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第1章白銀の錬金術師の奮闘記
29陰から見守る者
浮き沈みが激しいと思った。
公衆の面前で婚約破棄を突きつけられ悪役にされていた時のことを思えば自己肯定感が出てきたと思ったが、問題も生じている。
「やはり、婚約破棄の影響で貴族令嬢としての自信を失っているかもしれんな」
お茶会での毒殺未遂事件から日も浅く、あれから両親がディアナに会いに来たことはないと聞かされたシリルは心配になった。
「随分鬱陶しい表情です事」
「ロクサーヌ…」
「私の顔を見て嫌そうな顔をしないでくださる?」
背後から声をかけられたシリルは後ずさった。
また何か言われるのかと思い、身構えてしまうのは幼少期からの癖である。
「彼女の事を考えていたのでしょう?」
「なっ…私はシャンデラ嬢の事など考えていない」
「あら?私は誰かなんて言っていなくてよ」
確信犯のロクサーヌが気づかないわけがないが、あえて仕組んだ言い方をした。
「貴族ならば本音を隠しなさいと何度も教えたはずよ…まぁ、普段はちゃんと氷の貴公子ですものね?」
「勝手に周りがつけた名だ」
シリルが望んで氷の貴公子になったわけではない。
フォレスト家は代々水の手の使い手だったがその中でも氷の魔術を得意とするシリルは外見と言動により氷の貴公子と呼ばれたのだった。
氷のように鋭く冷たく。
どんな時も不正を許さない潔癖さ、これまで涙で訴える女子生徒を容赦なく裁いてきたこともあり、冷酷な貴公子だとも言われている。
「氷の貴公子殿が一人の女子生徒にねぇ?」
「違うと言っている」
「同情?憐み?」
ロクサーヌのあんまりな言葉に殺意を飛ばし、一瞬だけその場の空気が凍り付く。
「口が過ぎる。特に最後の言葉は取り消せ」
「感情的ね」
「同情や憐みは相手に対して失礼だ。彼女はそんな弱い人間じゃない」
婚約破棄された令嬢が最後に行き着くのはどういう道か。
親にも見捨てられたディアナは周りから哀れに思われるだろうが、シリルはディアナに同情などしていなかった。
「踏みつけて散る花じゃない」
特別科に転科して生徒会に入ってからのディアナの仕事ぶりを見てきたシリルは気づいていた。
泣き寝入りするような弱い令嬢ではない。
転んで誰かに起こしてもらうような何もできない弱い人間でもない。
どんなに傷ついていても自分の足で立ち上がり歩いていく強さを持っていると思っている。
「同じだと思ったの?」
「いや、彼女は私なんかよりもずっと強かった」
シリルはディアナに対して乱暴な言い方をしてしまった自覚はある。
「私は彼女が不憫であると思って苛立ったのかもしれない。そこは認める」
「家族に搾取され、裏切り続けられても家族を愛しているからですか」
「哀れだと思う気はないが、やるせない」
親が子供を無条件に愛するなどありえない。
逆に子供が親を無条件に愛するなど。
「自分の娘を傷つけて、自分は愛されて当然?ふざけるな」
「ディアナ様が気の毒でならないわ。彼女は虐げられて日陰にいていい存在じゃない」
「だが、才能も機会も潰されて来たのだろう」
この先、ディアナの進む道を阻む可能性が高い。
どんなに努力してもその功績を奪いに来るならば、奪えないようにしなくてはならない。
「私は彼女が戦う覚悟を持つならばその道を示す」
「馬鹿な人」
「ああ、馬鹿で構わない」
シリルの不器用すぎる優しさにロクサーヌはため息をつくしかなかった。
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