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序章目覚めた記憶と本当の愛
7小さな守護獣
社交界にとって噂とは時として一人の人生を壊すに十分だった。
偽りを真実にして、真実を偽りにする。
貴族達が通う学園でもそれは同じだった。
「見て、あの方よ」
「ああ、あれが陰の君」
クスクスと笑う声。
すれ違う生徒の中には嘲笑う者も多かった。
憐みの視線もあるが半分以上が蔑むような視線だった。
人通りのある場所を避けて中庭を抜けて向かった先は馬小屋だった。
この王立学園では数多の名馬が育てられていた。
通常、学園に入って一年生、二年生は必須科目として乗馬の授業があるのだが、希望すれば乗馬の授業を受けられる。
また教師の推薦があれば乗馬の授業を先取りできるのだ。
ディアナは一年生の頃から乗馬の授業を先取りしており、担当教師にもその才能を見込まれ休み時間にも馬小屋に訪れては乗馬をしていた。
「ディアナさん」
「ごきげんよう。アイオロス先輩」
騎士科に所属する先輩に挨拶をするディアナ。
一年生の頃に馬術の才を買われてから気心の知れた仲だった。
「本日もお一人で」
「はい」
「そうですか」
アイオロスが言わんとしていることは理解している。
本来なら学園内で婚約者がいる生徒は休み時間や昼休み時間は一緒に過ごすのが当然だったが、ディアナは一人で過ごしていた。
「姉君の事は伺っております」
「騒がせて申し訳ありません」
「貴女が謝る必要はございません」
クラスでも疎物扱いをする中でアイオロスは噂に囚われず接してくれた。
それが何よりも嬉しいと思った。
「ヒヒィン!」
「ロシナンテも起きたようですね」
「おはようロシナンテ」
馬小屋から抜け出し、ディアナにすり寄る小さな馬のような豚のような生き物。
種別的には馬の部類に入るが、小さなロバのようだった。
「今日は我らの訓練に付き合い、先ほど眠っていたのですが」
「そうだったのですか。ロシナンテはお役に立っておりますか」
「ええ。流石ディアナさんの守護獣です」
この学園には数多の生き物が存在する。
魔獣と呼ばれる存在や人類以外の種族の生き物が多く生息する。
王族や王族の血縁者は生まれながら強い魔力を持ち、貴族も魔力を持っている。
ただし、魔力があっても戦闘に従事する者はそう多くない。
騎士科の生徒の中でも花形は炎の精霊と契約することだ。
シャンデラ伯爵家も僅かながら魔力がある。
家族の中でも魔力が強いファティマは精霊との契約をしている。
守護獣は黄金のオウムだったが、ディアナの守護獣は小さなロバだった。
「おや、風が吹きましたね」
「あっ…」
風が吹くと同時に足元にキノコが見える。
「小人さん達がお出ましですよ」
「はい」
しゃがみ込み、手を差し伸べると小さな小人達が顔を見せる。
森の小人達だった。
「こんにちは」
ひょっこり顔を見せる小人達は花や木の実を差し出す。
「本当に小人さん達と仲良しですね」
「はい…」
言葉を発さないが、野に咲く花や、木の実を帽子に入れて差し出す彼らは職人だった。
国内では職人と言えばドワーフだが、あくまで彼らは武器職人だった。
小人達は木こりだったり服飾を作る職人だったりする。
一般的には鉱夫だと言われているのが小人の国という絵本だった。
「ディアナさんはまるで妖精姫ですね」
「え?」
「小人に愛される妖精姫です。騎士団の妖精様でもありますが」
優しく言われて泣きそうになりながらも嬉しくなった。
――まだ大丈夫。
そう言い聞かせながらもディアナの心は少しずつ罅が入り続けていた。
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