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3孤独の中で
しおりを挟む今できることをしなくてはならない。
弱い自分をしかりつけ、必死にできることをした。
私の立場上王太子殿下に意見することは難しい。
ならばこれ以上問題が起きないようにあらゆる手を尽くしたのだ。
生徒会役員でもない私は直接意見できる立場にない。
だからこそ警備の配置を変えてもらったり、嫌がらせがこれ以上酷くならないように動いたのだけど、嫌がらせを無くすことはできなかった。
小さなことしかできない私。
そんな中アグネスの気分展開にと舞踏会に出るようになったが、そのパートナーをサリオンが勤めるようになった。
「当然だろう」
「ごめんなさいね」
二人は私が許すことを前提で言うので拒否権はない。
けれど…
「サリオン、今度のパーティーは」
「悪いが不参加だ。形式だけだからいいだろ?アグネスが…」
お茶会、行事のすべて。
サリオンの優先するのはアグネスとなり私は常に一人で社交界で噂が流れた。
「所詮噂だろ?無視すればいい」
「そうよ。この程度では社交界は生きていけないわ」
「将来の為の勉強だ。アグネスに感謝しなくてはな」
堂々と言う二人。
だけど知っていたのかしら。
その日は私の誕生日パーティーだったのに。
形式だけのものだと言ったあの日は母の命日だった。
少しの時間でもいいから母の命日前に花を手向けて欲しいと言おうとしただけ。
領地に来てほしいのではない。
母の眠る海に花を手向けて祈って欲しい。
僅かな時間だけなのにそれすら無駄だと言われたようで悲しかったけど。
「ごめんなさいお母様」
でも嫌な顔をしてこられてもお母様は喜ばない。
だから私はお母様にお祈りした。
竪琴を片手に。
「見事だな」
「え?」
海に向かって旋律を奏でていると誰かに声を掛けられた。
「あまりにも綺麗で」
「恐れ入ります」
見慣れない顔だった。
学園の生徒ではなさそうな雰囲気だった。
「宮廷音楽団の団員なのか?」
「とんでもありません」
「これほど見事な腕なのに惜しいな。俺は初めてこんな綺麗な曲を聞いたぞ」
「光栄です」
何所の何方が知らないけど嬉しい。
音楽は私にとって大切な絆でもありお母様との思い出だった。
私の音楽で笑顔になる人を見るのが好きだった。
でも、一番身近な人は笑顔になってくれなかった。
『なんか優雅さに欠けるわね』
『華やか場所にふさわしくないだろ』
私の音楽はダイナミックさに欠ける。
派手さがないので、パレードなどには不向きだったのも自覚しているし、この曲は神様に捧げる曲でもあるので華やかさというよりも哀愁感のある曲だから好みじゃなかったみたいだ。
「奥が深いな」
「え?」
「俺はもっとこの曲が聞きたい」
名前も知らない人。
だけど演奏者にとってはこんなに嬉しいことはない。
ずっと悲しいことばかりだったから嬉しかった。
「俺はこんなに綺麗な音色を奏でる人は初めてだ」
この時の言葉が傷ついた私を救ってくれた。
「俺の名前はレオって言うんだ」
一人耐え忍んでいた私に優しいメロディーを奏でてくれた私と彼との出会いだった。
誰にも理解して貰えない。
心の胸の内を晒すこともできない私にレオは何も言わずに傍にいてくれた。
私の悩みを話すわけでもないのに彼はなんとなく察してくれているかのようだった。
辛い日々を過ごしながらギリギリの所で留まることができたのは彼の支えがあったからなのかもしれない。
だけど、私の心は既に離れかけていたことに私自身気づいていなかった。
あの言葉を聞くまで。
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