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第2章小さな奇跡が生んだ真実の愛
33救世主は匿名希望
ここ、ウィステリア王国の最大の軍事力を持つ、バイエル伯爵領地は難攻不落の古城と呼ばれていた。
建国時代から最後の守り手としてこの領地を任されて、この領地が落ちれば国が落ちるとも言われる程だった。
しかし立て続けに魔物の襲撃や国の結界を維持できない状況で兵は疲弊していた。
特にポーションの数が圧倒的に足りず、危機的状況だった。
「被害状況が芳しくありませんね」
「お嬢様、どうしましょう」
「父は騎士と共に魔物討伐に向かっています。領地代行を任された私が責任者です」
「ですが、このままの状況が続けば宮廷貴族はバイエル伯爵家を叩きに来るでしょう」
侍女エルザが拳を握りながら現状を告げた。
格別の信頼を受けていることで宮廷貴族の不満は強かった。
宮廷貴族に限らず、中央の貴族達も武力だけが取り柄と陰口を言われているのだ。
万一、守りが崩れたらバイエル伯爵家の権威は失墜し、保守的な貴族がやりたい放題となる。
なんとしても持ちこたえなくてはと思った矢先だ。
「エステリーゼお嬢様!ポーションが大量に届けられました」
「何ですって!」
「何処からです」
「いつものロバの薬屋さんからです」
年若い侍従が慌てて部屋に入ってきてカードを差し出す。
「ポーションの種類は!」
「上級ポーションです」
「この時期に上級ポーションが辺境地で出回ることはあり得ません」
上級ポーションは数が限られている。
去年は薬草が不作で、通常なら中級ポーションがいい所のはずだ。
にもかかわらず上級ポーションが届けられるなんてありえないのだが、そのありえないことが毎年冬に入る前に起こっていた。
「五年前から竜害も増え、国の援助なしに限界に達していた頃でした。匿名希望で大量の薬や兵糧が届くようになったのは」
「しかもその食料は干し肉や欲し野菜ではなく、温かいスープを固めたものでした」
通常、長期保存が効くのは干し肉に乾燥したパンだった。
戦場で寒い季節に温かい食事を取るのは困難だったが匿名希望で届いた品の数々は火を熾せれば温かいスープにパンが食べられる優れものだった。
この兵糧に当時はどれだけ救われたか。
戦場に食料を届けるのは困難で、荷物にもなる。
だが送られてきた兵糧は掌平サイズで小さくコンパクトだった。
「ロバの薬屋さんと名乗る方が毎年薬不足の時期に届けてくださる」
「費用だって相当なはずです」
「なんてありがたいのでしょう。恩に報いる為にも耐えなくては」
顔も知らない誰か。
ただ分かるのはこれだけの薬を用意できるのは貴族では無理だった。
何故なら貴族が上級ポーションを購入するには決められたルートがある。
ならば考えられるのは腕の良い薬草師か薬師とも考えたが、貴族でもないギルドが単身で届けるのは不可能だろう。
ギルドマスターを挟んで届けるなら、相当のコネクションが必要だった。
何よりこのポーションは一般のポーションと異なっている。
科学に明るい者。
特に魔術と科学に詳しい者が作ったと考えるのが妥当だった。
「きっと、何処かの賢者様かお作りになったのよ」
「ですが、何故…」
「分かりません。ですが、私達はこのご恩に答えなくては」
今は国土を守ることが唯一恩返しをする手段だった。
すべてが終われば恩人に恩返しをしようと考えていたエステリーゼは祈りを捧げた。
「感謝いたします女神様」
その後、バイエル伯爵家は危機を乗り越え魔物討伐を終えた後。
匿名希望で送られた薬のおかげで死傷者を出すことなく済み、あわよくば弱ったバイエル伯爵家を潰そうと考えた貴族達の計画は無残な形に終わることとなった。
勝利を導いてくれたのはロバの薬屋さん。
バイエル伯爵家は後に総出でロバの薬屋さんを探すことになるのだった。
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