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第一章
25.女官長の見解
しおりを挟むアステリア帝国、シェーンブルク宮殿の傍にある離宮、ローゼン宮殿。
男性はどんな理由があっても許可がない者は入る事を禁じられた女の園であるが、女性も許された者以外は入る事ができない。
この宮殿にいるのは少数の侍女であるが扱いは女官とほぼ変わらず、身分は勿論の事、皇居内の中でも厳選された優秀な侍女達だった。
侍女とは厳しい試験を突破しなくてはならないのだが、ローゼン宮殿の侍女はさらに厳しい筆記試験を受けなくてはならない。
ただし通常の一般教養と異なり、専門的な分野が求められる。
全ての分野に秀でてなくても専門的な分野が一つでもずば抜けていれば問題ないとされるのは、各々担当を決め互いに補い合う事を第一として、皆が一丸になって主を支えることを大事にして欲しいとの事だった。
ローゼン宮殿に仕える侍女は皇族派だけでなく貴族派の令嬢もいる。
かくいう私の家は皇族派で侍女長は貴族派だけど、争う気もなければ貴族派の強硬派に肩入れしようと思った事はない。
私こと、カトリーヌ・ラッドはその意向を守り続けていた。
「女官長、報告申し上げます」
「良くてよ、侍女長」
執務室に入って来た侍女長のレイナ・ハクセン。
彼女は私が直々に指導し最年少で侍女長となった女性で今では私が一番信頼する戦友でもある。
「第一審査は合格です…というか」
「何です?はっきり言いなさい」
レイナにしては珍しいですわね?
常に物言いをはっきり言うのに、口ごもるとは。
「あの…失礼ながら。彼女を侍女にするのはいかがなものかと」
「皇女殿下の侍女としては相応しくないと?」
「その逆です」
「は?」
はっきりしない言い方ですわね。
「彼女は女官にすべきです!」
「なんですって!」
レイナが見せたのは適正審査の筆記試験だった。
「これは…」
「一般試験は問題ありません。満点とは言えませんが合格点はあるのですが…問題はそこではありません。彼女は通常の令嬢ができることは不得意ですが、女官や傍付き侍女が必要なスキルを持っているのです」
聞けば、皇女殿下にお茶を出すタイミングは勿論、茶器への配慮が申分なかった。
「通常は、毒見をさせてからお運びするのですが、彼女は毒見の侍女への配慮をして毒が移りやすい茶器を使い、尚且つ茶葉は毒消し効果がある物を使用し、お菓子にも解毒剤効果のあるハーブ入りのお菓子を用意されております」
「なんですって?」
「皇女殿下のお使いになるナフキンに関しても常に新しい物と交換して細心の注意をするだけでなく、芳香を使って最後の警戒心を怠りませんでした」
ここまでの細心の注意をできる侍女がいましょうか。
「女官長、ご報告いたします」
「入りなさい」
皇女殿下の傍付きの侍女の一人、カノンが入って来ました。
「アリアに関してですが、皇女殿下の配慮は勿論の事。同僚の配慮にも申し分ありませんわ。何も言わずに私達の休憩時間に合わせてお菓子とお茶の用意、言う前に資料の整理と、わざと間違った書類を入れておきましたが気づいて修正しております」
「まぁ…」
「オディールが嫌がらせで仕事を押し付けましたが、喜んでましたわ」
喜ぶとはどういう事でしょう?
何故仕事を押し付けられて喜ぶ必要が。
「なんと申しますか…彼女は決して頭が悪いわけではありません。ただあまりにも自分を過小評価しているのでは…自信の無さが行動に出てしまっていますが、裏方の仕事は完璧です。それに無駄なおしゃべりもなさいませんし」
皇居ではべたべらとくっちゃべる侍女だけでなく令嬢が多い。
下手に噂話をして自分の首を絞めている事にも気づかない愚か者が多すぎる。
噂など信じるに値しないので、この宮殿にいる侍女は噂は半信半疑でしたが、詳しく調べる必要があります。
噂が流れたのは五年前。
ちょうどハント侯爵家と婚約されてからですから。
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