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序章.始まりの前奏曲
30.伯父
ゆらゆら揺れながらふかふかのソファーが気持ちい。
それに誰だろう?
優しい手が俺を撫でているけど、お母様じゃない。
お祖父様でもない大きな手だった。
「うっ…」
「お目覚めかな?」
「誰?」
目を覚ますと知らないイケメンさんが俺を見つめていた。
「始めまして、私はフランシス・ファゴット。君の伯父さんだ」
「え?」
「ははっ!さぁ伯父さんと呼んでくれるかい?君に会える日を今か今かと待つていたんだよ!」
眠気は一度吹き飛ぶようだった。
身なりはきっちりしている人だけど、少々頭のネジが緩いのだろうか?
無駄にテンションが高いな。
俺は茫然としていたのだが。
「このたわけが!!」
背後から杖が振り下ろされる。
「痛いではありませんか、マジョリカ!」
「夜遅くに騒ぐんじゃないよ!近所迷惑を考えな」
「グランマの方が声が大きいわ。あんまり怒るとお肌に悪いわよ」
つーか、何で師匠とアンジェリカ姉さんまでいるんだろうか。
「ったく、寝たまま起きないなんてどういう了見だ?」
「いや、なんていうか…キャパオーバといいますか」
あの後のことはあまり良く覚えていなかった。
確か庭園の神殿に出て、その後公爵の御子息と‥‥。
「わぁぁぁ!!」
「どうしたんだ!エル!」
伯父さんが俺を抱きしめようとしたが、この際後回しだ。
「どうしよう!俺打ち首、もしくはギロチンだ!」
「何だって?よし、じゃあ伯父さんと隣国に行こうではないか!」
「だから話がややこしくなるからお前は引っ込んでな!」
さらに杖を取り出し殴る師匠は本当に乱暴だった。
「エリオル、どうしたの?」
「だって、俺…ウィルフレッド様が王子様だって知らなくて…散々失礼なことを」
侯爵家で世話係をしている時も色々やらかしてしまった。
しかもお菓子作りを手伝わせたり。
いや、それ以前に庶民のお菓子を食べさせていたような。
パンの耳で作ったお菓子や捨てるのがもったいない節約お菓子を食べさせていた気がする。
「どうしよう王族の人に…殺される」
「まぁ、ウィルフレッド様はそんなこと気にしないわ。大丈夫よ」
いや、本当に大丈夫じゃない気がするんだけど。
でも、何でベルクハイツ家に王子様がいたんだろう?
そこで思い知る。
もしかしてベルクハイツ家って王族の親戚だったりして?
いやいや!そんはなずは。
「まったくロッドもちゃんと教えんか。自分の甥のことを」
「甥?」
「正確にはテレシアの甥だがな」
はい、決定。
ようするにだ。
「テレシア様は…」
「王の妹じゃ。母親は前王妃で、前国王の代理を務めた王太后の実子でもある」
「…ということは元王女殿下?」
俺の想定よりもその先に行っている。
どうしてもっと早くに気づかなかったんだ俺!
「現在の国王の母君は側室だった故に立太子にはかなり荒れたがな」
「伯父様は御存じ…」
「喜ぶな気色悪い!」
俺が伯父様と呼ぼうとすれば目を輝かせる。
ドン引きしてしまうのは仕方ないので許して欲しい。
「それよりもヴィオレッタ…どうしてエリオルが会場にいなかった。それ以前に社交界や公爵家のお茶会に顔を出さず、あげくに我が国の建国祭にあの女が来ていたのは何故だ」
「そのことなのですが…」
「ハッ、これだからお前は馬鹿のじゃ。簡単なことさ」
悪態をつきながらキセルを銜える師匠をアンジェリカ姉さんが宥める。
「ラスカル家はこいつを廃嫡し、家柄の無い家に売り飛ばす気なんだよ」
「は?」
「婿養子に入れられ、なんの権利も与えられず買い殺しにされ、後継ぎができれば殺されるだろうにね?今まで気づかないとは何処まで阿呆なんだい?」
「なっ…なんだと!あのハム野郎!!」
どうしてお父様はハムと呼ばれるんだろうか?
そんなに太っていないのに。
どうでもいい事を疑問に思う最中、伯父様は俺を見て嘆く。
「ああ、可哀想に。今まで苦労していたんだな。ヴィオレッタも国同士の同盟の証として嫁いだ故に何も言えなかったのか…許しておくれ」
「お兄様」
「なんという屈辱。我が帝国を侮辱するも同然だ。いかにアリオス殿に恩があったとしても許されることではない」
同盟の証?
じゃあお母様は祖国の為に嫁いで来たのか?
「もう帰って来なさい。ここまで耐える意味はない。むしろ同盟は破棄しても致し方ない」
「それはできませんわお兄様」
「しかし!」
「私は国を背負って嫁ぎましたのよ?今私が離縁などしたらそれこそ逃げ出したも同然ですわ」
お母様から離縁を言えば、ラスカル家があることないこと言うだろう。
まぁ、言うのはお祖母様と奥様だけど。
「これだから育ちの悪い女は!」
「所詮成り上がりの子爵令嬢のヘレネのやることだからね」
は?
成り上がりってどううこと?
「お前の祖母の実家は子爵家だ。しかも母親は愛人で子爵の愛人で正妻を追いやったんだよ。正妻は病で病死、義姉は屋敷から追い出されてたってわけだ…まぁ、その後アリオスの第二夫人として嫁いだんだがね」
「まったくあんなクソ婆をよく娶ったものだ」
「義務感故だ。仕方ない…しかしアリオスはそれなりに大事にしていたんだが」
その辺は色々事情があるのか詳しくは教えてもらえなかったけど。
やっぱり俺のお祖父様は懐が深いんだな。
改めて思い知った。
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