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第二部.薔薇の花嫁
閑話3.失墜した権威
フローレンスの転落事故は学園内では留められることはなく、社交界でも噂になっていた。
同年代の貴族子息から人気があったジェネットであるが、後継ぎとなる長子達からはジェネットの悪評は有名だった。
社交界では礼儀作法ができていない者は恥だと思われ、昔ながらの伝統を重んじる貴族は年長者に礼を尽くせない子息子女を受け入れることはない。
学園内で事故が起きて一週間。
自宅謹慎を命じられていたはずのジェネットは変わらずにパーティーに参加していた。
「まったく、なんて迷惑なのかしら」
「本当だ…何処までも迷惑で出来損ないだ」
アスガルト伯爵、カーネルは憤りを感じていた。
フローレンスが階段から転落して意識不明状態で運ばれたことを知らされるも、彼はフローレンスに対して怒りしかなかった。
「貴族令嬢としての振る舞いもなっていないとは…はやり、あんな出来損ないは即刻追い出して正解だ」
「どうせ大した怪我ではありませんわ…あのまま事故死でもしてくれれば良かったのに」
「ああ、まだしぶとく生きているのだろう?精神力はゴキブリのようだな」
実の娘でありながらあまりにも酷い言葉を平気で吐き続けていた。
学園側からは当分の間、公共の場に出るなと言われながらも守る気がまったくない。
彼等からすればたかが学園の教師の言葉など重要ではなかった。
自分達は伯爵家であり、名門貴族の一員なのだから聞く必要はないと思っていたのだが…
パーティー会場に入ろうとした時だった。
「失礼ながら招待客ではない方をお入れするわけには行きません」
「何ですって?」
「無礼者!私達を誰だと思っているんだ!」
中に入ろうとするも門番に阻まれ、カーネルは顔をしかめた。
「本日のパーティーはオーディン公爵夫人の主催する為、招待していらっしゃらない方は参加できません」
「何を言っている!招待状はここに!」
「無礼者!私達は招待されているのですよ!」
妻のアミールもヒステリックに叫ぶが、ここは邸前の玄関先だった。
人の出入りが多い場所で叫べば、招待客にも聞こえてしまうし、どんなに鈍かろうと気づく。
「まぁ…なんてはしたない」
「気品の欠片もありませんこと」
「なっ!」
ヒソヒソ囁くでもなくしっかりと聞こえる声だったのでアミールは睨んだ。
「まぁ、怖いですわ」
「まるでメデューサのようですわ。睨まれると石になってしまいますわ」
「ええ…恐ろしい事」
不敵に微笑みながらあざ笑う貴族の夫人達は、普段からアミールを良く思っていなかった。
「なんて無礼な!」
「まぁ、声をあげるなんてはしたないですわ。流石お育ちの悪い方は違いますわね」
「本当…ルチア様は振る舞いも優雅で美しゅうございましたのに」
「鳶が鷹ではなく雌鶏を生んだのではなくて?」
「フフッ…嫌ですわ。鶏に失礼ですわ」
クスクス笑いながらアミールを馬鹿にする。
この言い回しは、子供を産んだ後は老いて利用価値がなくなると言っていることを意味していた。
雌鶏は卵を産んだ後は年老いた後の鶏は肉も硬くマズイとされている。
その為に利用価値がないと言われていたのだ。
「なっ…」
ここまで攻撃的な言葉を吐かれたことはない。
元から堪え性がないアミールは真っ赤になって震えるだけで、微笑んで受け流すことはできなかった。
その所為で、さらに他の貴族夫人達の攻撃の的になっていた。
「招待されてないのに図々しくパーティに参加するなんて」
「本日のパーティーの趣旨を理解していないとしか思えんな」
会場に入って来る貴族達から次々に攻撃を受け、反論しようとするも。
反論する前に言われてしまい、成すすべもなかった。
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