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第一章
8リシュベール伯爵家
しおりを挟むリシュベール伯爵家にて。
ギルバートの弟のアーネストは床に頭を付け土下座をしていた。
「この度はうちの馬鹿娘が申し訳ありません!」
「なんとお詫びを申し上げていいか…」
隣で同じく頭を下げるのはリシュベール伯爵夫人アンナリーゼも同様だった。
娘のしたことで、カメリス家は勿論のこと。
ギルバートとレオノーラに沙良にも迷惑をかけてしまったことを心から詫びた。
「正直、アンネローゼの事は許せることではない」
「はい。兄上」
「婚約がどうしても嫌だとしても、こんなやり方は、相手方に対して失礼だ」
「ええ、幸いにも相手方は、大ごとにする気はないと言ってくださっていますが…私はサラを犠牲にしたことを未だに悔やんでいます」
本来ならばクリスチャンに逆らってでも講義する気だったが、既に話は進んでいる。
しかも元老院の一人でもあるクリスチャンに逆らうのは得策ではなく。
今回の不祥事が社交界に流れれば、リシュベール家の信用は地に落ちると言っても過言ではないのだから。
「サラは私達を守るためにこのような…」
「レオノーラ」
ハンカチを握りしめ泣きそうな表情になる妻を抱きしめるギルバートも歯がゆい思いだった。
「アンネローゼはサラを軽んじ、見下していたからね…最初からサラを身代わりにするつもりだったのかもしれない」
「違うと言いたいのですが…可能性があります」
「やっぱりそうか」
いくら何でも用意周到だと思った。
温室育ちで世間知らずなアンネローゼが簡単に失踪なんてできるはずもない。
万一アンネローゼが逃げたとしても沙良が身代わりになればいいと思っていた可能性がある。
「やはりそうか…あの子ならやりかねない。今回の落とし前はどうつける気だ」
「はい」
ギルバートはいくら弟であっても簡単に許すわけには行かない。
情に厚いからこそ、今回の事件は沙良を犠牲にしても良いと言う考えのアンネローゼが許せなかった。
「娘を見つけ次第、あの子は勘当します」
「こんなことで許されるとは思っておりませんが、修道院に入れる気です」
「そうか…」
早急に探し出し、一刻も早く両家に謝罪させることを誓うアーネストをこれ以上責めることはできなかった。
「しかし、どうしたものかしらね」
「ああ、このまま結婚させていいのか迷っている。公爵様も乱暴すぎる」
既に決まってしまった事でも、やはり無理やり結婚せざる得なかった沙良を思うとやりきれない。
「社交界で、心無い噂にあの子が傷つくようなことがあるならば…離縁も考えなくてはならない」
「そうね…その時は全力で守りましょう」
できる事ならそんなことになって欲しくない。
離縁とは女性にとって不名誉な事で、後ろ指を刺されて生きて行くことになるのだから。
既に沙良は、ギルバートとレオノーラにとって大事な娘だった。
「サラはアンナマリーの恩人でもあります。私達も、今後は出来る限りの支援をいたします。人の口には戸は立てられませんが…できる限り不名誉な噂は取っ払えるようにいたします」
「どうする気だ」
既に、社交界ではアンネローゼがアレクセイと婚約関係にあること知らされている。
「ええ、元は私達がお願いして婚約を結んだのですが…此度の婚姻は相手側が望んだということにすると」
「何?」
「先方側がサラを望んだと言うことにすれば、誹謗中傷は少ないかと」
事情を知らない者からすれば、アンネローゼから婚約者を奪った悪女となるサラを周りはどんな目で見るか明らかだった。
だからこそカメリス伯爵家は、噂を流すことにした。
「なるほど、アレクセイ様ご自身がサラとの婚約を望んだと言うことにするのですね」
「だけど、心無い者はサラの噂を面白おかしく流しますわ」
「度の道、サラが中傷を受けるのは免れない…頼みはアレクセイ様だ」
夫となるアレクセイの手腕により、サラを何処まで守れるかにかかっている。
先行きが心配で仕方ない二人は冷めた紅茶を飲みながら不安を抱くのだった。
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