2 / 4
第二章 悪食と怪力の活躍
異世界でセカセカしたくない
しおりを挟む
1.スタンピート
のどかな山村生活は、大輔と花子には天国だった。田舎育ちの2人には、ほとんど生活に不満がない。だが、多少の物足りなさはある。
スマホゲームだ。クリア直前だった大輔は、電源のつかないスマホを虚しく見つめ、花子もまた大輔とは別の大好きなゲームの最強キャラをオンラインガチャで引いたばかりで、さあ激闘だと意気込んでいたのだ。
だとしても、本物の魔獣を倒したい願望は花子にはない。大輔にもない。ただ大輔は、魔獣が無性に食べたくなることがある。だがあいにくと、砦の中の森に魔獣は居ない。
そんな穏やかな生活を送る中、突如して危機が迫った。普段、単独行動もしくは数頭の群れでしか行動しないワイバーンが、隣国の樹海を超えて大軍団で飛んできたのだ。
グレープル辺境伯は直ちに臨戦態勢を敷くが、ブラックドラゴン退治に主要な兵士や魔術師を王都に送って戦死させてしまったいま、農夫をかき集めて戦うしかない。いや、このまま冒険者や軍団がいる都市まで過ぎ去ってくれと、辺境伯領の人々は祈った。しかし願いむなしく、一頭が人間の子供めがけて襲いかかってきた。
母親は娘を抱きしめて最期の瞬間を待ったが、ふいに近くでズドンと大きな音を立てて襲いかかってきたワイバーンは空中から落ちてきて、燃えていた。暴れないのは、既に絶命していたからだった。
仕留めたのは、花子。たまたま目撃して、近くにあった石像を掴むと、ワイバーン目掛けて思いっきり投げつけたのだ。この世界の信仰で、ところどころに天使の石像が建っている。大きさはちょうどお地蔵さんぐらいだ。これがお地蔵さんなら、花子も投げるなんて罰当たりなことはしないが、異世界の神様の眷属だし、そもそもキリスト教徒でもない花子は、躊躇いなく天使像を投げた。天使像は炎を上げて加速し、ワイバーンの頭を砕いた。
仲間のワイバーンが、それを見て一斉攻撃を仕掛ける。大輔は村人を、このあたりでは一番頑丈な我が家である館に先導し、花子は手当たり次第のものをワイバーンに投げつける。井戸、噴水、果ては小屋まで投げつけた。
だが大きいものはすぐに底をついた。そして花子は、ピッチャーの勘で、大物を当てるよりも、ボール程度の岩のの方がスピードがましてや致命傷を与えられるのではと、仮説を立てた。もちろん、投げるものが小さくなればコントロールが重視されるが、花子はコントロールには自信があった。
試しにボールほどの大きさの石をワイバーンの眉間に向けて思いっきり投げると、石のスピードはよりまして纏う炎の色も赤から青に変化し、火力を上げてワイバーンを貫き殺した。
「アンチャン、ボールほどの硬い石を集めて、私の足元に!」
花子が叫ぶと、意図を理解した大輔をはじめとする領民達が、投げやすそうで固めの石を花子の近くに積上げていく。
「疲れないか?」
大輔が心配そうに尋ねる。
「ボール投げはスキルじゃないし、練習では200球ほど投げ込んでる。大物を投げると疲れるけど、石ならいくらでも投げられる」
花子はストレートだけでなく、カーブやフォークなど変化球も試してみる。カーブは3頭のワイバーンの頭をぶち抜き、フォークも逃げようとするワイバーンを頭だけでなく翼も貫いて失速させ、瀕死のものは辺境伯の兵士が確実に仕留めた。花子は剛速球を投げられる喜びに夢中だった。
ワイバーンは、村の外れの森に炎を纏いながら落ちていく。そのままだと森が丸焼けになるので、大輔がいくつかの泉の水を残らず汲んだ地球産のアイテムボックス仕様の水筒の水をかけて消火活動にあたった。
形勢不利と見越したワイバーンは、逃げるものと、小隊を組んで花子目掛けて降下してくる奴らがいたが、逃亡獲物も攻撃獲物も、花子は次々と撃ち落としていった。そして群れは全滅した。
辺りには鴨肉似たワイバーンの丸焼きの匂いが漂う。早速、大輔が皮ごと齧り付く。久々の魔獣に、彼のスキル『大食漢』が発動した。領民達にとってもワイバーンは滅多に食べられない高級食材なので齧りつくが、皮が固すぎて食べられない。そもそもワイバーンの皮は、高級本皮として冒険者ギルドで高額売買されるものだ。
花子はスキル『怪力』で、ワイバーンの皮を剥く。あとは肉の部分を村人が包丁で切り落として分けて食べればいいだけだ。
「これだけのワイバーンを、全滅させるとは」
辺境伯は驚く。しかも食料、特に家畜が貴重で食用肉に難儀するグレープル辺境伯領に、大量の高級食材をもたらした。大半は黒焦げになっているが、食べられるものもある。辺境伯の指示で、大輔に食べ尽くされる前に、食べられそうな丸焼き肉を避難させ、生焼けのところは、倉庫をにわか燻製小屋にして、燻製を作った。もちろん、程よく焼けた部分は領民も辺境伯も、久々の肉に舌鼓を打った。
こうして大量の魔石、ワイバーンの骨、黒焦げになっていない皮をグレープル辺境伯は手に入れることが出来た。
「この骨、加工に苦労しそうだが、建築材になるんじゃないか?」
大輔は白いワイバーンの骨を見ね叩き、にわか大工としての感想を述べる。
そんな大輔に、辺境伯らはドン引きだ。なにしろワイバーンの半分以上を大輔は皮ごと齧って食べ尽くしたのだから。魔石も「ちょっと石が混じってるな」と、そのままバリバリ食べた。A級魔獣のワイバーンを食べるうちに大輔にスキルがついたか定かではないが、途中からは骨までバリバリ食べられるほど進化を遂げていた。
「異世界人とは、よく食べるのだな」
グレープル辺境伯は呆れつつも感心したが、「それはアンチャンだけです」と花子は心のなかで答えた。
全長30メートル近いワイバーンの背骨は硬くて白くて、確かに加工には難儀したが、骨の家は白く輝く美しい外壁をなした。耐久性もいい。釘が刺さらないので、大輔は特製魔道具工具を借りて、はめ込み技法で家を立てた。継ぎ目のない家は建築まで時間がかかるが、完成すると外気温にも左右されない快適な家となった。墜落ワイバーンによって壊された森沿いの家は、他の領民が「住まいを交換してくれ」と願うほどの立派なものだった。
辺境伯も頼み込んで、離れの書斎にワイバーンボーン製の部屋を、大輔に建ててもらった。
「妹よ」
「なんだい、アンチャン」
「ウチに、こんな金が溜まってしまった。田舎だから使い道も、欲しいものが売ってるわけでもないのに」
ワイバーン討伐報酬が花子に出て、永久登録料なしの特別待遇で、冒険者登録までされてしまった。しかもいきなりのA級。ワイバーンの群れを殲滅したことにより、グレープル辺境伯領のギルドからありたっけの金が支払われた。
そして大輔は、ワイバーンの骨で作った家で名工と呼ばれ、こちらも辺境伯から莫大な金が支払われた。また大輔も冒険者としてギルドに登録された。こちも永久登録料はなしだが、ランクはC級。魔物をそのまま放置しておくと、別の危険な魔物を呼び込みかねなかったので、大輔の『大食漢』スキルで片付いたのは、グレープル辺境伯領の功労者ともいえる。家を建ててあげた住人には、「住まいないと困るから」と慈善事業と、見習いですらないが、大工の腕が鈍らないためで建てたので、工賃など請求するつもりもなかった。しかし住人は「それはいけねえ、仕事したら金は貰わないと、あんたらは人が良過ぎる」と逆に怒られ、月々少額ながら返済する契約書が作成された。先のブラックドラゴン騒動で、村もお金が大変だと言うのに。
「アンチャン、辺境伯領は山脈が天然要塞であり、これがあるから王都でなくとも近隣都市から応援が来れないんだよな。作物の出来が良くても、領内でしか売れない」
「トンネル掘削のショベルカーでも召喚できたらなぁ」
「アンチャン、別に工事車両がなくても、私が素手で掘れると思うのだが。土を外へ出すのに皆の協力は必要だし、領主様の許可も必要となるが」
「そうだな。近いうち、領主様に相談してみるか」
お金が払えない領民が現物支給で作物やら、貴重な家畜を分けてくれたので、食べるのには困らない。森田家で作った野菜もある。
大輔は料理が得意だった母親の記憶を頼りに、食べきれない葉物やウリ系の野菜は塩漬けに、トマトやパプリカはピクルスにした。いつも使っていた米酢でなく、ワインビネガーなので味がどうなるか出来てみないと分からないが、何もしなければ作物は腐るだけだ。それらは地下貯蔵庫に山積みにされた。ワイバーン燻製は領民に配られたので、リュックサック型アイテムボックスにしまってある。花子は大輔が、ワイバーン数頭もどさくさ紛れにリュックサックに入れていたのを知っていた。
2.トンネル掘り
広大なグレープル辺境伯領を囲む山脈。東側の山は、冒険者や行商人が使うための街道があり、西は山が無いが樹海が広がり国境と接する砦が建てられているため、人けの少ない北側の山なら掘っても良いと、グレープル辺境伯から許可が出た。
先ず岩盤を大輔が調査する。掘りやすい山はトンネルが崩れやすいことも意味する。日本の技術があるなら、固いコンクリートで固めながら掘削も出来るが、この異世界にコンクリートはない。煉瓦を接合させる粘土ならあるが、トンネルを覆い尽くせるほど大量の粘土は採取できない。だがトンネルを固めるのはおいおい考えるとして、先ずは掘ることに専念することにした。
大輔は他の山より樹木の勢いが無い『痩せ山』の岩盤がトンネルに最適だと判断した。だがトンネル掘りは玄人でも難しい。表面と内面の岩や土の成分が違っているのが普通だからだ。
大輔は仕事用の掘っ立て小屋を建てる。すると煉瓦職人領民たちが、「トンネルがあれば、俺たちも街へ気軽に出かけられる」と、煉瓦の寄付に名乗りを上げた。煉瓦もいま貴重だが、焼き場が直れば率先して煉瓦をこちらに回してくれると言う。また辺境伯のポケットマネーで、土を掘って運び出す坑夫も雇ってくれた。
しかし土の運び出しはともかく、山掘りに手伝いは必要なかった。花子がスキル『怪力』で、猛烈な勢いでスコップやクワをふるって掘り進めたからだ。
「おい、これって鉄鉱石じゃないか?」
出てきた土というか岩を見て、坑夫達が驚く。
「山の植物の育ち具合と、わき水の臭いから、鉱脈がある気がしてた」
大輔はボソリと言った。
岩石に鉄鉱石が混じっている。花崗岩に混じる鉄鉱石を選別する場所が必要なため、辺境伯に報告、辺境伯は鉄鉱石との分離工場とは名ばかりの掘っ建て小屋を立て、資金を投じて更に領民を集める。鉄鉱山には銅の他にも金や銀も混じっており、一攫千金を狙う人々が我先にと集まった。
人が集まれば、料理を出す店や道具を売る店も進出してくる。トンネル近くで、にわか街があっという間に誕生した。
花子の『怪力』は衰え知らずだったが、道具はすぐに壊れてしまう。もっとも花子の岩盤の砕き方は蹴りとパンチが主で、足元の邪魔な岩石を描き出すのに道具を使っていた次第だが。花子の道具を取り替えていくのも、坑夫の大事な仕事だ。
「それにしても、とんでもない逸材が来てくれたものだ」
坑夫達は感心する。しかしこの偉大な功績を積み上げていく花子はもちろん、いまやなくてはならない大工の大輔にも、息子や娘の嫁や婿にしたいと思う者は居なかった。怪力娘、悪食大食いを恋人にしたがる若者皆無である。別に花子も大輔も、結婚はもちろん、恋人だってこの世界で必要としていなかったが。
花子は夢中になると休憩を忘れがちになるので、大輔が時間を見て花子を休ませ、水分や料理をとらせた。そして大輔もトンネルを広げる工事を手伝う。
普通なら何年もかかるトンネル掘削を、僅か1ヶ月で隣のアープル伯爵領まで貫通させた。あちらには事前にグレープル辺境伯が書簡を送り、更に王宮にも鉄鉱山発見の報告使者を送った。
貫通したトンネルの補強は、グレープル辺境伯領民とアープル伯爵家の職人が煉瓦を積上げて行った。完成すれば危険な山越えをせずとも、冒険者や商人だけでなく、領民も馬車で気軽にアープル伯爵領の発展した街へ行く事ができる。アープル伯爵領には西地区では一番大きな街があり、西地区流行最先端を担っていた。もっとも昔のような賑やかさとは程遠く、こちらもブラックドラゴン退治に主要な人材を割かれ、魔物襲撃で街は半壊していた。それでも平地で他領と繋がったアープル伯爵領は物流が盛んで、グレープル辺境伯領とは雲泥の差がある。
アープル伯爵も漁夫の利を狙って、辺境伯領のトンネルから出てきた鉄鉱石や僅かだが金や銀ために、もっと大きな工場を建てようと資金援助と建築会社をよこした。
グレープル辺境伯は、むしろアープル伯爵家の申し出を快く受け入れた。鉄鉱石などあったところで、辺境伯領で加工して使う量など限られている。なら多少は安く買いたたかれても、引き取ってくれた方が楽だ。それに山脈保有権はグレープル辺境伯が持っているので、グレープル辺境伯が売れば関税優遇を受けられるが、アープル伯爵家が売れば通常通りの高い関税がかけられる。
グレープル辺境伯からすれば、大輔と花子兄妹が領地にいるだけで一個大隊1つを丸抱えしているようなものだったので、今後の魔獣大発生にも期待していた。
3.迷惑な訪問者
「アンチャン、やっぱり自宅はいいものだね」
ようやく辺境伯領の山村の館に戻った花子と大輔は、久々の我が家にで寛ぐ。ここで暮らし始めて間もなくワイバーン襲来、トンネル掘削と滞在期間は短いが、それでも今の我が家には違いない。漬物もちょうど食べごろとなっている。
「インディカ米なら手に入るから、育ててみるか。漬物はやはり、米だな」
行商人から買い取ったインディカ米を炊いて、塩漬け野菜とチキンステーキとスープを食べる。作ったのは、料理が趣味で味にうるさい大輔だ。
「だよね。糠も取れたら糠漬けも出来るし」
「糠漬け、食べたいなぁ。あと醤油をダバダバかけた焼き魚が食べたい」
「アンチャン、それはしょっぱいよ。私はポン酢と大根おろしだなぁ」
「そうだな。大根おろしに醤油かけて食べたい。この世界に大根はあるものの、スープ煮込みか塩漬けで食べるしかないもんなぁ」
「燻製小屋で、いぶりがっこ出来ないかな。作り方知らんけど」
花子は家族で出かけた市街地のデパートの東北物産展で買った、いぶりがっこを思い出す。
「妹よ、燻製小屋では肉や卵も燻しているから、匂いがついてしまって、いぶりがっこは無理だと思うぞ?」
「残念だなぁ」
食卓に並ぶのは漬物、ピクルス、チキンステーキ、野菜たっぷりスープ、インディカ米の炊きたてご飯。それと「甘いものが食べたいなぁ」という花子のリクエストで、プリンを作った。田舎にしては豪勢な食事だ。
近隣が野菜や肉の差し入れなど親切にしてくれるのは、トンネルを開通させた功労者を労う意味もあるが、またピザ窯で美味しいピザを振る舞ってほしい意図もあった。
「明日は川へ釣りにでも行くか」
「いいね。塩焼き魚に、カボスに似た柑橘類をつければ最高。今夜は早寝早起きだね」
さっさと食べて寝てしまおうと、食事をかき込む兄妹の館の扉を乱暴に叩くものがいた。大輔が重たい腰を上げて応対に出ると、そこには汚れた外套を着た杏樹が立っていた。
「クサッ!」
開口一番、大輔は言って鼻をつまむ。
「淑女に向って失礼ね!」
杏樹は喚き散らす。その声に、花子も出てくる。
「うわ、汚い。先ず風呂へ入ってきてよ。汚れ物は、着替えたら取り敢えず庭に投げ捨てて置いて。明日、洗うから」
花子は風呂場を指さして、杏樹を風呂へ向かわせた。
体格のいい花子の庶民服は、杏樹には大きすぎた。だが大は小を兼ねる、袖をまくってワンピースのベルトを締めれば体裁は整った。この屋敷は日本風に玄関で靴を脱ぐ土足厳禁なので、杏樹が履いてきた臭い靴も、杏樹の入浴中に花子が外へ出して、草臥れた靴の中に炭と千切ったミントをいれ、ゴミ同然の杏樹の着てきた服もタライに水を張って放り込み、こちらの世界の洗濯用石鹸のクズを放り込んだ。
風呂から上がった杏樹は、ガツガツ食卓の料理を食べた。掘削したてのトンネルはまだ補強が終わっていないので通れず、1人で山を越えてきたのだ。追っ手の目をまきながら。
「王都で聖女様として優遇されていたのでは?」
大輔が尋ねると、作法も忘れて料理に食らいついていた杏樹が物凄い形相で睨みつける。
「聖女が大事にされる時は平穏なときだけ!王都にミノタウロスの群れと大蛇の群れが立て続けに襲ってきたときには、剣聖の兄様の護衛にと、私まで駆り出されたのよ!死ぬかと思ったわ!」
「で、はるばるこんな遠くまで逃げてきたと」
花子は呆れ果てる。だが想定内だとも思った。王女様然としていられるのは、平和な時だけなのはゲームの世界でのお約束。魔獣狩りに駆り出されたら、真っ先に逃げていくるのは分かっていたので、離れの部屋を大輔に建てさせたのだ。
「あんたたちの評判は道中で聞いたわ。ワイバーンの大軍団を全滅させたんですってね。外れスキルのくせに、なんでそんな大技使えること隠してたのよ!」
「あれ、スキルじゃないよな?」
大輔は花子に同意を求める。
「噴水投げつけたのはスキルだけど。それと剛速球投げた時に炎が出たのも怪力スキルのせいかも。でもワイバーンの眉間の急所に命中させたのは、日々鍛錬した野球の成果だね」
「野球?あんた、野球なんてやってたの?」
杏樹は驚く。田舎で畑仕事の手伝いやゲーム三昧、勉強も部活もしない、阿呆な妹だと思い込んでいたのだ。
「初戦敗退常連校だけどね」
「だが強豪校へ行けば、オリンピックに出れるほどの剛速球とコントロールがある。キャッチャーに恵まれていれば、女子硬式野球県代表は無理でも、ベスト4までは行けたかもな。キャッチャーが骨折さえしなければ」
大輔は淡々と言う。すでに食べ終えていたので、野草から作ったお茶を飲んでいた。
「そんな実力があるなら、なんでパパとママに強豪校へ行かせてくださいと頼まなかったのよ!」
「家から離れたくなかったし、野球は趣味だし。今回のことで思い知ったけど、私の球を受けられるのは女子には無理。アンチャンたちでさえ、交代じゃないと私の投げたボールは受けられないもんね」
「それと裕一郎から離れたくなかったんだよな。ミカン農家になりたかった本音も、恋人の裕一郎の影響だし」
「はあぁ?アンタ、生意気に恋人なんていたわけ?」
杏樹が雄叫びを上げる。スープを口にしていたので、飛び散って汚い。
「田舎は狭いから。アンチャンにだって、芽依ちゃんって彼女いるし」
「嘘でしょ、顔面表情筋死んでるアンタ達が恋人持ちだなんて!私だって異性とお付き合いしたことないのに!」
「杏樹さん、もてなかったの?」
無表情ながらも、哀れみをこめて花子は尋ねる。
「事務所から、スキャンダル禁止令が出ていたのよ!この私がモテないわけないでしょ!」
杏樹は喚き立てた。
食後、杏樹は花子と大輔が本当に恋人持ちなのか言及する。コイツら2人は従兄妹だが、あのド田舎に定住するなら、いずれ夫婦になるかと思い込んでいた。
実際、昔ほどではないが、若者の半数は高校もしくは大学進学と同時に故郷を離れ、都会に定住する。居残り組は地元周辺の村や街の若者同士でくっつくパターンが大多数だ。
大輔の恋人は幼馴染の同級生、花子の恋人は大輔の親友だった。共に家同士の交流も盛んで、いつ結婚しても不思議はない。表情筋の動きの乏しい花子と大輔が、リアルな恋愛話をボソボソと、だが嬉しそうに語るのを、杏樹は悔しがってハンカチを齧って引き裂いた。
「杏樹さんだって、有名私立学校や芸能界にお知り合いが沢山いて、引く手あまたなのでは?」
「芸能界の男なんて、当たりよりハズレのが多いわよ。チヤホヤされて我が儘だし、浮気性で二股三股は当たり前。高校にはスペック高い連中もいるけど、ピンとくるのがねぇ。私は漫画のような大恋愛して結ばれたいの」
はにかみながら言う杏樹に、無表情兄妹の言葉は辛辣だ。
「漫画はたとえ恋愛ストーリーでもファンタジー。そんなドラマチックなこと起きないよ」
「もっと現実みた方がよくないか?」
「八頭身どころか十頭身は軽くある美形で、文武両道で、恋人に一途な男なんて現実には存在しないよ」
「だな。もっと現実世界に下りて、男を見る目を養った方がいい」
「アンタ達、なんでそん夢がないのよ!それと花子、私のことはお姉ちゃんと呼びなさいと言ってるでしょ!」
杏樹はテーブルを叩いて叫ぶ。ちなみに恋愛禁止令が事務所から言い出されている杏樹は、アニメや漫画グッズを部屋中に飾って、恋愛妄想するのが趣味だ。
「ネエヤン?」
「やめてよ、そんな泥臭い呼び方!なんで普通にお姉ちゃんと言えないわけ?」
「お姉ちゃんって言う方が、恥ずかしい。だいたい妹は奈緒ちゃんがいるんだし、妹はそんなに要らないのでは。ネエヤンが嫌なら、妥協して杏樹ちゃんでいい?」
「仕方ないわね。『さん』よりは、まだ親しげだし。あと奈緒は私をお姉ちゃんと呼ばないわよ。パパとママはそう呼んでるけど、私と兄さんは『さん』付け。小さい頃はお姉ちゃん、お兄ちゃんと呼んでたけど」
杏樹は寂しげに言う。奈緒のことは妹だと言い聞かせつつも、本物の妹じゃないと思っていることが、言動に出ていたらしく、気がついたら奈緒は杏樹と雅幸を敬称つけて呼び、兄妹でありながら距離を置いていた。
「芸能界って、家庭環境複雑なんだねぇ。ところでネエヤン、こっちの世界でタイプの男はいなかった?」
「なんでネエヤンで定着させる!ホント、アンタはズレてるというか。それなりに顔のいい奴もいたし、告られたりもしたけど、3次元男に免疫がないのよ!」
「あ~」
表情筋の動きが乏しい森田家の兄妹は、憐憫を込める。見かけは華やかでも、寂しい生活送ってるのが、鈍感な花子や大輔にも分かる。
「だがさあ、聖女ってゲーム世界だと主要キャラだろ。追っ手が来ないってこと、あるか?」
「異世界で右も左も分からないネエヤンの逃げ込む先なんて、雅幸さんも把握してるよね」
「アンタ達なら、兄さん達を追っ払うことだって出来るでしょ!私はもう魔獣との戦闘参加なんてゴメンよ!」
杏樹は髪を振り乱して叫ぶ。よほど怖い思いをしたのだろう。戦闘ゲームや少年漫画とも無縁らしいし、そもそも聖女の使う聖属性光魔法は、浄化は出来るが、突発的な攻撃の防御や迎撃に向かない。よほどパーティーの連中が気を使って守ってやらない限りは。
「戦闘参加って、軍団に守られて?」
「違うわよ。国王が厳選したパーティー。私と雅幸兄さん含めた6人」
「それぞれのスキルは?」
ゲームオタクな大輔は身を乗り出す。
「リーダーが、伯爵家のA級剣士。治癒師のフランソワーズはB級だけど、巨大アイテムボックス持ち。トイズはA級の弓師で料理人。最後が第三王子のサバラン。特級魔術師で、宮廷魔術師団の副団長しているわ」
「なるほど、ネエヤンをナンパしたのはその第三王子か」
花子の分析に、杏樹は驚く。
「魔術師副団長とはいえ、王子を引っ張り出してくるのは、王家ととしてもネエヤンを王族の仲間入りさせたい魂胆でしょ。でも大抵の漫画だと、正統派ヒーローに見せかけて、別の人間、例えばリーダーとか、影のヒーローが出てきてハッピーエンドなんだよね」
「冗談じゃない!もう、私はこんな危険な場所からさっさとオサラバして、元の世界に帰りたい!」
安易に現実逃避を鎮守の神様に願ってしまった自分を、杏樹は悔やまずにはいられない。
「うーん、異世界トリップはほとんど元の世界へは戻れないことにことになってるからなぁ」
大輔は腕組みをして達観する。杏樹はその言葉に絶望して号泣。
「それなんだけどさ、アンチャン」
「妹よ、なんだ?」
「私さあ、思ったんだけど、神官が投げ捨てたブラックドラゴンって、本当に悪い奴だったのかな?」
「どういうことだ?」
大輔は興味を示す。昔から花子の言うことは、核心ついていることが多い。
「ウチの地元には龍神信仰があって、毎年盛大なお祭りやるじゃん。西洋のドラゴンは悪魔の使いの認識が強いけど、日本の龍神は神様もしくは神様の眷属。ブラックドラゴンを追い払ったのに、スタンピートが一気に増えたというのが、私にはブラックドラゴンが、これまで魔獣を抑え込んでたと思ったわけよ」
「なるほど。元凶を捨てたはずなのに、状況はますます悪くなっているってことか」
「うん。一度、ブラックドラゴンについて、もっと知る必要があると思うんだ。ブラックドラゴンが実は悪ではなく善で、この世界にブラックドラゴンが戻れたら、私たちも元の世界へ戻れるんじゃないかって、トンネル掘りながら考えてた」
トンネル掘りは地道な作業なので、花子は岩盤を蹴ったり殴ったりしながら、その合間に色んなことを考えていたのだ。
「そのためには、ブラックドラゴンの取説が必要だな。今回、どうして覚醒したのか、どうやって捕らえて異世界から追放したのか」
「元の世界に帰れる可能性があるの?」
杏樹は瞳を輝かせるが、大輔と花子は美人モデル杏樹を無視して、推測を話し続ける。
「こっちのドラゴンのことは知らないけど、ウチらの世界のゲームや信仰だと、単体ってのがまずあり得ないよね。ドラゴンは長寿だけど、不死じゃない」
「日本神話では、沢山のドラゴンが出てくるからな。それをゲームやファンタジー漫画に取り入れて、日本のアニメ・漫画カルチャーは発展した」
「最強のエンシェントドラゴンなら、人間が捕らえられるはずもないし」
「これって、王都の神官や資料館で調査するしかなさそうだね」
大輔と花子は、せっかく整えたグレープル辺境伯領の館を気に入っていたが、元の世界へ戻れる可能性が出てきた以上、のんびりスローライフを過ごすつもりはない。
「明日、領主様にご挨拶して、準備が整い次第、ここを立つか」
大輔は立ち上がる。花子も明日は忙しくなりそうなので、早々に寝ることにした。杏樹は花子に縋り付く。
「せっかくここまで逃げてきたのに、王都へとんぼ返り?そんなの嫌よ!」
「ならネエヤン、ここに居ても構わないよ。でもここって隣国との国境の魔の樹海が広がってるから、魔獣の出没がスタンピートでなくても珍しくないんだけどね」
「そんな危険なトコに住んでて、なんで平然としてるのよ!つーか、私の寝室は」
「離れに作った客間で寝て。それなりに調度も揃ってるから、母屋より快適だよ」
「嫌よ!1人でこんな怖い場所で寝るなんて!。花子、アンタと一緒に寝かせて!」
「私、寝相悪いし、ベッド狭いんだけど」
「1人で寝るより、蹴られた方がマシ!」
結局、花子の部屋に、花子が客間からベッドを担いできて、同じ部屋に寝ることになった。『怪力』スキルを間近で見た杏樹は「アンタ、やっぱり早く元の世界に戻るべきよ」と言ってから、疲れ果てていた杏樹は早々に眠った。王都から、緊張を解かずに遠路はるばる、単独で妹を訪ねてきたのだから無理もない。
3.ミッション拝命
その夜、花子は夢を見た。だが夢でないことは、感覚で分かった。
花子や大輔ら、ド田舎育ちの人間は勘が鋭い。幽霊は見たことないが、物の怪や神の眷属は、たびたび目撃している。地元の礼儀として、知らんふりして通り過ぎるのが筋とされている。
そこはこの世界の何処かにあるとされるドラゴンアイランドだった。人間が知らないのは、ドラゴンアイランドは天空高くに浮び、その姿はドラゴン達が魔力で覆い隠しているから見ることは出来ない。
花子は、多くの竜族がいるなかで、銀色に輝く一番大きなドラゴンの前に立った。ドラゴンというより山だなというのが、花子の印象だ。
「異世界の者よ、此度は我が世界の人間どものせいで迷惑をかけたな」
花子は表情筋の動きが乏しい顔で、大きな銀色ドラゴンにお辞儀する。恐らくこれがドラゴンアイランドの長であるエンシェントドラゴンに違いない。
「おぬしが推測した通り、地上では魔獣が大暴れしないように、監視役のドラゴンが一頭、地上で重石役をしている。いにしえの人間はそれを知っていたはずだが、時代が過ぎると共に、人々はそれを忘れてしまった。ここにいるドラゴンを見て、そなたはどう思う?」
エンシェントドラゴンは、花子に尋ねる。
虹色に輝く花が咲いた平原、ところどころに大きな湖があり、大きさの異なるドラゴン達が戯れている。それぞれの個体差もあるが、親子のドラゴンもいる。そのいずれもが様々な色の美しい鱗をしているが、黒いドラゴンだけは一頭も居ないことに、花子はここに呼ばれた時から気付いていた。花子は追放されたブラックドラゴンの実物を見た訳では無いが、恐らくそのドラゴンも、このドラゴンアイランドに居たときは美しい鱗を持つ別の色のドラゴンだったのではと推測する。
「その通り。あやつは元々、夕焼け色の美しいドラゴンだった。地上にいる間に、地上の負の感情などをその身に引き受けて浄化しているうちに、真っ黒くなってしまったのだ。そしてドラゴンアイランドへ帰れる余力のあるうちに、こちらへ帰還して、別のドラゴンが赴く予定だったのだ」
エンシェントドラゴンは、花子の心の中を呼んで、彼女の疑問に応える。
「なるほど。だから人間に狩られるなんてことになったのですね。異次元に捨てられた哀れなドラゴンが、自力でこちらへ戻ることは?」
「無理だ。まず地上へ、フォレスト星へ戻らねば、こちらへ通じる道を昇る事ができない。ドラゴンアイランドと通じる道は、1本だけだからな」
「哀れなドラゴンを呼び戻し、ドラゴンアイランドへ帰還させれば新たな浄化のドラゴンが送られる。んでもって、私らも元の世界の地球へ戻れるということですね」
「その通りだ。さすが向こうの世界の龍神の加護を持つ真贋の持ち主だ」
「加護、ですか。まあお祭りには毎年参加してましたが。そーなると、ウチのアンチャン、いや、兄も加護持ちということですか?」
「浄化のドラゴンがいないいま、そなたの兄が魔獣を喰らうことで、地上の負のエネルギーの暴発を防いでいる。だが、浄化のドラゴンに比べれば、その能力はあまりに小さい」
「なるほど」
花子は、大輔の悪食が実は世界に役立ってたと初めて知り、納得もする。本来の大輔は味覚にうるさい。料理を趣味とし、テレビ番組やスマホで見た料理して、味を確かめずにはいられないグルメだ。大工より食堂やるほうが向いているのではとも、密かに思っている。
それが、あんなクソまずいゴブリンを「美味い、美味い」と食べていたので、花子はこの世界のせいで大輔は味覚異常になったのだと思っていたが、半分は当たりだったようだ。
それより、どうやって異次元に捨てられたドラゴンを回収するかだ。
「王都の神殿の魔法陣を破壊すればいい。それにはこれが役立つだろう」
エンシェントドラゴンは、花子に透明だがタンザナイトブルーに輝く棒を空中から生み出し、彼女の前に差し出す。
「あ、バット」
女子野球部の花子には馴染み深いものだ。それにしてもこの材質、ガラスじゃなくて、まさかファンタジーゲーム御用達のー
「そう、ミスリルだ。このバットには、儂の力の一部を移してある。それで存分に、神殿丸ごと破壊してまいれ。二度と馬鹿な真似が出来ぬようにな」
エンシェントドラゴンは鼻息荒く花子に命じる。
「あー、これゲキオコなわけだ」と、花子は表情筋の乏しい顔でエンシェントドラゴンを見あげる。そして気づけば、花子の周囲には多くのドラゴンが取り囲んでいた。
「サントベールは、使命感のある仲間だった。地上の奴らが人間だけなら、我ら自身が神殿を破壊して人間を絶滅させて、サントベールをこちらへ呼び戻すところだが」
「地上にはか弱き者たちもいる。我ら天竜とは異なる種族の地竜もおる」
「異世界の勇者よ、悪しき者どもを完膚なきまで痛めつけ、本来のドラゴンの役割を教え込むのだ。でなければ、交代役のドラゴンは地上に降臨させないともな」
サントベールというのが当代の地上浄化係のドラゴンで、次世代のドラゴンはスカイスチームという、かなり気性の荒いドラゴンだそうだ。
ドラゴンアイランドのドラゴンが、哀れな仲間を助けに行けないのは、ドラゴンが魔法陣を破壊すると、哀れなサントベールは二度と戻れなくなるからだそうだ。だが異世界人でも人間の花子なら、魔法陣を破壊した瞬間、サントベールと入れ替わりで兄達と共に地球へ帰れるので問題ないそうだ。
「ミスリルのバットねぇ」
いうも能面みたいな花子が薄く笑う。それだけ歓喜しているということだ。花子はピッチャーとしても優秀だが、バッターボックスに立てば敬遠球でも悪送球でもホームランにできるほどの天才だ。
「そなたはそれで石を打つつもりらしいが、他にもぶん殴って倒す方法もあるからな。加護をつけたから、地上の魔獣や人間ごときでは、そなたを傷つけることは出来ぬ」
花子は素振りでバッドの感触を確かめる。重すぎず軽すぎず、誂えたようにピッタリだ。球が打てるのが楽しみでたまらない。
「ところで、アンチャン、いや兄にもこれは使えるのですか?」
「いや、それはそなたにしか使えぬ。代わりにそなたの兄にも、別のものを届けておこう。さて、用件は終わりだ。頼んだぞ」
エンシェントドラゴンが花子に言うと、周囲のドラゴンも一斉に頭を垂れた。
のどかな山村生活は、大輔と花子には天国だった。田舎育ちの2人には、ほとんど生活に不満がない。だが、多少の物足りなさはある。
スマホゲームだ。クリア直前だった大輔は、電源のつかないスマホを虚しく見つめ、花子もまた大輔とは別の大好きなゲームの最強キャラをオンラインガチャで引いたばかりで、さあ激闘だと意気込んでいたのだ。
だとしても、本物の魔獣を倒したい願望は花子にはない。大輔にもない。ただ大輔は、魔獣が無性に食べたくなることがある。だがあいにくと、砦の中の森に魔獣は居ない。
そんな穏やかな生活を送る中、突如して危機が迫った。普段、単独行動もしくは数頭の群れでしか行動しないワイバーンが、隣国の樹海を超えて大軍団で飛んできたのだ。
グレープル辺境伯は直ちに臨戦態勢を敷くが、ブラックドラゴン退治に主要な兵士や魔術師を王都に送って戦死させてしまったいま、農夫をかき集めて戦うしかない。いや、このまま冒険者や軍団がいる都市まで過ぎ去ってくれと、辺境伯領の人々は祈った。しかし願いむなしく、一頭が人間の子供めがけて襲いかかってきた。
母親は娘を抱きしめて最期の瞬間を待ったが、ふいに近くでズドンと大きな音を立てて襲いかかってきたワイバーンは空中から落ちてきて、燃えていた。暴れないのは、既に絶命していたからだった。
仕留めたのは、花子。たまたま目撃して、近くにあった石像を掴むと、ワイバーン目掛けて思いっきり投げつけたのだ。この世界の信仰で、ところどころに天使の石像が建っている。大きさはちょうどお地蔵さんぐらいだ。これがお地蔵さんなら、花子も投げるなんて罰当たりなことはしないが、異世界の神様の眷属だし、そもそもキリスト教徒でもない花子は、躊躇いなく天使像を投げた。天使像は炎を上げて加速し、ワイバーンの頭を砕いた。
仲間のワイバーンが、それを見て一斉攻撃を仕掛ける。大輔は村人を、このあたりでは一番頑丈な我が家である館に先導し、花子は手当たり次第のものをワイバーンに投げつける。井戸、噴水、果ては小屋まで投げつけた。
だが大きいものはすぐに底をついた。そして花子は、ピッチャーの勘で、大物を当てるよりも、ボール程度の岩のの方がスピードがましてや致命傷を与えられるのではと、仮説を立てた。もちろん、投げるものが小さくなればコントロールが重視されるが、花子はコントロールには自信があった。
試しにボールほどの大きさの石をワイバーンの眉間に向けて思いっきり投げると、石のスピードはよりまして纏う炎の色も赤から青に変化し、火力を上げてワイバーンを貫き殺した。
「アンチャン、ボールほどの硬い石を集めて、私の足元に!」
花子が叫ぶと、意図を理解した大輔をはじめとする領民達が、投げやすそうで固めの石を花子の近くに積上げていく。
「疲れないか?」
大輔が心配そうに尋ねる。
「ボール投げはスキルじゃないし、練習では200球ほど投げ込んでる。大物を投げると疲れるけど、石ならいくらでも投げられる」
花子はストレートだけでなく、カーブやフォークなど変化球も試してみる。カーブは3頭のワイバーンの頭をぶち抜き、フォークも逃げようとするワイバーンを頭だけでなく翼も貫いて失速させ、瀕死のものは辺境伯の兵士が確実に仕留めた。花子は剛速球を投げられる喜びに夢中だった。
ワイバーンは、村の外れの森に炎を纏いながら落ちていく。そのままだと森が丸焼けになるので、大輔がいくつかの泉の水を残らず汲んだ地球産のアイテムボックス仕様の水筒の水をかけて消火活動にあたった。
形勢不利と見越したワイバーンは、逃げるものと、小隊を組んで花子目掛けて降下してくる奴らがいたが、逃亡獲物も攻撃獲物も、花子は次々と撃ち落としていった。そして群れは全滅した。
辺りには鴨肉似たワイバーンの丸焼きの匂いが漂う。早速、大輔が皮ごと齧り付く。久々の魔獣に、彼のスキル『大食漢』が発動した。領民達にとってもワイバーンは滅多に食べられない高級食材なので齧りつくが、皮が固すぎて食べられない。そもそもワイバーンの皮は、高級本皮として冒険者ギルドで高額売買されるものだ。
花子はスキル『怪力』で、ワイバーンの皮を剥く。あとは肉の部分を村人が包丁で切り落として分けて食べればいいだけだ。
「これだけのワイバーンを、全滅させるとは」
辺境伯は驚く。しかも食料、特に家畜が貴重で食用肉に難儀するグレープル辺境伯領に、大量の高級食材をもたらした。大半は黒焦げになっているが、食べられるものもある。辺境伯の指示で、大輔に食べ尽くされる前に、食べられそうな丸焼き肉を避難させ、生焼けのところは、倉庫をにわか燻製小屋にして、燻製を作った。もちろん、程よく焼けた部分は領民も辺境伯も、久々の肉に舌鼓を打った。
こうして大量の魔石、ワイバーンの骨、黒焦げになっていない皮をグレープル辺境伯は手に入れることが出来た。
「この骨、加工に苦労しそうだが、建築材になるんじゃないか?」
大輔は白いワイバーンの骨を見ね叩き、にわか大工としての感想を述べる。
そんな大輔に、辺境伯らはドン引きだ。なにしろワイバーンの半分以上を大輔は皮ごと齧って食べ尽くしたのだから。魔石も「ちょっと石が混じってるな」と、そのままバリバリ食べた。A級魔獣のワイバーンを食べるうちに大輔にスキルがついたか定かではないが、途中からは骨までバリバリ食べられるほど進化を遂げていた。
「異世界人とは、よく食べるのだな」
グレープル辺境伯は呆れつつも感心したが、「それはアンチャンだけです」と花子は心のなかで答えた。
全長30メートル近いワイバーンの背骨は硬くて白くて、確かに加工には難儀したが、骨の家は白く輝く美しい外壁をなした。耐久性もいい。釘が刺さらないので、大輔は特製魔道具工具を借りて、はめ込み技法で家を立てた。継ぎ目のない家は建築まで時間がかかるが、完成すると外気温にも左右されない快適な家となった。墜落ワイバーンによって壊された森沿いの家は、他の領民が「住まいを交換してくれ」と願うほどの立派なものだった。
辺境伯も頼み込んで、離れの書斎にワイバーンボーン製の部屋を、大輔に建ててもらった。
「妹よ」
「なんだい、アンチャン」
「ウチに、こんな金が溜まってしまった。田舎だから使い道も、欲しいものが売ってるわけでもないのに」
ワイバーン討伐報酬が花子に出て、永久登録料なしの特別待遇で、冒険者登録までされてしまった。しかもいきなりのA級。ワイバーンの群れを殲滅したことにより、グレープル辺境伯領のギルドからありたっけの金が支払われた。
そして大輔は、ワイバーンの骨で作った家で名工と呼ばれ、こちらも辺境伯から莫大な金が支払われた。また大輔も冒険者としてギルドに登録された。こちも永久登録料はなしだが、ランクはC級。魔物をそのまま放置しておくと、別の危険な魔物を呼び込みかねなかったので、大輔の『大食漢』スキルで片付いたのは、グレープル辺境伯領の功労者ともいえる。家を建ててあげた住人には、「住まいないと困るから」と慈善事業と、見習いですらないが、大工の腕が鈍らないためで建てたので、工賃など請求するつもりもなかった。しかし住人は「それはいけねえ、仕事したら金は貰わないと、あんたらは人が良過ぎる」と逆に怒られ、月々少額ながら返済する契約書が作成された。先のブラックドラゴン騒動で、村もお金が大変だと言うのに。
「アンチャン、辺境伯領は山脈が天然要塞であり、これがあるから王都でなくとも近隣都市から応援が来れないんだよな。作物の出来が良くても、領内でしか売れない」
「トンネル掘削のショベルカーでも召喚できたらなぁ」
「アンチャン、別に工事車両がなくても、私が素手で掘れると思うのだが。土を外へ出すのに皆の協力は必要だし、領主様の許可も必要となるが」
「そうだな。近いうち、領主様に相談してみるか」
お金が払えない領民が現物支給で作物やら、貴重な家畜を分けてくれたので、食べるのには困らない。森田家で作った野菜もある。
大輔は料理が得意だった母親の記憶を頼りに、食べきれない葉物やウリ系の野菜は塩漬けに、トマトやパプリカはピクルスにした。いつも使っていた米酢でなく、ワインビネガーなので味がどうなるか出来てみないと分からないが、何もしなければ作物は腐るだけだ。それらは地下貯蔵庫に山積みにされた。ワイバーン燻製は領民に配られたので、リュックサック型アイテムボックスにしまってある。花子は大輔が、ワイバーン数頭もどさくさ紛れにリュックサックに入れていたのを知っていた。
2.トンネル掘り
広大なグレープル辺境伯領を囲む山脈。東側の山は、冒険者や行商人が使うための街道があり、西は山が無いが樹海が広がり国境と接する砦が建てられているため、人けの少ない北側の山なら掘っても良いと、グレープル辺境伯から許可が出た。
先ず岩盤を大輔が調査する。掘りやすい山はトンネルが崩れやすいことも意味する。日本の技術があるなら、固いコンクリートで固めながら掘削も出来るが、この異世界にコンクリートはない。煉瓦を接合させる粘土ならあるが、トンネルを覆い尽くせるほど大量の粘土は採取できない。だがトンネルを固めるのはおいおい考えるとして、先ずは掘ることに専念することにした。
大輔は他の山より樹木の勢いが無い『痩せ山』の岩盤がトンネルに最適だと判断した。だがトンネル掘りは玄人でも難しい。表面と内面の岩や土の成分が違っているのが普通だからだ。
大輔は仕事用の掘っ立て小屋を建てる。すると煉瓦職人領民たちが、「トンネルがあれば、俺たちも街へ気軽に出かけられる」と、煉瓦の寄付に名乗りを上げた。煉瓦もいま貴重だが、焼き場が直れば率先して煉瓦をこちらに回してくれると言う。また辺境伯のポケットマネーで、土を掘って運び出す坑夫も雇ってくれた。
しかし土の運び出しはともかく、山掘りに手伝いは必要なかった。花子がスキル『怪力』で、猛烈な勢いでスコップやクワをふるって掘り進めたからだ。
「おい、これって鉄鉱石じゃないか?」
出てきた土というか岩を見て、坑夫達が驚く。
「山の植物の育ち具合と、わき水の臭いから、鉱脈がある気がしてた」
大輔はボソリと言った。
岩石に鉄鉱石が混じっている。花崗岩に混じる鉄鉱石を選別する場所が必要なため、辺境伯に報告、辺境伯は鉄鉱石との分離工場とは名ばかりの掘っ建て小屋を立て、資金を投じて更に領民を集める。鉄鉱山には銅の他にも金や銀も混じっており、一攫千金を狙う人々が我先にと集まった。
人が集まれば、料理を出す店や道具を売る店も進出してくる。トンネル近くで、にわか街があっという間に誕生した。
花子の『怪力』は衰え知らずだったが、道具はすぐに壊れてしまう。もっとも花子の岩盤の砕き方は蹴りとパンチが主で、足元の邪魔な岩石を描き出すのに道具を使っていた次第だが。花子の道具を取り替えていくのも、坑夫の大事な仕事だ。
「それにしても、とんでもない逸材が来てくれたものだ」
坑夫達は感心する。しかしこの偉大な功績を積み上げていく花子はもちろん、いまやなくてはならない大工の大輔にも、息子や娘の嫁や婿にしたいと思う者は居なかった。怪力娘、悪食大食いを恋人にしたがる若者皆無である。別に花子も大輔も、結婚はもちろん、恋人だってこの世界で必要としていなかったが。
花子は夢中になると休憩を忘れがちになるので、大輔が時間を見て花子を休ませ、水分や料理をとらせた。そして大輔もトンネルを広げる工事を手伝う。
普通なら何年もかかるトンネル掘削を、僅か1ヶ月で隣のアープル伯爵領まで貫通させた。あちらには事前にグレープル辺境伯が書簡を送り、更に王宮にも鉄鉱山発見の報告使者を送った。
貫通したトンネルの補強は、グレープル辺境伯領民とアープル伯爵家の職人が煉瓦を積上げて行った。完成すれば危険な山越えをせずとも、冒険者や商人だけでなく、領民も馬車で気軽にアープル伯爵領の発展した街へ行く事ができる。アープル伯爵領には西地区では一番大きな街があり、西地区流行最先端を担っていた。もっとも昔のような賑やかさとは程遠く、こちらもブラックドラゴン退治に主要な人材を割かれ、魔物襲撃で街は半壊していた。それでも平地で他領と繋がったアープル伯爵領は物流が盛んで、グレープル辺境伯領とは雲泥の差がある。
アープル伯爵も漁夫の利を狙って、辺境伯領のトンネルから出てきた鉄鉱石や僅かだが金や銀ために、もっと大きな工場を建てようと資金援助と建築会社をよこした。
グレープル辺境伯は、むしろアープル伯爵家の申し出を快く受け入れた。鉄鉱石などあったところで、辺境伯領で加工して使う量など限られている。なら多少は安く買いたたかれても、引き取ってくれた方が楽だ。それに山脈保有権はグレープル辺境伯が持っているので、グレープル辺境伯が売れば関税優遇を受けられるが、アープル伯爵家が売れば通常通りの高い関税がかけられる。
グレープル辺境伯からすれば、大輔と花子兄妹が領地にいるだけで一個大隊1つを丸抱えしているようなものだったので、今後の魔獣大発生にも期待していた。
3.迷惑な訪問者
「アンチャン、やっぱり自宅はいいものだね」
ようやく辺境伯領の山村の館に戻った花子と大輔は、久々の我が家にで寛ぐ。ここで暮らし始めて間もなくワイバーン襲来、トンネル掘削と滞在期間は短いが、それでも今の我が家には違いない。漬物もちょうど食べごろとなっている。
「インディカ米なら手に入るから、育ててみるか。漬物はやはり、米だな」
行商人から買い取ったインディカ米を炊いて、塩漬け野菜とチキンステーキとスープを食べる。作ったのは、料理が趣味で味にうるさい大輔だ。
「だよね。糠も取れたら糠漬けも出来るし」
「糠漬け、食べたいなぁ。あと醤油をダバダバかけた焼き魚が食べたい」
「アンチャン、それはしょっぱいよ。私はポン酢と大根おろしだなぁ」
「そうだな。大根おろしに醤油かけて食べたい。この世界に大根はあるものの、スープ煮込みか塩漬けで食べるしかないもんなぁ」
「燻製小屋で、いぶりがっこ出来ないかな。作り方知らんけど」
花子は家族で出かけた市街地のデパートの東北物産展で買った、いぶりがっこを思い出す。
「妹よ、燻製小屋では肉や卵も燻しているから、匂いがついてしまって、いぶりがっこは無理だと思うぞ?」
「残念だなぁ」
食卓に並ぶのは漬物、ピクルス、チキンステーキ、野菜たっぷりスープ、インディカ米の炊きたてご飯。それと「甘いものが食べたいなぁ」という花子のリクエストで、プリンを作った。田舎にしては豪勢な食事だ。
近隣が野菜や肉の差し入れなど親切にしてくれるのは、トンネルを開通させた功労者を労う意味もあるが、またピザ窯で美味しいピザを振る舞ってほしい意図もあった。
「明日は川へ釣りにでも行くか」
「いいね。塩焼き魚に、カボスに似た柑橘類をつければ最高。今夜は早寝早起きだね」
さっさと食べて寝てしまおうと、食事をかき込む兄妹の館の扉を乱暴に叩くものがいた。大輔が重たい腰を上げて応対に出ると、そこには汚れた外套を着た杏樹が立っていた。
「クサッ!」
開口一番、大輔は言って鼻をつまむ。
「淑女に向って失礼ね!」
杏樹は喚き散らす。その声に、花子も出てくる。
「うわ、汚い。先ず風呂へ入ってきてよ。汚れ物は、着替えたら取り敢えず庭に投げ捨てて置いて。明日、洗うから」
花子は風呂場を指さして、杏樹を風呂へ向かわせた。
体格のいい花子の庶民服は、杏樹には大きすぎた。だが大は小を兼ねる、袖をまくってワンピースのベルトを締めれば体裁は整った。この屋敷は日本風に玄関で靴を脱ぐ土足厳禁なので、杏樹が履いてきた臭い靴も、杏樹の入浴中に花子が外へ出して、草臥れた靴の中に炭と千切ったミントをいれ、ゴミ同然の杏樹の着てきた服もタライに水を張って放り込み、こちらの世界の洗濯用石鹸のクズを放り込んだ。
風呂から上がった杏樹は、ガツガツ食卓の料理を食べた。掘削したてのトンネルはまだ補強が終わっていないので通れず、1人で山を越えてきたのだ。追っ手の目をまきながら。
「王都で聖女様として優遇されていたのでは?」
大輔が尋ねると、作法も忘れて料理に食らいついていた杏樹が物凄い形相で睨みつける。
「聖女が大事にされる時は平穏なときだけ!王都にミノタウロスの群れと大蛇の群れが立て続けに襲ってきたときには、剣聖の兄様の護衛にと、私まで駆り出されたのよ!死ぬかと思ったわ!」
「で、はるばるこんな遠くまで逃げてきたと」
花子は呆れ果てる。だが想定内だとも思った。王女様然としていられるのは、平和な時だけなのはゲームの世界でのお約束。魔獣狩りに駆り出されたら、真っ先に逃げていくるのは分かっていたので、離れの部屋を大輔に建てさせたのだ。
「あんたたちの評判は道中で聞いたわ。ワイバーンの大軍団を全滅させたんですってね。外れスキルのくせに、なんでそんな大技使えること隠してたのよ!」
「あれ、スキルじゃないよな?」
大輔は花子に同意を求める。
「噴水投げつけたのはスキルだけど。それと剛速球投げた時に炎が出たのも怪力スキルのせいかも。でもワイバーンの眉間の急所に命中させたのは、日々鍛錬した野球の成果だね」
「野球?あんた、野球なんてやってたの?」
杏樹は驚く。田舎で畑仕事の手伝いやゲーム三昧、勉強も部活もしない、阿呆な妹だと思い込んでいたのだ。
「初戦敗退常連校だけどね」
「だが強豪校へ行けば、オリンピックに出れるほどの剛速球とコントロールがある。キャッチャーに恵まれていれば、女子硬式野球県代表は無理でも、ベスト4までは行けたかもな。キャッチャーが骨折さえしなければ」
大輔は淡々と言う。すでに食べ終えていたので、野草から作ったお茶を飲んでいた。
「そんな実力があるなら、なんでパパとママに強豪校へ行かせてくださいと頼まなかったのよ!」
「家から離れたくなかったし、野球は趣味だし。今回のことで思い知ったけど、私の球を受けられるのは女子には無理。アンチャンたちでさえ、交代じゃないと私の投げたボールは受けられないもんね」
「それと裕一郎から離れたくなかったんだよな。ミカン農家になりたかった本音も、恋人の裕一郎の影響だし」
「はあぁ?アンタ、生意気に恋人なんていたわけ?」
杏樹が雄叫びを上げる。スープを口にしていたので、飛び散って汚い。
「田舎は狭いから。アンチャンにだって、芽依ちゃんって彼女いるし」
「嘘でしょ、顔面表情筋死んでるアンタ達が恋人持ちだなんて!私だって異性とお付き合いしたことないのに!」
「杏樹さん、もてなかったの?」
無表情ながらも、哀れみをこめて花子は尋ねる。
「事務所から、スキャンダル禁止令が出ていたのよ!この私がモテないわけないでしょ!」
杏樹は喚き立てた。
食後、杏樹は花子と大輔が本当に恋人持ちなのか言及する。コイツら2人は従兄妹だが、あのド田舎に定住するなら、いずれ夫婦になるかと思い込んでいた。
実際、昔ほどではないが、若者の半数は高校もしくは大学進学と同時に故郷を離れ、都会に定住する。居残り組は地元周辺の村や街の若者同士でくっつくパターンが大多数だ。
大輔の恋人は幼馴染の同級生、花子の恋人は大輔の親友だった。共に家同士の交流も盛んで、いつ結婚しても不思議はない。表情筋の動きの乏しい花子と大輔が、リアルな恋愛話をボソボソと、だが嬉しそうに語るのを、杏樹は悔しがってハンカチを齧って引き裂いた。
「杏樹さんだって、有名私立学校や芸能界にお知り合いが沢山いて、引く手あまたなのでは?」
「芸能界の男なんて、当たりよりハズレのが多いわよ。チヤホヤされて我が儘だし、浮気性で二股三股は当たり前。高校にはスペック高い連中もいるけど、ピンとくるのがねぇ。私は漫画のような大恋愛して結ばれたいの」
はにかみながら言う杏樹に、無表情兄妹の言葉は辛辣だ。
「漫画はたとえ恋愛ストーリーでもファンタジー。そんなドラマチックなこと起きないよ」
「もっと現実みた方がよくないか?」
「八頭身どころか十頭身は軽くある美形で、文武両道で、恋人に一途な男なんて現実には存在しないよ」
「だな。もっと現実世界に下りて、男を見る目を養った方がいい」
「アンタ達、なんでそん夢がないのよ!それと花子、私のことはお姉ちゃんと呼びなさいと言ってるでしょ!」
杏樹はテーブルを叩いて叫ぶ。ちなみに恋愛禁止令が事務所から言い出されている杏樹は、アニメや漫画グッズを部屋中に飾って、恋愛妄想するのが趣味だ。
「ネエヤン?」
「やめてよ、そんな泥臭い呼び方!なんで普通にお姉ちゃんと言えないわけ?」
「お姉ちゃんって言う方が、恥ずかしい。だいたい妹は奈緒ちゃんがいるんだし、妹はそんなに要らないのでは。ネエヤンが嫌なら、妥協して杏樹ちゃんでいい?」
「仕方ないわね。『さん』よりは、まだ親しげだし。あと奈緒は私をお姉ちゃんと呼ばないわよ。パパとママはそう呼んでるけど、私と兄さんは『さん』付け。小さい頃はお姉ちゃん、お兄ちゃんと呼んでたけど」
杏樹は寂しげに言う。奈緒のことは妹だと言い聞かせつつも、本物の妹じゃないと思っていることが、言動に出ていたらしく、気がついたら奈緒は杏樹と雅幸を敬称つけて呼び、兄妹でありながら距離を置いていた。
「芸能界って、家庭環境複雑なんだねぇ。ところでネエヤン、こっちの世界でタイプの男はいなかった?」
「なんでネエヤンで定着させる!ホント、アンタはズレてるというか。それなりに顔のいい奴もいたし、告られたりもしたけど、3次元男に免疫がないのよ!」
「あ~」
表情筋の動きが乏しい森田家の兄妹は、憐憫を込める。見かけは華やかでも、寂しい生活送ってるのが、鈍感な花子や大輔にも分かる。
「だがさあ、聖女ってゲーム世界だと主要キャラだろ。追っ手が来ないってこと、あるか?」
「異世界で右も左も分からないネエヤンの逃げ込む先なんて、雅幸さんも把握してるよね」
「アンタ達なら、兄さん達を追っ払うことだって出来るでしょ!私はもう魔獣との戦闘参加なんてゴメンよ!」
杏樹は髪を振り乱して叫ぶ。よほど怖い思いをしたのだろう。戦闘ゲームや少年漫画とも無縁らしいし、そもそも聖女の使う聖属性光魔法は、浄化は出来るが、突発的な攻撃の防御や迎撃に向かない。よほどパーティーの連中が気を使って守ってやらない限りは。
「戦闘参加って、軍団に守られて?」
「違うわよ。国王が厳選したパーティー。私と雅幸兄さん含めた6人」
「それぞれのスキルは?」
ゲームオタクな大輔は身を乗り出す。
「リーダーが、伯爵家のA級剣士。治癒師のフランソワーズはB級だけど、巨大アイテムボックス持ち。トイズはA級の弓師で料理人。最後が第三王子のサバラン。特級魔術師で、宮廷魔術師団の副団長しているわ」
「なるほど、ネエヤンをナンパしたのはその第三王子か」
花子の分析に、杏樹は驚く。
「魔術師副団長とはいえ、王子を引っ張り出してくるのは、王家ととしてもネエヤンを王族の仲間入りさせたい魂胆でしょ。でも大抵の漫画だと、正統派ヒーローに見せかけて、別の人間、例えばリーダーとか、影のヒーローが出てきてハッピーエンドなんだよね」
「冗談じゃない!もう、私はこんな危険な場所からさっさとオサラバして、元の世界に帰りたい!」
安易に現実逃避を鎮守の神様に願ってしまった自分を、杏樹は悔やまずにはいられない。
「うーん、異世界トリップはほとんど元の世界へは戻れないことにことになってるからなぁ」
大輔は腕組みをして達観する。杏樹はその言葉に絶望して号泣。
「それなんだけどさ、アンチャン」
「妹よ、なんだ?」
「私さあ、思ったんだけど、神官が投げ捨てたブラックドラゴンって、本当に悪い奴だったのかな?」
「どういうことだ?」
大輔は興味を示す。昔から花子の言うことは、核心ついていることが多い。
「ウチの地元には龍神信仰があって、毎年盛大なお祭りやるじゃん。西洋のドラゴンは悪魔の使いの認識が強いけど、日本の龍神は神様もしくは神様の眷属。ブラックドラゴンを追い払ったのに、スタンピートが一気に増えたというのが、私にはブラックドラゴンが、これまで魔獣を抑え込んでたと思ったわけよ」
「なるほど。元凶を捨てたはずなのに、状況はますます悪くなっているってことか」
「うん。一度、ブラックドラゴンについて、もっと知る必要があると思うんだ。ブラックドラゴンが実は悪ではなく善で、この世界にブラックドラゴンが戻れたら、私たちも元の世界へ戻れるんじゃないかって、トンネル掘りながら考えてた」
トンネル掘りは地道な作業なので、花子は岩盤を蹴ったり殴ったりしながら、その合間に色んなことを考えていたのだ。
「そのためには、ブラックドラゴンの取説が必要だな。今回、どうして覚醒したのか、どうやって捕らえて異世界から追放したのか」
「元の世界に帰れる可能性があるの?」
杏樹は瞳を輝かせるが、大輔と花子は美人モデル杏樹を無視して、推測を話し続ける。
「こっちのドラゴンのことは知らないけど、ウチらの世界のゲームや信仰だと、単体ってのがまずあり得ないよね。ドラゴンは長寿だけど、不死じゃない」
「日本神話では、沢山のドラゴンが出てくるからな。それをゲームやファンタジー漫画に取り入れて、日本のアニメ・漫画カルチャーは発展した」
「最強のエンシェントドラゴンなら、人間が捕らえられるはずもないし」
「これって、王都の神官や資料館で調査するしかなさそうだね」
大輔と花子は、せっかく整えたグレープル辺境伯領の館を気に入っていたが、元の世界へ戻れる可能性が出てきた以上、のんびりスローライフを過ごすつもりはない。
「明日、領主様にご挨拶して、準備が整い次第、ここを立つか」
大輔は立ち上がる。花子も明日は忙しくなりそうなので、早々に寝ることにした。杏樹は花子に縋り付く。
「せっかくここまで逃げてきたのに、王都へとんぼ返り?そんなの嫌よ!」
「ならネエヤン、ここに居ても構わないよ。でもここって隣国との国境の魔の樹海が広がってるから、魔獣の出没がスタンピートでなくても珍しくないんだけどね」
「そんな危険なトコに住んでて、なんで平然としてるのよ!つーか、私の寝室は」
「離れに作った客間で寝て。それなりに調度も揃ってるから、母屋より快適だよ」
「嫌よ!1人でこんな怖い場所で寝るなんて!。花子、アンタと一緒に寝かせて!」
「私、寝相悪いし、ベッド狭いんだけど」
「1人で寝るより、蹴られた方がマシ!」
結局、花子の部屋に、花子が客間からベッドを担いできて、同じ部屋に寝ることになった。『怪力』スキルを間近で見た杏樹は「アンタ、やっぱり早く元の世界に戻るべきよ」と言ってから、疲れ果てていた杏樹は早々に眠った。王都から、緊張を解かずに遠路はるばる、単独で妹を訪ねてきたのだから無理もない。
3.ミッション拝命
その夜、花子は夢を見た。だが夢でないことは、感覚で分かった。
花子や大輔ら、ド田舎育ちの人間は勘が鋭い。幽霊は見たことないが、物の怪や神の眷属は、たびたび目撃している。地元の礼儀として、知らんふりして通り過ぎるのが筋とされている。
そこはこの世界の何処かにあるとされるドラゴンアイランドだった。人間が知らないのは、ドラゴンアイランドは天空高くに浮び、その姿はドラゴン達が魔力で覆い隠しているから見ることは出来ない。
花子は、多くの竜族がいるなかで、銀色に輝く一番大きなドラゴンの前に立った。ドラゴンというより山だなというのが、花子の印象だ。
「異世界の者よ、此度は我が世界の人間どものせいで迷惑をかけたな」
花子は表情筋の動きが乏しい顔で、大きな銀色ドラゴンにお辞儀する。恐らくこれがドラゴンアイランドの長であるエンシェントドラゴンに違いない。
「おぬしが推測した通り、地上では魔獣が大暴れしないように、監視役のドラゴンが一頭、地上で重石役をしている。いにしえの人間はそれを知っていたはずだが、時代が過ぎると共に、人々はそれを忘れてしまった。ここにいるドラゴンを見て、そなたはどう思う?」
エンシェントドラゴンは、花子に尋ねる。
虹色に輝く花が咲いた平原、ところどころに大きな湖があり、大きさの異なるドラゴン達が戯れている。それぞれの個体差もあるが、親子のドラゴンもいる。そのいずれもが様々な色の美しい鱗をしているが、黒いドラゴンだけは一頭も居ないことに、花子はここに呼ばれた時から気付いていた。花子は追放されたブラックドラゴンの実物を見た訳では無いが、恐らくそのドラゴンも、このドラゴンアイランドに居たときは美しい鱗を持つ別の色のドラゴンだったのではと推測する。
「その通り。あやつは元々、夕焼け色の美しいドラゴンだった。地上にいる間に、地上の負の感情などをその身に引き受けて浄化しているうちに、真っ黒くなってしまったのだ。そしてドラゴンアイランドへ帰れる余力のあるうちに、こちらへ帰還して、別のドラゴンが赴く予定だったのだ」
エンシェントドラゴンは、花子の心の中を呼んで、彼女の疑問に応える。
「なるほど。だから人間に狩られるなんてことになったのですね。異次元に捨てられた哀れなドラゴンが、自力でこちらへ戻ることは?」
「無理だ。まず地上へ、フォレスト星へ戻らねば、こちらへ通じる道を昇る事ができない。ドラゴンアイランドと通じる道は、1本だけだからな」
「哀れなドラゴンを呼び戻し、ドラゴンアイランドへ帰還させれば新たな浄化のドラゴンが送られる。んでもって、私らも元の世界の地球へ戻れるということですね」
「その通りだ。さすが向こうの世界の龍神の加護を持つ真贋の持ち主だ」
「加護、ですか。まあお祭りには毎年参加してましたが。そーなると、ウチのアンチャン、いや、兄も加護持ちということですか?」
「浄化のドラゴンがいないいま、そなたの兄が魔獣を喰らうことで、地上の負のエネルギーの暴発を防いでいる。だが、浄化のドラゴンに比べれば、その能力はあまりに小さい」
「なるほど」
花子は、大輔の悪食が実は世界に役立ってたと初めて知り、納得もする。本来の大輔は味覚にうるさい。料理を趣味とし、テレビ番組やスマホで見た料理して、味を確かめずにはいられないグルメだ。大工より食堂やるほうが向いているのではとも、密かに思っている。
それが、あんなクソまずいゴブリンを「美味い、美味い」と食べていたので、花子はこの世界のせいで大輔は味覚異常になったのだと思っていたが、半分は当たりだったようだ。
それより、どうやって異次元に捨てられたドラゴンを回収するかだ。
「王都の神殿の魔法陣を破壊すればいい。それにはこれが役立つだろう」
エンシェントドラゴンは、花子に透明だがタンザナイトブルーに輝く棒を空中から生み出し、彼女の前に差し出す。
「あ、バット」
女子野球部の花子には馴染み深いものだ。それにしてもこの材質、ガラスじゃなくて、まさかファンタジーゲーム御用達のー
「そう、ミスリルだ。このバットには、儂の力の一部を移してある。それで存分に、神殿丸ごと破壊してまいれ。二度と馬鹿な真似が出来ぬようにな」
エンシェントドラゴンは鼻息荒く花子に命じる。
「あー、これゲキオコなわけだ」と、花子は表情筋の乏しい顔でエンシェントドラゴンを見あげる。そして気づけば、花子の周囲には多くのドラゴンが取り囲んでいた。
「サントベールは、使命感のある仲間だった。地上の奴らが人間だけなら、我ら自身が神殿を破壊して人間を絶滅させて、サントベールをこちらへ呼び戻すところだが」
「地上にはか弱き者たちもいる。我ら天竜とは異なる種族の地竜もおる」
「異世界の勇者よ、悪しき者どもを完膚なきまで痛めつけ、本来のドラゴンの役割を教え込むのだ。でなければ、交代役のドラゴンは地上に降臨させないともな」
サントベールというのが当代の地上浄化係のドラゴンで、次世代のドラゴンはスカイスチームという、かなり気性の荒いドラゴンだそうだ。
ドラゴンアイランドのドラゴンが、哀れな仲間を助けに行けないのは、ドラゴンが魔法陣を破壊すると、哀れなサントベールは二度と戻れなくなるからだそうだ。だが異世界人でも人間の花子なら、魔法陣を破壊した瞬間、サントベールと入れ替わりで兄達と共に地球へ帰れるので問題ないそうだ。
「ミスリルのバットねぇ」
いうも能面みたいな花子が薄く笑う。それだけ歓喜しているということだ。花子はピッチャーとしても優秀だが、バッターボックスに立てば敬遠球でも悪送球でもホームランにできるほどの天才だ。
「そなたはそれで石を打つつもりらしいが、他にもぶん殴って倒す方法もあるからな。加護をつけたから、地上の魔獣や人間ごときでは、そなたを傷つけることは出来ぬ」
花子は素振りでバッドの感触を確かめる。重すぎず軽すぎず、誂えたようにピッタリだ。球が打てるのが楽しみでたまらない。
「ところで、アンチャン、いや兄にもこれは使えるのですか?」
「いや、それはそなたにしか使えぬ。代わりにそなたの兄にも、別のものを届けておこう。さて、用件は終わりだ。頼んだぞ」
エンシェントドラゴンが花子に言うと、周囲のドラゴンも一斉に頭を垂れた。
0
あなたにおすすめの小説
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる