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序章目覚めた記憶と本当の愛
2家族だから
家族の輪の中に入り、グラスを二人に差し出す。
「あら?シャンパンなの?」
「今日は生憎シャンパンだけだったの。ごめんなさい」
「仕方ないわね」
差し出されたグラスを受け取るファティマに苦笑する。
「それにしてもオルフェのダンスは本当に良かったわ」
「なら次のダンスもお願いしたら?」
「えっ…次は」
社交界ではダンスにもルールがある。
独身同士ならば問題ないが、婚約者がいる場合等は暗黙のルールがあるのだ。
「いいでしょう?ファティマは婚約解消されてパートナーがいないんだから」
「そうだ。家族なんだから助け合うべきだ」
「僕は光栄です。ディアナは優しいから大丈夫ですよ」
家族だから優しくする。
家族だから大切にする。それがシャンデラ伯爵家の口癖だった。
「おいおい、一応礼儀を通さないと…」
「お兄様ったら硬すぎるわ」
「そうよ」
一応止めようとしていた長男のカミエル。
「ディアナ。お前は優しいから許してやれるだろ?」
「ええ…お兄様」
「もう気にし過ぎよ!どうせ結婚したらいつでも踊れるんだから!」
誰もディアナの心に寄り添わない。
他人がどんな言葉を投げてディアナを傷つけようとも、家族は「ディアナは優しいから」こんなことで怒ったりしない。
家族なんだから助け合って当然だと振りかざすのだから。
貼り付いた笑顔の中、心の悲鳴は続く。
この場にいたくない。
誰か助けてと言いたいけれど、言えないのは不安があるから。
良い子でなくては嫌われる。
優しい妹でなくてはいけないという思いと同時に姉は傷ついている。
だから我慢しなくてはならない。
そう言い聞かせていた。
ここまで家族がファティマに過保護になるのは理由がある。
三カ月前、王家に嫁ぐはずのファティマは婚約解消となった。
社交界ではとある噂が浮上しており、第二王子が平民の少女に恋をして真実の愛を貫いた等と言われている。
王家からは婚約解消を求められ、伯爵家でしかないシャンデラ家は従うほかなかった。
通常の貴族の婚約解消だけならばそこまで痛手ではない。
だが王家となれば話は別で、これまで社交界の華と呼ばれていたファティマにとってはプライドをズタズタに傷つけられてしまったのだ。
次の婚約者を探そうにも傷ついたファティマの心が癒えるのが最優先だった。
特に家族から溺愛され大切にされたファティマを守る為に白羽の矢が立ったのが、ディアナの婚約者のオルフェだった。
傷心するファティマを守るべくオルフェは舞踏会でパートナー役を買って出たのだが、優先するのはファティマばかりで、社交界では不穏な噂が広がりつつあった。
だが家族は…
「噂なんて気にしなくていいわ」
「家族なんだから姉を守ってやりなさい」
「ディアナは優しいんだから分かるだろ?姉妹なんだから」
こんな言葉が返って来た。
ディアナもファティマを心配はしていたし、噂は我慢すればいいのだと思ったが。
ただ一言だけ欲しかったのだ。
姉の口から。
――ごめんねディアナと。
だが、ファティマは謝るどころか当然のように振る舞い、増長していくばかりだった。
我儘を言うファティマに笑って許すディアナ。
これが当たり前だった。
ディアナの犠牲により、家族は平和を保っていた。
「ご家族は先にお帰りになりましたよ」
「えっ…」
そしてその行動はエスカレートしていき、ディアナを蔑ろにしても当たり前。
いないものとして扱われていたのだった。
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