地獄の沙汰も慈愛次第!婚約者は姉を溺愛したので私は真実の愛を貫きます!

ユウ

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第1章白銀の錬金術師の奮闘記

42般若襲来


「この馬鹿者が!」


邸内に響く声と共にオルフェは床に頭を叩きつけられた。


「母上…何を」

「婚約者の姉に不貞行為をした挙句に暗殺未遂、同級生を暴行とは!」

再び頭を捕まれオルフェは壁に叩きつけられる。


「母上…止めてくださ」

「私が不在の間に好き放題して、落ちるところまで落ちるとは」


オルフェを掴む手が緩むことはない。
傍で見ている使用人は助けるどころか、新しい手袋と鞭を出しだす。

「奥様手袋を」

「愛用の鞭でございます」



助けるどころか援護している使用人を睨もうにも、反省の色がないと判断される。


「久しぶりに実家に戻ってきたと思ったら。最低な男に成り下がるなんて」


ルーズベルト伯爵夫人。
オルフェの母親であり、元は王宮勤めの女官だった女性で現在はルーズベルト伯爵家を取り仕切る女傑だった。


夫は五歳年下で姉さん女房で、気の強い性格だった。
実家は辺境伯爵家で武闘派集団の女系家族で生まれ、見た目は小柄で美しいがかなりの男勝りだった。


「私はお前に何度の忠告をしたはずだ。婚約者はディアナ嬢だと…何時からお前の婚約者はファティマ嬢になった?勝手に婚約者を変えた?随分偉くなったものだ」


「は?」

「私が領地から戻ってきてすぐにディアナ嬢から手紙が届いた。婚約破棄を望まれたので、ディアナ嬢は受け入れるとな?あの真面目で辛抱強いディアナ嬢が言うからにはよほど酷いことをしたのだろう」

(手紙だと?勝手な真似を!)


オルフェはディアナの行動に不快感を表す。
勝手に母親に手紙を送るなんて礼儀知らずだと罵倒しそうになったが…


「勘違いするな。ディアナ嬢とは頻繁に手紙のやり取りをしている。今回王都での噂を耳にして私が手紙を送り事情を聴いたのだ。彼女はすべては自分の責任だと言っている…だが、調べたら悪いのはお前ではないか!」


「ぎゃあああ!」

ヒールで足を踏みつける母親に悲鳴を上げる。

「お前は何と卑劣な真似を。本当にあの人の子か!」

(あんな凡愚な父と一緒にするな!)


オルフェは父親を軽視していた。
跡目から外され、五歳も年上の女性を妻として迎え家庭内のことは妻の言いなりだった父を軽蔑していた。



気性が荒く嫉妬深く、浮気は一切許さず浮いた噂一つもなく社交界では甲斐性なしの恐妻家等と呼ばれている。


「ああ情けない。旦那様になんと詫びればいいのか…嘆かわしい」

扇が割れる音が聞こえ、オルフェは母の腕力の強さに恐ろしさを感じる。

「ディアナ嬢は婚約破棄の手続きとお前を責めぬようにと丁寧な手紙を頂いた。なんと慈悲深く良くできたご令嬢だ。なのにあの姉は二度までも妹から婚約者を奪うとは」

(は?二度もだと…どういうことだ!)


ディアナに婚約者がいたなんて話は初耳だった。

「王家にも頭を下げてディアナ嬢を婚約者にとどれだけ旦那様が頭を下げたか…本来ならば王家に嫁ぐはずの方を」

(王家だと…馬鹿な!)


母の言葉の意味が分からない。
何故ディアナが王家に嫁げるというのか。

魔力だって弱く、貴族令嬢としての評価も高くないのにと思っているオルフェの考えを察したルーズベルト伯爵は更に足を踏みつける。


「いっ!」

「何だその目は?お前、今ディアナ嬢を馬鹿にしたであろう?」

(何で分かるんだ!)


痛みに耐えながら涙をぐっとこらえた。




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