地獄の沙汰も慈愛次第!婚約者は姉を溺愛したので私は真実の愛を貫きます!

ユウ

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第1章白銀の錬金術師の奮闘記

70傷だらけの手






「一体どうなったの」


氷が完全に消え、霧で前が見えなかった。
透明な壁が張り巡らされる先に二人の影が見えた。


ユーリは急いでその場に向かおうとした。

「壁で入れないわよ!なんて強度の錬金術なの」

「こんな錬金術を見たことがありませんわ」

壁に触れる完成度の高さに感心するロクサーヌにアルフレッドはいらだちながら告げる。

「今はそれどころじゃ…壁が消えていく」


触れた部分はまるで氷のように解けていき、ハイネが人影を見つけ指さす。


「二人は…いたぞ!」

一同が先に向かった瞬間、悲鳴が聞こえる。

「ぎゃあ!」

床に倒れこんでいるのはずぶ濡れになっているオルフェだったが、ルーカスが邪魔だと言わんばかりに投げる。

「邪魔です」

「ルーカスさん。容赦ないわね」

蹴り飛ばさないだけマシかもしれないが、かなり乱暴な扱いだった。


「ディアナちゃん!シリル様!」

「ディアナ!しっかりして!」


ユーリとマリーが二人に近づき介抱をする。
幸いにも命に別状はなく、シリルに至っては無傷で魔力をあれだけ放出したのに気を失っているだけだった。


「シリル様は大丈夫だけど…」

「ディアナは傷だらけだわ。凍傷も酷い…もしかしてシリル様を庇ったんじゃないかしら」

「この子は!」


「お嬢様…」


手も氷のように冷たい。
対するシリルは手が温かいことからディアナが温めたのだと分かった。


「馬鹿だわ!貴女、馬鹿すぎるでしょ!」

「泣く前に…って、もうしていたのね」

「当然」

怒りながら治癒を施すマリーの動きは早かった。

「でも、私じゃ完全に傷を治療できないわ」

「僕の作ったポーションでは傷を完全には」

ミカエルが急いでポーションを取り出し、治療の補助に入るも、応急処置程度だった。


「でも、変じゃなくて?」

ロクサーヌが傷を確認しながら明らかにおかしいと気づく。


「あれだけの魔力を放ったのに、術者は無傷よ」

「ああ、私も思った。通常なら負傷がなくとも高熱に苦しむだろう」


一度に一人であれだけの魔力を体から放つというのは危険な行為だった。
外傷がなくとも後から影響が出るか高熱が出てしまうのが当たり前なのにシリルの体は無傷で健康状態だった。


「まさか、シリル様の傷を全部自分に」

「マリー…いくら何でも無理よ」

「魔術上級者でも難しい行為ですしてよ?魔力が低い彼女にそんな高等な真似できるはずがないわ」


マリーの突拍子もない言葉を即座に否定するロクサーヌだったが、それ以外に答えは見つからない。


「いいえ、できます」

「ミカエル?」

「ディアナさんは錬金術上級者です。魔術の倫理を理解されているなら可能です」

「でも魔力は…あ!」


ミカエルの言葉は倫理上は分かるが現実には厳しい。
魔法と異なり錬金術はあるものを使うので傷を己の身に入れるなど不可能だった。



強い魔力がないならば…


「この学園には予め強い魔力の塊が眠っています」

「だからと言って、どこにあるか分かるというの?」

「分かります。ディアナさんは魔力探知ができるなら」


魔力探知、その名の通り魔力を探知する能力を指す。
この世界には魔力の塊がそこらじゅうにある。

その魔力を探知することに特化していれば見ることができる。


「そんな芸当ができる方なんて聖女様か猊下ぐらいよ」

「はい。可能性ですが」


根拠はない。
すべて憶測に過ぎないのだから。


「今は治療が先だ。とにかくディアナを運ぶ…手を離さないな」

「ええ。なんて力なの!」

「小さい手のどこにこんな力が…ディアナ!手を放しなさい!」


マリーがなんとしてでも放させようとするも、がっちりシリルの手を掴んで離さない状況ではどうにもならない。


そんな中、背後で物騒な物音がした。


無言でルーカスが剣を強く握っていたのだった。



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