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第1章白銀の錬金術師の奮闘記
58元婚約者の両親
人間、良いことがあれば並行して悪いことが起こる。
ただし、一般的に喜ばしいことはディアナにとって喜ばしいことではないのだ。
そう、現在進行形で行われる光景はディアナにとって災難だった。
「この度は馬鹿息子がとんでもないことを」
「本当に申し訳ない」
深々と土下座をする二人に、死んだ魚のような目をするディアナ。
一時間前に錬金術の書き換えが成功して上機嫌でスキップをしていたのに、いきなり呼び出しを受けたのだ。
しかもそこには…
「頭をどうか上げてください」
目の前でこれでもかと言うほどに土下座するのはオルフェの両親だった。
最近は多忙の為に数回しか会っていなかったが婚約期間は本当に良くしてもらった。
「私の方こそ申し訳ありません。ご子息を満足させてあげられず」
「悪いのは愚息だ!全部あの馬鹿が悪いんだ」
(普通息子を庇うんじゃないの?)
ディアナは母を思い出す。
数カ月前の婚約解消騒動でファティマを庇い続ける母を見て真逆だと思うのだ。
「噂は聞いている。事実確認も調査もした…」
「そもそも君に落ち度があるとは思っていない。婚約期間、あんなにも愚息に尽くし、私達にも良くしてくれた君が悪いはずがない」
必死に熱弁するルーズベルト伯爵。
男性にしては小柄でふくよかな体格であるが、穏やかな人柄だった。
男尊女卑や、身分で差別することを嫌う人格者とも一部では評価が高かった。
「今は北部にいらっしゃると…」
「妻から手紙をもらい戻った。優先順位は君だ」
慈善活動の一環で北部の視察に出向いていたはずだ。
普段から国中を走り回るほどの多忙でありながらディアナの為に急いで王都に戻ってきたのだから。
「公の場で女性の矜持を傷つけるなど許されない。君がこれまでどれだけ愚息に尽くしてきたか」
「ええ…謝って許されることではない」
許されようとは最初から思っていない。
それでもこの場に来たのは二人の誠意だった。
「失礼ながら慰謝料は絶対に受け取って欲しい」
「ですが…」
「君の権利だ。何故婚約破棄に慰謝料が発生するか分かるか?」
首を横に振るディアナにルーズベルト伯爵は優しく教えた。
「心身ともに傷つけた時間、すべてを元に戻せない。だからこそその償いを金銭にする。言い方は悪いが金銭で決着をつけることで相殺とする」
「勿論お金を払って終わりではない。罪は消えない。だが表向きの償いはお金で解決するんだ」
表向きということにハッとする。
お金である程度の償いをしても本当の償いにはならない。
「罪は消えない。だが、償えるのは金銭的なものだ。気持ちで反省してもそんなものに意味はない」
「罪を背負い生きていくのは当然だから…」
二人の事は重みがあった。
同時に説得力もあったし、慰謝料という言葉の意味を改めて理解した。
「国の法律はどうしても強い立場の者に有利にできていて、弱い立場の者には不利にできているんだ」
「世間では男が不貞行為しても痛手にはならない。お金を払えば傷跡はなくなるが女性は違う」
被害者が加害者のように責められ糾弾されるのが常識になっている。
その理不尽すぎる常識は貴族社会の最たると言える。
「慰謝料は心身ともに傷つけられた最低限の君への償いだ」
「どうか受け取って欲しい」
二人の謝罪と言葉にディアナは頷くしかできなかったが、まだ聞かなくてはならないことがある。
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