17 / 237
序章.始まりの前奏曲
閑話1.テレシア
テレシア・ベルクハイツ。
名門貴族の中でも格式が高く、夫のランスロットはヴァルハラ王国の将軍でもある。
文武両道で智仁勇に優れていた。
妻のテレシアは王の妹に当たり第一王女でもあった。
気品と美貌を兼ね備え外交官として優れていた。
周りは政略結婚と言いながらも実は恋愛結婚でもあり夫婦仲はとても良かったが、唯一の問題があるとすればお世継ぎを生むことができなかったからだ。
元より、王族は子供が出来にくい体質だったことからテレシアに愛人を持つようにとの声が上がっていたが夫を心から愛する故に拒絶していた。
通常は夫であるランスロットが側室を持つのが普通だが、妻が王族だったこともあって考慮されたのだった。
貴族社会では愛人を持つことは珍しいことではなく、結婚して自由に恋愛することが許され女性の中では外で子供ができた時は跡継ぎにすることができる。
ただしその場合は夫が婿養子であることが多かった。
ベルクハイツ家にとっても世継ぎがいないとなれば存続が危ぶまれているので、第二子を設けなくてはならないのだが、テレシアは夫の面子を潰すような真似だけはできなかった。
しかし、悠長なことを言っていられなくなってしまった。
ランスロットが病にかかってしまったのだ。
治療法はなく、味覚障害となり食事は喉が取らず医者も匙を投げてしまった状態でテレシアは苦悩した。
それを機会に離縁の話が舞い込み、無神経な貴族がテレシアに群がり、最愛の娘にまで魔の手が忍び寄った。
せめて娘だけでも安全な場所に避難させるべく義父に預けることになったが、ランスロットの病は治ることがなく日に日にやせ衰える姿を見て目の前が真っ暗になったある日。
宮廷医師に診察をしてもらった帰りに体調が急変してしまった。
人を呼びたくても、こんな場所では人など呼べないし、身分を明かせない以上は誰も助けてくれない。
貴族とはそういうものだと知っていた。
そんな時だった、エリオルに出会ったのは。
突如馬車に入って来た少年に驚いたが、御者に怒鳴られようとも気にも留めずにランスロットを介抱し、的確な対応をした。
聞けば熱中症と告げ鞄から出した薬のような物を飲ませようとした時、御者のブルクが止めようとした。
通常ならばテレシアも止めたかもしれないが、この時だけは違った。
――この方なら助けてくれる。
根拠はなかったが何故かそう思った。
案の定、ランスロットは意識を取り戻した。
馬車を出て行こうとした少年をテレシアは止め名前を聞くと驚いたことに、ラスカル家の長男であることが解った。
社交界では有名であったが、いい意味ではなく悪い意味だった。
名門ラスカル家の長男と生まれながらも礼儀作法もなっておらず、騎士としての才能も皆無で傍若無人で愚かだと噂だった。
勉学にも真面目ではなく、ラスカル家の出来損ないで、正妻の不義の子ではないかと言う噂まで流れていた。
その所為で時期に廃嫡され、何処かの家に養子に出されると言う噂が流れているが、根も葉もない噂だと思っていた。
エリオルに関しては解らないが、正妻のヴィオレッタは社交界の華とも謳われ聖女のように美しく気品に満ち溢れた淑女の鑑と謳われる存在でテレシアの憧れだった。
――なんて馬鹿な人達。
第二夫人を正妻として扱い、ヴィオレッタを冷遇するなんて愚の骨頂でしかないと思った。
何故ならヴィオレッタが伯爵家に嫁いだのは政略的な意味があるからだった。
ただしそんな事情は一部の者しか知らないし、実家から何も言ってこないのをいいことにやりたい放題をしている伯爵家の愚かさに呆れていた。
どうして側室の子が後継ぎになり、嫡男を廃嫡するのか。
国の秩序を堂々と破ろうとするラスカル家に嫌悪感しか感じなかった。
騎士団で第五騎士を任される程の腕前を持ちながらもアルハイムは武人として優れているが、司令官としては決定的に欠けている。
テレシアは改めてアルハイムが愚かだと思ったが、伯爵家を牛耳っているアルハイムの母、ヘレネ・ラスカルが一番の原因かもしれないとも思っている。
社交界でもヘレナは気位が高くプライドが高いことで有名だった。
後継ぎが騎士に相応しいスキルがないと思ったら手のひらを返してこれまで丁重に扱っていた嫁を切り捨てたのだから。
とは言え側室が産んだ子供との差が一歳だったことも考えて浮気をしていたことになる。
社交界では第二夫人のエドナは愛し合って生まれたなど言われているが、一部ではエドナを蔑む者はいる。
側室が悪いのではなくその態度があまりにも目に余るのだ。
エドナの態度は第二夫人の品位を汚す以外何者でもないのだから。
人として、女性として、妻としてエドナを好きになれないと思いながら馬車は屋敷に到着した。
あなたにおすすめの小説
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう
さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」
殿下にそう告げられる
「応援いたします」
だって真実の愛ですのよ?
見つける方が奇跡です!
婚約破棄の書類ご用意いたします。
わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。
さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます!
なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか…
私の真実の愛とは誠の愛であったのか…
気の迷いであったのでは…
葛藤するが、すでに時遅し…
王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!
ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」
卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。
なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。
悪役令嬢は自称親友の令嬢に婚約者を取られ、予定どおり無事に婚約破棄されることに成功しましたが、そのあとのことは考えてませんでした
みゅー
恋愛
婚約者のエーリクと共に招待された舞踏会、公の場に二人で参加するのは初めてだったオルヘルスは、緊張しながらその場へ臨んだ。
会場に入ると前方にいた幼馴染みのアリネアと目が合った。すると、彼女は突然泣き出しそんな彼女にあろうことか婚約者のエーリクが駆け寄る。
そんな二人に注目が集まるなか、エーリクは突然オルヘルスに婚約破棄を言い渡す……。
妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。
バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。
瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。
そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。
その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。
そして……。
本編全79話
番外編全34話
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
妹が私の全てを奪いました。婚約者も家族も。でも、隣国の国王陛下が私を選んでくれました
放浪人
恋愛
侯爵令嬢イリスは美しく社交的な妹セレーナに全てを奪われて育った。
両親の愛情、社交界の評判、そして幼馴染であり婚約者だった公爵令息フレデリックまで。
妹の画策により婚約を破棄され絶望するイリスだが傷ついた心を抱えながらも自分を慕ってくれる使用人たちのために強く生きることを決意する。
そんな彼女の元に隣国の若き国王が訪れる。
彼はイリスの飾らない人柄と虐げられても折れない心に惹かれていく。
一方イリスを捨て妹を選んだフレデリックと全てを手に入れたと思った妹は国王に選ばれたイリスを見て初めて自らの過ちを後悔するがもう遅い。
これは妹と元婚約者への「ざまぁ」と新たな場所で真実の愛を見つける物語。
お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です>
【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】
今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?