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序章目覚めた記憶と本当の愛
1悲しみの日々
――真実の愛。
かつて社交界を騒がせた言葉でもある。
とある伯爵家は真実の愛を貫いたと有名だった。
平民ですら結婚は親が決めた者同士がすることが当たり前の時代、真実の愛を貫いた男女がいた。
周りの反対を押し切り愛し合う二人は、駆け落ち同然で夫婦になったそうだ。
今でもロマンス小説でも描かれている。
すべての障害を乗り越えて愛し合う者同士が幸福になった美談。
だが、平民と違い貴族は義務と責任が生じる。
真実の愛を貫くのは安易なことではないのだが、貴族でありながら真実の愛を貫いた夫婦がいた。
社交界でも誰もが羨むシャンデラ伯爵家だった。
二人は互いに婚約者がいながらも立場の垣根を越えて愛し合い夫婦になった。
その後子宝にも恵まれ現在では社交界では誰もが羨む理想の一家だった。
貴族において子宝に恵まれることは稀であり、現在も分家から婿養子を迎えなくてはならない程のご時世だった。
そんな中、愛のある結婚をした後に一男二女に恵まれていたのだから。
資産家としても成功を収め、長女は社交界の華と呼ばれる程の美女で太陽のようだと謳われていた。
何もかも恵まれている…
そう、表向きは完璧だった。
ただ、その完璧な家族は犠牲の上に成り立っていることを彼らは知らないのだ。
笑い合う家族の中、一人孤独の苦しみに耐え忍んでいる妹にも気づかずにいた。
「見て、また一人で」
「クスクス…本当に気の毒ですわね」
「でも、仕方ありませんわ。太陽のように美しいファティマ様の妹がねぇ?」
「まるで光り輝く太陽と陰月ですわ。両親もそう思ったのではなくて?」
「光り輝く存在と陰の光ですものね?」
華やかな舞台で男性の視線は釘付けになる姉の一方で、令嬢から冷たい視線を向けられる妹。
この場にディアナを助けてくれる存在はいない。
「婚約者にもエスコートをされないなんて」
「本当に惨めなこと…」
婚約者ですらディアナを助けようとしないのだから。
家族の中心は美しい姉。
引き立て役の妹は今夜も苦しみに耐えながら夜の小さな月を見上げて過ごすのだった。
「ファティマ!素敵だったわ」
「ありがとうお母様」
「本当に誰よりも美しいわ」
「ああ…本当に」
一曲が終わり、ファティマを家族が囲む。
その中にディアナの存在はない。
なのに家族は幸せいっぱいの理想の家族が出来上がっていた。
――どうして笑っていられるの。
そう言えたらどんなに良かったか。
けれど言えない。
言ってはならないと今日も必死に耐えるしかない。
「本当にオルフェがいてくれてよかったわ」
「僕も公平ですよ。美しい姫君のダンスのお相手ができるのですから」
手の甲にキスをする姿はまるで絵になる。
相思相愛の恋人同士か、婚約者同士であると言われてもおかしくない。
そう思えてしまうディアナは己の内の黒い感情にそっと蓋をするしかなかった。
――こんな感情を抱いてはいけないのだから。
「お姉様は、オルフェ」
「あら?こんなところにいたの?ディアナ」
笑顔を作りながらシャンパンを持って二人のもとに行くディアナは今日も笑顔を作る。
大丈夫…
まだ大丈夫だと己に言い聞かせるしかなかったのだから。
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