2人が沸いて出てきても、撃退出来ると思う。ただ相手が相手だから、歯向かうようなら、10頭じゃ足りないから群れごと呼んで、いたぶってーー」
「その時は、僕を呼びなさい!日の大塔世界なら、爆発慣れしているから大事ないが、薬師の大塔世界だと薬草畑の損害が計り知れない」
 ブライト侯爵の顔は青ざめていた。
 そもそもヴィクトリア・アルムが対峙すれば、簡単にケリがつく。あえてそれをしないのは、ドラゴンの群れに戦闘経験を積ませることと、敵に簡単に音を上げられてはつまらないという、ヴィクトリア・アルムの退屈しのぎだ。

 良識ある執事は、当主の紅茶を素早く取り替えた。程よい温度の紅茶には、さっきのデザート用のストレートティーと違って、ブランデーが注がれていた。ブライト侯爵は、一気に紅茶を飲み干し、深い溜息をつく。
 執事は給仕に目で合図を送り、侯爵の専用リビングに、瓶ごと氷で冷やしたウィスキーやジンといった酒精の高いものを用意させた。部屋に戻ったら、浴びるほど酒を飲まないと落ち着かないだろうとの判断だった。
 他の者たちも、気を落ち着けるために紅茶を口にする。ヒューバートはストレートティーに砂糖を溶かしたものを、ヒューバートは生クリームと砂糖たっぷりの甘い紅茶を、プリムローズは砂糖控えめのミルクティーにシナモンをかけたものりそして侯爵夫人は、昔ながらの軍務経験の習慣が抜けきらず、ブラックコーヒーが給仕されていた。

2.ハンティング日和
  ①
 翌日、ブライト侯爵一家とリヴァ将軍の双子たちは、ブラックドラゴンに乗ってピクニックに行くことにした。
 最初はおっかなビックリ、ドラゴンに騎乗したヒューバート達も、間もなく慣れて、これから暮らす薬師の大塔世界の景色を空から眺めた。
 広がる薬草畑は緑だけでなく、花も咲いている。人のいない場所では樹海が広がり、清流や湖もあった。
 目的地は、山の上のお花畑。薬効成分のある貴重な花も咲いているので、ヒューバートたちはミリアム小塔の長へのお土産に、ブライト侯爵は研究が趣味の長女ロスリンに送ってやろうと考えていた。
 目的地に到着し、ドラゴンたちは近くの湖へ水浴びに赴き、山の上のお花畑ではピクニックの準備に取り掛かった。
 さて食事をと思ったとき、やはり予想通りやってきた。天堂ことエルグランド・ソードブレイン侯爵と、ミシェル・オークライトを騙る熾天使マクスウェルが揃って、少し距離を置いて山頂より高いところに浮いている。光の毒には冒されている様子は見られない。きっと中和剤服用と結界を周囲に張っているのだろう。
 せっかくの気分の良さが台無しである。が、待ってましたとばかりに、ヴィクトリア・アルムが立ち上がる。
 エルグランド・ソードブレイン侯爵は苦い顔をするが、熾天使マクスウェルは目を見張った。
 金髪とブルートパーズの瞳の、完璧な美少女。熾天使マクスウェルは、報告書でヴィクトリア・アルムの特徴や写真で認識済みだが、実物は写真などでは表現しきれないほど、これまで見たなかで最高に美しい少女だった。だがヴィクトリア・アルムの顔に浮かぶ笑みは、邪悪そのもの。
「来たわね、獲物たち。ウチの兄を困らせた代償は、利子をつけて返してもらうわよ!」
 ヴィクトリア・アルムは飛び上がると、まず熾天使マクスウェルに斬り掛かった。
 当初はドラゴンの群れでいたぶろうかと思ったが、「こいつ等が、私からヒューバート兄さんとの時間を奪った!」という怒りが瞬間沸騰したのだ。

 熾天使マクスウェルは、顔色も変えずに、大剣を出して刃を受け止めた。熾天使に支給される大剣は、聖青銀を熟練の職人が更に叩き上げて作った渾身作。更に神の祝福と、聖なる泉に浸した聖剣だった。
「そんな無粋な剣で、私に襲いかかるとは怖いもの知らずもーー」
 しかし熾天使マクスウェルの言葉は途切れた。
 折れるはずのない最強の大剣が、ヴィクトリア・アルムの刃を受け止めている場所からひび割れ始めたのだ。そして大剣の刃は、いとも簡単に折れた。
「馬鹿な!最強の大剣が折れるはずがないのに!」
「馬鹿は、剣に依存しきっていたアンタ。戦い方を知らない井の中の蛙に、世の中ってものを教えてあげる」
 ヴィクトリア・アルムは、あえて熾天使マクスウェルではなく、彼が張った結界を自らの剣で叩き壊した。彼女の愛剣は細身のレイピア。
 しかし素材は、暇つぶしにヴィクトリア・アルムが集めまくった最高級魔石を使い、魔道具の大塔の長が打った渾身作。値がつけられないほどの博物館展示クラスの最高傑作だった。更にそこへ、ヴィクトリア・アルムは無尽蔵魔力で覆って強化して、熾天使マクスウェルの大剣を叩き折ったのである。
 結界が破られた途端、熾天使マクスウェルは光の毒に冒されて落下していく。それをヴィクトリア・アルムは、片手で軽々と受け止めた。
「まだ私を狙ったなら同情の余地があるけど、ヒューバート兄さんを標的にしたのは許さない。そもそも純粋培養の熾天使が、こんなところでウロウロしているのがおかしいのよ。これは魔術契約違反に相当するって、父さんが言っていたわ。搦め手で契約を避けようたって、そうは問屋が卸さないっての。父さんの許可もあるから、アンタを天使世界へ送ってあげる。ついでに、アンタの上司の最高神に何をしてもいいって、珍しく温厚な父さんが憤怒しながら許可してくれたの。私って優しいから、天使世界丸ごと壊すことはしないから、安心なさい」
 美少女の顔をした悪魔っ子は、体調最悪ながらも言葉にならない助命嘆願をする熾天使マクスウェルを無視して、天使世界へ転移した。

 一方、もう1人のヒューバートを悩ます変態は、変態の最愛の人であるジャスティル・ブライト侯爵の攻撃を受けていた。
 本来なら、第二階級・智天使の魂を持つブライト侯爵と、永きに渡り天使世界を守ってきた第三階級・主天使ながらも軍隊を率いて戦ってきたエルグランドの戦闘力は互角。魔力に長けたブライト侯爵と、武術に長けたエルグランド。
 しかしエルグランドが、最愛なる仁志ことブライト侯爵に刃を向けられるはずがない。しかし息子を手籠めにしようとしたかつての親友に猛烈に怒っていたブライト侯爵は、容赦なく刀を振るった。さすがに急所の内臓こそ貫かったが、エルグランドの見事な銀髪さえも血まみれになっていた。
「僕に抵抗しないで、許しを請う作戦か?残念だが、貴様を許すつもりはない!」
 ブライト侯爵は、エルグランドの右肩腕を切り落とした。エルグランドの結界も既にブライト侯爵によって破壊されており、元から戦意がない上に、ライトカオスの光の毒の後遺症は熾天使マクスウェルより耐性があるといっても、頭痛と吐き気は治まらない。
「僕に執着している分には、主天使長の身でありながら人間界に護衛として派遣された貴様には恩義もあるし、赦すことが出来た。しかし自らの欲望を、僕の大事な息子に向けたのは許せない。貴様とは絶交だ。二度と顔も見たくない!」
「仁志様、それだけは、それだけはご容赦を!」
「先に越えてはいけない境界を越えたのは貴様だ。もう僕の知人でも友人でもない。二度とその不愉快な顔を僕や子供たちに見せるな!」
「申し訳ありません、申し訳ありません!貴方様の優しさに甘えて、調子に乗りました。友人は返上いたします。ですが、お傍にお迎えすることだけは、お許しください!」
「ヒューバートがどれだけ恐怖を味わってきたと思ってる?それを簡単に許せるほど、僕もお人好しじゃない!」
「堪忍してください!もう絶対に、貴方様のお子様を煩わせることはしませんから!」
 エルグランドは、急所を外した背中を深々と刺されて貫通して血が噴き出しながらも、グラント侯爵の足に追いすがって懇願する。
「あそこまてま父さんを愛しているなら、なんで身代わりで満足できると思ったんだろ?満たされない虚しさだけが去来するだけだと思うけど」
 上空での対決を見あげながら、ヒューバートは疑問を呈する。
「それが恋というものよ。恋は人を狂わせるから」
 クララ侯爵夫人はそう言って、上空へ舞い上がる。
「仁志、もうそこまでにしてあげなさい。この人の変態性は、母として息子に毒牙を向けた許せない感情もあるけど」
 クララは真っ直ぐな目で夫を見据える。
「失恋の痛みで狂気に陥ったこの人の気持ちが、分からないでもない。人を愛するって、難しい。ましてや、この人はずっと天使だった。人の気持ちを察する方法を身につけるには、絶対的な時間が足りなかったことを、考慮してあげて」
「君は、コイツを許せと言うのか?ヒューバートをさんざん困らせたコイツを!」
「罰は受けてもらうわ。二度と私たち家族に手出しできないように。その前に仁志、天堂から刀を引き抜いて。貴方だって本当は、ヒューバートと為とは言え、ずっと近くで支えてくれた天堂を傷つけるのは辛かったはずよ。さ、地上に降ろして手当てしましょ。光の毒はそのままでいいわ。どうせ直ぐに、『中洲』から追い出すから、すぐに毒から解放されるでしょう」
 エルグランド・ソードブレイン侯爵は、絶望と希望が入り混じった複雑な表情を浮かべた。

 エルグランド・ソードブレイン侯爵は、山の麓の清流の傍らに寝かされた。
 まだ納得のいかないブライト侯爵は、妻に促されて仕方なく、自らが切り刻んだり突き刺したエルグランド・ソードブレイン侯爵の傷を、切り落とした腕ごと再生させて治した。
 ソードブレイン侯爵は、跡形もなく傷を治してもらったが、失った血と仁志の拒絶で立ち上がる気力すらなく、ただ静かに涙を流しながら「もう訳ありませんでした」を呪文のように繰り返した。
「さて、賢く慈悲深い僕の奥さん。コイツにどんな制裁を下すというのかい?」
 ブライト侯爵は皮肉たっぷりに尋ねた。その間も、かつての親友を一瞥すらせず、苛立しげに片足で地面を踏み鳴らしていた。
「自分で今回の一件を体感させるのよ。エルグランド・ソードブレイン、私も貴方が罪を償うまで、会うつもりはありせん。貴方に課す罰はね、愛する女性と娘を作ること。まあ、仁志にあれほど執着していた貴方だから愛する女性はハードルが高いわね。優しい女性で、妥協してあげる。貴方はその条件に会う人を探し出して、娘をもうけるの。そしてその女性と共に娘の子育てに専念しなさい。その娘が結婚したら、私たちの元へ帰ってきてもいいわ。でもまずは単なる隣人からやり直しよ。直ぐに友人に戻れるとは思わないことね」
「おい、そんな簡単な条件で妥協するのか!?」
「仁志、子供が危機にひんした時の胸の痛みは、自分が切り刻まれるより痛いでしょ。エルグランド・ソードブレインは、人として不完全なまま、天使から天上界人になってしまったの。妻を愛せとまでは言わないし、奇跡でも起こらない限りは無理でしょうね。でも2人の間に生まれた娘は、確実にエルグランド・ソードブレインの血を引く子供よ。その娘をどう思おうが、慈しんで育てて1人前にしなさい。そうすれば、親の気持ちが少しは理解できるはず」
「育てても、愛情を持てなきゃどうにもならないと思うけど」
「いいえ。情は必ず生まれるわ。だって、貴方を愛することは知っているのだもの。貴方のもとに戻るために、親の心を懸命に学ぶはず。だから大丈夫。それより仁志、この人が暮らすのに一番相応しい世界を割り出してくれない?」
 クララはブライト侯爵に依頼する。仕方なくブライト侯爵は、かつての友の仮住まいに相応しい場所を魔法陣を展開して割り出した。
「花の大塔世界の属世界にあたる、クローバーブーケ天上界世界。ここが一番適任と出たな」
「そう。ならエルグランド・ソードブレインの魔力を生活魔法が使える庶民にまで封じ込めて、その美貌も平凡なものに変えてちょうだい」
「随分とえげつないリクエストだな」
 ブライト侯爵は苦笑しながら、エルグランド・ソードブレイン侯爵の魔力を封じ、外見は思案の末に人間修行時代のイケメン俳優にした。
「ちょっと!これじゃあ顔が良すぎない?もっと不細工にしてよ」
 クララは、もっと平凡な、さらに言えば野暮ったい外見を希望していた。
「娘を大事に育てさせて、コイツの心を成長させたいのだろ。なら、それなりの外見にさせた方がいい。にわか妻も靡きやすいだろうし。名前は……そうだな。エスター・クロウドでいいか。男でも女でも通用しそうな名前ということで」
「なるほど、さすがは元副将軍代理様。じゃあ、あとは花の大塔世界の属世界の戸籍をいじって、この人を送り込んでちょうだい。大金持ちにする必要はないけど、妻子を養える資金とこじんまりした家は必要ね。出会いが多い街中がいいかな」
「いや。属世界の郊外の花畑職人あたりがいいだろう。田舎のほうが、おせっかいな女性が多いから」
「まあ、よくわかっていること。では、そこへ送り込む前に一つだけ」
 クララはドレスの裾を捲し上げ、軍人時代にから愛用しているつま先に鋼鉄の入ったブーツで、思いっきりエルグランド・ソードブレイン改め、エスター・クロウドの腹を蹴りつけた。
「私だって、大事な息子を毒牙にかけようとした罪人を恨んでなかったわけではないわよ。さあ、新たな人生を歩んで、学んでらっしゃい!」
 クララの掛け声と同時に、ブライト侯爵は、エルグランド・ソードブレイン侯爵から、一般人のエスター・クロウドに変わった、かつての友人を目的地に転移させた。

3.エスター・クロウドの人生
  ①
「エスターさん!姿が見えないと思ったら、崖から落ちてこんなところで転がっているなんて。村人総出で探したのよ?」
 エルグランドことエスターが目を覚ましたのは、小川の畔だった。見上げれば滑り落ちた跡が残っている。そして地味なシャツと作業用パンツは泥まみれで、手足には細かい傷ができている。だがなにより痛いのは、クララ・ブライト侯爵夫人に蹴られた脇腹だった。
「立てそう?」
 苦痛で顔をゆがませるエスター・クロウドに、ビークル犬を連れた娘は声をかけた。
「大丈夫だ」
 ぶっきら棒に答えて立上がろうとしたエスター・クロウドは、体を支えて立ち上がろうとした際に右手に激痛が走って蹲る。
(そうだ、この腕は仁志様に切り落とされて再生魔法が使われたばかり。まともに動くまでま2日はかかる。いや、魔力を封じられてしまったから、通常より治りは遅いだろう。半月は見ておいた方がいいか)
 痛みに耐えながら、そう思案しているエスター・クロウドに、ビークルを連れた娘はおもむろにエスター・クロウドの左肩に手を回して「ヨイショ!」の掛け声でエスター・クロウドを立ち上がらせる。だが右腕だけでなく、右足も挫いていたようで、娘とエスター・クロウドはそのまま地面に転がった。
(この娘、そうだ。同じ花畑で働く娘だったな。名前はサーシャ・ホリー。これも仁志様がここでの暮らしのために、私の脳裏に刻んだこの地方の基礎知識か)
 ボンヤリ考えている間に、サーシャはビークル犬に指示を出して助けを呼んでくるよう命じた。ビークル犬は、命令に従って、弾丸のように走って行った。
「たはは、やっぱり私一人で何とかしようとせずに、最初から助けを呼んでくれば良かったわ」
 転んだ拍子にサーシャは左足を挫いたらしく、二の足からは血がにじんでいる。
 エスター・クロウドは、魔術を使っていた時の癖で、サーシャの足を直そうとしたが、魔力が作動しない。
(やはり仁志様。私の魔力封印など、息をするより簡単だろう)
 最後に対峙したとき、エスター・クロウドは、否、エルグランド・ソードブレインは驚愕した。もう成長が止まっていると思っていたブライト侯爵の魔力が以前より増幅しており、魔術の腕も格段にあがっていた。
 おそらく悪魔っ子のヴィクトリア・アルムの世話をしているうちに、自ずと魔力も鍛えられたのだろう。魔術に関しては、ヴィクトリア・アルムに対抗するために、勉学に励んだに違いない。そう、彼が愛した人は普段はグータラを愛するが、他者のためならいくらでも努力する人だった。そんな誠実な最愛の人を裏切ってしまった。
「エスターさん、痛いの?泣いてる……」
 指摘されて驚き、エスター・クロウドは手を目に当てると、とめどない涙がこぼれていた。
「駄目よ、汚い手で目を拭いたら、目が悪くなっちゃうから」
 サーシャはハンカチを取り出して、エスター・クロウドの涙を優しく拭く。
「ハンカチがあるなら、傷を縛ればいいのに。血がて出てるじゃないか!」
 エスター・クロウドは、泣いていた自分を恥じて、大声で怒鳴りつける。
「こんな泥まみれで止血する方が、傷口を悪化させてしまうわ。致命傷ならともかく、このぐらいの傷なら消毒するまで流していた方が治りが早いわ」
 サーシャがそう言っている傍から、迂回して小川に下りてきた男衆が、サーシャとエスター・クロウドの近くまで駆け寄ってきた。
「丸一日、ここで転がっていたのか。済まなかったな、緊急だったとは言え、雨の中を使いに出して」
 男衆のリーダー格、端的に言えば花畑の持ち主が謝った。
(私は水路が壊れて排水できず、クラウンローズの若苗が水に浸ってしまったのを、この花畑を使う魔術師に報告に行った帰り。の設定だったな。そして突風に馬から転げ落ち、そのまま小川の畔まで転がった。なんて陰湿なシナリオを描いているんですか、仁志様!)
 心の中で悪態をつきながら、エスター・クロウドは、自分ために用意された戸板にサーシャを乗せるように指示して、自らは男衆の力を借りて、見たこともない『我が家』へ向かった。

  ②
 花の大塔世界の属世界であるクローバーブーケ天上界世界に送り込まれた1年後、エスター・クロウドはサーシャ・ホリーと結婚した。そして2年後には、2人の間に娘が生まれた。
 娘は母親から赤毛と水色の瞳を、顔立ちは仮の姿のエスター・クロウドに似ていた。名は花の名前がいいという妻の希望で、ヴィオラ。
 翌年には男児マークが誕生した。

 仁志様夫婦から出された課題は、妻との間に娘をなし、その娘が嫁ぐまで懸命に育てることだった。マークが生まれたのは誤算だったが、エスター・クロウドは、子が生まれた当初こそ喜ぶフリはしたが、心から嬉しいとは思えなかった。だがこれも、仁志様ことジャスティル・ブライト侯爵のもとへ帰るための課題と思えば、やり遂げるしかない。

 しかし1年後には情が移り、娘ヴィオラを、エスター・クロウドは目に入れても痛くないほど本気で可愛がった。
 独自に研究開発したマイレディ・ホリーと言う鮮やかな朝焼け色にも似たビオラの花を誕生させて、特許出得。
 このヴィオラの売れ行きで、畑仕事に従事しながら研究開発し、今度はフェアリーカップという純白のチューリップを開発した。一見するとどこにでもありがちなチューリップだが、花が開くと精霊が中から誕生し、祝福の歌を歌った後に巣立っていく画期的な花だった。この花も特許を得て、売り上げ上々。
 研究資金以外は、子供達の将来のために貯蓄しようと、夫婦で話し合った。
 だが苦労して2人の子供を産んでくれたサーシャに何かお礼をしたくて、奮発してオレンジサファイアの指輪を購入して、妻にプレゼントした。
 サーシャは勿体ないと言いつつも、大層嬉しそうだった。普段は飾り気のない結婚指輪しかつけないが、子供たち鎌が寝静まった夜には、ビロードの箱の中の大事なオレンジサファイアを眺めていた。その健気な姿に、エスター・クロウドには愛しさで妻を抱きしめずにはいられなかった。

 エスター・クロウドは、花畑を借りて研究している魔術師の助手に採用されて、給金も上がった。独自に開発した花も売れ行き上々で、当初は魔術師が暮らす街中で家を借りていたが、思い切って中古だが庭と子供たちそれぞれの個室がある家を購入した。
 蛇足だが、属世界の魔術師は村長や市長を務める。そして属世界の代表者は、大塔世界の小塔の長がローテションでこなす。村長や市長を務める彼らあるいは彼女らは、あと一歩で花の大塔世界の魔術師なれる者だった。
 エスター・クロウドは才能はあるが、魔力量が、一般人のため魔術師にはなれない。だが彼の開発した花は評判で、花の大塔世界から助手のお呼びがかかるのも時間の問題とされていた。

  ③
 天上界は概ね平和だ。しかし全員が善人なわけではない。あるとき、成金で評判となったエスター・クロウドの愛娘が攫われた。
 仲間たちの協力で直ぐに捕らえることができたが、このときクロウド夫婦は生きた心地がしなかった。
 そしてようやく自覚した。我が子が危機に晒されるのは、身を切られるよりも辛いというクララ・グラント侯爵夫人の言葉を。
(ようやく分かった。私はなんて酷いことを、ヒューバートにしていたんだ)
 真夜中の自宅の研究室で1人、声を殺して泣いているエスター・クロウドを、サーシャはいつまでも寝室に来ない夫を心配して、研究室を訪ねた。普段は鍵のかかった研究室の机の上で、夫が声を殺して泣いている。サーシャは駆け寄って、エスター・クロウドを抱きしめた。その温もりが、封じていた罪悪感を漏らす。
「……かつて私は、親友に酷いことをした。優しい親友は何でも許してくれたが、私は甘えから親友を裏切ってしまったんだ。いま、親友が流した血の涙の意味がやっと分かった。私は取り返しのつかない、酷いことをしたのだと、ようやく知ったんだ……」
 サーシャは何も言わず、胸のなかで嗚咽を漏らす夫を抱きしめながら、黒髪を優しく撫でた。
 それが心地よくて、エスター・クロウドは「これが本物の愛なんだな」と思うに至った。

 娘のヴィオラとマークには、学校に通わせた。マークは父親に憧れを抱き、大きくなったら花の開発研究をするんだと、植物学を学ぶために大学まで進んだ。
 そしてヴィオラは学園の高等科に通っている時に、恋人ができた。しかも大物を捕まえた。花の大塔世界の幹部の息子だったのだ。
 エスター・クロウドは「いずれ花の大塔世界へ戻る幹部魔術師の息子など、遊びに決まっている!」と交際を反対したが、反対されればされるほど恋は燃え上がるものだ。
 幹部の息子は、花の大塔世界の魔術師になれるほどの魔力量はなかったが、エスター・クロウドの息子のマークと同じく、いずれ父親の助手となるために大学へ進んだ。ヴィオラも同じく大学へ進んだが、専攻は薬学だった。理由を聞くと、「だってお父さんとお母さんが結ばれたキッカケって、ケガが原因でしょ?」と、可愛らしい声で笑い、夫婦は赤面したものだった。

 そして本当にヴィオラは、花の大塔世界の小塔の長の幹部の息子と結婚することになった。そんな偉い人から、一般人のヴィオラは反対されると思いつつも、幹部魔術師から呼び出されたとき、娘を守る意を決して夫婦ともども顔合わせに臨んだ。
 拍子抜けするほど、ヴィオラの婚約者の両親は穏やかな人だった。ただ「正真正銘、生粋の研究者魔術師だなぁ」と思わせる愚痴を散々聞かされた。

 小塔の長は、ローテションで回ってくると分かっていながらも、大塔世界には小塔が沢山あるため、つい属世界の管理者の役割が巡ってくるのを忘れがちだ。
 そしていざ統治者の番が巡ってくると、小塔の長はもちろん、長をささえる幹部たちもさめざめと泣きはらした挙げ句、「小塔から出るのは嫌だー」と柱につかまって抵抗する小塔の長および幹部たちは、『中州』の軍団員たちに、無理やり馬車に放り込まれて、役割の属世界へ送られる。小塔の長はその時点で諦めて職務全うを決意するが、それでも幹部は悪あがきに小塔へ戻ろうとするため、彼らが諦めて真面目に職務に取り組むまで、屈強な『中州』の魔術師軍人が見張ることになる。
 何故、幹部は悪あがきするかというと、小塔すべての幹部が属世界へ送られるわけではない。小塔はいわゆる一つの王国も同然で、それを管理する居残り幹部もいるのだ。属世界へ送られるのは、平等にくじ引きでハズレを引いた者。だから小塔に戻って、居残り組に押し付けようとする者が後を絶たないのだ。
 もっとも、逃亡を図って捕まった幹部魔術師は、軍人魔術師から繊維素移させられる折檻をうけるため、いつしか大人しく任務を遂行するようになるのだった。
 それが『中州』魔術師軍人が引き上げる合図でもあった。

  ④
「あんなに小さかったヴィオラが、明日には結婚。他の男のものになるなんて」
 エスター・クロウドが、以前、ヴィオラが攫われ救出された晩、ブライト侯爵にした卑劣な行為に泣きはらした時のように、研究室で娘と歩んだ日々を思い出しながら、やけ酒を飲みつつ泣いていた。

「変われば変わるものだなぁ」
 背後から、懐かしい声がする。エスター・クロウドが振り返ると、かつて愛し、そして優しさに調子に乗って激怒させたジャスティル・ブライト侯爵が暗がりのなかに立っていた。
「仁志様!」
 慌ててエスター・クロウドは、床に這いつくばって土下座する。
「過去の私は傲慢で、ヒューバート様だけでなく仁志様やクララ様も苦しめました。我が子を得て、育て、愛し慈しみ、私はどれほど罪深いことをしたのか、ようやく理解に至りました」
「そのようだね。明日のヴィオラ嬢の婚姻をもって、お前を元の姿に戻す。一般人として、元主天使長が暮らすのは、想像を絶する苦労があっただろうな」
「そんな風におっしゃらないでください……」
 エスター・クロウドは土下座したまま涙をこぼす。その涙の量があまりに多かったので、見る見る水溜りが出来ていく。
「それに……戻らないと駄目ですか?」
 エスター・クロウドは、上目遣いでブライト侯爵を見上げる。彼は妻子に嘘をついていたがバレるのが怖いのと、ここでの生活が心地よくて離れたくなかった。
「それほどまで愛していながら、愛しい妻を信じきれないのか?まあ激怒されるに決まっているだろうが」
 ブライト侯爵の言葉は、エスター・クロウドには傷口に塩どころか、ハバネロを塗り込まれたような激痛だった。
「それでも得るものがある。顔が腫れ上がるほど平手打ちか、拳は覚悟の上で、妻を信じてやれ。それに長女は奥方に似てしまったが、息子の方は、おまえに似て魔力量が豊富だ。これが何を意味するか、分からないほど頭が錆びついたか?」
「……息子の本当の夢は、花の大塔世界世界の魔術師として、研究に打ち込むことです……」
「おまえは、また自分のエゴで、今度は息子の夢を潰すつもりか?」
「いいえ!」
 エスター・クロウドは立ち上がり、真っ向からブライト侯爵を見つめた。最後にあった時の情けない姿とは大違いだ。
「……明日の深夜、迎えに来る。用意して待ってろ。用意というのは、妻子に全部素性を暴露しろということだ。ヒューバートのことや、僕への偏愛は話さなくていい。誤解を受けると迷惑を被るのは僕らだからな」
「……アストリッドと言う宿命の妻がいることも、話さねばばなりませんね」
 他にも妻がいると知ったら、サーシャをどれだけ傷つけるだろうか?
「言い忘れていたいたが、アストリッドとおまえの婚姻は、既に解消されている。ウチのじゃじゃ馬が大暴れして、それを抑える代償に、天使世界から正式に宿命の取り消しを脅し取ったから」
「……仁志様の娘様は、何をやらかしたのですか?」
 最後に見たときは、熾天使マクスウェルをコテンパンにしたところだった。その後は天使世界へ乗り込むと言っていたが、知るのが怖いような、それでも知らなくてはならないような、元天使としては複雑だ。
「なあに、下級天使宮と中級天使宮には問題ない」
「その言い方だと、上級天使宮には何かあったとしか聞こえませんけど?」
「うーん、まあほんの少しばかり、熾天使宮と神々の居住区を中心に全壊させたぐらいだよ。今はもう戻っているらしいから、心配ないって。別にに消滅者が出たわけでもないし」
 ブライト侯爵は、天気の話でもするかのように、物騒な数々を並べ立てた。
「負傷者は出た、ということですよね!?」
「その続きは、明日が終わってから。じゃ、奥さんと息子君に、ボコボコに殴られておきな」
 不吉な言葉を残して、ブライト侯爵は転移して去った。

「はあー」
 エスター・クロウドは長いため息をついて、床に座り込んだ。長いようで短くて、でも濃い一生だった。
(サーシャは私についてきてくれるだろうか?)
 エスター・クロウドは、今も仁志ことブライト侯爵を敬愛している。そう、恋愛だと信じて疑わなかったたのは、実は敬愛と履き違えていたからだったのだ。命を賭けても守りたい方。天使長としての義務だけで生きてきた自分に、希望を与えてくれた方。
 だがそれと同じぐらい、正直言えばブライト侯爵より忠誠心やや劣るが、それでも大事にしたい愛する家族。息子のマークが花の大塔世界の魔術師になりたいというならば、自分も花の大塔世界へ移住しよう。そこにサーシャがついてきてくれるか、尋ねるのは怖いけど。
 でも避けられない運命なら、玉砕覚悟で臨むしかない!

  ⑤
 ヴィオラの花嫁衣装は美しかった。近年流行の、人間界の日本ではお馴染みだった花嫁の父と聖堂のバージンロードを歩き、新郎に花嫁となった娘を託す時には、号泣を我慢するために、口を真一文字にして刃を食い縛無ければ、エスター・クロウドの涙腺は崩壊していた。
 新郎新婦は昼間の結婚式と披露宴のあと、新婚旅行で、クローバーブーケ天上界世界で、新婚旅行先として人気のハーバル海岸へ旅立っていった。
「父さん、そんなに肩を落とすなよ。いずれ俺が可愛い嫁さん連れて来るからさ」
 息子のマークが、新郎新婦の馬車を見送って肩を落として家路につく父親の背中を強く叩いて励ます。
「……帰宅したら、おまえとサーシャに、どうしても今日中に話さねばならないことがある。特にマーク、おまえの進路に関して、これは重大な岐路となる。サーシャも……私に呆れて見捨てられるかもしれないが、どうしても話さねばならないんだ」
 絞り出すような声で、エスター・クロウドは言う。この名前とも、今日を限りにお別れだ。

 帰宅するなり、3人は着替えもせずにリビングのソファに腰掛けた。「せめて、お茶ぐらいは準備させて」と立ち上がり、キッチンでお茶の準備している間に、マークは「披露宴の食事、少なかったたなぁ」とお土産のアーモンドケーキの袋を空けて食べ始める。エスター・クロウドも落ち着かなくて、棚からウィスキーとグラスを取り出して、景気づけにストレートで小さなコップになみなみ注いだ酒を一気飲みした。
(まるで死刑宣告を受ける罪人の気分だな)
 ……そして恐れていた懺悔タイムがやってきた。エスター・クロウドは妻子の顔を見るのが怖かった。

「なんだ、秘密ってエスターが男色だったことね。そんなの知っていたわよ」
 サーシャは、あっけらかんと応えた。詳細を聞けば、エスターは寝言で「仁志様~」と甘ったるい声で寝言を言っていたのだとか。
 エスターは寝言まで責任持てない。恥ずかしくて、真っ赤になった顔を両手で覆ってうつむいた。
「ふーん、親父が実は侯爵だったってオチか。うちの教授や、村長やってる魔術師様も、親父が立て続けに新品種を開発しているのを怪しんでいてさ、物腰も何気に上品で教養もあるから、ありゃ、お貴族様の血を引いているんじゃないかって、噂になっていたんだ。まさか親父自身が貴族、しかも侯爵さまとは、俺さえ想像しなかったけど。親父、みんなの噂の的になってたの知らなかった?」
 マークも驚きを見せない。
 自分は完全に庶民に擬態していたと信じて疑わなかったエスター・クロウドは、唖然とするしかなかった。 
「……それで、サーシャとマークは私についてきてくれるだろうか?私は今夜が過ぎれば元の姿に戻るし、マークも私の血を引いているだけに、それなりの魔力量を持つだろうと、仁志様から忠告された。騙してて、本当に済まない!でも私は、おまえたちと家族のままで居たい!」
「なにを今さら。私は側室でも妾でもいいから、あなたについていきますよ。あ、正妻様にはどんな挨拶していいのかしら。貴族のご挨拶なんて、これまで無縁だから分からないわ」
 サーシャはハハハと明るく笑う。
「いや、正妻とは別れた。というか、そもそも神様からの天罰として無理やりくっつけられて、互いに昔から憎しみ合っていたんだ。娘は1人居たが、仁志様に恋する私が気色悪いと、16歳の頃から会ったことがない」
「そんなに?随分と複雑な家庭だったのねぇ」
「仁志様のお陰で、無事に離婚することができた。だから貴族に戻ったら、正式にサーシャを正妻として登録する。もちろんマークも、ヴィオラも嫡子として登録するから」
「俺がお貴族様ねぇ。なんか、面倒くさそうだな。それに俺は初志貫徹、花の大塔世界の魔術師を目指すよ」
 息子の決意は固かった。娘が花嫁として巣立っていったように、マークも自らの道を進む決意を固めていたのだ。エルグランドは、それを邪魔するつもりはない。
「『中州』に貴族制度はないから、貴族の称号はクズも同然だ。そもそも貴族と言っても一般的な天上界世界のノホホン貴族と違って、、天上界守護総軍の軍閥貴族としての称号だから、舞踏会だの夜会だのは気にしなくていい。呼ばれるのは、主催との交渉や、ターゲットを見張る任務が主だ」
 間もなくエスター・クロウドから、エルグランド・ソードブレイン侯爵に戻る男は、熱心に説明した。

「残念だけどエルグランドには、天上界守護総軍に戻ってもらわねばならない。それは僕もだけどね」
 転移してきた仁志に、クロウド一家は仰天する。更に驚いたのが、まだ日付も変わっていないのに、エスター・クロウドはエルグランド・ソードブレイン侯爵の姿に戻り、マーク・クロウドも父親によく似た容姿になっている。つまり父親と息子は、平凡顔から一気に高貴で美貌輝く容姿に変身したのだ。
「ずるいわ、私ばっかり何も変わってないのに!」
 サーシャは不貞腐れるが、サーシャを見るエルグランド・ソードブレイン侯爵の目は大きく見開かれている。同様に息子のマークも母親を指さしながら、金魚のように口をパクパクさせている。
 意味のわからないサーシャに、ブライト侯爵は手鏡を渡す。サーシャは怪訝な顔で鏡を覗きこんで仰天した。
「誰よ、これ!」
「仁志様。まさか、サーシャに何かなさったのてすか?」
 批判めいた口調で、エルグランド・ソードブレイン侯爵は尋ねる。
「すっかりオツムが一般人になってしまったね。高位貴族と愛し合った女性が、身分差が大きい場合、容姿が貴族寄りになるのを忘れたのか?」
「え?そんな事ありましたっけ?」
 エルグランド・ソードブレイン侯爵の記憶にはない。そもそも理にならないことを脳に刻みつけるのも無駄だと思っていたし、天上界人になってからは、既に位の高い人達に囲まれていたので、身分の格差を埋めるために容姿が変わるなんて覚えても得にすらならないと、切り捨てていたのだ。
「別に容姿が変わろうと、サーシャへの愛は変わらないけど、朝焼け色の綺麗な赤毛が淡くなって、ストロベリーブロンドに変わってしまったのが残念だな。髪、染められるかな?」
「お願いだからやめて!赤毛はコンプレックスだったのよ!もっと金色に、エスターみたいな色までなるのが憧れ!」
 サーシャの水色の瞳はそのままだった。しかしサーシャの面影を残しつつ、輝くばかりに美しくなった顔は、まるで宝石の原石を研磨したかのような変貌ぶりだった。
「私は君の鮮やかなオレンジがかった赤い髪が大好きだったけど。たまにカツラかぶって、以前君に戻ってくれないか?」
 サーシャは、信じられないものを見るように、さっきまでの夫とは似ても似つかぬ男を凝視した。
「赤毛好きの男性なんて、初めて見たわ。いつも、赤毛をバカにされていたから」
「それはきっと、君の気を引きたい愚か者の戯言だよ。うーん、やっぱりあの見事な茜色の髪は捨てがたい」
「お願いだから何もしないで!赤毛の女の子にとって、金髪は憧れなんだから!」
 サーシャは頭を防御しながら叫んだ。
「思った以上に、素晴らしい家族に恵まれたようだね。そんなご家族には酷な宣告なんだが、マーク君は魔力量も『中州』の適正数値を超えてるから合格。このまま花の大塔世界の寄宿舎のある、植物学を重点的に教える学校に編入手続きしてあるけど、もし『中州』を選択するなら、『中州』酔いは覚悟しておきなさい。サーシャ夫人に関しては、息子くんと花の大塔世界へ行くか、夫についてくるか選択を任せるけど、エルグランド・ソードブレイン侯爵、君の第6軍集団行きは決定だ。もちろん、僕も妻に同行して『中州』を出る」
 ブライト侯爵は、長い長いため息を嫌そうについた。『中州』での気楽な生活は、ブライト侯爵には捨てるに惜しい日々だった。だがそれもこれも、総軍からの命令となれば、表面上は退役していても軍閥貴族として名が残っているため、職務復帰は従うしかない。そもそも命じられた任務が、仁志ぐらいしか務まらないと、上層部満場一致で判断され、総出で説得されたから仕方がない。
「あの、しかし仁志様には『中州』でヴィクトリア・アルム様のストッパー役という重要な仕事があるのでは?」
 ヴィクトリア・アルム、最後に熾天使マクスウェルを痛めつけて、上級天使宮を全壊させたという、そして大嫌いなアストリッドと離婚させてくれた恩人。だが彼女が破壊魔の悪魔っ子なのは、否定しようのない事実だ。
「娘のことは大丈夫。ヒューバート夫婦が傍で見張ってくれるし、なによりヴィクトリア・アルムは結婚して夫がいるからね。多少……で済めばいいけど、僕とエルグランドは第6軍集団に行かねばならない。僕は第6将軍代理、君は副将軍代理だ」
「それって『後継嫡子』問題ですよね?リヴァ将軍はともかく、まだベリル・マルガー副将軍とダラン・フェイク魔術師長は復帰していないんですか?」
 エルグランド・ソードブレイン侯爵は呆れ果てる。
「いや、ベリル副将軍とフェイク魔術師長は先頃軍務に復帰した。長期妊活休暇に入ったのは、トリル・マルガー副将軍夫妻だ。双子のベリル・マルガー副将軍が復帰するまで待っていたからな。エルグランド・ソードブレイン、明日付けで副将軍代理を任ずる。引っ越しは面倒だろうから」
 ブライト侯爵が指をパチンと鳴らすと、馴染み深い第6軍集団世界の屋敷の庭の一画に、クローバーブーケの小さな家が庭ごと入っていた。
「今日はここで、ゆっくりしたまえ。マーク君の花の大塔世界へは、執事に送らせろ。サーシャ夫人は、充分考えた末に息子か夫に付くか考えればいいが」
 ブライト侯爵は一癖ある笑みを浮かべる。
「そこの男は昨晩、正体が奥方にバレたら捨てられると大泣きしていたんだ。出来れば付き添ってやってほしい。仕事中に情緒不安定になられても迷惑なだけだからね。貴族同士の付き合いについて悩む必要はない。軍閥貴族の集まりは、一般の貴族社会とは違う。不安なら、ウチの妻でも呼び出して、詳細を尋ねてくれ。では、今日はこれで。いきなりリヴァ将軍閣下から将軍代理を任じられて、こちらもてんてこ舞いなんだ。ベリル・マルガー副将軍も、軍務に復帰したばかりにも関わらず、トリル・マルガー副将軍が休暇に入ってしまったものだから、猫の手も借りたい忙しさだ。じゃあエルグランド、明日は必ず定時に出勤するように」
 そう言い残して、ブライト将軍代理は転移した。
 ズーンと落ち込んで床に座り込むエルグランド・ソードブレイン侯爵に、妻と息子は駆け寄る。
「いろんなことが襲いかかって放心状態になる気持ちは分かるけど、大役を頑張って。私はあなたを支えるから。ずっと、ずっと支えるから!」
 サーシャが膝まづいていうと、エルグランド・ソードブレインは、妻の胸のなかに飛び込む。
「……君だけは傍にいて。私は仁志様に見捨てられた。以前のように、『天堂』と初めて会ったとき以来の人間修行時代の名前で呼んでくれない。天使だった頃の名前、エルグランドと呼ぶ。私が悪いとは言え、もう許してもらえない……」
「エスター……」
「そうかな。まあ、俺は会ったばっかだから分からないけど、あの人が将軍代理で、親父が副将軍代理なんだろ。てことは、片腕は任せるって意味じゃん。どんな失態したとはいえ、親父は反省してるし、以前の親父のことは知らないけど、きっとあの人も仲直りの落としどころを模索してるのかもな。ケンカするのは簡単だけど、仲直りってタイミング難しいんだよ。そのまますれ違いで、離れることも少なくないし。これで終わらせていい関係なら、俺と一緒に父さんと母さんも、一緒に花の大塔世界へ行こうぜ」
「……仁志様は、温厚だけど根本で他人を滅多に信用しないお方だ。たとえ私が嫌われていようとも、お傍を張れるわけにはいかない」
 エルグランド・ソードブレインは、妻の胸に顔を埋めたまま言う。
「へえ。見た目と違ってそんなに用心深い人なんだ。それでも将軍代理を任されるぐらいなら、他にも副将軍代理候補は居たはずだよな。それをあえて、親父を指名するのはーー」
「信用してくださっているのよ。そうでなければ、わざわざこうして、あなたのもとへは来てくださらないわ。最初は気まずいかもしれないけど、頑張って」
「うん……」
 このときエルグランド・ソードブレイン侯爵は、心からサーシャと巡り会えたこと、ヴィオラとマークという素晴らしい子供に恵まれたことに感謝した。

4.魔王降臨
  ①
 話はピクニック最中に、ヒューバートを狙うエルグランド・ソードブレイン侯爵と、熾天使マクスウェルが共闘して襲撃した日に遡る。
 慢心した2人は、グラント侯爵とヴィクトリア・アルムによって叩きのめされた。

「あーあ、せっかく大人しくしていたヴィクトリア・アルムを起こすなんて、天使って本当に馬鹿だよなぁ。いや、今回は神様か。搦め手を使うような相手じゃないことぐらい、分かりそうなものなのにさ」
 ヒューバートは、つくづく呆れ果てた。ピクニックは、クララ侯爵夫人とヒューバートとプリムローズとサイプレスで行うことになった。
「湖で遊んでいたドラゴンの姿が見えないわね」
 プリムローズは、遠く離れた湖が静まりかえっているのに気づいた。
「寝た子を起こすことを、するからよ。よぼど自信家だったみたいだったけど、世間知らずの熾天使の坊やでは、ヴィクトリア・アルムの遊び相手にすらならないわ」
 クララ侯爵夫人は、よく晴れた青空を見あげながらサンドウィッチを頬張る。
「天使世界が全壊しないことを祈るだけね」

  ②
 今、天使世界の上級天使および神々が暮らすエリアは阿鼻叫喚と化していた。
 ヴィクトリア・アルムが召喚した『中州』日の大塔世界から召喚したドラゴンの群れが、暴れ回っているのだ。そしてヴィクトリア・アルムも、最近は慎ましやかを強要されたストレスを溜め込んでおり、今日ばかりはお祭りだと、目に入るものを壊しまくっていた。
 ヴィクトリア・アルムは左手で、気絶した熾天使マクスウェルの襟首を掴んで引きずり回している。
 天使軍がマクスウェルを救出しようとしても、ヴィクトリア・アルムがかざした右手から起こる竜巻に全員巻き込まれて、我が身の無事さえ危うい状況だ。

 神々は、サンタクロースモドキの最高神に詰め寄って、糾弾していた。以前にも似たようなことがあったが、小規模で済んだ。しかし今回は過去の比ではない大災害だ。
「最高神様、今度はなにをやらしたんですか?」
「あの家族には二度と手出ししない魔術契約も、交わしていたはず。それが今更、なんでドラゴンの群れを引き連れて襲来しているわけで?」
「もうあなた様には、ほとほと呆れました。今回はもう、言い逃れできません。最高神の座を下りて、どうぞ長い隠居生活を楽しんでくだされ」
「いや、それは、儂は何もしとらん!だから魔術契約違反にはならない!」
 サンタクロースモドキの最高神も、必死に反論する。だが言い訳は通用しない。
「あの悪魔っ子が引きずっている熾天使は、貴方様のお気に入りだったはず」
「ご自身が動かず代理ならセーフとでも、思ったんですか?」
「甘すぎます!」
 最高神が仲間の神々に糾弾されているのを、離れた場所からジャスティル・ブライト侯爵は、面白そうに眺めていた。
「ジャスティル!おまえからも、何とか言ってくれ!これは誤解なんだと!」
 サンタクロースモドキの最高神は、必死で訴える。
「誤解ねぇ。神殿奥深くで守られているはずの熾天使がフラフラ天上界世界に現れて、偶然、ウチの大事な息子のケツの奥を狙うなんて、凄い偶然ですね。まだ幼い息子を、あわよくば犯そうなんて、天使世界では常識なのか、ぜひ神々にお尋ねしたい」
 ジャスティル・ブライト侯爵は口調こそ穏やかだが、目は怒りに燃えていた。
「アウトじゃ」
「駄目に決まっておろう」
「少年に淫行を強いろうとしたのが最高神様の命令でも、あの熾天使は降格ですな」
「どこまで落としますか?」
「もちろん下級天使第九階級に決まってる!」
「ついでに最高神様も、今をもって解任じゃ。満場一致の必要があるが、どうかの?」
 神々は「異議なし」を一人残らず連呼して、最高神の解任と隠居が決まった。
「全く、貴重な熾天使を失うことになるとは、大損害じゃ。戯れにも程がある!」
「あの、それについてですが」
 ジャスティル・ブライト侯爵は口を挟む。
「せっかくの熾天使を最下級まで落としてしまうのは惜しい。ここは最高神様、元最高神様のそそのかしの罪もあるので、『中州』の絶対聖域での浄化で、熾天使らしい清らかな心を取り戻す、それで手を打てばよろしいのでは?」
「おぬしは、それで構わぬのか?」
「ええ。娘も存分に暴れて満足したようですし、それでチャラにしておきましょう。では、改めて魔術契約を。今後、代理を立てる姑息な手段も、魔術契約違反の条約を盛り込んでいただきます。私も子供達の親として、健やかに育つ環境を整える義務がありますので」
 上級天使宮を破壊して高笑いする娘の父親、ジャスティル・ブライト侯爵の言葉が空々しく聞こえるのは、それを聞いた全員の総意だった。だが非はコチラにある。条件を飲むしか選択肢はなかった。

「皆様の英断には、感謝申し上げます。では、二度と私たち一家および一族に手出し無用ということで。3度目の正直はありません。娘が暴れても、次は私の仲裁はないと肝に銘じておいてください」
 そしてジャスティル・ブライト侯爵は、ヴィクトリア・アルムに撤退の指示を出し、ドラゴンの群れもろともに天使世界を去った。
 ついでにボロ切れのような熾天使マックスエルをドラゴンが爪先でくるくる回しながら運んで行った。当の昔に気絶していたのが、熾天使マックスエル唯一の幸運だっただろう。

「釘をささんでも、二度とかかわりたくないわい」、神々の1人の呟きに、皆が同意した。

 ……残ったのは木っ端微塵の神々の神殿群と、熾天使宮。上級天使の第二階級・智天使と座天使それぞれの宮は、貰い事故程度で済んでいるようだ。
 そして元最高神にそそのかされた、上級天使宮のもっとも尊きエリアを全壊させる罪を背負った熾天使マックスエルは、予めブライト侯爵が予約しておいた、日の大塔世界の奥地にある『絶対聖域』の泉のなかで氷漬けにされた。
 これから千年間、マックスエルは、『絶対聖域』の氷の中に封印され、魂が浄化される。出てきたときは、きっと熾天使の模範生に生まれ変わっているだろう。

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