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③
しおりを挟むこの国に私の居場所はない。
泣きたくない。
誰にも涙を見せたくないのだから。
足元を見ないで走っていた私はつまずきこけてしまう。
「やだ…なんてみっともない」
「歩き方も忘れたのかしら」
「一応妃なのに…何所までも無様なの」
「本当に役立たずな妃だな」
私への悪意。
ずっと耐えて来たから平気。
そう、こんなことで傷ついたらりしない。
誰も助けてくれないのだから。
視線が歪みそうになる。
絶対に泣くものかと思った頭にマントを被せられる。
「悪趣味な」
低く良く通る声だった。
微かに薔薇の香りがした私は視界が見えなかった。
マントで前が見えなかったのだ。
「ここでは妃をよってたかって虐めるのか。随分な趣味じゃねぇか」
「不敬だぞ」
「俺は事実を言っただけだ。何ださっきか妃をしかも相手は王太子妃じゃねぇか」
悪口と殺意が一瞬で止まった。
いや、止まったんじゃない。
部屋の中の悪い気が遮断された?
「これは氷の魔力?」
「相変わらずいい目をしてるな姫さん」
姫さん?
かなりフランクな態度だった。
「いでぇ!」
その直後にすごい音がした。
「氷の金棒…」
「おまっ!それで殴るか!いてぇだろう」
普通痛いだけで終わらない。
なのに平然と言ってのけるなんてすごいわ。
「あっ…あの、こちらをお使いください」
「あ?汚れるぞ」
「お気になさらず」
応急処置用のハンカチだ。
冷やしたハンカチを持ち歩いておいて良かった。
「つーかよ。アンタ王太子妃なのに、アナグレス王国は格下の貴族が王族を罵倒しても許されるのか?世も末だな」
「おい、マスクミリアン。いい加減に」
「はぁー…聖騎士の恥だ。頭が痛いな」
聖騎士って…
「皆さまはクラリス聖教国の方でございますか」
「ああ、一応な」
よく見ると聖騎士の紋章が見えた。
どうしてすぐに気づかなかったのか、なんという失態を。
「ご無礼をお許しください」
「いや、どうか頭を」
「そうです。私達は貴女に頭を下げていただくような」
二人は私に困った表情をされるのだけど。
「おいおい姫さん、固くなるなよ。別に俺は気にしねぇぜ?まぁ助けるならも少し胸がでかい姉ちゃんがいいけどよ」
一人かなり毛色の違う人がいる。
言うまでもなく傍にいる二人は殺意を飛ばした。
「そうかマクシミリアン」
「そんなに死にたいか。そうかそうか。猊下には不幸な事故で死んだと告げよう」
「そうだな。騎士の風上にも置けぬ男が」
そして恐ろしい表情で戦闘態勢になる二人に真っ青になる。
でも彼らのおかげで私の心は救われた。
相手方の騎士は噂では恐ろしい方と聞くけど、クラリス聖教皇国の聖騎士の方なのだから。
人の血が通ってないはずはない。
万一心を通わせることができないとしてもせめてお邪魔にならないようにしよう。
まだ見ぬ騎士様に少しの希望を込めることができたのだ。
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