奴隷として生まれた天才

津本 なを

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一章 格差を広げるもの

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 国の中心にあるホールから、車で四十分ほど行ったところに俺の研究室兼自宅がある。
 天才科学者と周りから言われているだけのことはあって、なかなかの豪邸だ。
 車から降りると、いつも通り白衣を着た幼馴染が立っていた。
「おかえり」
 名前は伊藤真央。学生時代からの友人で、今は俺の研究の助手ということでこの家に一緒に住んでいる。
 真央にコートを渡し、一緒にリビングに行ってソファーに飛び込んだ。
疲れがどっと出てくる……。

「そんなに疲れた?今日もお疲れ様」
 向かいのソファーに腰掛け、真央がこっちを見つめる。
「ああ。疲れた。飯はあとどれくらいでできる?すごく腹減った」
「翔太が今作っているわよ。あと……十五分くらいかしら」
 向井翔太は俺の家でコックをしてくれている、中学時代からの親友だ。
「そうか」
「会見、テレビで見たわよ。いつもあんな顔しているから余計疲れるんじゃないの?」
 真央が俺の顔を覗き込んでくる。
 真央は人間の中では珍しい生まれつきの茶髪だ。
 ポニーテールが似合っている。
「低能に付き合わされるこっちの気持ちにもなってみろよ……、吐き気がしてくる」
「せめて、家の中では楽しんだらって話よ。もっと笑いなさいって言っているの」
「こんな胸が詰まるような仕事しているうちは……無理だな」
 この職に就いて以来――俺は一度も笑っていない。
 愛想笑いじゃない、本当に面白くて笑った事なんて、俺の人生の中であったのだろうか……?
「じゃあ辞めればいいって言っても、健はいつも『うん』とか『ああ』とかしか言わないじゃない。なんか未練でもあるの?今の仕事に」
 未練も何も……。
 無駄な責任感がそれを許さないだけだ。
「正気か?お前。ただでさえあの低能どもに見下されているのに、科学者辞めたらそれを通り越して奴隷として決められた職業無理やりやらされて奴隷として死ぬんだぞ!そんなの俺は……まっぴらごめんだ」
 本当の理由も誰にも話せず、今みたいに誤魔化してきた。
 ――俺は偽善者だ。
 一番周りから見たときに、よく見える選択肢を踏んできた。
「じゃあどうしたいのよ?しょうがないじゃない。人間は魔法使いに比べて――ずっと無力なのだもの……」
 分かっていることを言われて、自分の情けなさにどうしようもないほど苛つく……。
 ――反乱を起こす勇気もないし、それを成功させる自信もない。かといってほかの人間の誰もそんなことするバカはいないだろう。
「うるさい……。――黙れ。お前は二度と俺に話しかけるな。出ていけ――――、顔も見たくない」
 ――いきなり何かが吹っ切れて、頭に血が上った。
 いつもなら、こうはならないのに……。
 俺はソファーから立ち上がり、黙ってドアの方へ歩いて行った。
「健君がそういうなら、出ていくわよ。一人になって頭冷やしなさい」
 真央が何か言っているのは分かったが俺は部屋を駆け出し、家から飛び出た。
 ――そして、走った。
 
 俺はいつもこうやって逃げる。
 逃げて、誰もいない場所を探す。
 ――だけど、そんな場所は心の中のどこにもなくて、いつも自分の中に無理やり押し込める。
 心の中にはそんな場所は無いから、いつもは今みたいに川の土手に逃げる。
 そこで何時間でも泣く……。
 今までの人生の全てをできる限り思い出して、――情けなくなって泣く。
 後悔していることは山のようにあるが、今でもどうしたら良かったのかなんて、一つも分からない。

 ――今だって、俺、杉田健はどうしていいのか分からない。
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