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70エレンディスの恋⑤
しおりを挟む社交界で前代未聞の事件が起きた。
ロベスペール侯爵家の次男とカスティージョ伯爵家の令嬢が駆け落ちをした。
その所為で両親は精神的ショックを受け社交界から姿を消した。
「こんなのアリアに責任を擦り付けたも同然ではありませんか」
「夫も資金調達と言いながら船が動かず帰ってこれないなんて都合が良すぎるわね?船が動かなくても陸路から帰るとか、他にも色々手段はあるのに」
一家そろって屑だ。
アリアにすべての責任を擦り付けるつもりだ。
領地に引き込んでいれば安全だ。
一家そろって逃亡すれば謝れるが、一人でも残っていれば責任を取れる。
「アリアが余りにも…」
「そうなのだけど。アリアがやる気になっているのよ」
「は?」
やる気って、何だ?
「お家の危機なので今こそ役に立つときと言って落ち込むどころかやる気になっていて」
「アリア…」
恐らく彼女は前フリーシア伯爵夫人の教えを守っているのだろう。
妻たる者家を守るのが役目だ。
同時に夫の留守を守るのが妻というのが百姓貴族夫人の美徳で。
フリーシア家の嫁の勤め五か条がある。
「きっとアリアの事だから謝罪文を書いているのではなくて」
「ありえます。邸に出向き土下座して詫びに出て、罵倒を浴びに行くのでは…」
私の予測は当たった。
アリアは私が思う以上に前向きな女性で、メリッサ嬢の代わりに謝罪をして、魔の巣窟に単身で乗り込んだ。
「エレンディス、お姫様一人で敵地に乗り込ませる気?」
「無論、私も」
「結構。ならば命じます。彼女を守りなさい。ただし身体的攻撃があった場合。悪口や中小の場合は動いてはなりません」
「何故です!」
「女の戦いに殿方は介入すべきではありません。アリアの戦いに水を差す事は許しません」
この時は侯爵夫人の言葉を理解できなかった。
だが、私はその後自分がどれ程馬鹿だったか気づかされた。
「責任を取るならメラミン病を治して見なさい」
邸内で敵意に晒され、メリッサ以上の所為で精神的に苦しみ、メラミン病が悪化したご息女を治せと無茶を言われたアリア。
いくら何でも無理だ。
ご息女はメラミン病になり手の施しようがない。
初期の段階ならばまだ良いが時間がたちすぎている。
なのに…
「あの…メラミン病は薬草で治りますが」
「は?」
この時私も耳を疑った。
あの病を治せる?
「義妹のお詫びに他の薬草もどうぞ」
いや、普通に高価薬草をはいどうぞするってどうなんだ!
周りの空気が一瞬で変わる。
「何で…」
そして罵倒を浴びせていた夫人は傷ついた表情をしていた。
恨むべきはアリアではないと解っていたのだろう。
そしてアリアも気づいていた?
だからこんな真似を。
「何で貴女は何も言わないのよ」
アリアには関係なのに責めた事を悔やんでいる。
元は面倒見が良く貧しい平民の女性に援助する優しい方だ。
だからこそアリアを責めるのは本意でなかった。
根は優しい方だった。
アリアは今日初めて会ったのに気づいていたのか。
その後ロベスペール侯爵夫人の登場により場は収まった。
予感がした。
ロベルペール侯爵夫人は最初からアリアの本質を見るべく仕掛けたのだと。
後に使用人としてロベルペール家に働くアリアは最初こそは嫌がらせを受けるもアリアの性格を知った侍女達はアリアを認める所か庇い始め、社交界からも守り始めたのだった。
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