24 / 219
22治癒師としての役目
泣き叫ぶ侍女さん達の声が胸に突き刺さる。
あの言葉が…
『君を大事にしないことは君を愛する者を傷つける』
目の前で傷ついている人達。
私が傷つくことで泣く人がいることを突きつけられた。
「リネット様の御前ですよ」
「申し訳ありまぜっ…」
今の私に涙をぬぐうことはできない。
せめてもの償いは心を落ち着かせることだけだ。
それしかできない。
「リネット様?」
「まぁ、これは…」
涙を流す侍女の頭に触れ癒しの魔術を使う。
治癒師の魔術は傷の治療以外に有効で精神を落ち着かせる効果がある。
戦闘以外にも非常に効果的だ。
そもそも癒しの手の一族と呼ばれる治癒師は患者に語り掛け、心に語り掛けることで治癒の魔術を発動できる。
病は気からという言葉通り。
ただ治療をするのではなく相手の心に寄り添う。
術を受ける人の心が私を受け入れることによりこの治療は成功するのだ。
「どうか泣かないでください。誰も悪くないのです」
「リネット様…」
「私が未熟すぎた故に貴女達を傷つけてしまった」
ベルシュタイン家の侍女は下級貴族出身の方も少なくない。
辺境地出身だったり他国だったりと色々である。
戦地で疲弊した領地出身の貴族令嬢もいる。
身分で差別されることに辛さを人一倍分かっているのだろう。
だから言いたい。
「世間の言葉に傷つくことはありません」
「どっ…して」
「私はこれまで迫害を受けても正当な評価をされなくても信念を持ってきました」
そうだ。
前世を思い出す前から私は他人にどう評価されても折り合いをつけては自分の信念を貫いてきた。
「治癒師の起源は他者を思う心。その心を失えば治癒の魔術は使えません」
魔力とは心に反応する。
特に癒しの魔法は相手を思いやる心を失えば癒しとは別の力が発動する。
「私は他者を憎まないのは自分の為、自己犠牲ではありません」
そうだ。
誰かを踏み台にすれば敵意を向けられる。
同時にその敵意が私以外の愛する者に向けられる。
「私は私の為に手を汚す真似はしない。くだらない人間の為に貴女の美しい心を汚さないでください」
言いたい人間には言わせておけばいい。
元よりかも知らない連中に何を言われても私は気にしなかった。
陰口にかまう時間が持ったない。
前世の私も現世の私も噂に左右される性格ではなかった。
いい意味でも悪い意味でも自分の世界で生きている引きこもりだったからだ。
「私の為に傷つかないでください」
頬に触れ、瞳を見つめると涙は止まっていた。
「はいっ…はい!」
彼女の霧が晴れると同時に黒い靄が体から出ていく。
「これは…」
常人には見えないが、これは穢れだ。
故意的に彼女は誰かに負の感情を植え付けられた可能性がある。
公爵家の侍女と知って怒りや悲しみを植え付けるなんてどういうこと?
分からないことが多すぎるが、今すべきことは彼女達を安心させることだけだった。
あなたにおすすめの小説
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
義妹に婚約者を譲りました。貧乏伯爵に嫁いだら、溺愛と唐揚げが止まりません
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「お姉さまの婚約者が、欲しくなっちゃって」
そう言って、義妹は私から婚約者を奪っていった。
代わりに与えられたのは、“貧乏で無口な鉄面皮伯爵”。
世間は笑った。けれど、私は知っている。
――この人こそが、誰よりも強く、優しく、私を守る人、
ざまぁ逆転から始まる、最強の令嬢ごはん婚!
鉄面皮伯爵様の溺愛は、もう止まらない……!
【完結】身代わりに病弱だった令嬢が隣国の冷酷王子と政略結婚したら、薬師の知識が役に立ちました。
朝日みらい
恋愛
リリスは内気な性格の貴族令嬢。幼い頃に患った大病の影響で、薬師顔負けの知識を持ち、自ら薬を調合する日々を送っている。家族の愛情を一身に受ける妹セシリアとは対照的に、彼女は控えめで存在感が薄い。
ある日、リリスは両親から突然「妹の代わりに隣国の王子と政略結婚をするように」と命じられる。結婚相手であるエドアルド王子は、かつて幼馴染でありながら、今では冷たく距離を置かれる存在。リリスは幼い頃から密かにエドアルドに憧れていたが、病弱だった過去もあって自分に自信が持てず、彼の真意がわからないまま結婚の日を迎えてしまい――
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?
灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。
しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?
彼は亡国の令嬢を愛せない
黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。
ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。
※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。
※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。