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第1章白銀の錬金術師の奮闘記
12塩ビスケット
ディアナに案内され玄関に入ると二人は驚いた。
入った瞬間に温かさを感じたのだ。
夕方になって気温が下がり、学園内でも寒さを感じるのにここは別世界だと思った。
足元から熱風を感じ、廊下にはランプの灯りが灯っている。
ラベンダーの香りに心が安らぐようで、驚きの連続だったが、更に驚くこととなる。
ダイニングに入ると天井が高いのに温度は一定に保たれ、換気もしっかりされている。
アンティークが並ぶ調度品は古いが質が良く、テーブルの上に用意されたティーセットはまるで美術館の展示物のように計算された美しさを放っている。
「ここ何処?」
「学生寮です」
「私が幼少期に過ごした離宮よりも立派だよ」
生徒の間では住人のいない宮とも言われるほどの不人気。
別名オンボロ宮殿という名がつくほどだったが、そんな噂を流した馬鹿を罰してやりたい。
「居心地がいいな」
「はい、懐かし…いいえ、失礼しました」
古びた暖炉を見て懐かしむシリルは急いで口を塞ぐ。
「お二人とも、どうぞ」
ルクティアがお茶の準備をし、声をかけ二人は席に座る。
「お茶を飲んでもいいのか」
「はい…まだお茶しか飲めなくて」
「そうか」
テーブルに用意されたお茶とお菓子。
ディアナはまだお茶しか飲めないので二人分だけ用意されていた。
しかし二人は手をつけなかった。
「あの…お気に召されませんでしたか?」
「病人の前で私達だけ食べられるわけないだろうが」
「あっ…」
食べないのはお茶請けが気に入らないからではない。
目の前でお茶しか飲めないディアナの配慮だった。
「せっかくだ。寮に戻っていただく。食べ物を粗末にするのは論外だ」
「ふふっ…そうだね。それにこの塩ビスケット。実は私とハイネの大好物なんだ」
お茶請けに出されたのは塩味が効いたビスケットだった。
幼いころから二人はこのビスケットを好んで二人で半分こして食べていたのだ。
「こちらのビスケットはハイネ様がよくお嬢様に送ってくださったものを似せて作りました」
「ティア!」
「そうか…ハイネらしい」
社交界では見た目が美しいお菓子が流行している。
塩ビスケットは貴族の中で食べられはするも、お茶会ではあまり出されない。
その理由は見た目が地味だからだった。
甘さもほとんどなく、貴族令嬢からは好かれていない。
「私も勉強の合間にハイネ様からいただきました」
「やっぱりハイネ様はお優しいです。とっても」
ディアナは今になって思い出す。
口数は少なくとも、今までハイネはディアナに不器用な優しさを向けてくれていたことを。
誕生日の祝いには令嬢に送るには不釣り合いな聖書並みに分厚い薬草学や語学の本が多かった。
家族の中では教養を身につけろという意思表示だったと言われたが、違ったことが分かる。
(あの方なりのエールだったんだ)
見た目の華やかさではなく本質を見抜いていたハイネに笑みがこぼれるようだった。
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