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閑話 王妃の怒り③
しおりを挟む怯えるだけで言葉を発することができないサリオンを冷めた表情で見る。
サリオンを拘束している女性騎士も同じ視線を送っていたのだ。
(何故だ!なんでそんな目を!)
これまで甘やかされて育ったサリオンは伯爵家の子息でありながらも高位貴族と変わらない待遇を受けていた。
母親の妹が侯爵夫人であるので勘違いをしていたのだ。
サリオン自信が偉いわけでもなく、功績をあげたわけでもない。
なのに、自分は素晴らしい人間なのだと勘違いをして、他人を見下していたのだ。
「お前達、少し力を緩めてやれ」
「王妃陛下、恐れながら…」
「何だ?」
「私はこれに大した力で抑え込んでおりません。力加減は見習い騎士以下…いうなれば子供を抑え込む程度です」
「なるほど。この男は基本的な体力も力もない…子供以下と?」
「私の娘以下です」
既婚者である女性騎士は娘に礼儀作法として剣術の基礎を教えているが、その娘よりも非力だった。
「これ以上どう力を緩めていいのかわかりません。それに引き換えご令嬢はこの程度の拘束は簡単に振りほどけます」
目の前でこれ以上ないほどの侮辱を受けるも、手も足も出ないサリオンは聞いているだけしかできなかった。
「これに暴行を加えられて無事だったのも受け身を取れたのでしょう…まぁ意識がない状態で更に暴行を加えられていたのであれば死んでいたかもしれません」
「振りほどけば、この男が怪我をすると思ったのでしょう。どこまでお優しいのか」
「ふむ、では己の身を守れたというのに婚約者を庇ったのか。どこまでも健気なこと」
幼少期から訓練を受けていたリーゼロッテは他の令嬢よりも頑丈だった。
万一身を守る為に抵抗すれば危ないのサリオンだったと判断するのは簡単だった。
咄嗟だったとしても身を守れたはずだ。
なのにしなかった。
「婚約者を虐げ、殺そうとした罪は重い。しかも相手は王家に嫁げる身分だ…侯爵家よりも上の身分で父君は私の元側近で剣術の指南役だ」
(王妃陛下の側近だと…)
拘束され痛みに耐えながらもはっきりと耳にした。
「私の幼馴染で友だ…王太子妃時代に彼は私を支え守ってくれた。彼には大恩がある。本来なら公爵の地位を賜ってもおかしくないだけの働きをしている程だ」
(嘘だ…嘘だ嘘だ嘘だ!!)
サリオンは心の中でずっと見下していた。
剣を振るうしか才能がなく、領地に引きこもり、暮らしぶりも質素で領地拡大もしない。
増税を良しとせず自分たちの暮らしよりも領民の暮らしを優先する偽善家と言われていたし、サリオンもその噂を信じていた。
だが実際は違う。
領地拡大をしないのも権力を欲しすることなく国に尽くしていたのだ。
「私にとって無二の親友。その娘をあしざまに扱い5年前に私が婚約解消を命じた」
「あっ…が…」
もはや声を発することもできないサリオンに王妃は続ける。
「本来ならば息子の妃にと思っていたというのに…貴族派を抑え込むためにも王族に嫁ぐのは危険だと大臣に言われたので泣く泣く諦めたのだ。本来なら伯爵家に降嫁させるのは前代未聞だというのに」
(そんな…まるで)
「望まない形で婚約をさせられ、好きでもない男に10年も尽くした結果がこれか。どれ程の屈辱だったか…領地から引き離された結果が殺されそうになるとは」
力なくその場に倒れそうになる。
「何だその顔は。まさかお前はリーゼロッテ嬢に愛されているとでも思ったか?政略結婚で愛など不要だ。しかも自分を見下し侮辱し、尊厳を傷つけられて愛情を抱くなどあり得ぬわ」
王妃の怒りは相当なものだった。
既にサリオンに意識はないにもかかわらず容赦がなかった。
「気絶したか」
「いかがいたしましょう」
「良い。拘束しておけ…もう一人の馬鹿にもお灸をすえる必要がある。少しばかり痛いのをな?」
氷のように冷たい微笑み。
現役時代、その微笑みより日の目を見れない貴族がどれだけいたかと過去を思い出す女性騎士は冷や汗を流したのだった。
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