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閑話 侯爵家の悪あがき③
しおりを挟む心無い言葉に傷つけられ打ちのめされるイグアス。
「なんて酷いことを」
「今更悲劇のヒロイン気取りか?今まで他人を踏みつけ己の欲望を満たすことしかかんがえてこなかったのにか?アグネスも私の子かどうか怪しいものだ」
「なんてことを!」
「お前と夫婦の契りをしたのは一度きりだ…子ができたのも怪しい」
新婚時代から二人の関係は冷めていた。
貴族の政略結婚は義務であるが、イグアスとヴィッセル侯爵との関係はあまりも酷かったのだ。
イグアス自身も周りを見返したい。
そんな思いで嫁いだのだから。
けれど結婚生活の中、意地でも幸せになってやると決めたのだかが、肝心の夫は夫婦の営みに積極的ではなかった。
「貴方がしてくださらなかったんじゃないですか!」
「義務以外でお前とするのが嫌だからだ。私は義務以外でお前を抱くのも虫唾が走っただけだ」
「どうして…何故私を愛さないんです!」
「何様だ。貴様は自分しか愛していない癖に。そもそも愛なんて何の価値もない」
その瞳に自分が写っていない。
解っていたのに改めて突きつけられるのは辛いものがあった。
「私は愛だの恋など信じない。愛の為にすべてを失ったお前の娘は結局、自分の愛だけだったではないか」
「貴方の娘です!」
「だっとしても、もう縁を切る。早く私の前から…いや、毒杯でも飲んでくれればいいんだ。お前もお前の娘も。この世に生まれてこなければよかった…」
「そんな…」
「まさか、お前は誰かに必要とされていると思ったか?誰も必要としていない…ずっとな!」
無慈悲な言葉にイグアスは目の前が真っ暗になった。
(誰も私を愛してない?必要としていない…)
夫から愛されることがなかった。
幼少期から両親に愛されることもなかった。
だから夢を見た。
唯一優しくしてくれた憧れの騎士に愛されたい。
優しくされたい。
最初に抱いたのは少しの我儘だった。
その我儘が少しずつ大きくなり、欲しいと望んでしまったのだ。
けれど、どんなに欲しがっても手に払いない。
愛する人が愛した人は隣国の高位貴族。
自分とは正反対で動乱の時代を生き抜いた美しくも強く聡明な令嬢。
聖女として愛される存在。
最初から何もかも違う。
(どうして…どうしてよ!)
政略結婚が当たり前の時代で、当初は同盟国でも友好国でもない為結婚は認められなかった。
それでも数多の試練を潜り抜けて二人は大恋愛の果てに結ばれた。
そのことがイグアスの心を深く傷つけたのだった。
けれど、幸福とは長く続かないものだった。
シャルロットは若くしてこの世を去ったのだから。
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