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第一章 夏の日の出来事
異世界でセカセカしたくない
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1.釣り
鮎釣り遊猟証明書を首から下げた、2人組。この村に住む森田兄妹だった。商売てはなく、趣味として近くの清流で釣りをしている。都会をはじめ、鮎釣り目的で方々から訪れる釣り客は、持っと下流の河原で楽しんでいるため、上流のこの場所は村人しか来ない穴場だった。
「妹よ、学校は楽しいか?」
森田家の長男、大輔が尋ねる。顔立ちはそれなりに整っているが、感情表現が乏しいので、それを読み取る技術がないと彼とコミュニケーションを取るのは難しいだろう。もっともこの村の住人の大半は昔から、森田家の人間が寡黙なのを知っているため、微細な表情の変化を読み取ることには慣れており、村中の同世代は友人だ。
「楽しいよ。今日は部活が休みで消化不良だけど、たまにはこうして穏やかに過ごすのも必要だね。それよりアンチャン、大学へは本当に行かなくていいのか、母ちゃんが心配してたよ」
言葉は多いが、表情が乏しい花子は言う。妹、アンチャンと互いに呼び合っているが、2人は兄妹ではなく、正確には従兄妹だ。だが花子は事情があって生まれたときから森田家に引き取られて育てられている。
「俺は親父の跡継ぎだからな」
大輔の父親は大工。代々林業を営む森田家は、大輔の父の長兄と次兄が継いでいるため、三男の大輔の父は大工となった。父を尊敬する大輔も、村から一番近い高校を卒業したら、大工見習いとして、父が独立した建設会社で働くことになっている。
「アンチャン、頭がいいのにな。もったいない」
そう言っている傍から、花子の竿に反応があった。釣り上げると、威勢のいい獲物が釣れた。花子は躊躇いもなく釣れた鮎をバケツに入れると、再び竿に餌をつけて川に糸を投げ入れる。鮎の釣り方は友釣りが有名だが、糸を垂らしてボンヤリするのが目的な兄妹はいつも餌釣りをしている。
警戒心の強い鮎だが、森田兄妹は瞑想に近い静けさを好むので、高確率で大漁となる。もちろん小さい鮎はキャッチアンドリリースだ。
「妹よ、おまえも本来なら都会の高校に行けば、実力を発揮出来ただろうに」
大輔にも当たりがきて、鮎を釣り上げる。そして餌をつけて、目当てのポイントに糸を投げ入れる。
「この村の友達ならともかく、隣町の高校のクラスメートでさえ、最初は私の表情の無さを敬遠してたからねぇ。いまは仲良くやっているけどさ」
「目立つのは、嫌か?」
大輔は端的に尋ねる。地元の高校では、花子は実力を発揮しきれない。強豪校に入っていれば、たちまちプロの目に止まっていただろう。しかし花子は地元に留まった。
「別にプロになりたいわけでもないし。短大に入ったら野球は辞める予定だし」
花子は女子野球チームに所属していた。しかし地元の女子野球部は万年1次リーグ敗退の弱小部。花子を含む彼女たちは野球を極めるためでなく、楽しむ為に部活動をしている。その御蔭で厳しい上下関係もなく、野球そのものを楽しんでいた。
男子野球部とたまに交流試合をすることもあるが、女子野球部が勝ったことはない。男女の性別差と言ってしまえばそれまでだが、原因は女子部のキャッチャーにあった。花子の剛速球を受けられないため、花子は手加減して投げているのだ。
花子の真の実力を知るのは、大輔と大輔の親友数名、それと従兄とその友人のみ。従兄が高校野球スポーツ推薦で強豪校へ進学するまでは、キャッチャーは従兄の役目だった。その後は大輔と親友がキャッチャーを務めたが、花子の剛速球にキャッチャーミットを付けていても手が痺れる。だが剛速球をキャッチするのが楽しいらしく、たまに人気のない広場でキャッチボールで遊んでいた。
「妹よ、ミカン農家を極めるなら短大ではなく4年制の農大へ行くのを勧めるが」
大輔は、卒業後は地元のミカン畑で修行し、独自ブランドのミカンを作りたい野望を抱いているのを知っていた。
「短大進学は、南条の親をようやく妥協させた結果だから仕方がない。本当は高校卒業したら、近所のミカン農家で修行したかった。やりたいことが決まっているなら、勉強より修行の方が近道でしょ」
南条家は従姉を対面的に実子として育てている。だから子育て放棄した花子の将来にまで口を出してくる、血が繋がっただけの両親が花子にはウザかった。
南条の両親は、本当は花子を関東でも関西でもいいから、名のしれた4年制大学へ進学させたかったらしい。そのための学費や寮もしくはマンションでの生活費全て出すと言ってきた。身バレした時の予防線か、あるいは実の娘への罪悪感かまでは知らないが、花子にしてみれば迷惑でしかない。花子からすれば、血のつながった家族など、銀河系より遠い存在の住人だ。
「そうだな」
大輔はボソリと言った。心情としては、言いたいことは山ほどある。だがそれは花子の傷口をえぐるだけだ。
今は人より背が高くて筋肉質なだけの標準体型だが、誕生当初の花子は4キロを超える巨漢児だった。初めて対面した時は正直、大輔も「これが赤ん坊?」と目を疑ったほどだった。
花子の実の家族は、華やかな世界の住人だった。実父は有名バイオリニスト、実母は有名女優。兄と姉も子供時代から芸能界に身を置き、実兄は現在役者は辞めて人気音楽バンドとして活躍中、実姉も子役卒業後はモデル兼タレントとして活動していた。
そんな花子の実母の出産退院時に、マスコミが飛びつかないはずがない。でっぷり太った、どう見ても可愛さの一欠片もない赤子を世間に公表するのは、女優のプライドが許さなかった。奇しくも実母の妹、つまり森田家に嫁いだ花子の養母が東京に里帰りして、姉と同じ病院で、1日違いで女児を産んだ。その子はコウノトリが取り違えたのではと思うほど愛らしく、実母は両親、つまり花子の祖父母の力を借りて、妹の子を抱いてマスコミに我が子として公開したのだ。
我が子を取られた花子の養母の怒りは凄まじかったが、難産が影響して退院が姉より遅れたのも、この騒動の要因でもあった。妻の容体を聞いて関西から東京の病院に駆けつけた森田の養父も怒り心頭で、妻の姉宅と妻の実家を突撃したが、ほとぼりが冷めるまでだからと森田の養父の説得にかかり、激怒した森田の養父が裁判を起こすと言い出して騒動にもなりかけた。裁判にまで持ち込まなかったのは、花子の養母が病院に残された花子を哀れんだからだ。確かに赤児らしくない巨漢児だが、実母に捨てられて泣く姪が可哀想でならなかった。このまま裁判に持ち込んで我が子を取り戻しても、巨漢児の姪が育児放棄されかねない。そもそも花子の祖父母さえ「誰に似たか知らないが、可愛くない赤ん坊だねぇ」と、疎んじていたぐらいだったからだ。
怒りが収まらない森田の養父を説得して、花子の養母は体が回復すると、本来であれば暫く実家で養生するはずだったが、我が子を姉のプライドのために取り上げた両親(花子の祖父母)が許せなかった。しかも姉夫婦は長男と長女には考え抜いた名前をつけていたにも関わらず、次女には適当につけたのがアリアリと分かる、花子で出生届を提出した。本物の我が子、奈緒のことが心配だったが、姉は自宅に奈緒を連れ帰り、ベビーシッターを雇って妹夫婦の面会を遮断していたので、東京に残る理由もない。
花子の養父母は関西の家に花子を連れて帰宅した。巨漢児で生まれた花子だったが、1歳になる頃には標準体重の愛らしい姿に成長した。だが表情が乏しい。森田の家族は愛情深く育てつもりだが、やはり実の親に捨てられたトラウマが、物心つかない赤ん坊でも分かるのだと、花子の養母は涙する。しかし花子の無表情が、実は森田家特有の寡黙な夫と息子の影響にあると気づくまで、花子の養母は時間を要した。
森田家で育った花子は、予想以上に可愛らしく成長していた。そりゃ、美男美女の遺伝子を色濃く引いた花子が可愛くならないわけがない。
南条の家は花子が劇的な成長を遂げたことを確認すると、子供達を元の家族に戻そうということになり、南条夫妻が奈緒を連れて関西の田舎にある妹宅を訪ねた。我が子を取り戻したなら、森田の母は姉を含めて実家と絶縁するつもりだった。ところがいざ子供達を交換しようしたとき、奈緒が南条の父から引き離されるのを嫌がって泣いた。そして大輔も感情に乏しいが、状況が分かっているのかいないのか、花子の手をしっかり掴んで離さない。
赤ん坊たちは、それぞれの家庭に馴染み、家族も育ててきた子供に情を移してしまったのだ。それでも、まだ幼い今なら修正が利くと、赤児たちは元の家族に戻され、花子は南条両親と共に東京へ、奈緒は関西の自宅に残された。
それで一件落着となるはずだった。しかし東京の南条家、特に幼い長男長女は、無表情な花子を不気味がった。一方の関西の森田家でも、大輔が花子を取り戻そうと家出騒動を起こしたり、狭い村なので「南条のお偉いさんは、別嬪に育った姪と引き換えに、我が子を森田家へ捨てた」との噂が立った。
一部のマスコミにその情報が漏れて世間で騒がれ、南条家は事態収拾のために「姪の表情の乏しさを妹から相談され、障害の有無の検査のために、一旦、姪を預かって病院で調べさせていた」と説明した。実際、病院に花子の発育状況を受診させたが、何ら問題はなかった。医者からは「表情筋の動きが鈍いだけで、むしろ普通より知能が発達していますよ」と診断されたほどだ。
これよにより、戸籍は今後の子供達の意思が定まるまでそのままにしておくが、再度、花子は森田家へ、奈緒は南条家へと取り換えられた。そして、今に至る。
(俺だったら、身勝手な南条のババアを一生許さないけどな)
大輔は思う。だがこの交換劇は、運命だったのかもしれないとも思う。
関西の田舎で、伸び伸び育った南条花子。
東京の音楽専門高校で、次々とバイオリンの賞を獲得していく森田奈緒。実家で育っていたら、音楽の才能を開花させる機会もなかっただろう。
やはりコウノトリは、赤児を取り違えて運んでしまったのかもしれない。
2.実兄、実姉
いつもより多く鮎を持ち帰ることにした。普段は家族と、近所に住む祖父母の塩焼き分以外は川に返していた。だが昨日のテレビで見た鮎の炊き込みご飯が大輔の頭から離れず、塩焼き用プラス炊き込みご飯用の鮎を持ち帰ったのだ。自家製燻製も美味しいが、禁猟直前の脂の乗った鮎で作った方がより味い。
自宅に戻ると、見慣れぬ靴が2足あった。この辺りでは見ない高級そうな靴だ。嫌な予感が大輔と花子に過る。
居間に行くと、花子の実兄と実姉がいた。
「芸能界は?」
無表情で花子が尋ねる。家族から見ればびっくり仰天の顔だったが、南条家の兄姉は相変わらず淡泊な妹だと呆れ果てる。
「なに寝ぼけたこと言ってるのよ!あんた達、スマホニュースも見てないの?」
実姉の杏樹が憤る。芸名は蓮川みやび、本業はモデルだがタレントとしても人気だ。
「俺たちはゲームで忙しい」
ぶっきらぼうに大輔は答えると、鮎を台所の母親に渡す。事前にスマホから「鮎の炊き込みご飯希望」と、昨晩のテレビのレシピ付きで母親に送信していた。だが炊き込みご飯用の鮎は、迷惑な客人の塩焼きに変わりそうだ。食べることが好きな大輔は、表情には出ないが、南条家の迷惑人達に憤っていた。
「田舎じゃ放送局も少ないもんね。ウチの両親がダブル不倫していたのが週刊誌にすっぱ抜かれて、子供の私達にもマスコミが押し寄せて大変なのよ。清純さが必要なコマーシャルからは下ろされるし、とんだとばっちりよ!」
「俺は杏樹ほど酷くないけど、なるべく仕事以外は雲隠れしてろってさ。テレビ活動が無いのが、せめてもの救いか」
花子の実兄、雅幸が追随する。実兄と実姉は、子役時代からちょいちょいテレビに出ているので外面もよく、もともとの綺麗な顔立ちに加えて芸能人オーラが強い。
(同じ遺伝子持ってると思えねー)
花子をはじめ、森田家の人々は思う。花子も着飾ればそれなりの美人になるだろうが、なにしろ部活で日焼けして真っ黒で、袖無しの服から見える腕には筋肉もついていた。
「奈緒ちゃんは?」
花子は無表情で聞く。あまりの反応のなさに、雅幸と杏樹は目を剥いた。いや、これでも充分に驚いてるんだって。
「あの子はいま、バイオリンコンテストでウィーンにいるわ。父さんは、ヨーロッパの音楽学院に入れるつもりみたいよ。ウチの本物の3兄妹にはバイオリンの才能がなかったのに、まさか父さんと血の繋がらない奈緒にバイオリニストの才能があったとはね」
杏樹は悔しげに話す。杏樹も雅幸も幼い頃はバイオリンやピアノを習っていたが、いずれもプロの水準までいかなかった。
雅幸の場合、幼い頃の音楽教室通いが役立ち、今のバンド活動に役立ち、メインはギターだが楽曲によってはバイオリンやピアノも弾く。バンド結成は高校時代に友人から声をかけられて始めたが、あくまでも放課後の部活代わりとして捉え、まさかプロデビューして人気を博すまでになるとは想定外だった。母親経由で俳優としてのスカウトもあったが、芸能界の面倒臭い人間関係を子役時代に見てきたので、大学入ってそれなりの企業に勤めた方がいいと堅実な考えを持っていた。だから今すぐ芸能界を辞めても未練はないが、就職活動時の会社の心象が悪くなるから、両親ダブル不倫なんて迷惑極まりない。
「おまえだって、いまは夏休みで学校休みだろうが、学校始まったら騒がれるだろ?」
「いや?私は親が学校に話して、森田姓で通学してるから、誰も南条家と関わりがあるとは思ってないよ」
むしろアンタ達が訪ねて来られて迷惑とは、口に出して言えないけど。そして花子にとって『親』とは当然、森田の両親のことだ。戸籍も短大進学前に変える予定である。
「奈緒は、南条さんと奈緒の希望で、中学卒業に合わせて南条家の養女にしたけれど、こういう騒ぎ起こされてしまうと、反対するべきだったかもねぇ」
台所で料理をしながら、母は言う。庭では父親が、鮎を焼くために炭を起こしていた。バーベキューセットや七輪ではなく、耐熱煉瓦を積上げて作ったコンロで、その他にも炭でパンやピザを焼ける本格的な窯も燻製小屋も全て父親の手作りだ。
「奈緒ちゃん、南条さんに懐いていたから」
花子は無表情で言う。そこには、南条の父が浮気をしてたのを知ったら、パパっ子の奈緒がショックを受けるだろう憐憫が込められていた。もっともそれを表情から理解できたのも、森田の家族だけだ。
「南条さんって、なに他人事みたいに。アンタにとっても父親でしょうが!」
杏樹は激昂するが、その怒りを花子にぶつける意味が、花子だけでなく森田の家族も理解できない。
「妹よ、東京の伯父さんを父と思ったことがあるか?」
「いや、かつて一度も。親戚とさえ思えない、空の彼方の住人だと思ってた」
感情に乏しい大輔と、表情に乏しい花子。従兄妹だが本物の兄妹にしか見えない。まあ雅幸も杏樹も、こんな不気味な連中と親戚とは思いたくないのが本音だが。
「大輔、鮎。その後、爺ちゃんと婆ちゃん呼んでこい」
良質な備長炭に火がついたので、寡黙な父親は台所で串を差し終えた鮎をザルに盛ってコンロに持っていく。そして外の水道で手を洗ってから、2軒先の祖父母の家に行こうとした。
「アンチャン、私も行く」
花子は財布を持って大輔について行った。
「なんか、俺たちよりも兄妹してるな」
雅幸は複雑な気持ちで、花子の後ろ姿を見送る。そう言えば杏樹とも奈緒とも、兄妹らしい思い出はないことに雅幸は気づいた。愕然とまではいかなくても、森田家と違って、いや他の一般家庭と違って、裕福でも家族の絆は最初から薄かったのだなと、雅幸は寂しく思った。
鮎ご飯は後日持ち越しとなったが、母特製の根菜と鶏肉の炊き込みご飯と、塩焼きだけでは足りないので肉多めのホイコーロー、ワカメのお吸い物が出たので、大輔は満足だった。
大人数での食事は仕事では慣れているが、家族の中に入り込むのは、雅幸も杏樹も居心地が悪い。ましてや話しかけてくるのは血の繋がりのない森田の祖母と、叔母だけ。花子をはじめ、大輔、叔父、祖父はたまにボソッと必要要件を言うだけで、黙々と食べている。
「うまっ!」
思わず雅幸が声を上げた。仕事関係で、高級料亭のアユの塩焼きも食べる機会も多いが、獲りたて新鮮な天然鮎の塩焼きがこれほど美味しいとは思わなかった。自家製蓼酢も鮎の味をより引き立てている。
「炊き込みご飯も美味しい。これが家庭の味なんだね」
杏樹もお世辞ではなく、美味しそうに食べる。
「花火、買ってきた。後でやろう」
花子が無表情で実兄と実姉に言う。都会の高級マンション育ちで花火をする機会もあるまいと、花子はさっき近くの商店で花火を買ってきたのだ。都会と違ってコンビニも駅前までいかねばなく、駅までは自転車を使う距離だ。最寄りの商店は7時には閉店する。だから早目に買ってきた。
案の定、雅幸と杏樹は年甲斐もなく大はしゃぎだった。縁台には冷えたスイカとジュースも並んでいる。広い田舎の庭ならではの醍醐味で、花子と大輔は手持ち花火だけでなく、打ち上げ花火や仕掛け花火も買っていた。
「花火なんて、ずいぶん前に父の実家でやった以来じゃない?」
杏樹は大はしゃぎだ。テレビレポーターで、花火大会の中継は何度かこなしているが、いかにも家族的な手持ち花火や仕掛け花火など、ほんの幼い頃にした思い出しかない。父の実家は千葉の一軒家だったが、杏樹が小学校上がった頃に父方の祖父は病死したため、祖母は豪華老人ホームに入れられて、父方の実家は処分された。あの頃は幼すぎて感慨もなかったが、今になってみると田舎があるって良いなと思う。
だが今回の両親ダブル不倫がなければ、母方の実家と疎遠な関西の叔母宅へ来ることもなかっただろう。
「もしー」
と言いかけて、杏樹は止めた。だが雅幸も同様の思いを抱いていた。
もしも母がプライドのために妹と従妹を取り替えるなんて馬鹿なことをしなければ、休みごとにこうして叔母宅を訪ねることが出来たかもしれない。寡黙だが親切な叔父たちとも、以前から交流できたかもしれない。
つくづく親に恵まれなかったと、杏樹と雅幸は思う。今回のことがなくても、実の我が子が醜いから、たまたま同じ病院いた姪を実子としてマスコミに披露するなんてと、幼いながら怖い母だと思った。すなわちそれは、役立たずなら平気で雅幸も杏樹も親から切り捨てられることを意味していたからだ。
3.遠くへ行きたい
翌朝、母からの命令で、雅幸と杏樹を近くの名所案内することになった。徒歩範囲に名所なんてないので、大輔と花子は大いに困った。
雅幸と杏樹は、昨日の鮎が美味しかったから、また食べたいという。それも自分で釣って。
しかし鮎遊猟証明書がなければ、無闇に川で釣りは出来ない。そこで遊猟料を支払えば鮎釣りができるエリアへ案内することにした。多少歩くが、乗り物を使わずに鮎釣り場へ行ける。そして目的地を目指しての真夏の散歩は、暑いながらも都会育ちの雅幸と杏樹には新鮮だったようだ。
何気ない田圃の用水路、防風林。中でも杏樹の目にとまったのは、長い階段のある鎮守の森だった。
「うわー、アニメの世界みたい!行きたい、行きたい!」
杏樹は大好きなアニメに出てくるような鎮守の森よ階段を上りたがる。
日頃徒歩移動することはない雅幸はもちろんだが、大輔と花子も長い階段には「うへえ」となった。秋祭りや初詣でならともかく、真夏の長い階段を上りたがる者は、少なくとも杏樹以外には居なかった。杏樹はすでに階段を駆け上がっている。モデル稼業のために日頃から体を鍛えている杏樹にはなんてことない、と思ったが途中で息切れした。ウォーキングマシンと、石積の階段では勝手が違うのも当然だ。無表情で杏樹に追い付いた花子は、実用重視のリュックから大きな水筒を取り出して、水筒に付属しているプラスチック製カップに麦茶を注いで杏樹に差し出した。杏樹はそれを勢いよく飲んでむせた。
「ゆっくり飲んでください。まだ雅幸さんは、落ち着いてきていないので」
花子は再度、カップに麦茶を注ぎ足す。旧階段の下を見ると、大輔に背を押されながらヒーヒー息を切らしている雅幸の姿があった。
「あんたは、全く息が乱れていないわね。つーか、兄さんや私を他人行儀で呼ぶのは止めなさいと、昨夜も言ったじゃない!」
「いえ。ほぼ初対面の親戚に、いきなりフレンドリーになれというのは無理なので」
花子は無表情で言う。
実妹の『親戚』という言葉に、なぜか杏樹はショックを受けた。確かにこれまで花子と交流はなかったし、花子の存在自体忘れていた。だが昨夜は楽しく過ごして、少なくとも花子が妹なんだと認識した杏樹には堪えるものがあった。
「…そうね。アンタも、直に南条の家から離れるんだもんね」
恵まれた衣食住、欲しいものは全て与えられ、その美貌から学校でもマドンナ的な存在だった。華々しいスポットライト、ファンからの声援。だがいま、家族団欒の中で日常を過ごす捨てられた妹の幸せが、いまの杏樹には妬ましかった。逃げ場のある花子が羨ましかった。自尊心から、口に出しては言わなかったけれど。
鎮守の森のお社にたどり着き、4人は揃ってお参りした。他の3人がなにを祈っていたか知らない。だが杏樹は「人目のない場所へ、両親の居ない遠くへ行きたい」と願った。
その瞬間、辺りは眩い光に包まれた。
4.異世界トリップ
気がつくと、花子、大輔、雅幸、杏樹は中性ヨーロッパの大聖堂のような場所にいた。周囲にはこれまたロールプレイングゲームで見るような、神官や国王らしい姿が取り囲んでいる。
(うへえ。嘘だろ、異世界なんてゲームの中だけで充分だ)
花子と大輔は、同じことを考える。現実に満足にしている2人は、異世界逃避なんてむしろ御免被ると、無表情な顔で思った。
取り乱したのは雅幸と杏樹だ。2人もゲームやアニメで異世界ものは馴染み深いが、まさか自分たちがこんな状況に陥るとは思っても見なかったのだ。
「妹よ、こういう場合は鑑定でスキルを確認するのだったな」
「うん。でもアンチャン、ゲームの傾向からして、アンチャンと私はモブキャラのハズレスキルだと賭けてもいい」
「アンタ達、なんでこの状況に取り乱さないのよ!」
杏樹はパニックを起こしながら、森田家の兄妹を怒鳴りつける。正確には実妹と従兄だが。
「大丈夫だよ、杏樹さん。雅幸さんも。ゲーム展開では、美男美女は高いスキルの持ち主で、異世界大活躍するはずだから」
無表情ながらも、花子が実兄実姉のスキルにワクワクしているのが、今では杏樹と雅幸にも分かる。
「これって誘拐だよな。で、大抵は元の世界に戻れない。妹よ、雅幸さんと杏樹さんはともかく、俺たちはこの世界で苦労しなければならないようだ」
「おまえまで、なんでそんな冷静なんだよ!」
雅幸も動転して、大輔の胸ぐらをつかむ。
「異世界スマホゲームは、田舎育ちの我々の数少ない娯楽だ。飛ばされた以上は、早く異世界に順応するしかない」
「異常なのは、おまえらだ!なんでそんなに落ち着いていやがるんだ!」
「騒いでも何の特にはならないからな。林業を営む森田家の伯父の手伝いに、たまに駆り出されるが、怖いのは騒ぎ散らして野生の生き物を刺激することだ。クマに出くわすことは滅多にないが、スズメバチの巣や、イノシシとの遭遇は珍しくない。現実に戻れる方法があるなら何でも試すが、ここは体力温存を第一に考えたほうが賢明だ」
大輔は魔法陣の真ん中に胡座をかき、国王ではなく神官長らしき者に向き合う。
「仲間が混乱している。で、どうして俺たちを召喚したのだ?」
大抵のゲームでは英雄や聖女を呼ぶためで、モブキャラに用はないだろうが一応この中で冷静なのは大輔と花子だけなので、大輔が尋ねてみる。
「いや、召喚するつもりはなかったのだが、捨てたモノが大きく空いた穴が大きかったようで、別の世界の者で穴を塞ぐ想定外のことが起きたようだ。すまなかった」
神官長は頭を下げる。
「捨てたモノ?何を捨てたの?」
花子も尋ねる。
「この世界を破滅に追い込もうとしたブラックドラゴンだ。多くの犠牲者を出した末に、ようやく捕らえたが、回復されると厄介なので別世界へ捨てたのだ」
意外な答えだった。異世界召喚ではなく、異世界廃棄の穴埋めで、たまたま巻き込まれていたとは。さすがの花子も絶句する。
「それって、他の世界の人達が迷惑を被るのでは」
大輔は、まだ平静を保っていられるようだ。さすが林業手伝いで、野生動物と奮闘してきた頼れるアンチャンだ。
「伝説ではドラゴンと共存できる別世界が存在するという。そなたらの世界では無さそうだが」
「ウチの世界にドラゴンはもちろん、大抵の魔物は存在しません。こっちの世界に、どんな魔物が居るかも知りませんけど」
「それにしては、随分と魔物に詳しそうだが?」
「ウチの世界は空想で遊ぶゲームが流行っていたので。他にも本とか漫画とか。ともかく、我々が一番知りたいのは、元の世界に帰れる方法があるのか否か、嘘偽りなく答えて欲しいのですが」
「残念だが、ない」
「やはり、そうか」
大輔は予想していながらも落胆する。
「ともかく、生活に慣れるまでは国で君たちを保護しよう。その前に、先ずは君たちのスキルを鑑定させてもらえないか?」
「あー、やっぱりテンプレな流れね。仕方ないかあ」
花子が復活して、無表情で答える。異世界人の目からも、大輔と花子の無表情は、動転号泣する南条兄妹と違って不気味に思えるらしい。
「それでは、鑑定させていただきます」
神官長が言うと、鑑定が得意な魔術師を呼び寄せる。正直、神官長はブラックドラゴンを異世界へ飛ばすための魔法で疲れ果てていた。
だが立って話せる気力があるのは、神官長をはじめとする主だった神官が後方支援だったから。いま花子達4人が座る魔法陣から、国の離れの森の残骸跡地で捕らえたブラックドラゴンを取り囲む魔術師団長が指揮する宮廷魔術師全員に力を贈り込み、魔術師団長の指揮のもとブラックドラゴンを異世界へ放り投げる大技魔法を使ったのだ。恐らく魔術師団長を含む宮廷魔術師全員が、魔力切れを起こして倒れているに違いない。彼らの安全を確保するための王国軍団と、治癒師一行を近くに配置させておいたが。
スキル鑑定が終わった後、4人は王宮の特別室に送られた。食事もふんだんに出され、アルコールもある。
侍女もつけられ、入浴を手伝ってもらい、豪華なドレスに身を包んだ杏樹はすっかりご機嫌だ。
雅幸も入浴を終えてから、上機嫌で酒をたしなみつつ食事をしている。
「やっぱり予想通りだったね、アンチャン」
花子は座り心地のいい椅子ではなく、フカフカな敷物の上に座り、母が作ってくれた弁当を食べていた。
「妹よ、俺たちはモブで良かったのだ。元からしがない庶民だからな」
大輔もまた、敷物の上で弁当を食べつつ麦茶を飲む。お袋の味もこれで最後かと思うと、悲しくもあり、元の世界が恋しくもあり。
だが森田兄妹は悲嘆に暮れているわけではない。今後の生活についてどうするか、考える必要があった。
「オーク、ゴブリン、コボルト、フェンリル、ドラゴン、ゲーム世界お馴染みの魔物は勢揃いしているようだな」
「異世界チートがあって良かったよ。本来読めない書物が、日本語のようにスラスラ読めるのだから。だがアンチャンと私は、どこかの村の片隅で暮らすしかないな」
「せめて、アイテムボックスチートぐらい付けてくれたならなあ」
「仕方ないよ。基礎知識を頭に叩き込んだら、さっさと王宮を出よう。きらびやか過ぎて落ち着かない」
「そうだな。我々は田舎でないと、心身を病みそうだ」
母が持たせてくれたお弁当は4つ。だが雅幸と杏樹は王城から出されたご馳走があるからいらないというので、花子と大輔は2つずつ弁当を食べることにした。のり弁に卵焼きと焼いた塩鮭、ほうれん草のお浸し。定番のお弁当だ。
大輔はともかく花子も弁当2つペロリと平らげることが出来るのは、のんびり野球部でもそれなりの特訓があり、そのため食欲が通常女子を上回っていたのだ。学校には腹ペコ男子のようにお弁当2つ持って行き、2時間目に早弁して、昼にもう一つ食べて、部活帰りには帰路の電車を待つ間にコンビニに立ち寄り、パンを食べながら帰宅した。
「アンタたちのスキル、田舎で役に立つの?何だったら従者として取り立てて上げるけど?」
着飾ったドレス姿で優雅にお茶を飲む杏樹が、馬鹿にしたように笑う。異世界へ飛ばされた当初、パニックして号泣してたのが嘘のような傲慢ぶりだ。それもそのはず、杏樹は光属性魔法が使える『聖女』と認定され、神官長および国王までもが膝まづいた。
「杏樹、可哀想だからやめてやれよ。それに『怪力』のスキル持ちの花子はともかく、『大食漢』なんてスキルの大輔が一緒にいたら、食料残さず食べ尽くされるぞ」
「それもそうね」
高笑いする南条兄妹。兄の雅幸も『剣聖』のスキルを持っていた。ブラックドラゴン討伐に多くの勇者も犠牲となり、そこへ救世主のごとく『聖女』と『剣聖』が現れたのは国にとっても僥倖だった。因みにこの国の名は『エンドレス王国』という。
異世界に飛ばされてきてから2日後、森田兄妹は西の国境近くへ旅立った。西の国境と接するグレープル街へ旅立ったのは、ここが柑橘類の一大産地だったからだった。
5.GO WEST
当面の生活費を支給してもらい、乗合馬車や徒歩で大輔と花子は移動した。エンドレス王国は、それなりに裕福な大国らしい。規則も他国に比べたら緩い。
王都を抜けると、牧歌的な風景が広がる。
「アンチャン、スキルが『大食漢』という割に、食事量は家にいたときと変わらないよね。それとも空腹を我慢していふとか?」
「いや。普通の量でお腹いっぱいだぞ。むしろ量が多くて食べきるのが辛いときもある」
「食事量がアメリカンサイズだもんね。味付けはまあ、普通かな。昔のヨーロッパみたいに、香辛料は贅沢品みたいだね」
「その分、ハーブで肉の臭い消しや香り付けに使っているようだな。基本的に食べ物が地球と同じで助かった。米はやっぱり、インディカ米しかないようだな」
「パエリアやドリアみたいな食事もあるけどさ、日本人はジャポニカ米だよね。どっかで入手できればいいけど」
「妹よ、食べるものがあるだけ幸せと思おうではないか」
森田兄妹は歩きながら話す。2人の無表情は、感情表現がオーバーな国民からは異端と見られるようで、近寄る者は居なかった。
「しかし、このリュックと水筒がねぇ」
人気のない森の道を歩きながら、花子が言う。
「妹よ、このことは俺たち2人の秘密だ」
大輔は花子に言った。
異世界から背負ってきた実用重視のリュックと麦茶入りの水筒。お客様に荷物を持たせるわけには行かないので、大輔と花子が南条兄妹分の弁当と水筒も持っていた。リュックサックはこの世界でも有り触れた道具のようで、異世界産のものだが地味な色合いなので使っていても怪しまれない。だが使っているうちに、リュックサックは大型マジックバッグで、水筒も泉を枯らすほど水をストック出来た。
大輔のスキル『大食漢』の意味がようやく分かった。『悪食』という方がしっくりくると思う。初めて大輔をスキルを発動させたときには、表情筋が鈍い花子さえ盛大に顔をゆがませた。
ある森を歩いていた時、大輔の腕に頭上からスライムが落ちてきた。本来なら腕の骨が見えるほど、瞬時にスライムによって溶かされてしまう。だが大輔は何ともなく、それどころかスライムがプルプルゼリーのように美味しそうに見えたので、何気なく口にした。ソーダ味のさわやか風味で、バスケットボールほどの大きさのスライムは大輔の腹に収まった。
ゴブリンの群れに出くわした事があった。咄嗟に花子が石を拾って投げると、漫画の火の玉ホールのように加速がつく間に炎をまとい、ゴブリンを貫くだけでなく業火で焼いて消し炭にした。近くのゴブリンも巻き添えで丸焼きとなって息絶えた。花子は楽しくなって、ピッチャーとして部活では不完全燃焼だったこともあり、石をおもいきり投げる。最初と同じように炎をもとったゴブリンは消し炭に、近くのゴブリンは丸焼きになっていく。いや、丸焼きの数はむしろ増えていくようだ。形勢が悪いと知ったゴブリンの群れは脱兎のごとく逃げていく。それでも花子の剛速球が炸裂し、背中を貫かれて焼かれたゴブリンは群れの三分の二を失った。
丸焼きのゴブリン。見た目も到底美味しそうには見えない。だが大輔は食べた。「美味い!」と言うので、恐る恐るゴブリンの一部を齧った花子は、あまりに不味くて臭い肉をすぐさま吐き出した。だが大輔は転がっていた丸焼きゴブリンを全て食べ尽くした。確かに地面は消し積みとゴブリンの骨以外は消えて、綺麗に清掃されたとも言える。だが花子は、大輔のスキル『大食漢』にドン引きするしかなかった。
目的地の西の国境沿いグレープルの街へは、予想よりもお金をかけずに到着できた。大輔の食費は魔物悪食の御蔭で節約できたし、グレープルの街へ入る難関のモーリス山越えの乗合馬車料金は無料となった。
手前のホモルン街で乗合馬車に乗り、細い山道を上っていく。片側は山肌丸見えの山壁、片側は落ちれば命の保証がない崖だ。場所が山の中腹まで来た時、道の真ん中にどでかい岩が塞いでいた。山肌から転げ落ちたらしい。岩は乗合馬車ほど大きくて、乗客だけではとても動かせそうにない。引き返そうにもUターンも出来ない細い道だ。急な下り坂を後ろ向きで、馬車が止めることが出来る洞穴まで戻るのも現実的ではない。
御者はここから乗客に徒歩で山越えしてもらうしかないと言うが、塞がれた岩が道いっぱいを通せんぼしてあるので、隙間からあちら側へ抜けるのも命がけだが。10人近い乗客が御者に罵声を浴びせる。客の大半は行商人で、グレープル辺境伯領へ物資を届けに行くところだった。
「妹よ」
「うん、アンチャン」
花子は馬車を降りて、巨岩の前に立つ。そして、さしたる力も込めずに崖の下へ巨岩を落とした。崖の下には川が流れており、その水しぶきが山の中腹まで飛んできた。
「御者のオッチャン、これで通れる」
花子は精一杯朗らかに笑ったつもりだが、口角が家族や村の知り合いにしか分からないほど上がっただけだった。
「嬢ちゃん、助かったよ!これで山を登れる。さ、さ、早く乗りなさい。出発だ!」
御者は歓喜の声を上げる。
花子が乗合馬車に戻ると、拍手喝采で出迎えられた。
「一時はどうなることかと思ったよ!」
「さ、これをお食べ。遠慮はいらんよ。俺はアイテムボックス持ちだからな」
行商人の乗客が、次々とパンや干し肉を花子に与える。花子は大輔と分け合ってそれを食べ、無事にグレープル辺境伯領の砦をくぐり抜けたのだった。御者から兄妹分の賃金は要らないと言われ、逆にお礼のお金を払われそうになったのを、実直な兄妹は無賃の好意だけ貰って、お金は辞退した。
国王は、グレープル辺境伯に宛ての書簡を森田兄妹に持たせていた。それを辺境伯邸に届けると、グレープル辺境伯は領内の空き家を森田兄妹に与え、当面の生活費も渡してくれた。
ブラックドラゴン討伐の影響で、街外れの村にはところどころ民家はあったが、牧場や畑は荒れ放題、家もマトモに建っているところは少なく、半壊の我が家を修繕しながら村人は暮らしていた。ブラックドラゴンの直接的な攻撃はなかったが、ブラックドラゴン覚醒と共に世界各地で様々な魔物のスタンピートが発生し、この村も魔獣の群れが暴れ回ったとのこと。
紹介された空き家も、辛うじて台所や寝床などが残っている館で、半分は潰されている。
「これ、家じゃなくて館じゃないか。普通の家で良かったのに)
大輔は二階建ての立派な館に、呆気にとられる。
「こちらは、先代様ご夫婦の隠居していた場所です。数年前に亡くなってから、空き家になっていたものですが、ブラックドラゴンのとばっちりで、こちらに参った貴方がたへの閣下へのご好意でしょう。食料も少ないながら屋敷から持ってまいりましたが、調理は出来ますか?召使いが必要なら、お申し付けください」
場所で同行した辺境伯の執事が説明した。
「いや、雨風さえしのげれば充分だ。妹と2人なら、飯も何とか出来る」
大輔は答えた。
執事の乗った馬車を見送り、改めて屋敷と庭を見回す。屋敷は無人の期間が長かったのか、最低限の修繕はされていたようだが、かなり傷んでいる。庭も魔獣の襲撃以前に、草がワサワサ生えていて、かつて優美な庭を彩った花壇や花木園も荒れ果てている。
「アンチャン、楽しそうなトコだね」
花子は、兄にしか分からない嬉しさを爆発させていた。端から見たら無表情、無感動にしかみえないが。
「妹よ。夜が来る前に、当面の生活スペースだけ掃除して、あとは飯を作ろう」
大輔の指示で、キッキン、風呂場、トイレ、寝室を手分けして掃除する。大輔は大工を志すだけあって身軽で手際も良い。花子は加減しながら怪力で薄汚れた床や壁をピカピカにした。
夜には竈で火を起こして、肉と野菜のシチューを作る。パンも置いて行ってくれたので、軽く焼いて食べる。
「うん、美味い」
大輔は、自作のシチューを満足そうに食べる。スキル『大食漢』は、普通の食事には発動されない。日本人一般男性の食欲なので、むしろこちらの世界の男性に比べれば少食だ。
「アンチャン、森の木は必要分は切っていい許可が出てたよね。元の大きな館にまで修復することはないけど、客間の2つぐらいは作りたいのだが」
「妹よ、それは南条の兄妹のためか?だが王都で大切にされている2人が、わざわざこんな田舎まで来ることはないと思うが」
「そうなんだけど、客室があれば、不意の客人にも困らないし」
そう言いながら、花子は少なくとも実姉は泣きついてくるのではと予感していた。姉の好きな漫画では、聖女は王女並みにかしづかれて大切にされているが、ゲーム世界の聖女はパーティーに混じって戦いに赴く。根っからのお嬢様実姉に、野戦生活はすぐに音を上げて逃亡すると思ったのだ。
「妹よ、おまえの好きにするといい」
兄はシチューで満腹になりながら、魔物を食べたいと思い浮かべる。だが、こんな平和な場所で魔物食いは無理だろうと諦めていた。獲物がそもそもいないだろうし、魔物に齧り付く姿に村人はドン引きするだろう。村八分にもなりかねない。 (食べるなら、砦の外でだな。妹の協力が不可欠だが)
大輔は旅の間に、すっかり悪食が定着してしまったようだ。
花子は大輔との家族時間が長いので、何を考えているのか察して、無表情な顔に呆れを混じえた視線を兄に向けた。
「おおっ!」
森に家の修繕の為の木を切りに来ていた村人たちは声を上げる。
花子は斧も無しに、スキル『怪力』を用いて、蹴りで次々と目ぼしい木を倒し、それを数本まとめて担いで館へ持って帰っていたからだ。
生木は乾さないと材木として使えない。そこで破片で作った材木置き場に、花子が持ち帰った材木を置いて乾かすことにした。
館は石造りだったので、使えそうな石もある。そして近くに石切り場があると言うので、森田兄妹は石の切り出しをした。専用道具は石切り場の人達が使っているので、花子は素手で岩山を叩く。ダンプカー並みのちょうどよい大きさの岩が採れたので、花子はそれを担いで持ち帰る。もちろんその場にいた村人は呆然とする。
花子が持ち帰った岩を切り出し、同じ大きさの長方形を大量に作ると、大輔はあっという間に残った母屋と続きに棟を作り上げた。加えて残った石で、庭に竈やビザ窯に製作にかかる。
門前の小僧、習わぬ経を読むではないが、寡黙な父の仕事をずっと見てきた大輔は、まだ見習いですらないのに、離れの家を建てて、実家の庭にあった竈とピザ窯まで再現しだのだ。
「おー」
花子は無表情で拍手を送る。
「この国が地震大国じゃなければ、取り敢えず大丈夫だろう」
大輔も無感動な顔で満足そうだ。快く漆喰の材料を分けてくれたお隣さんを呼んで、野菜とハムを乗せたピザを焼く。トマトで作ったペーストを塗りたくり、緑黄色野菜とハムを乗せてチーズを散らしたピザはお隣さん一家にも大好評だった。
お隣さんをはじめ、村人から森田兄妹に家の修繕依頼が入る。この地域は木材で建てる家が多かったが、乾燥させた材木がないので、花子が石切り場で岩山から叩き落とした岩を、大輔や男性村人が総出で同じ型の長方形の石を作り、それを漆喰で大輔が積上げていく技術を見て盗み、幼かったり動けない者以外は、老若男女村人総出で家の建て直しに心血を注いだ。
その結果、これまでよりも立派な家が村に出来た。
次の主役は花子。荒れた畑をスキル『怪力』で瓦礫を除き草を引っこ抜いて耕して、いつでも作物植え付けOKな畑を作る。畑を魔獣に損傷されて困り果てていた村人達は、大いに喜び、早速、目の細かい土を入れた箱に種を蒔いて苗を作って移植した。
花子と大輔も、かつての立派な庭園を畑に変えて、苗を植え付けいく。魔獣がいる世界だけに、魔力を含んだ畑の土は栄養素が多く、見る見る作物は成長した。
「これで召喚スキルとかあったらなぁ」
ゲームによく出る元の世界の物質を取り寄せることが出来れば、たまに猛烈に食べたくなる焼きそばや肉じゃがも作れるのに。
「アンチャン、元から馴染み深い野菜があるだけ幸せだよ。惜しむべきは、味噌や醤油を作る技術が私らにないと言うことだ。日本人のソウルフードに欠かせない、味噌と醤油がないのが辛い」
「そうだな。こんなことなら、茂雄の醸造工場を観察しておくべきだった」
大輔も悔しがる。元いた世界の村は小さかったが、昔ながらの製法で作る醤油工場や味噌工場があった。
「作り方が分かったところで、酵母がなければ話にならないけど」
花子は言う。だが味噌や醤油がない代わりに、塩も砂糖も行商人が運んでくるし、様々なハーブもある。既存のハーブで日本人ソウルフードのカレーが作れないか試行錯誤しているが、ターメリックやクミン、カルダモンはないし、胡椒だって中世ヨーロッパでは金と同価格時代と同じく高級品だ。
森田家のカレーはお袋の味の味ではなく、父がスパイスから拘って作る本格派だ。大阪に大工仲間の応援で長期出張していたときにハマった店があり、通い詰めてスパイスの内容のみ店主から教わった。独自の配合で作る父のカレーは、森田家のご馳走だった。
「コッチに飛ばされた以上、コッチに順応するしかない。この世界で美味いもの作ればいいさ」
その通りだ。現に様々な家から差し入れられる料理、例えばハーブチキンや煮込み豚などは絶品だ。だが花子は知っている、兄が一番食べたいものが魔獣だということを。
元の世界にいたときは、塩辛さえ敬遠してたくせに、まさかコッチきてから魔獣にハマるとは。花子はゴブリンの味を思い出すたびに、胃が逆流しそうになった。
鮎釣り遊猟証明書を首から下げた、2人組。この村に住む森田兄妹だった。商売てはなく、趣味として近くの清流で釣りをしている。都会をはじめ、鮎釣り目的で方々から訪れる釣り客は、持っと下流の河原で楽しんでいるため、上流のこの場所は村人しか来ない穴場だった。
「妹よ、学校は楽しいか?」
森田家の長男、大輔が尋ねる。顔立ちはそれなりに整っているが、感情表現が乏しいので、それを読み取る技術がないと彼とコミュニケーションを取るのは難しいだろう。もっともこの村の住人の大半は昔から、森田家の人間が寡黙なのを知っているため、微細な表情の変化を読み取ることには慣れており、村中の同世代は友人だ。
「楽しいよ。今日は部活が休みで消化不良だけど、たまにはこうして穏やかに過ごすのも必要だね。それよりアンチャン、大学へは本当に行かなくていいのか、母ちゃんが心配してたよ」
言葉は多いが、表情が乏しい花子は言う。妹、アンチャンと互いに呼び合っているが、2人は兄妹ではなく、正確には従兄妹だ。だが花子は事情があって生まれたときから森田家に引き取られて育てられている。
「俺は親父の跡継ぎだからな」
大輔の父親は大工。代々林業を営む森田家は、大輔の父の長兄と次兄が継いでいるため、三男の大輔の父は大工となった。父を尊敬する大輔も、村から一番近い高校を卒業したら、大工見習いとして、父が独立した建設会社で働くことになっている。
「アンチャン、頭がいいのにな。もったいない」
そう言っている傍から、花子の竿に反応があった。釣り上げると、威勢のいい獲物が釣れた。花子は躊躇いもなく釣れた鮎をバケツに入れると、再び竿に餌をつけて川に糸を投げ入れる。鮎の釣り方は友釣りが有名だが、糸を垂らしてボンヤリするのが目的な兄妹はいつも餌釣りをしている。
警戒心の強い鮎だが、森田兄妹は瞑想に近い静けさを好むので、高確率で大漁となる。もちろん小さい鮎はキャッチアンドリリースだ。
「妹よ、おまえも本来なら都会の高校に行けば、実力を発揮出来ただろうに」
大輔にも当たりがきて、鮎を釣り上げる。そして餌をつけて、目当てのポイントに糸を投げ入れる。
「この村の友達ならともかく、隣町の高校のクラスメートでさえ、最初は私の表情の無さを敬遠してたからねぇ。いまは仲良くやっているけどさ」
「目立つのは、嫌か?」
大輔は端的に尋ねる。地元の高校では、花子は実力を発揮しきれない。強豪校に入っていれば、たちまちプロの目に止まっていただろう。しかし花子は地元に留まった。
「別にプロになりたいわけでもないし。短大に入ったら野球は辞める予定だし」
花子は女子野球チームに所属していた。しかし地元の女子野球部は万年1次リーグ敗退の弱小部。花子を含む彼女たちは野球を極めるためでなく、楽しむ為に部活動をしている。その御蔭で厳しい上下関係もなく、野球そのものを楽しんでいた。
男子野球部とたまに交流試合をすることもあるが、女子野球部が勝ったことはない。男女の性別差と言ってしまえばそれまでだが、原因は女子部のキャッチャーにあった。花子の剛速球を受けられないため、花子は手加減して投げているのだ。
花子の真の実力を知るのは、大輔と大輔の親友数名、それと従兄とその友人のみ。従兄が高校野球スポーツ推薦で強豪校へ進学するまでは、キャッチャーは従兄の役目だった。その後は大輔と親友がキャッチャーを務めたが、花子の剛速球にキャッチャーミットを付けていても手が痺れる。だが剛速球をキャッチするのが楽しいらしく、たまに人気のない広場でキャッチボールで遊んでいた。
「妹よ、ミカン農家を極めるなら短大ではなく4年制の農大へ行くのを勧めるが」
大輔は、卒業後は地元のミカン畑で修行し、独自ブランドのミカンを作りたい野望を抱いているのを知っていた。
「短大進学は、南条の親をようやく妥協させた結果だから仕方がない。本当は高校卒業したら、近所のミカン農家で修行したかった。やりたいことが決まっているなら、勉強より修行の方が近道でしょ」
南条家は従姉を対面的に実子として育てている。だから子育て放棄した花子の将来にまで口を出してくる、血が繋がっただけの両親が花子にはウザかった。
南条の両親は、本当は花子を関東でも関西でもいいから、名のしれた4年制大学へ進学させたかったらしい。そのための学費や寮もしくはマンションでの生活費全て出すと言ってきた。身バレした時の予防線か、あるいは実の娘への罪悪感かまでは知らないが、花子にしてみれば迷惑でしかない。花子からすれば、血のつながった家族など、銀河系より遠い存在の住人だ。
「そうだな」
大輔はボソリと言った。心情としては、言いたいことは山ほどある。だがそれは花子の傷口をえぐるだけだ。
今は人より背が高くて筋肉質なだけの標準体型だが、誕生当初の花子は4キロを超える巨漢児だった。初めて対面した時は正直、大輔も「これが赤ん坊?」と目を疑ったほどだった。
花子の実の家族は、華やかな世界の住人だった。実父は有名バイオリニスト、実母は有名女優。兄と姉も子供時代から芸能界に身を置き、実兄は現在役者は辞めて人気音楽バンドとして活躍中、実姉も子役卒業後はモデル兼タレントとして活動していた。
そんな花子の実母の出産退院時に、マスコミが飛びつかないはずがない。でっぷり太った、どう見ても可愛さの一欠片もない赤子を世間に公表するのは、女優のプライドが許さなかった。奇しくも実母の妹、つまり森田家に嫁いだ花子の養母が東京に里帰りして、姉と同じ病院で、1日違いで女児を産んだ。その子はコウノトリが取り違えたのではと思うほど愛らしく、実母は両親、つまり花子の祖父母の力を借りて、妹の子を抱いてマスコミに我が子として公開したのだ。
我が子を取られた花子の養母の怒りは凄まじかったが、難産が影響して退院が姉より遅れたのも、この騒動の要因でもあった。妻の容体を聞いて関西から東京の病院に駆けつけた森田の養父も怒り心頭で、妻の姉宅と妻の実家を突撃したが、ほとぼりが冷めるまでだからと森田の養父の説得にかかり、激怒した森田の養父が裁判を起こすと言い出して騒動にもなりかけた。裁判にまで持ち込まなかったのは、花子の養母が病院に残された花子を哀れんだからだ。確かに赤児らしくない巨漢児だが、実母に捨てられて泣く姪が可哀想でならなかった。このまま裁判に持ち込んで我が子を取り戻しても、巨漢児の姪が育児放棄されかねない。そもそも花子の祖父母さえ「誰に似たか知らないが、可愛くない赤ん坊だねぇ」と、疎んじていたぐらいだったからだ。
怒りが収まらない森田の養父を説得して、花子の養母は体が回復すると、本来であれば暫く実家で養生するはずだったが、我が子を姉のプライドのために取り上げた両親(花子の祖父母)が許せなかった。しかも姉夫婦は長男と長女には考え抜いた名前をつけていたにも関わらず、次女には適当につけたのがアリアリと分かる、花子で出生届を提出した。本物の我が子、奈緒のことが心配だったが、姉は自宅に奈緒を連れ帰り、ベビーシッターを雇って妹夫婦の面会を遮断していたので、東京に残る理由もない。
花子の養父母は関西の家に花子を連れて帰宅した。巨漢児で生まれた花子だったが、1歳になる頃には標準体重の愛らしい姿に成長した。だが表情が乏しい。森田の家族は愛情深く育てつもりだが、やはり実の親に捨てられたトラウマが、物心つかない赤ん坊でも分かるのだと、花子の養母は涙する。しかし花子の無表情が、実は森田家特有の寡黙な夫と息子の影響にあると気づくまで、花子の養母は時間を要した。
森田家で育った花子は、予想以上に可愛らしく成長していた。そりゃ、美男美女の遺伝子を色濃く引いた花子が可愛くならないわけがない。
南条の家は花子が劇的な成長を遂げたことを確認すると、子供達を元の家族に戻そうということになり、南条夫妻が奈緒を連れて関西の田舎にある妹宅を訪ねた。我が子を取り戻したなら、森田の母は姉を含めて実家と絶縁するつもりだった。ところがいざ子供達を交換しようしたとき、奈緒が南条の父から引き離されるのを嫌がって泣いた。そして大輔も感情に乏しいが、状況が分かっているのかいないのか、花子の手をしっかり掴んで離さない。
赤ん坊たちは、それぞれの家庭に馴染み、家族も育ててきた子供に情を移してしまったのだ。それでも、まだ幼い今なら修正が利くと、赤児たちは元の家族に戻され、花子は南条両親と共に東京へ、奈緒は関西の自宅に残された。
それで一件落着となるはずだった。しかし東京の南条家、特に幼い長男長女は、無表情な花子を不気味がった。一方の関西の森田家でも、大輔が花子を取り戻そうと家出騒動を起こしたり、狭い村なので「南条のお偉いさんは、別嬪に育った姪と引き換えに、我が子を森田家へ捨てた」との噂が立った。
一部のマスコミにその情報が漏れて世間で騒がれ、南条家は事態収拾のために「姪の表情の乏しさを妹から相談され、障害の有無の検査のために、一旦、姪を預かって病院で調べさせていた」と説明した。実際、病院に花子の発育状況を受診させたが、何ら問題はなかった。医者からは「表情筋の動きが鈍いだけで、むしろ普通より知能が発達していますよ」と診断されたほどだ。
これよにより、戸籍は今後の子供達の意思が定まるまでそのままにしておくが、再度、花子は森田家へ、奈緒は南条家へと取り換えられた。そして、今に至る。
(俺だったら、身勝手な南条のババアを一生許さないけどな)
大輔は思う。だがこの交換劇は、運命だったのかもしれないとも思う。
関西の田舎で、伸び伸び育った南条花子。
東京の音楽専門高校で、次々とバイオリンの賞を獲得していく森田奈緒。実家で育っていたら、音楽の才能を開花させる機会もなかっただろう。
やはりコウノトリは、赤児を取り違えて運んでしまったのかもしれない。
2.実兄、実姉
いつもより多く鮎を持ち帰ることにした。普段は家族と、近所に住む祖父母の塩焼き分以外は川に返していた。だが昨日のテレビで見た鮎の炊き込みご飯が大輔の頭から離れず、塩焼き用プラス炊き込みご飯用の鮎を持ち帰ったのだ。自家製燻製も美味しいが、禁猟直前の脂の乗った鮎で作った方がより味い。
自宅に戻ると、見慣れぬ靴が2足あった。この辺りでは見ない高級そうな靴だ。嫌な予感が大輔と花子に過る。
居間に行くと、花子の実兄と実姉がいた。
「芸能界は?」
無表情で花子が尋ねる。家族から見ればびっくり仰天の顔だったが、南条家の兄姉は相変わらず淡泊な妹だと呆れ果てる。
「なに寝ぼけたこと言ってるのよ!あんた達、スマホニュースも見てないの?」
実姉の杏樹が憤る。芸名は蓮川みやび、本業はモデルだがタレントとしても人気だ。
「俺たちはゲームで忙しい」
ぶっきらぼうに大輔は答えると、鮎を台所の母親に渡す。事前にスマホから「鮎の炊き込みご飯希望」と、昨晩のテレビのレシピ付きで母親に送信していた。だが炊き込みご飯用の鮎は、迷惑な客人の塩焼きに変わりそうだ。食べることが好きな大輔は、表情には出ないが、南条家の迷惑人達に憤っていた。
「田舎じゃ放送局も少ないもんね。ウチの両親がダブル不倫していたのが週刊誌にすっぱ抜かれて、子供の私達にもマスコミが押し寄せて大変なのよ。清純さが必要なコマーシャルからは下ろされるし、とんだとばっちりよ!」
「俺は杏樹ほど酷くないけど、なるべく仕事以外は雲隠れしてろってさ。テレビ活動が無いのが、せめてもの救いか」
花子の実兄、雅幸が追随する。実兄と実姉は、子役時代からちょいちょいテレビに出ているので外面もよく、もともとの綺麗な顔立ちに加えて芸能人オーラが強い。
(同じ遺伝子持ってると思えねー)
花子をはじめ、森田家の人々は思う。花子も着飾ればそれなりの美人になるだろうが、なにしろ部活で日焼けして真っ黒で、袖無しの服から見える腕には筋肉もついていた。
「奈緒ちゃんは?」
花子は無表情で聞く。あまりの反応のなさに、雅幸と杏樹は目を剥いた。いや、これでも充分に驚いてるんだって。
「あの子はいま、バイオリンコンテストでウィーンにいるわ。父さんは、ヨーロッパの音楽学院に入れるつもりみたいよ。ウチの本物の3兄妹にはバイオリンの才能がなかったのに、まさか父さんと血の繋がらない奈緒にバイオリニストの才能があったとはね」
杏樹は悔しげに話す。杏樹も雅幸も幼い頃はバイオリンやピアノを習っていたが、いずれもプロの水準までいかなかった。
雅幸の場合、幼い頃の音楽教室通いが役立ち、今のバンド活動に役立ち、メインはギターだが楽曲によってはバイオリンやピアノも弾く。バンド結成は高校時代に友人から声をかけられて始めたが、あくまでも放課後の部活代わりとして捉え、まさかプロデビューして人気を博すまでになるとは想定外だった。母親経由で俳優としてのスカウトもあったが、芸能界の面倒臭い人間関係を子役時代に見てきたので、大学入ってそれなりの企業に勤めた方がいいと堅実な考えを持っていた。だから今すぐ芸能界を辞めても未練はないが、就職活動時の会社の心象が悪くなるから、両親ダブル不倫なんて迷惑極まりない。
「おまえだって、いまは夏休みで学校休みだろうが、学校始まったら騒がれるだろ?」
「いや?私は親が学校に話して、森田姓で通学してるから、誰も南条家と関わりがあるとは思ってないよ」
むしろアンタ達が訪ねて来られて迷惑とは、口に出して言えないけど。そして花子にとって『親』とは当然、森田の両親のことだ。戸籍も短大進学前に変える予定である。
「奈緒は、南条さんと奈緒の希望で、中学卒業に合わせて南条家の養女にしたけれど、こういう騒ぎ起こされてしまうと、反対するべきだったかもねぇ」
台所で料理をしながら、母は言う。庭では父親が、鮎を焼くために炭を起こしていた。バーベキューセットや七輪ではなく、耐熱煉瓦を積上げて作ったコンロで、その他にも炭でパンやピザを焼ける本格的な窯も燻製小屋も全て父親の手作りだ。
「奈緒ちゃん、南条さんに懐いていたから」
花子は無表情で言う。そこには、南条の父が浮気をしてたのを知ったら、パパっ子の奈緒がショックを受けるだろう憐憫が込められていた。もっともそれを表情から理解できたのも、森田の家族だけだ。
「南条さんって、なに他人事みたいに。アンタにとっても父親でしょうが!」
杏樹は激昂するが、その怒りを花子にぶつける意味が、花子だけでなく森田の家族も理解できない。
「妹よ、東京の伯父さんを父と思ったことがあるか?」
「いや、かつて一度も。親戚とさえ思えない、空の彼方の住人だと思ってた」
感情に乏しい大輔と、表情に乏しい花子。従兄妹だが本物の兄妹にしか見えない。まあ雅幸も杏樹も、こんな不気味な連中と親戚とは思いたくないのが本音だが。
「大輔、鮎。その後、爺ちゃんと婆ちゃん呼んでこい」
良質な備長炭に火がついたので、寡黙な父親は台所で串を差し終えた鮎をザルに盛ってコンロに持っていく。そして外の水道で手を洗ってから、2軒先の祖父母の家に行こうとした。
「アンチャン、私も行く」
花子は財布を持って大輔について行った。
「なんか、俺たちよりも兄妹してるな」
雅幸は複雑な気持ちで、花子の後ろ姿を見送る。そう言えば杏樹とも奈緒とも、兄妹らしい思い出はないことに雅幸は気づいた。愕然とまではいかなくても、森田家と違って、いや他の一般家庭と違って、裕福でも家族の絆は最初から薄かったのだなと、雅幸は寂しく思った。
鮎ご飯は後日持ち越しとなったが、母特製の根菜と鶏肉の炊き込みご飯と、塩焼きだけでは足りないので肉多めのホイコーロー、ワカメのお吸い物が出たので、大輔は満足だった。
大人数での食事は仕事では慣れているが、家族の中に入り込むのは、雅幸も杏樹も居心地が悪い。ましてや話しかけてくるのは血の繋がりのない森田の祖母と、叔母だけ。花子をはじめ、大輔、叔父、祖父はたまにボソッと必要要件を言うだけで、黙々と食べている。
「うまっ!」
思わず雅幸が声を上げた。仕事関係で、高級料亭のアユの塩焼きも食べる機会も多いが、獲りたて新鮮な天然鮎の塩焼きがこれほど美味しいとは思わなかった。自家製蓼酢も鮎の味をより引き立てている。
「炊き込みご飯も美味しい。これが家庭の味なんだね」
杏樹もお世辞ではなく、美味しそうに食べる。
「花火、買ってきた。後でやろう」
花子が無表情で実兄と実姉に言う。都会の高級マンション育ちで花火をする機会もあるまいと、花子はさっき近くの商店で花火を買ってきたのだ。都会と違ってコンビニも駅前までいかねばなく、駅までは自転車を使う距離だ。最寄りの商店は7時には閉店する。だから早目に買ってきた。
案の定、雅幸と杏樹は年甲斐もなく大はしゃぎだった。縁台には冷えたスイカとジュースも並んでいる。広い田舎の庭ならではの醍醐味で、花子と大輔は手持ち花火だけでなく、打ち上げ花火や仕掛け花火も買っていた。
「花火なんて、ずいぶん前に父の実家でやった以来じゃない?」
杏樹は大はしゃぎだ。テレビレポーターで、花火大会の中継は何度かこなしているが、いかにも家族的な手持ち花火や仕掛け花火など、ほんの幼い頃にした思い出しかない。父の実家は千葉の一軒家だったが、杏樹が小学校上がった頃に父方の祖父は病死したため、祖母は豪華老人ホームに入れられて、父方の実家は処分された。あの頃は幼すぎて感慨もなかったが、今になってみると田舎があるって良いなと思う。
だが今回の両親ダブル不倫がなければ、母方の実家と疎遠な関西の叔母宅へ来ることもなかっただろう。
「もしー」
と言いかけて、杏樹は止めた。だが雅幸も同様の思いを抱いていた。
もしも母がプライドのために妹と従妹を取り替えるなんて馬鹿なことをしなければ、休みごとにこうして叔母宅を訪ねることが出来たかもしれない。寡黙だが親切な叔父たちとも、以前から交流できたかもしれない。
つくづく親に恵まれなかったと、杏樹と雅幸は思う。今回のことがなくても、実の我が子が醜いから、たまたま同じ病院いた姪を実子としてマスコミに披露するなんてと、幼いながら怖い母だと思った。すなわちそれは、役立たずなら平気で雅幸も杏樹も親から切り捨てられることを意味していたからだ。
3.遠くへ行きたい
翌朝、母からの命令で、雅幸と杏樹を近くの名所案内することになった。徒歩範囲に名所なんてないので、大輔と花子は大いに困った。
雅幸と杏樹は、昨日の鮎が美味しかったから、また食べたいという。それも自分で釣って。
しかし鮎遊猟証明書がなければ、無闇に川で釣りは出来ない。そこで遊猟料を支払えば鮎釣りができるエリアへ案内することにした。多少歩くが、乗り物を使わずに鮎釣り場へ行ける。そして目的地を目指しての真夏の散歩は、暑いながらも都会育ちの雅幸と杏樹には新鮮だったようだ。
何気ない田圃の用水路、防風林。中でも杏樹の目にとまったのは、長い階段のある鎮守の森だった。
「うわー、アニメの世界みたい!行きたい、行きたい!」
杏樹は大好きなアニメに出てくるような鎮守の森よ階段を上りたがる。
日頃徒歩移動することはない雅幸はもちろんだが、大輔と花子も長い階段には「うへえ」となった。秋祭りや初詣でならともかく、真夏の長い階段を上りたがる者は、少なくとも杏樹以外には居なかった。杏樹はすでに階段を駆け上がっている。モデル稼業のために日頃から体を鍛えている杏樹にはなんてことない、と思ったが途中で息切れした。ウォーキングマシンと、石積の階段では勝手が違うのも当然だ。無表情で杏樹に追い付いた花子は、実用重視のリュックから大きな水筒を取り出して、水筒に付属しているプラスチック製カップに麦茶を注いで杏樹に差し出した。杏樹はそれを勢いよく飲んでむせた。
「ゆっくり飲んでください。まだ雅幸さんは、落ち着いてきていないので」
花子は再度、カップに麦茶を注ぎ足す。旧階段の下を見ると、大輔に背を押されながらヒーヒー息を切らしている雅幸の姿があった。
「あんたは、全く息が乱れていないわね。つーか、兄さんや私を他人行儀で呼ぶのは止めなさいと、昨夜も言ったじゃない!」
「いえ。ほぼ初対面の親戚に、いきなりフレンドリーになれというのは無理なので」
花子は無表情で言う。
実妹の『親戚』という言葉に、なぜか杏樹はショックを受けた。確かにこれまで花子と交流はなかったし、花子の存在自体忘れていた。だが昨夜は楽しく過ごして、少なくとも花子が妹なんだと認識した杏樹には堪えるものがあった。
「…そうね。アンタも、直に南条の家から離れるんだもんね」
恵まれた衣食住、欲しいものは全て与えられ、その美貌から学校でもマドンナ的な存在だった。華々しいスポットライト、ファンからの声援。だがいま、家族団欒の中で日常を過ごす捨てられた妹の幸せが、いまの杏樹には妬ましかった。逃げ場のある花子が羨ましかった。自尊心から、口に出しては言わなかったけれど。
鎮守の森のお社にたどり着き、4人は揃ってお参りした。他の3人がなにを祈っていたか知らない。だが杏樹は「人目のない場所へ、両親の居ない遠くへ行きたい」と願った。
その瞬間、辺りは眩い光に包まれた。
4.異世界トリップ
気がつくと、花子、大輔、雅幸、杏樹は中性ヨーロッパの大聖堂のような場所にいた。周囲にはこれまたロールプレイングゲームで見るような、神官や国王らしい姿が取り囲んでいる。
(うへえ。嘘だろ、異世界なんてゲームの中だけで充分だ)
花子と大輔は、同じことを考える。現実に満足にしている2人は、異世界逃避なんてむしろ御免被ると、無表情な顔で思った。
取り乱したのは雅幸と杏樹だ。2人もゲームやアニメで異世界ものは馴染み深いが、まさか自分たちがこんな状況に陥るとは思っても見なかったのだ。
「妹よ、こういう場合は鑑定でスキルを確認するのだったな」
「うん。でもアンチャン、ゲームの傾向からして、アンチャンと私はモブキャラのハズレスキルだと賭けてもいい」
「アンタ達、なんでこの状況に取り乱さないのよ!」
杏樹はパニックを起こしながら、森田家の兄妹を怒鳴りつける。正確には実妹と従兄だが。
「大丈夫だよ、杏樹さん。雅幸さんも。ゲーム展開では、美男美女は高いスキルの持ち主で、異世界大活躍するはずだから」
無表情ながらも、花子が実兄実姉のスキルにワクワクしているのが、今では杏樹と雅幸にも分かる。
「これって誘拐だよな。で、大抵は元の世界に戻れない。妹よ、雅幸さんと杏樹さんはともかく、俺たちはこの世界で苦労しなければならないようだ」
「おまえまで、なんでそんな冷静なんだよ!」
雅幸も動転して、大輔の胸ぐらをつかむ。
「異世界スマホゲームは、田舎育ちの我々の数少ない娯楽だ。飛ばされた以上は、早く異世界に順応するしかない」
「異常なのは、おまえらだ!なんでそんなに落ち着いていやがるんだ!」
「騒いでも何の特にはならないからな。林業を営む森田家の伯父の手伝いに、たまに駆り出されるが、怖いのは騒ぎ散らして野生の生き物を刺激することだ。クマに出くわすことは滅多にないが、スズメバチの巣や、イノシシとの遭遇は珍しくない。現実に戻れる方法があるなら何でも試すが、ここは体力温存を第一に考えたほうが賢明だ」
大輔は魔法陣の真ん中に胡座をかき、国王ではなく神官長らしき者に向き合う。
「仲間が混乱している。で、どうして俺たちを召喚したのだ?」
大抵のゲームでは英雄や聖女を呼ぶためで、モブキャラに用はないだろうが一応この中で冷静なのは大輔と花子だけなので、大輔が尋ねてみる。
「いや、召喚するつもりはなかったのだが、捨てたモノが大きく空いた穴が大きかったようで、別の世界の者で穴を塞ぐ想定外のことが起きたようだ。すまなかった」
神官長は頭を下げる。
「捨てたモノ?何を捨てたの?」
花子も尋ねる。
「この世界を破滅に追い込もうとしたブラックドラゴンだ。多くの犠牲者を出した末に、ようやく捕らえたが、回復されると厄介なので別世界へ捨てたのだ」
意外な答えだった。異世界召喚ではなく、異世界廃棄の穴埋めで、たまたま巻き込まれていたとは。さすがの花子も絶句する。
「それって、他の世界の人達が迷惑を被るのでは」
大輔は、まだ平静を保っていられるようだ。さすが林業手伝いで、野生動物と奮闘してきた頼れるアンチャンだ。
「伝説ではドラゴンと共存できる別世界が存在するという。そなたらの世界では無さそうだが」
「ウチの世界にドラゴンはもちろん、大抵の魔物は存在しません。こっちの世界に、どんな魔物が居るかも知りませんけど」
「それにしては、随分と魔物に詳しそうだが?」
「ウチの世界は空想で遊ぶゲームが流行っていたので。他にも本とか漫画とか。ともかく、我々が一番知りたいのは、元の世界に帰れる方法があるのか否か、嘘偽りなく答えて欲しいのですが」
「残念だが、ない」
「やはり、そうか」
大輔は予想していながらも落胆する。
「ともかく、生活に慣れるまでは国で君たちを保護しよう。その前に、先ずは君たちのスキルを鑑定させてもらえないか?」
「あー、やっぱりテンプレな流れね。仕方ないかあ」
花子が復活して、無表情で答える。異世界人の目からも、大輔と花子の無表情は、動転号泣する南条兄妹と違って不気味に思えるらしい。
「それでは、鑑定させていただきます」
神官長が言うと、鑑定が得意な魔術師を呼び寄せる。正直、神官長はブラックドラゴンを異世界へ飛ばすための魔法で疲れ果てていた。
だが立って話せる気力があるのは、神官長をはじめとする主だった神官が後方支援だったから。いま花子達4人が座る魔法陣から、国の離れの森の残骸跡地で捕らえたブラックドラゴンを取り囲む魔術師団長が指揮する宮廷魔術師全員に力を贈り込み、魔術師団長の指揮のもとブラックドラゴンを異世界へ放り投げる大技魔法を使ったのだ。恐らく魔術師団長を含む宮廷魔術師全員が、魔力切れを起こして倒れているに違いない。彼らの安全を確保するための王国軍団と、治癒師一行を近くに配置させておいたが。
スキル鑑定が終わった後、4人は王宮の特別室に送られた。食事もふんだんに出され、アルコールもある。
侍女もつけられ、入浴を手伝ってもらい、豪華なドレスに身を包んだ杏樹はすっかりご機嫌だ。
雅幸も入浴を終えてから、上機嫌で酒をたしなみつつ食事をしている。
「やっぱり予想通りだったね、アンチャン」
花子は座り心地のいい椅子ではなく、フカフカな敷物の上に座り、母が作ってくれた弁当を食べていた。
「妹よ、俺たちはモブで良かったのだ。元からしがない庶民だからな」
大輔もまた、敷物の上で弁当を食べつつ麦茶を飲む。お袋の味もこれで最後かと思うと、悲しくもあり、元の世界が恋しくもあり。
だが森田兄妹は悲嘆に暮れているわけではない。今後の生活についてどうするか、考える必要があった。
「オーク、ゴブリン、コボルト、フェンリル、ドラゴン、ゲーム世界お馴染みの魔物は勢揃いしているようだな」
「異世界チートがあって良かったよ。本来読めない書物が、日本語のようにスラスラ読めるのだから。だがアンチャンと私は、どこかの村の片隅で暮らすしかないな」
「せめて、アイテムボックスチートぐらい付けてくれたならなあ」
「仕方ないよ。基礎知識を頭に叩き込んだら、さっさと王宮を出よう。きらびやか過ぎて落ち着かない」
「そうだな。我々は田舎でないと、心身を病みそうだ」
母が持たせてくれたお弁当は4つ。だが雅幸と杏樹は王城から出されたご馳走があるからいらないというので、花子と大輔は2つずつ弁当を食べることにした。のり弁に卵焼きと焼いた塩鮭、ほうれん草のお浸し。定番のお弁当だ。
大輔はともかく花子も弁当2つペロリと平らげることが出来るのは、のんびり野球部でもそれなりの特訓があり、そのため食欲が通常女子を上回っていたのだ。学校には腹ペコ男子のようにお弁当2つ持って行き、2時間目に早弁して、昼にもう一つ食べて、部活帰りには帰路の電車を待つ間にコンビニに立ち寄り、パンを食べながら帰宅した。
「アンタたちのスキル、田舎で役に立つの?何だったら従者として取り立てて上げるけど?」
着飾ったドレス姿で優雅にお茶を飲む杏樹が、馬鹿にしたように笑う。異世界へ飛ばされた当初、パニックして号泣してたのが嘘のような傲慢ぶりだ。それもそのはず、杏樹は光属性魔法が使える『聖女』と認定され、神官長および国王までもが膝まづいた。
「杏樹、可哀想だからやめてやれよ。それに『怪力』のスキル持ちの花子はともかく、『大食漢』なんてスキルの大輔が一緒にいたら、食料残さず食べ尽くされるぞ」
「それもそうね」
高笑いする南条兄妹。兄の雅幸も『剣聖』のスキルを持っていた。ブラックドラゴン討伐に多くの勇者も犠牲となり、そこへ救世主のごとく『聖女』と『剣聖』が現れたのは国にとっても僥倖だった。因みにこの国の名は『エンドレス王国』という。
異世界に飛ばされてきてから2日後、森田兄妹は西の国境近くへ旅立った。西の国境と接するグレープル街へ旅立ったのは、ここが柑橘類の一大産地だったからだった。
5.GO WEST
当面の生活費を支給してもらい、乗合馬車や徒歩で大輔と花子は移動した。エンドレス王国は、それなりに裕福な大国らしい。規則も他国に比べたら緩い。
王都を抜けると、牧歌的な風景が広がる。
「アンチャン、スキルが『大食漢』という割に、食事量は家にいたときと変わらないよね。それとも空腹を我慢していふとか?」
「いや。普通の量でお腹いっぱいだぞ。むしろ量が多くて食べきるのが辛いときもある」
「食事量がアメリカンサイズだもんね。味付けはまあ、普通かな。昔のヨーロッパみたいに、香辛料は贅沢品みたいだね」
「その分、ハーブで肉の臭い消しや香り付けに使っているようだな。基本的に食べ物が地球と同じで助かった。米はやっぱり、インディカ米しかないようだな」
「パエリアやドリアみたいな食事もあるけどさ、日本人はジャポニカ米だよね。どっかで入手できればいいけど」
「妹よ、食べるものがあるだけ幸せと思おうではないか」
森田兄妹は歩きながら話す。2人の無表情は、感情表現がオーバーな国民からは異端と見られるようで、近寄る者は居なかった。
「しかし、このリュックと水筒がねぇ」
人気のない森の道を歩きながら、花子が言う。
「妹よ、このことは俺たち2人の秘密だ」
大輔は花子に言った。
異世界から背負ってきた実用重視のリュックと麦茶入りの水筒。お客様に荷物を持たせるわけには行かないので、大輔と花子が南条兄妹分の弁当と水筒も持っていた。リュックサックはこの世界でも有り触れた道具のようで、異世界産のものだが地味な色合いなので使っていても怪しまれない。だが使っているうちに、リュックサックは大型マジックバッグで、水筒も泉を枯らすほど水をストック出来た。
大輔のスキル『大食漢』の意味がようやく分かった。『悪食』という方がしっくりくると思う。初めて大輔をスキルを発動させたときには、表情筋が鈍い花子さえ盛大に顔をゆがませた。
ある森を歩いていた時、大輔の腕に頭上からスライムが落ちてきた。本来なら腕の骨が見えるほど、瞬時にスライムによって溶かされてしまう。だが大輔は何ともなく、それどころかスライムがプルプルゼリーのように美味しそうに見えたので、何気なく口にした。ソーダ味のさわやか風味で、バスケットボールほどの大きさのスライムは大輔の腹に収まった。
ゴブリンの群れに出くわした事があった。咄嗟に花子が石を拾って投げると、漫画の火の玉ホールのように加速がつく間に炎をまとい、ゴブリンを貫くだけでなく業火で焼いて消し炭にした。近くのゴブリンも巻き添えで丸焼きとなって息絶えた。花子は楽しくなって、ピッチャーとして部活では不完全燃焼だったこともあり、石をおもいきり投げる。最初と同じように炎をもとったゴブリンは消し炭に、近くのゴブリンは丸焼きになっていく。いや、丸焼きの数はむしろ増えていくようだ。形勢が悪いと知ったゴブリンの群れは脱兎のごとく逃げていく。それでも花子の剛速球が炸裂し、背中を貫かれて焼かれたゴブリンは群れの三分の二を失った。
丸焼きのゴブリン。見た目も到底美味しそうには見えない。だが大輔は食べた。「美味い!」と言うので、恐る恐るゴブリンの一部を齧った花子は、あまりに不味くて臭い肉をすぐさま吐き出した。だが大輔は転がっていた丸焼きゴブリンを全て食べ尽くした。確かに地面は消し積みとゴブリンの骨以外は消えて、綺麗に清掃されたとも言える。だが花子は、大輔のスキル『大食漢』にドン引きするしかなかった。
目的地の西の国境沿いグレープルの街へは、予想よりもお金をかけずに到着できた。大輔の食費は魔物悪食の御蔭で節約できたし、グレープルの街へ入る難関のモーリス山越えの乗合馬車料金は無料となった。
手前のホモルン街で乗合馬車に乗り、細い山道を上っていく。片側は山肌丸見えの山壁、片側は落ちれば命の保証がない崖だ。場所が山の中腹まで来た時、道の真ん中にどでかい岩が塞いでいた。山肌から転げ落ちたらしい。岩は乗合馬車ほど大きくて、乗客だけではとても動かせそうにない。引き返そうにもUターンも出来ない細い道だ。急な下り坂を後ろ向きで、馬車が止めることが出来る洞穴まで戻るのも現実的ではない。
御者はここから乗客に徒歩で山越えしてもらうしかないと言うが、塞がれた岩が道いっぱいを通せんぼしてあるので、隙間からあちら側へ抜けるのも命がけだが。10人近い乗客が御者に罵声を浴びせる。客の大半は行商人で、グレープル辺境伯領へ物資を届けに行くところだった。
「妹よ」
「うん、アンチャン」
花子は馬車を降りて、巨岩の前に立つ。そして、さしたる力も込めずに崖の下へ巨岩を落とした。崖の下には川が流れており、その水しぶきが山の中腹まで飛んできた。
「御者のオッチャン、これで通れる」
花子は精一杯朗らかに笑ったつもりだが、口角が家族や村の知り合いにしか分からないほど上がっただけだった。
「嬢ちゃん、助かったよ!これで山を登れる。さ、さ、早く乗りなさい。出発だ!」
御者は歓喜の声を上げる。
花子が乗合馬車に戻ると、拍手喝采で出迎えられた。
「一時はどうなることかと思ったよ!」
「さ、これをお食べ。遠慮はいらんよ。俺はアイテムボックス持ちだからな」
行商人の乗客が、次々とパンや干し肉を花子に与える。花子は大輔と分け合ってそれを食べ、無事にグレープル辺境伯領の砦をくぐり抜けたのだった。御者から兄妹分の賃金は要らないと言われ、逆にお礼のお金を払われそうになったのを、実直な兄妹は無賃の好意だけ貰って、お金は辞退した。
国王は、グレープル辺境伯に宛ての書簡を森田兄妹に持たせていた。それを辺境伯邸に届けると、グレープル辺境伯は領内の空き家を森田兄妹に与え、当面の生活費も渡してくれた。
ブラックドラゴン討伐の影響で、街外れの村にはところどころ民家はあったが、牧場や畑は荒れ放題、家もマトモに建っているところは少なく、半壊の我が家を修繕しながら村人は暮らしていた。ブラックドラゴンの直接的な攻撃はなかったが、ブラックドラゴン覚醒と共に世界各地で様々な魔物のスタンピートが発生し、この村も魔獣の群れが暴れ回ったとのこと。
紹介された空き家も、辛うじて台所や寝床などが残っている館で、半分は潰されている。
「これ、家じゃなくて館じゃないか。普通の家で良かったのに)
大輔は二階建ての立派な館に、呆気にとられる。
「こちらは、先代様ご夫婦の隠居していた場所です。数年前に亡くなってから、空き家になっていたものですが、ブラックドラゴンのとばっちりで、こちらに参った貴方がたへの閣下へのご好意でしょう。食料も少ないながら屋敷から持ってまいりましたが、調理は出来ますか?召使いが必要なら、お申し付けください」
場所で同行した辺境伯の執事が説明した。
「いや、雨風さえしのげれば充分だ。妹と2人なら、飯も何とか出来る」
大輔は答えた。
執事の乗った馬車を見送り、改めて屋敷と庭を見回す。屋敷は無人の期間が長かったのか、最低限の修繕はされていたようだが、かなり傷んでいる。庭も魔獣の襲撃以前に、草がワサワサ生えていて、かつて優美な庭を彩った花壇や花木園も荒れ果てている。
「アンチャン、楽しそうなトコだね」
花子は、兄にしか分からない嬉しさを爆発させていた。端から見たら無表情、無感動にしかみえないが。
「妹よ。夜が来る前に、当面の生活スペースだけ掃除して、あとは飯を作ろう」
大輔の指示で、キッキン、風呂場、トイレ、寝室を手分けして掃除する。大輔は大工を志すだけあって身軽で手際も良い。花子は加減しながら怪力で薄汚れた床や壁をピカピカにした。
夜には竈で火を起こして、肉と野菜のシチューを作る。パンも置いて行ってくれたので、軽く焼いて食べる。
「うん、美味い」
大輔は、自作のシチューを満足そうに食べる。スキル『大食漢』は、普通の食事には発動されない。日本人一般男性の食欲なので、むしろこちらの世界の男性に比べれば少食だ。
「アンチャン、森の木は必要分は切っていい許可が出てたよね。元の大きな館にまで修復することはないけど、客間の2つぐらいは作りたいのだが」
「妹よ、それは南条の兄妹のためか?だが王都で大切にされている2人が、わざわざこんな田舎まで来ることはないと思うが」
「そうなんだけど、客室があれば、不意の客人にも困らないし」
そう言いながら、花子は少なくとも実姉は泣きついてくるのではと予感していた。姉の好きな漫画では、聖女は王女並みにかしづかれて大切にされているが、ゲーム世界の聖女はパーティーに混じって戦いに赴く。根っからのお嬢様実姉に、野戦生活はすぐに音を上げて逃亡すると思ったのだ。
「妹よ、おまえの好きにするといい」
兄はシチューで満腹になりながら、魔物を食べたいと思い浮かべる。だが、こんな平和な場所で魔物食いは無理だろうと諦めていた。獲物がそもそもいないだろうし、魔物に齧り付く姿に村人はドン引きするだろう。村八分にもなりかねない。 (食べるなら、砦の外でだな。妹の協力が不可欠だが)
大輔は旅の間に、すっかり悪食が定着してしまったようだ。
花子は大輔との家族時間が長いので、何を考えているのか察して、無表情な顔に呆れを混じえた視線を兄に向けた。
「おおっ!」
森に家の修繕の為の木を切りに来ていた村人たちは声を上げる。
花子は斧も無しに、スキル『怪力』を用いて、蹴りで次々と目ぼしい木を倒し、それを数本まとめて担いで館へ持って帰っていたからだ。
生木は乾さないと材木として使えない。そこで破片で作った材木置き場に、花子が持ち帰った材木を置いて乾かすことにした。
館は石造りだったので、使えそうな石もある。そして近くに石切り場があると言うので、森田兄妹は石の切り出しをした。専用道具は石切り場の人達が使っているので、花子は素手で岩山を叩く。ダンプカー並みのちょうどよい大きさの岩が採れたので、花子はそれを担いで持ち帰る。もちろんその場にいた村人は呆然とする。
花子が持ち帰った岩を切り出し、同じ大きさの長方形を大量に作ると、大輔はあっという間に残った母屋と続きに棟を作り上げた。加えて残った石で、庭に竈やビザ窯に製作にかかる。
門前の小僧、習わぬ経を読むではないが、寡黙な父の仕事をずっと見てきた大輔は、まだ見習いですらないのに、離れの家を建てて、実家の庭にあった竈とピザ窯まで再現しだのだ。
「おー」
花子は無表情で拍手を送る。
「この国が地震大国じゃなければ、取り敢えず大丈夫だろう」
大輔も無感動な顔で満足そうだ。快く漆喰の材料を分けてくれたお隣さんを呼んで、野菜とハムを乗せたピザを焼く。トマトで作ったペーストを塗りたくり、緑黄色野菜とハムを乗せてチーズを散らしたピザはお隣さん一家にも大好評だった。
お隣さんをはじめ、村人から森田兄妹に家の修繕依頼が入る。この地域は木材で建てる家が多かったが、乾燥させた材木がないので、花子が石切り場で岩山から叩き落とした岩を、大輔や男性村人が総出で同じ型の長方形の石を作り、それを漆喰で大輔が積上げていく技術を見て盗み、幼かったり動けない者以外は、老若男女村人総出で家の建て直しに心血を注いだ。
その結果、これまでよりも立派な家が村に出来た。
次の主役は花子。荒れた畑をスキル『怪力』で瓦礫を除き草を引っこ抜いて耕して、いつでも作物植え付けOKな畑を作る。畑を魔獣に損傷されて困り果てていた村人達は、大いに喜び、早速、目の細かい土を入れた箱に種を蒔いて苗を作って移植した。
花子と大輔も、かつての立派な庭園を畑に変えて、苗を植え付けいく。魔獣がいる世界だけに、魔力を含んだ畑の土は栄養素が多く、見る見る作物は成長した。
「これで召喚スキルとかあったらなぁ」
ゲームによく出る元の世界の物質を取り寄せることが出来れば、たまに猛烈に食べたくなる焼きそばや肉じゃがも作れるのに。
「アンチャン、元から馴染み深い野菜があるだけ幸せだよ。惜しむべきは、味噌や醤油を作る技術が私らにないと言うことだ。日本人のソウルフードに欠かせない、味噌と醤油がないのが辛い」
「そうだな。こんなことなら、茂雄の醸造工場を観察しておくべきだった」
大輔も悔しがる。元いた世界の村は小さかったが、昔ながらの製法で作る醤油工場や味噌工場があった。
「作り方が分かったところで、酵母がなければ話にならないけど」
花子は言う。だが味噌や醤油がない代わりに、塩も砂糖も行商人が運んでくるし、様々なハーブもある。既存のハーブで日本人ソウルフードのカレーが作れないか試行錯誤しているが、ターメリックやクミン、カルダモンはないし、胡椒だって中世ヨーロッパでは金と同価格時代と同じく高級品だ。
森田家のカレーはお袋の味の味ではなく、父がスパイスから拘って作る本格派だ。大阪に大工仲間の応援で長期出張していたときにハマった店があり、通い詰めてスパイスの内容のみ店主から教わった。独自の配合で作る父のカレーは、森田家のご馳走だった。
「コッチに飛ばされた以上、コッチに順応するしかない。この世界で美味いもの作ればいいさ」
その通りだ。現に様々な家から差し入れられる料理、例えばハーブチキンや煮込み豚などは絶品だ。だが花子は知っている、兄が一番食べたいものが魔獣だということを。
元の世界にいたときは、塩辛さえ敬遠してたくせに、まさかコッチきてから魔獣にハマるとは。花子はゴブリンの味を思い出すたびに、胃が逆流しそうになった。
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