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第2章小さな奇跡が生んだ真実の愛
26天と地の差
学生寮は、学園内の敷地内にある。
ただし特別科の学生寮は校舎から少し離れている。
その中でも、一番古い学生寮は庭園の奥に設置されている。
ディアナの暮らす寮は一番北側で秋や冬は風が入りやすく体が冷える。
寮は森に囲まれている隠れ家のようだったので夜は余計に冷えるのだ。
傍に泉もあることながら冷たい風が肌に触れるたびに針で刺されたような感覚になる。
「何でここだけこんなに寒いのよ!」
文句を言いながら獣道を通りながら歩くと美しく整えられた庭園が見えた。
「は?何…ここ」
遠目から見えた形式は別世界だった。
美しい庭園に、整備された馬小屋に、小さな工房。
古さはあるが、美しい正方形の貴族邸。
木造で作られて立派なテーブルに、畑もあった。
ファティマ達が住まうオンブラ寮とは月とスッポンだった。
外観こそ古いが、奇麗に整えられており、外から見ても壁や、窓は奇麗に掃除されている。
息を顰め、こっそり中に入ろうとした時だった。
「お嬢様」
懐かしい声が聞こえた。
即座にバーバラは近くにある小さな小屋に隠れた。
(何で…)
小屋からこっそり見たのは久しぶりに見たルクティアは見違えるほど美しくなっていた。
(あれが…あの根暗なルクティア?)
何時も顔をうつ向かせていたルクティアを陰で同僚と馬鹿にしていたバーバラ。
平民出身で実家からも嫁ぎ先からも追い出されたと聞かされていたバーバラ達はルクティアを馬鹿にして酷い罵倒を繰り返し見下していた。
女としても終わりだと。
そのルクティアが今はどうだろうか。
美しく奇麗に整えられた髪。
手は陶器のように美しく傷一つなく、服装も通常の侍女よりも上質な侍女服を身にまとい、胸元には美しいペンダントを身に着けている。
その隣には護衛騎士のルーカスが寄り添っている。
無口で不愛想な平民出身の騎士として馬鹿にしていたのに、シャンデラ伯爵家にいた時よりも良い身なりだった。
その辺の下級貴族よりもずっと上等な服装だった。
胸元には立派な銀細工のブローチを身に着け、腰には立派な剣にベルトは銀をあしらっている。
あれ程の見事な装具は貴族の騎士でも少ない。
(何で平民の二人が!)
シャンデラ伯爵家を自ら辞めたことをバーバラは知らなかった。
彼らはシャンデラ伯爵夫人の不興を買ってしまい、解雇になったのだと思っていた。
(どうして!どうしてよ!)
ずっとも見下していたはずの二人が自分よりも優遇されずっといい思いをしている。
自分はこんな惨めな思いをして、薪を貰うのにも苦労をしているというのに幸せそうに笑う二人に憎悪が膨れる。
(私がこんな酷い目に合っているのに!)
小屋から盗み見しながら二人に憎悪を向ける中、視線は変わる。
「お嬢様、お寒いでしょうに」
「ティアの方が寒いでしょ?」
ルクティアの隣には、ディアナがいた。
「あれが…噓でしょ?あの地味で影の薄いディアナ様?」
暗がりで灯りが少ない中、見えたのは銀色に輝く髪を靡かせるディアナだった。
「そんな薄着で外に出る奴があるか」
「寒そうですね」
「私は冷え性ではない!」
その隣には美しい青年。
どう見ても下級貴族ではないことが分かる。
「あのペンダント…フォレスト侯爵家の」
貴族の紋章が刻まれた装飾品を持つのはその家の跡継ぎか、重要な位置にいる者の証だった。
バーバラも下級とはいえ貴族出身だ。
知らないわけではない。
特に銀を使った装飾品を持つ家系は大貴族で王族の親戚筋に当たる。
「何であんな…あんな役立たずが侯爵家の子息と」
二人のやり取りはとても親しく見えて、余計にバーバラは憎悪した。
シャンデラ伯爵の評判は最悪な状態で、その家に仕える使用人も笑いものにされていた。
なのに、かつてはシャンデラ伯爵家の出来損ないと呼ばれたディアナは、家を捨て幸せそうに笑っている。
隣には名門大貴族の子息と共に。
その事実がバーバラを更に絶望に叩き落したのだった。
(こんなの…許せない)
既に薪の事など頭になかったバーバラはその場を去り、無言でオンブラ寮に戻った。
その後のことは何も覚えていなかった。
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