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72復学の後~サリオンside⑤
しおりを挟む僕は美しく気高いアグネスが好きだった。
後に王妃となる彼女を支えることこそ僕の役目だと思っていた。
だから、そんな僕を支えるのがリーゼロッテの幸福だと信じて疑わなかった。
だけど、こんなものだったのか?
アグネスはこんな最低な女で、僕を最初からその辺の男と同じだったのか?
「私の命令に従いなさい!私の騎士なんでしょ!」
「…れが…」
「何?」
「誰がお前なんて汚い女!」
僕の中で何かが切れた気がした。
この女の所為で僕の未来は悲惨なものになってしまった。
そうだ。
すべての現況はこの女じゃないのか?
僕は…
アグネスの所為で伯爵家の子息という未来も、真面目で聡明な婚約者を失い平民として人間以下の生活を強いられている。
平民という野蛮な連中と一緒に過ごさなければならない。
「僕は貴族でなくなった。勘当され、こんな寮に放り込まれた!お前の所為だ」
「きゃあ!」
「責任を取れ?それはこっちのセリフだ!お前なんてただ侯爵令嬢でなかったら価値がない…殿下もお前の性悪な性格を見抜いていたんじゃないか?だから浮気されたんだ」
「何ですって!私を侮辱する気」
「本当に馬鹿だな」
過去の僕は何故アグネスを愛しいと思っていたんだ。
戻れるならば戻りたい。
「僕は王族の親族になれたかもしれないのに!リーゼロッテはカリスタ王国の大公の孫だったんだ!」
「は?」
「お前なんて侯爵令嬢以外の魅力もない!既に社交界から爪はじきにされて、美しくなくなったお前なんて価値がないじゃないか!」
婚約者は廃嫡された元王子で、実家とは縁を切られているも同然。
こんな汚い寮に押し込められた何もない名ばかりの令嬢。
対する元婚約者は隣国の大公家の孫だと?
比べるまでもない。
あの時僕が庇う相手を間違えなければ僕は隣国では王族の親族…
いや時期大公になっていたかもしれないんだ!
その栄光をこの女の所為で台無しにされたんだ!
「許せない!この私に向かって」
「それは僕のセリフ…」
互いに取っ組み合いの喧嘩になろうとした時だった。
「きゃあ!」
「冷たい!」
冷水をかけられた。
「通行前で騒いでんじゃないわよ」
「邪魔だ!」
僕達に水をかけたのは生徒だった。
この寮の生徒は僕達だけと思ったけど違ったようだ。
「どうでもいいのよ」
「通行の邪魔だ。狭い寮内で暴れるなら外に出てくれ」
そう言って僕達を突飛ばして寮を出ていく中、男の方が振り返る。
「学校内で話しかけないでくれ」
「ええ、同じ寮で暮らしても仲間と思わないで欲しいわ」
その言葉を残して二人は去っていく。
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