97 / 196
96聖女の君~エレンディスside
しおりを挟む
昼夜問わず灯が消えることなく、真夜中も灯が消えることなく患者を献身的に看護する姿に多くの患者は希望を見出した。
後に彼等はこう呼んだ。
――ランプの天使。
私達が見守る中アリアは寝ないで看護する日々。
患者の家族もそんな彼女にどれだけ励まされたか解らず、せめて彼女を手伝いたいと名乗りを上げて来た女性が増えだした。
薬を投了して一週間。
末期症状だった高齢の患者は顔色が良くない危機を脱した。
まだ油断はできないが、真っ青な顔色から血色のある肌に変わった。
次に幼い子供が例の薬で失明したのだが、陰程度ならば判別できるまで回復していた。
完璧とは言えないが、良い方向に進んでいた。
「ありがとうございます…ありがとうございます!」
「大変なのはこれからです」
そう、経過状況を見ながら今後のリハビリは厳しい物になる。
失明をした患者の治療も厳しくなるだろうし。
「何処に行っても門前払いで諦めろと」
「それは…」
この言葉に多くの医師達の表情が曇る。
彼等だって好きで治療を拒否したわけじゃない。
「他の医師は…」
「一つだけ誤解をなさらないでください」
「え?」
患者の家族の言葉を諫めるようにアリアは告げた。
「治療を拒んだのは、最善の方法だからです」
「最善…って」
「医師には専門分野があります。西洋医学…メスを使った医療が得意な医師。彼等は西洋医学では救えない。むしろ寿命を縮めると思ったはずです。本当に何もせずに門前払いされましたか?」
「診るだけで…」
「恐らくこれ以上悪化させてしまう。だけど下手に希望を持たせるのは惨い事だと思ったはずです」
「でも!」
確かに患者の家族の言い分は解るが、医者だって神じゃない。
むしろ神ですらどうにかできるなんて考えを捨てなくてはならないのかもしれない。
「医療に関わる者は誤解されます。中には心無い医師もおりましょう」
「そうじゃな…我ら医師は助けられる命とそうでないものがある。救えなかったら罪びととされる」
老先生は悔しそうに言う。
私もこれまで誠意を持って治療をしてきたにも関わらず、救えなかった事で罵倒を浴びせられ、相手が貴族だった為に足を切られた者もいる。
理不尽な仕打ちを受けた医師も多くいるのだ。
「今回もそうです。その医師の方は救いのに救えない悔しさを感じているはずです」
「知りませんでした」
家族を失いたくない。
そんな思いで耳を貸す余裕がないのも無理はない。
「大変な思いをして他人の思いを汲み取れなど無理を申しました。ですが医師は人を救う為に心血を注いでいる事を忘れないでください…医療は国の為にあるのでありません」
「はい…はい!」
涙ながら謝る姿に胸が痛む。
その一方で背後で泣いている医師を見て私は…
「聖女様だ」
これは落ちたなと思った。
その後、アリアは医師達にも尊敬の念を抱かれ聖女様と呼ばれるようになったのだった。
後に彼等はこう呼んだ。
――ランプの天使。
私達が見守る中アリアは寝ないで看護する日々。
患者の家族もそんな彼女にどれだけ励まされたか解らず、せめて彼女を手伝いたいと名乗りを上げて来た女性が増えだした。
薬を投了して一週間。
末期症状だった高齢の患者は顔色が良くない危機を脱した。
まだ油断はできないが、真っ青な顔色から血色のある肌に変わった。
次に幼い子供が例の薬で失明したのだが、陰程度ならば判別できるまで回復していた。
完璧とは言えないが、良い方向に進んでいた。
「ありがとうございます…ありがとうございます!」
「大変なのはこれからです」
そう、経過状況を見ながら今後のリハビリは厳しい物になる。
失明をした患者の治療も厳しくなるだろうし。
「何処に行っても門前払いで諦めろと」
「それは…」
この言葉に多くの医師達の表情が曇る。
彼等だって好きで治療を拒否したわけじゃない。
「他の医師は…」
「一つだけ誤解をなさらないでください」
「え?」
患者の家族の言葉を諫めるようにアリアは告げた。
「治療を拒んだのは、最善の方法だからです」
「最善…って」
「医師には専門分野があります。西洋医学…メスを使った医療が得意な医師。彼等は西洋医学では救えない。むしろ寿命を縮めると思ったはずです。本当に何もせずに門前払いされましたか?」
「診るだけで…」
「恐らくこれ以上悪化させてしまう。だけど下手に希望を持たせるのは惨い事だと思ったはずです」
「でも!」
確かに患者の家族の言い分は解るが、医者だって神じゃない。
むしろ神ですらどうにかできるなんて考えを捨てなくてはならないのかもしれない。
「医療に関わる者は誤解されます。中には心無い医師もおりましょう」
「そうじゃな…我ら医師は助けられる命とそうでないものがある。救えなかったら罪びととされる」
老先生は悔しそうに言う。
私もこれまで誠意を持って治療をしてきたにも関わらず、救えなかった事で罵倒を浴びせられ、相手が貴族だった為に足を切られた者もいる。
理不尽な仕打ちを受けた医師も多くいるのだ。
「今回もそうです。その医師の方は救いのに救えない悔しさを感じているはずです」
「知りませんでした」
家族を失いたくない。
そんな思いで耳を貸す余裕がないのも無理はない。
「大変な思いをして他人の思いを汲み取れなど無理を申しました。ですが医師は人を救う為に心血を注いでいる事を忘れないでください…医療は国の為にあるのでありません」
「はい…はい!」
涙ながら謝る姿に胸が痛む。
その一方で背後で泣いている医師を見て私は…
「聖女様だ」
これは落ちたなと思った。
その後、アリアは医師達にも尊敬の念を抱かれ聖女様と呼ばれるようになったのだった。
201
あなたにおすすめの小説
妹に婚約者を奪われた上に断罪されていたのですが、それが公爵様からの溺愛と逆転劇の始まりでした
水上
恋愛
濡れ衣を着せられ婚約破棄を宣言された裁縫好きの地味令嬢ソフィア。
絶望する彼女を救ったのは、偏屈で有名な公爵のアレックスだった。
「君の嘘は、安物のレースのように穴だらけだね」
彼は圧倒的な知識と論理で、ソフィアを陥れた悪役たちの嘘を次々と暴いていく。
これが、彼からの溺愛と逆転劇の始まりだった……。
前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
初恋の人を思い出して辛いから、俺の前で声を出すなと言われました
柚木ゆず
恋愛
「俺の前で声を出すな!!」
マトート子爵令嬢シャルリーの婚約者であるレロッズ伯爵令息エタンには、隣国に嫁いでしまった初恋の人がいました。
シャルリーの声はその女性とそっくりで、聞いていると恋人になれなかったその人のことを思い出してしまう――。そんな理由でエタンは立場を利用してマトート家に圧力をかけ、自分の前はもちろんのこと不自然にならないよう人前で声を出すことさえも禁じてしまったのです。
自分の都合で好き放題するエタン、そんな彼はまだ知りません。
その傍若無人な振る舞いと自己中心的な性格が、あまりにも大きな災難をもたらしてしまうことを。
※11月18日、本編完結。時期は未定ではありますが、シャルリーのその後などの番外編の投稿を予定しております。
※体調の影響により一時的に、最新作以外の感想欄を閉じさせていただいております。
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。
冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。
ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。
事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw
どうやらこのパーティーは、婚約を破棄された私を嘲笑うために開かれたようです。でも私は破棄されて幸せなので、気にせず楽しませてもらいますね
柚木ゆず
恋愛
※今後は不定期という形ではありますが、番外編を投稿させていただきます。
あらゆる手を使われて参加を余儀なくされた、侯爵令嬢ヴァイオレット様主催のパーティー。この会には、先日婚約を破棄された私を嗤う目的があるみたいです。
けれど実は元婚約者様への好意はまったくなく、私は婚約破棄を心から喜んでいました。
そのため何を言われてもダメージはなくて、しかもこのパーティーは侯爵邸で行われる豪華なもの。高級ビュッフェなど男爵令嬢の私が普段体験できないことが沢山あるので、今夜はパーティーを楽しみたいと思います。
幼馴染が熱を出した? どうせいつもの仮病でしょう?【完結】
小平ニコ
恋愛
「パメラが熱を出したから、今日は約束の場所に行けなくなった。今度埋め合わせするから許してくれ」
ジョセフはそう言って、婚約者である私とのデートをキャンセルした。……いったいこれで、何度目のドタキャンだろう。彼はいつも、体の弱い幼馴染――パメラを優先し、私をないがしろにする。『埋め合わせするから』というのも、口だけだ。
きっと私のことを、適当に謝っておけば何でも許してくれる、甘い女だと思っているのだろう。
いい加減うんざりした私は、ジョセフとの婚約関係を終わらせることにした。パメラは嬉しそうに笑っていたが、ジョセフは大いにショックを受けている。……それはそうでしょうね。私のお父様からの援助がなければ、ジョセフの家は、貴族らしい、ぜいたくな暮らしを続けることはできないのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる