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28侍女の敬愛~メープルside③
体に走る悪寒。
忘れたと思っていたあの感覚。
「何だ!」
「地面が揺れる…」
――怖い!
忘れることなどできなかった。
五年前の恐怖が消えない。
あの時と同じで。
「大変だ!ブラックケンタウロスだ!」
「暴走している!」
「逃げろ!」
やだ…
逃げないといけないのに足が動かない。
あの時と同じだった。
逃げることも敵わず死を待つだけ。
「えっ…」
痛みが来ることはなかった。
私に襲い掛かるはずのブラックケンタウロスは閉じ込められていた。
「お痛が過ぎるわね。あまり騒ぐのは止めようか」
小さな結界の中に閉じ込められたブラックケンタウロス。
すごい!
詠唱も無しに結界を出すなんて。
あの時と同じだった。
邪竜に襲われそうになった時も詠唱無しで結界を敷いて私達を守ってくださった。
まるで奇跡の御業だった。
安堵するのもつかの間。
被害に合った人達は魔女様に向かってあろうことか無礼極まりない態度を取った。
「おい!何やってんだ!」
「被害が出る前に動けよ!」
「店が壊れたじゃねぇか!この役立たずが!」
感謝の言葉を述べるよりも罵倒を浴びせ、物を投げだす。
「こうなる前に対応しろよ!」
「何のための結界師だ!」
「アンタの所為で店が!」
何を言っているの?
魔物が暴走したのは魔女様の所為じゃない。
それに、魔女様はどう見ても宮廷魔導士ではない。
警備責任者も腰を抜かして何も出いなかった癖に、何でこんな。
「困りますよ。もっとちゃんとしてくれないと」
「これだから戦えない魔導士が…魔導士の名を返上すればいいものを」
周りは魔女様を責め立てる中、ようやく宮廷魔導士が到着した。
「この騒ぎは…」
「魔物が暴走したようで…」
「そんなことは聞いていません。この騒ぎを起こしたのは貴女ですか。本当に迷惑な存在ですね」
何で…
遅れて来たくせに!
何もしなかった癖に何でよ!
泣きそうになる私は魔女様と視線が合ったが、口元に人差し指を当てられた。
まるで何も言わないでというように。
魔女様は責められて罵倒されても甘んじていらした。
何も言えない私は悔しくて仕方なかった。
後日、祭りで魔物が暴走した事件は宮廷魔導士の活躍とその場で店を出していた人達の活躍でけが人は出なかったと新聞に載っていた。
「酷い…酷すぎる!」
新聞を破り床に叩きつける。
「何が宮廷魔導士よ!」
魔女様の手柄を奪って、のうのうとするのが許せなかった。
けれど、私が訴えても無駄だと言うことが分かっていた。
「メープル…お前に手紙が来ているぞ」
「手紙なんて…」
「何でも屋台でお前が出店したスコーンを買ってくれた人だとか」
「見せて!」
白い魔女様だ!
あの屋台で私のスコーンを買ってくださったのは一人だもの。
手紙にはスコーンが美味しかったことが書かれていた。
同時にあの事件で嫌な思いをさせてしまったお詫びが丁寧に書かれていた。
「メープル…」
なんてお優しい方なのかしら。
「私は決めたわ…」
辺境地の貴族の娘として。
白い魔女様にお仕えしたいと心から願った。
私の命を救っていただき、心をも救ってくださった方。
国も、王族も信用できない。
けれどあの方を信じたいと思ったのだった。
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