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「もう遅い」
何がとは聞けなかった。
ラインハルトの言葉を聞きシェリラは黙っていることしかできない。
「リシャール殿下、前ノースライナ侯爵として…私は婚約解消を求めます」
「お義父様!」
「リシャール殿下、どうかお聞き届けください。何卒…先の短いこの老いぼれの命を差し出します。ですが、どうか」
オズワルドは深々と頭を下げる。
「止めてくれ、僕は…」
「本当ですかお祖父様!嬉しい」
「ミレーヌ!」
シェリラとリシャールの婚約解消を聞いて喜ぶミレーヌ。
「何を…」
「お姉様とシャル様では合いませんもの!だって今時政略結婚なんて変だわ!結婚は愛し合った者同士がすべきでしょ?」
状況をまるで理解していないミレーヌにラインハルトは何も言わなかった。
(愚かな…救いようがないな)
内心ではミレーヌに呆れて何も言う気にもなれなかった。
例えシェリラとリシャールが婚約解消になったとしても他に有力な婚約者候補がいるのでミレーヌが婚約者になるとは限らない。
「ミレーヌ、止めなさい」
「どうして?シャル様は政略結婚だから我慢しておられたのよ?お姉様と結婚したくなかったのよ。そうおっしゃっていたもの!」
悪気無く言う言葉にシェリラの中で糸が切れそうだった。
『君と結婚なんてしたくない…何故君なんだ!』
過去の言葉が重なる。
『もうシャル様を解放してあげてください!』
耐え忍んだあの時間はなんだったのか。
愛されないことを悲しんだんじゃない。
これは踏みにじられた思い。
そして――。
(どうしてここまで侮られなくてはならないの!)
例え時間を戻っても。
何をしても運命は変わらない。
屈辱を辱めを受け、そして自分は価値がないと言われなくてはならないのかという思い。
(泣くな…泣く必要はないわ!)
握りこぶしを作り、泣くのを必死に耐える。
ここで泣くなんてプライドが許さなかった。
――絶対になくものか!
泣いて見っとも無い姿を晒す事だけは耐えられなかった。
「顔を上げなさい、泣く必要はありませんわ」
「え?」
涙を堪える中、響いた声には聞き覚えがあった。
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顔を上げるとそこにはかつて好敵手で共に競った人物。
「ヴィオレット様?」
「ごきげんよう」
ヴィオレット・クランベル公爵令嬢。
王家とは親族に当たり前世ではシェリラとは好敵手でもあった。
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