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第1章白銀の錬金術師の奮闘記
65前世と現世の心
『わがままを言ってごめんなさい』
従順な婚約者。
尽くして当然と思っていたオルフェはディアナが何をしても許してくれる。
勢いで公の場で婚約破棄をほのめかしたが本心ではない。
ちょっとした忠告と、婚約者としての自覚をもって欲しかったのだ。
悪気はなかったのだから許してくれるという、自己中心的な考えだった。
「君はこの僕が…僕が歩み寄ってあげているんだぞ!君の我が儘を許してやると言っているのに!」
「貴様!」
口から出る言葉一つ、一つがディアナを傷つける言葉ばかりだ。
「君の姉を守ってあげていたんだぞ?なのに何故感謝しない!あの程度の事で…」
ディアナの心が凍り付く。
もう完全に切ったはずだったが、心の奥底に眠っているもう一人が悲鳴を上げる。
どこまでも自分勝手で酷い婚約者。
せめて穏便に関係を終わらせたのは最後の情だった。
なのにこんな…
(どうしてここまで言われないとダメなの?)
唇を噛みしめて絶対に泣くものかと我慢をするディアナにオルフェは更に追い打ちをかける。
「社交界で僕が笑いものになっても何もしない!冷たい女だ!生徒会でちやほやされて調子に乗るな!この尻軽女が…お前なんて僕以外に必要とされるものか!」
「その口を閉じ…」
口汚く罵倒するオルフェの口を塞ごうとした時だった。
疾風の如き速さで展示室に誰かが入ってくる瞬間、オルフェは床に叩きつけられる。
「ぐあああ!」
「外道が」
現れたのはルーカスだった。
「遅くなり申し訳ありません。この者を拘束いたします」
数人の警備隊がその場に残り、ルーカスがオルフェを縄で拘束する。
「ルーカス…」
「お嬢様、この男の戯言に耳を貸してはなりません」
首を強く締めながら今すぐにでも殺しかねない勢いだった。
「生徒会の皆様に対する侮辱、王家への侮辱。許されることではありません」
「ぐえっ…」
「貴様はお嬢様を何処まで虐げれば気が済むのか。どれだけお嬢様の慈悲を踏みにじる!」
本来ならばディアナが訴えることもできた。
公的機関に相談することもできたし、お茶会の事件でも犯人ではなくともディアナが訴えを起こせば停学処分に持っていくこともできたがディアナはしなかった。
「せめてファティマ様と婚約を結べるようにとのお嬢様の優しさを!」
「ルーカス…もういい」
「良くありません」
もう見ていられなかった。
オルフェを庇ったわけではない。
これ以上ルーカスがオルフェの為に傷つけられるのを見たくなかった。
「誇り高い貴方の手をこんな場で汚したくない」
「お嬢様…」
「殴る価値もない」
もし、このまま会うことがなければここまでの憎悪を抱くことはなかったかもしれない。
「私はお茶会の事件では貴方と姉は無関係だと思ってました」
毒殺なんて大それた真似をするとは思っていない。
噂が流れても吹聴することもせずにいたのにオルフェはディアナの良心ですら踏みにじった。
そして新たな場所で奮闘するディアナに男漁りをしていると言ったのだから。
「私は今まで彼方と姉を恨んでいませんでした。むしろ二人には幸せになってくれればと」
「ディアナ…」
「ですが、ずっとそんな風に私を見ていたんですね」
前世を思い出してから複雑な思いで苦しんだが、オルフェを好きだった過去の自分を捨てることはできなかった。
幸せな思い出だってあったのだから。
「私の知るオルフェ・ルーズベルトは死にました」
「何を」
「今ここにいるのは知らない人です!」
心が痛い。
前世と現世の心が混ざり合い苦しくて悲しくて耐えられない。
「はぁ…はぁ…」
「もういい。これ以上はお前が」
シリルが支えようとするも、ディアナの心は限界だったのか、その場に倒れこんでしまった。
「きゃああ!」
「お嬢様!」
「しっかりしろ!シャンデラ!」
大勢の前でディアナは気を失ってしまった。
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